著作権分野における裁判外紛争解決の在り方について
1.文化審議会著作権分科会審議経過の概要
平成13年12月に出された文化審議会著作権分科会の審議経過の概要においては、「著作権法には第105条以下に「あっせん」に関する規定があるが、従来必ずしも有効に活用されていないとの指摘もあり、日本知的財産仲裁センターなどの既存の取り組みや、WIPO仲裁・調停センターの状況も踏まえつつ、法制面での対応の必要性等について検討を行う必要があるのではないか。」とされている。
○文化審議会著作権分科会審議経過の概要(抄)
著作権法制に関する基本的課題について
○裁判外紛争処理の在り方
種々の情報技術の発達・普及に伴い、著作物等の利用形態の多様化が急速に進むとともに、従来の著作権関係業界(出版、レコード、放送、映画等)以外の多様な利用者が「電子商取引」等により著作物を利用する状況が生じつつある。これに伴い、著作権侵害や契約違反などの紛争案件の増加が予想されるが、そのような場合について、我が国では直ちに訴訟に訴えるという風土が存在しないことから、いわゆる裁判外紛争解決手段(ADR)に対する期待が高まっている。(司法制度改革審議会意見書においても、多様な紛争解決方法の整備という観点から、ADRの拡充・活性化が提言されている。)
著作権法には第105条以下に「あっせん」に関する規定があるが、従来必ずしも有効に活用されていないとの指摘もあり、日本知的財産仲裁センターなどの既存の取り組みや、WIPO仲裁・調停センターの状況も踏まえつつ、法制面での対応の必要性等について検討を行う必要があるのではないか。 |
2.紛争処理の現状
- (1)著作権等の訴訟件数
- 近年、著作権に関する訴訟は増加しており、平成13年において、受理した著作権に関する事件は127件であり、10年前と比較すると約3倍の伸びを示している。
新受事件の種類別件数
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著作権 |
特許権 |
実用新案権 |
意匠権 |
商標権 |
不正競争防止法 |
平成3年 |
40 |
75 |
57 |
29 |
36 |
66 |
4年 |
66 |
98 |
51 |
24 |
45 |
119 |
5年 |
70 |
91 |
130 |
37 |
55 |
81 |
6年 |
72 |
106 |
98 |
26 |
53 |
134 |
7年 |
87 |
111 |
61 |
31 |
53 |
172 |
8年 |
85 |
157 |
77 |
28 |
80 |
132 |
9年 |
94 |
167 |
70 |
25 |
63 |
132 |
10年 |
113 |
156 |
58 |
22 |
77 |
130 |
11年 |
117 |
191 |
72 |
32 |
65 |
155 |
12年 |
97 |
176 |
59 |
38 |
89 |
143 |
13年 |
127 |
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(最高裁判所行政局調べ)
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- (2)著作権紛争解決あっせん制度
- 著作権等に関する紛争の実情に即した簡易、迅速な解決を図るため、著作権法により独自のあっせん制度が設けられている。
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文化庁長官が、当事者双方から申請があったとき、又は当事者の一方から申請があり他の当事者がこれに同意したときに、原則としてあっせん委員によるあっせんに付す。 |
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あっせん委員は、文化庁長官が、学識経験者の中から事件ごとに3人以内を委嘱する。(通例として、大学教官、弁護士、著作権実務専門家から1名ずつ。)。 |
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あっせん委員は、当事者双方の主張の要点等を確認し、実情に即して事件が解決されるように努め、あっせんの結果を文化庁長官に報告する。
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昭和46年の創設から現在までの受理件数は30件であり、うち相手方が手続開始に同意し、実際審理を行ったのは6件、解決したのは4件である。
- (3)日本知的財産仲裁センターの取組
- 平成10年4月に設立。日本弁理士会と日本弁護士連合会との共同運営により、仲裁又は調停を行う。昨年4月から、著作権に関する紛争を対象に追加している。
著作権に関しては、これまで3件の申立があったが、このうち2件は、相手方不応諾のため審理は行われていない。残りの1件は、現在係属中となっている。
- (4)WIPO仲裁・調停センターの取組
- WIPO(世界知的所有権機関)国際事務局の運営部門の一つ。WIPOの規則に基づく調停、仲裁、簡易仲裁を行っており、どのような法制度の下でも、世界中のどこにおいても実施が可能。法的能力を有する人であれば誰でもいずれの国に所属するかに関わらず紛争を付託することが可能。対象は知的財産権紛争に限定されていない。
3.政府の取組
(1)司法制度改革推進計画
平成14年3月に閣議決定された「司法制度改革推進計画」において、国民がそのニーズに応じて多様な紛争解決手段を選択することができるようにするため、裁判外の紛争解決手段(ADR)について、その拡充・活性化を図るための措置を講ずることとされている。
○ 司法制度改革推進計画(抄)(平成14年3月19日)
8 |
裁判外の紛争解決手段(ADR)の拡充・活性化
(1) |
ADRに関する関係機関等の連携強化
ア |
ADRの拡充・活性化に向けた裁判所や関係機関、関係省庁等の連携を促進するため、平成14年半ばころまでに関係省庁等の連絡会議を設置するとともに、関係諸機関による連絡協議会の体制が早期に整備されるよう所要の措置を講ずる。(本部及び関係府省) |
イ |
訴訟、ADRを含む紛争解決に関する総合的な相談窓口を充実させるとともに、インターネット上の閲覧窓口である総合窓口サイト(ポータル・サイト)など情報通信技術を活用した関係機関等の連携を図ることにより、手続、機関等に関しいわゆるワンストップでの情報提供を実現するための方策を検討し、平成16年3月までに、所要の措置を講ずる。(本部及び関係府省) |
ウ |
ADRの担い手の確保について、人材、紛争解決事例等の情報の開示・共有を促進した上で、必要な知識・技能に関する研修等を充実させる方策を検討し、平成16年3月までに、所要の措置を講ずる。(本部及び関係府省)
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(2) |
ADRに関する共通的な制度基盤の整備
ア |
国際的動向を見つつ、仲裁法制(国際商事仲裁を含む。)を整備することとし、所要の法案を提出する(平成15年通常国会を予定)。(本部) |
イ |
総合的なADRの制度基盤を整備する見地から、ADRの利用促進、裁判手続との連携強化のための基本的な枠組みを規定する法律案を提出することも含めて必要な方策を検討し、遅くとも平成16年3月までに、所要の措置を講ずる。(本部) |
ウ |
IIIの第3の6のとおり、隣接法律専門職種など法曹以外の専門家のADRにおける活用及び弁護士法第72条の規制対象の予測可能性の確保について、必要な対応を行う。 |
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(2)ADR検討会
司法制度改革推進本部の下で、司法制度改革に必要な法律案の立案等の作業のため、学者、実務家、有識者等から成る検討会の一つとして、平成14年2月に第1回目が開催された。司法制度改革推進計画に基づき、ADRの総合的な制度基盤の整備について検討を行っている。
○ADR検討会
1 |
有識者等によって構成 |
2 |
検討テーマ
○ |
ADRの総合的な制度基盤の整備
(いわゆる「ADR基本法」の制定も視野)
・ |
時効中断(停止)効・執行力の付与 |
・ |
法律扶助の対象化 |
・ |
裁判所との手続連携の促進 |
・ |
隣接法律専門職種等の活用 |
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(3)ADRの拡充・活性化関係省庁等連絡会議
司法制度改革推進計画に基づいて、ADRの拡充・活性化に向けて、関係省庁等の連携を促進するために関係省庁の職員をメンバーとして設立された。関係諸機関による連絡協議会の体制整備に向けた話し合いを行うとともに、ADRについての運用面での連携や、担い手確保の面での連携を図るためのアクションプランの検討を行っている(平成14年度中作成予定)。
○ADRの拡充・活性化関係省庁等連絡会議
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1 |
関係省庁の職員によって構成 |
2 |
検討テーマ
○ |
利用者への情報提供面での連携
・ |
総合的な相談窓口の充実 |
・ |
ポータルサイト(インターネット)の整備 |
|
○ |
担い手の確保面での連携
・ |
情報開示 |
・ |
関係機関間での情報共有の促進 |
・ |
研修等の充実 |
|
○ |
関係諸機関連絡協議会発足へ向けた話し合い |
|
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アクションプランの作成 |
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