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4契約利用ワーキングチーム


1 はじめに

 他人の著作物あるいは実演等の著作隣接権の対象となるもの(4.1において「著作物等」という。)を利用しようとする場合、その自由利用が制限規定により認められる場合にあたらない限り、著作権者等から当該著作物等に関する権利を譲り受けるかあるいはその利用につき許諾を受けることが必要となる。このため、著作権あるいは著作隣接権に関する譲渡又は利用許諾の契約(4.1において「利用契約」という。)の締結に関する現行著作権法の規整が、著作物等の円滑な利用及び流通のために重要となる。本ワーキングチームにおける検討は、著作権法公布から35年の経過の中で、現行著作権法規定が著作物等の利用及び流通の実態面との整合性において、広い意味で欠けるところが生じているのではないか、という問題意識からのものである。

 この検討のために、本ワーキングチームは、以下の理由から6つの検討項目を選定した。まず、著作権等の制限規定により自由利用が認められている場合、著作物等の利用は自由であるから、著作物等の利用と流通に制限を加えることはないはずである。しかし、しばしば指摘される問題は、著作権法第30条以下の制限規定が確保している自由利用のこの態様と範囲を契約により「ひっくり返す(オーバーライドする)」ことが可能か、というものである。この問題は、技術的保護手段との関係もあることに加え、そもそも各制限規定が様々な立法趣旨に基づくものであるところから広範な議論を必要とすることに鑑み、ここではまず著作権に関する契約と民法第90条及び第91条との関係における基礎的な検討を行うこととした。

 次いで、利用契約のうち、譲渡契約の適正化ないし明確化を促進する観点から、書面性を求めることの当否を検討する。かつて、著作権制度審議会も、著作権譲渡契約の要式契約化による契約関係の明確化と紛争発生を未然に防止する観点からこの問題を肯定的に捉えていたことに加え、外国法においても書面化を求める立法例が少なくないことから、再度、本ワーキングチームにおいても検討の必要性を認めたものである。

 譲渡契約における著作者を含む著作権者の保護の観点から、譲渡契約時に知られていない著作物等の利用方法について、譲渡人に経済的な利益の配分を含むなんらかの追求の可能性を認めるかどうか、さらに第61条第2項の規定の必要性についても検討を行うこととした。これは、第61条第2項が、「第27条及び第28条の権利が契約において特掲されていないときは、これらの権利は譲渡人に留保されたものと推定する」規定を置いていることから、契約当事者の意思に反するものではないか、という見解もあるところであるが、この規定が、現行法の制定時に、譲渡する著作権の範囲について契約上限定が付されていないときは、その契約上予想されない方法により著作物を利用する権利は譲渡した者に留保されたものと推定する(著作権法草案(文部省文化局試案)第55条)旨の規定に代えて導入された経緯があるためである。このような立法の経緯からすれば、第61条第2項を廃止する方向で仮に検討するにしても、著作権を全て譲渡した場合においても、著作物等の未知の利用方法等につき、譲渡人の保護がなお必要とされる理由の有無を踏まえた上で、第61条第2項の問題を検討する必要がある、と考えられるからである。

 さらに、譲渡契約においては、権利の一部譲渡が認められているところであるが、著作権法に具体的に規定されている個別的な利用態様別の権利よりもさらに細かい分割譲渡が許されるのか、という問題も検討することとした。また、裁判例によれば、地域および期間を限っての分割譲渡契約が認められているところであるが、「この契約の実体は著作物等の利用許諾であって、著作権等の譲渡として理解することは困難である」との指摘も想定されるところである。著作物等の利用許諾制度が用意されながら(第63条)、このような著作権等の一部譲渡が多く利用されているのは、排他的利用許諾制度を欠く我が国著作権法の構成、さらには利用許諾に対抗力を導く制度の在り方にもつながる問題である。本ワーキングチームにおいて近い将来検討することになるであろう「ライセンシーの保護」及び「登録制度の見直し」、そして法制問題小委員会において検討することとされている「著作物の「利用権」に係る制度の整備」の前提問題として、この問題を検討しておく必要があると判断した。

 著作物等の利用許諾との関係において、著作権法第63条第2項に規定する「許諾に係る利用方法及び条件の範囲」について、講学的な観点からの検討を行うこととした。第63条第5項は著作権侵害による効果と利用許諾契約に基づく債務不履行による効果を分けて規定するところであるが、同条第2項の「許諾に係る利用方法及び条件の範囲」に反して著作物等を利用した場合にも、利用の許諾を受けた者はどの範囲において著作権等の侵害の責めを負いまた債務不履行による責めを負うことになるのか、を理論的に整理しておく必要があると認めたためである。

 以上に述べた理由から、本ワーキングチームは6項目の検討項目を決定したものであり、以下の順番で、検討を行う。

 

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