(注8) |
その理由としては、「物権的請求権(妨害排除請求権及び妨害予防請求権)の行使として当該具体的行為の差止めを求める相手方は、必ずしも当該侵害行為を主体的に行う者に限られるものではなく、幇助行為をする者も含まれるものと解し得ることからすると、同法112条1項に規定する差止請求についても、少なくとも侵害行為の主体に準じる立場にあると評価されるような幇助者を相手として差止めを求めることも許容されるというべきであり、また、同法112条1項の規定からも、上記のように解することに文理上特段の支障はなく、現に侵害行為が継続しているにもかかわらず、このような幇助者に対し、事後的に不法行為による損害賠償責任を認めるだけでは、権利者の保護に欠けるものというべきであり、また、そのように解しても著作物の利用に関わる第三者一般に不測の損害を与えるおそれもないからである。」としている。 |
(注9) |
なお、特許法との関係に関しては、「著作権法は、113条に侵害とみなす行為についての規定を置いているが、特許法のような間接侵害に関する規定を置いていないから、特許法との対比からすると、著作権法は、幇助的ないし教唆的な行為を行う者に対する差止請求を認めていないとの解釈も考え得るところであろう。」としつつも、「しかしながら、特許法と著作権法とは法領域を異にするものであるから、特許法における間接侵害の規定が著作権法にないとしても、そのことから、直ちに、著作権法が幇助的ないし教唆的な行為を行う者に対する差止請求を認めていないと解する必然性はない。」、「しかも、特許法における間接侵害の規定は、直接的な侵害行為がされているか否かにかかわらず侵害行為とみなすものであるところ、上記…において著作権法112条1項の差止請求の対象に含めるべきであるとする行為は、現に著作権侵害が行われている場合において、その侵害行為に対する支配・管理の程度等に照らして侵害主体に準じる者と評価できるような幇助行為であるから、特許法上の間接侵害に当たる行為とその適用場面を同一にするものではない。」、「したがって、著作権法において特許法上の間接侵害に該当する規定が存在しないことは、著作権法112条1項の差止対象の行為について上記…で述べたように解することの妨げになるものではない。」 |
(注10) |
「 被告は、本件各店舗において管理著作物に係る歌詞・楽曲の演奏・上映行為を行うについて、必要不可欠といえるカラオケ装置(同装置に蓄積された楽曲データを含む。)を提供していること、 被告は、本件各店舗にカラオケ装置をリースするに際し、管理著作物に係る使用許諾契約の締結又申込みの有無を確認すべき条理上の注意義務を怠り、そのような確認をしないでカラオケ装置を引き渡したものであり、しかも、その後、現に本件各店舗の経営者が原告の許諾を受けないで管理著作物に係る歌詞・楽曲の演奏・上映による著作権侵害行為を行っていることを知りながら、これら経営者に許諾を受けることを促し、それがされない場合にはリース契約を解除してカラオケ装置の停止の措置をとり、カラオケ装置を引き揚げるべき条理上の注意義務に反して放置しているものであること、 被告は、同カラオケ装置について、作動可能にするか作動不能にするかを決める制御手段を有していること、 被告が得るリース料は、本件各店舗において管理著作物に係る歌詞・楽曲の演奏・上映行為と密接な結び付きのある利益といえることからすると、被告は、本件各店舗で行われている著作権侵害行為の侵害主体に準じる立場にあると評価できる幇助行為を行っており、かつ、当該幇助行為を中止することにより著作権侵害状態を除去できる立場にあるというべきであるから、著作権法112条1項の『著作権を侵害する者又は侵害するおそれのある者』に当たると解するのが相当である。」と結論付けている。なお、「被告は本件各店舗のカラオケ装置の作動を停止させる措置として、通信回線を経由して一定の信号を送信することにより楽曲データの使用を不能にさせるという容易な方法を採り得るのであり、上記のように被告に侵害停止義務を認めたとしても、被告に過大な負担を負わせるものではない。」と付言している。 |
(注11) |
差止めの主文は、「被告は、別紙『無許諾店舗一覧表』記載の店舗に対し、別紙『楽曲リスト』記載の音楽著作物のカラオケ楽曲データ(歌詞データを含む。)の使用禁止措置(通信回線を経由して一定の信号を送信することによってカラオケ用楽曲データの再生を不可能にする措置)をせよ。」というものである。 |
(注12) |
なお,「もっとも,発言者からの削除要請があるにもかかわらず,ことさら電子掲示板の設置者が,この要請を拒絶して書き込みを放置していたような場合には,電子掲示板の設置者自身が著作権侵害の主体と観念されて,電子掲示板の設置者に対して差止請求を行うことが許容される場合もあり得ようが,そのような事情の存在しない本件において,被告に対する差止請求を認める余地はない。」とも判示する。 |
(注13) |
なお,上記のような差止請求のほか,損害賠償請求については,作為義務も過失も否定されるとして否定している。 |
(注14) |
特許法に関するものではあるが,〔12〕東京地裁平成16年8月17日判時1873号153頁〈切削オーバーレイ工法事件〉は,「特許法100条は,特許権を侵害する者等に対し侵害の停止又は予防を請求することを認めているが,同条にいう特許権を侵害する者又は侵害をするおそれがある者とは,自ら特許発明の実施(特許法2条3項)又は同法101条所定の行為を行う者又はそのおそれがある者をいい,それ以外の教唆又は幇助する者を含まないと解するのが相当である。」として同旨を明確に判示する。 |
(注15) |
「被告の、被告商品による録画行為に対する管理・支配の程度が強いということはできず、その受けている利益(保守業務の対価)も高いかどうか明確なものでもない」ことを理由としている。前提としては、「被告は、被告商品を販売するとしても、直接には、複製行為や送信可能化行為をするわけではない。」としつつも、「直接には、複製行為あるいは送信可能化行為をしない者であっても、現実の複製行為あるいは送信可能化行為の過程を管理・支配し、かつ、これによって利益を受けている者がいる場合には、その者も、著作権法による規律の観点からは、複製行為ないし送信可能化行為を直接に行う者と同視することができ、その結果、その者も、複製行為ないし送信可能化行為の主体となるということができると解するのが相当である。」としており、前記のカラオケ法理に依拠している。 |
(注16) |
「間接行為が、たとい直接行為と異ならない程度に権利侵害実現の現実的・具体的蓋然性を有する行為であったとしても、直ちにこれを、著作隣接権の侵害行為そのものであるということはできないから、被告商品の販売行為そのものを原告らの著作隣接権を侵害する行為とすることはできない」等の点を理由としている。なお、「著作隣接権の侵害行為は、著作権法119条により犯罪とされている。ところが、原告らの主張に従えば、上記のような間接的行為は、それが間接正犯(複製ないし送信可能化の主体)とはいえない場合にも、それ自体が著作隣接権の侵害行為であるということになってしまい、現実の具体的な権利侵害行為が行われていないにもかかわらず、それが犯罪行為にも該当するという結論に至るものといわざるを得ない。」という点が重視されているように見受けられる。 |
(注17) |
このように、著作権法112条1項の適用自体は否定しつつも、同条同項の類推適用は肯定しているのは、前注のような刑事上の点の懸念に起因するものとも推察されようか。 |
(注18) |
判決の差止めの主文は、「被告は、原告…に対し、滋賀県…の各府県内の集合住宅向けに、原告…に対し、大阪府内の集合住宅向けに、それぞれ、別紙物件目録記載の商品を販売してはならない。」というものである。 |