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「私的録音録画補償金の見直し」に対する意見について

委員名 中山 信弘
1  ハードディスク内蔵型録音機器等について、政令による追加指定に関して、実態を踏まえて検討する。
 現状を前提として考える限り、公平という観点から見れば、機器と記録媒体が異なったものには課金し、同じくデジタル録音等を可能としているハードディスク内蔵型録音機器等に課金しないのは、妥当でないともいえる。ただ、同じく公平という観点からすれば、汎用機器(パソコン等)においても録音等は広く行われており、これに課金しないのも不公平ともいえる。ただ汎用機器に課金するのは余りに多くの問題を抱えており、とりあえず、緊急避難的にハードディスク内蔵型録音機器等に課金するという選択肢も、ありうるかもしれない。ただこれには、以下に記載するような前提条件がつく。また課金をするには、政令で追加指定するか、あるいは30条の改正をする必要があろうが、いずれにせよ条文として書けるということが前提であり、仮にハードディスク内蔵型録音機器等を切り分けて条文に書くことができないとしたら、そもそもこのような改正は不可能ということになる。
2  現在対象となっていない、パソコン内蔵・外付けのハードディスクドライブ、データ用のCD-R/RW等のいわゆる汎用機器・記録媒体の取扱いに関して、実態を踏まえて検討する。
 確かに、汎用機器を用いた録音・録画は世上広く行われており、公平という観点からこれを放置することは妥当ではないようにも見えるが、ただ汎用機器は、文字通り他の多くの用途が存在し、これに課金するということは、録音・録画しない者からも強制的に金を徴収することを意味する。汎用機器の場合は、仮に現行法のような還付制度を設けても、それが機能するとは思えない。現行の制度を前提として、汎用機器・記録媒体にまで課金の範囲を広げることは、現行法のもっている問題点を増幅させるだけであり、好ましくない。この問題を解決するには、30条2項を根本から見直す以外にないであろう。
3  現行の対象機器・記録媒体の政令による個別指定という方式に関して、法技術的観点等から見直しが可能かどうか検討する。
 法技術的には政令での指定追加は可能であるかもしれないが、その前に純粋に技術的観点から条文化が可能か、という点が問題となろう。従来は政令で技術的切り分けをして課金の範囲を定めているが、このような方式で、ハードディスク内蔵型録音機器等を汎用機器・記録媒体との書き分けが可能か。もしこれが不可能であるならば、従来型のような技術的書き分けを放棄し、例えば専用機のように用途別に書き分けることが可能であるか。仮に専用という要件を課して課金をする場合、例えばiPodに写真機能を付加した場合にどうなるのか、あるいは携帯電話にiPodに類似した配信音楽機能を付加した場合にはどうなるのか。現在の技術からすれば、音楽録音専用にすることも、他の用途を付加することも可能であり、他の用途を付加さえすれば課金を免れると言うことでは不公平感が増すだけであろう。仮に条文化できなければ議論をする余地はないのであるから、検討の素材として、まず、仮に政令指定するとした場合には、どのような政令の条文が書けるのか、ハードディスク内蔵型録音機器等への課金賛成論者にサンプルを書いて欲しい。
4  自由記載
1  仮にハードディスク内蔵型録音機器等に課金をするとしても、問題は山積しており、これらの問題に一切目をつぶり、単に政令でハードディスク内蔵型録音機器等を追加して済ませることは到底認められない。仮にハードディスク内蔵型録音機器等に課金するとしても、それは当面の緊急避難的な意味しか持ち合わせず、将来的には一定の期限を区切り、30条2項につき、抜本的な見直しを行うべきである。課金は、抜本的見直しに時間的余裕を与える意味しかないであろう。

2  現在の課金制度は、対価の徴収・分配の両面において、ラフジャスティスと言わざるをえない。他人の著作物の録音・録画をしないユーザからも徴収しており、多数の録音・録画をする者も、少ししか録音・録画しない者も同じ額の課金をしている。また録音・録画できないものも出現しているが、そのような点も考慮されずに課金されている。
 録音・録画をしないユーザに対しては補償金の還付制度は存在するが、これは誰が考えても利用できない、実効性のないシステムであり、現に全く利用されていない。このような還付制度は、憲法違反のそしりを免れるためのアリバイにすぎず、当初から機能しないことが予想されていた。
 また徴収した金の配分は、果たして公正になされているか、分配率が固定化していないか、真に著作権保護等のために使用されているか等の検証も必要となろう。また徴収した額の2割は共通目的基金に繰り入れられているが、これは著作権の利用料という私財であり、このように公共目的に使用することの法的意味も問題となろう。この問題は今に始まったものではないが、コピーコントロール技術が発展すればするほど、大きな問題となろう。
 ただ、以上のようなラフジャスティスが正当化できるとすれば、他に利用可能な手段がないという説明以外にないであろう。たとえラフであっても、他に方法がなければやむを得ないということになる。その意味で、30条2項が設けられた時代においては、この課金制度は一応の合理性をもっていたであろうし、またそれなりに機能をしてきたと言えよう。

3  その後の技術の発展により、このラフジャスティスが現在でも通用するのか、という点についての十分な検証が必要となる。現在においては、以下のような問題点がある。

 
1  デジタル技術の発展により、コピーできない、ないしはコピー制限が可能となってきた。またデジタル地上波放送においては、コピーワンス機能が付加されると聞いている。そのうえ、オンライン配信等にように大本において権利処理をすることが可能となる技術が発展しつつある。未だ全ての場合において権利処理が可能という段階にはほど遠いが、従来と比較するならば、複製できない場合あるいは事前に権利処理が可能である場合が激増していることは間違いない。そうなると、30条2項の立法時にくらべ、ラフジャスティスのラフの程度が一段とひどくなっていると言える。

2  技術の発展により、各機器の間の技術上の区分が困難になりつつある。従来は録音・録画機器と媒体とが分離されており、条文上は明記されてはいないものの、30条2項の規定もそれを前提にしていたであろう。しかし媒体の容量が大きくなれば、敢えて機器と媒体を分離する必要は無く、一体化したiPod的なものが出現することは当然である。こうなってくると、ハードディスク内蔵型録音機器等を汎用機器・記録媒体から切り分けて政令等で定義をすることが可能か。「主たる目的」「専用」等の制限を付けることは、条文上は可能としても、意味があるのか。iPod photo、あるいはiPod類と携帯電話の融合したもの(日経6月16日夕刊の報道によれば、欧州では1年以内に携帯に直接音楽配信するビジネスが立ち上がるとのことである)の出現は十分に予想されることであり、それらをどのように区分するのか、あるいは区分することにどのような意味があるのか、という十分な検討がなされなければならない。

3  著作権振興等の目的のために、2割の共通目的基金への繰り入れは妥当か。この補償金の性格は、著作権の使用の対価という私的財であり、強制的に基金に繰り入れるのは筋が違うのではないか。対価という私法上の問題が、あたかも税法上の問題にすり替わったかの感がある。これは、徴収・配分においてラフジャスティスであるが故に、その代償として置かざるを得なかった規定で、徴収・配分が正確になればなるほど廃止に向かうべきであり、かりに公共目的上必要な支出であるならば税で賄うのが筋であろう。

4  このことは、結局30条2項の根本的見直しということになるが、それはかなりの時間を要する作業であり、3年程度は必要ではないかと推測される。

4  現行制度を改正し、メーカ自体に課金するという制度も選択肢としてありうる。わが国現行法のシステムは、対価(補償金)を支払うのはあくまでもコピーをしているユーザであるが、現状では個々のユーザに課金することは不可能であるので、メーカはユーザのコピーに寄与しているであろうから、メーカ等に協力義務を課している(サンクションはない)。しかしこれは、当事者間の暗黙の了解のようなものがあって始めて成立するシステムで、あたかもガラス細工のように脆いものであり、仮にメーカ等が協力を拒否したら崩壊の危機に瀕する。徴収を確固たるものにするためには、メーカに課金する方が確かではあるが、ラフジャスティスの程度がひどくなれば、それだけメーカに課金する合理性は低くなるであろう。機器・記録媒体の購入者の大半が、対価を支払うことなく著作物の録音・録画をしているという状況があれば、メーカ等の寄与が大きく、ラフではあってもメーカ等に課金することは許される範囲内かもしれない。しかしコピーコントロール技術が発展してコピーできないものが増え、また大本での権利処理が可能なオンライン配信が激増している現在、現行法の立法時の時以上に、メーカに対する課金は合理的な根拠を失っているのではなかろうか。現行法では、一応形式的ではあるが、録音・録画をしない者については還付制度が存在しているが、メーカへ課金する場合には還付制度は考えられないであろう。このような現状の下で、メーカに直接課金することは、果たして憲法論に耐えうる十分な理論武装ができるか、疑問がある。

5  以上のように、技術の発展により、30条2項は制度疲労を起こしつつあるが、さはさりながら、現状において、直ちに30条2項を廃止して、新たな制度の定立をするほどには議論が煮詰まっていないし、またコピーコントロール技術等の帰趨、普及の状況を見きわめる必要もある。今後の展望については未だ絵が描けない状態であり、今後、積極的な議論が必要であろう。


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