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資料6

フォークロア等に関する参考資料

1 経緯
 
1967年  ベルヌ条約改訂を行う外交会議において、フォークロアの保護の可能性について議論され、ベルヌ条約第15条第4項(a)(注釈1)が規定された。
1977年  UNESCO事務局は、フォークロアの法的保護に関する専門家委員会を招集した。同委員会は、フォークロア保護についての問題点を全面的に検討する必要があると報告した。
1982年  WIPO及びUNESCOが共同して作成した「不法利用及びその他の侵害行為からフォークロアの表現を保護する各国国内(立)法のためのモデル規定」(別添1)をWIPO政府間専門家委員会会合において採択した。
1985年  「ベルヌ条約」管理委員会及び「万国著作権条約」政府間委員会が合同会議を開催し、フォークロア保護に関する国際条約について議論したが、条約の成立は時期尚早であるとする意見が多数を占めた。
1986年  12月に採択されたWIPO新条約を検討する過程において、「フォークロアの保護に関する新条約の検討を開始しなければ、WIPO新条約には賛成しない」との要求があり、WIPO事務局は国際会議の開催について約束した。
1997年  WIPO、UNESCO共催による世界フォーラムにおいて、「専門家委員会をできるだけ早期に設置すること」「地域レベルのフォーラムを開催すること」及び「1998年後半の外交会議の開催に向けて、専門家委員会において特別な権利(sui generis)に基づくフォークロアの保護に関する新しい国際協定草案を、1998年第2四半期までに完成させること」といった内容を盛り込んだプーケット行動計画が採択された。
2000年  WIPO一般総会においてIGCの設置が承認された。
2001年  第1回IGCが開催された。
2004年  第7回IGCが開催され、事務局が提示した、フォークロアの保護に係る政策目的及び基本原則について議論を行った。
2005年  第8回IGCが予定されている。

  注釈1)ベルヌ条約第15条[著作者の推定]
(4)(a) 著作者が明らかでないが、著作者がいずれか一の同盟国の国民であると推定する十分な理由がある発行されていない著作物について、著作者を代表し並びに著作者の権利を各同盟国において保全し及び行使することを認められる権限のある機関を指定する権能は、当該一の同盟国の立法に留保される。

2 第7回IGC結果概要
 
1. 議論の焦点
   第7回会合においては、前回までの各国の意見を集約して事務局が作成した、TCEs保護の政策目的(Policy Objectives)と基本原則(Core Principles)を示した作業文書と、それらを達成するための、政策的選択肢(Policy Options)と法的メカニズム(Legal Mechanisms)を示した作業文書に基づいて議論が進められた。
 前者の作業文書は、これまでの議論において各国より示された様々な提案を抽出し、TCEs保護の政策目的、一般的指針(General Guiding Principles)、そしてより具体的な実体的原則(Specific Substantive Principles)の3段階にわけて構成したものである。TCEs保護の趣旨や目的に始まり、保護の対象、要件、保護期間等、かなり具体的な内容にも踏み込んでおり、IGCにおける議論の成果のたたき台となるものと言える。後者の作業文書は、これまでのモデル規定や各国の法制度を紹介しつつ、政策目的や基本原則を国内・地域において制度化する際の具体的選択肢を示したものである。今次会合においては、具体的な制度化のメカニズムについて議論をする前にまずはTCEs保護の政策目的等について議論するべきであるという、我が国を含めたいくつかの国々の主張に沿う形で、前者の作業文書を中心に議論が進められた。
 こうしたTCEs保護のサブスタンスな議論の他、IGCにおける議論において焦点となっているのは、こうした議論の成果を国際的に拘束力のある(binding)ものとするか、あるいは拘束力の無い、各国が制度設計を行う際のガイダンスやモデル規定とするかといった、枠組みの議論である。先進国は主に、IGCの成果として、後者のガイダンスやモデル規定の作成を意図しているが、途上国は、法的拘束力のある枠組みの構築を主張している。今次会合おいては、意見の集約が困難な枠組みの議論についての結論は求めずに先送りし、TCEs保護の内容面を中心に議論を行った。

2. 我が国のスタンス
   TCEs保護の議論における我が国のスタンスは、「包括性と柔軟性」、及び「既存の国際的な枠組みとの整合性の確保」に重きをおいてきた。

 
(1)  包括性と柔軟性
   TCEsの保護は、各国・各地域の有する既存の法体系や慣習法等を組み合わせることにより、かなりの部分においてその政策目的を達することができると思われる。
 実演及びレコードに関する世界知的所有権機関条約(WPPT)第2条においては、「実演家」の定義において「民間伝承の表現」を「実演する者」を含めており、TCEsの実演が条約における保護の対象となっていることは自明である。また、TCEsである先住民の伝統的なシンボル等については、商標として登録することにより半永久的な保護を確保することが可能である。また不正競争防止法による保護や、契約法、慣習法等による措置など、TCEsの保護といっても多様なアプローチが可能である。さらに、文化遺産の保護・保存といった観点においては、世界遺産条約、無形文化遺産保護条約などの国際的な枠組みが存在しており、日本における能楽や狂言、京都祇園祭の山鉾行事といったTCEsもその保護の対象である。こうした法制度に拠らない保護としても、TCEsの普及啓発や人材育成等のプログラムの実施など、TCEsの保護に資するアプローチは非常に多様であると言える。
 我が国が強く懸念すべき点は、IGCにおける議論が、こうした多様なアプローチを無視した、一律で画一的な保護制度を構築してしまい、加盟国にそれを強制するような結果となることである。TCEsの保護は、あくまで既存の多様なアプローチと、IGCの議論によって新たに生み出されるかもしれないアプローチを「柔軟」に組み合わせ、各国・各地域の文化・慣習に適した保護制度を、「包括」的に設計していくことが重要である。

(2)  国際的な枠組みとの整合性
   また、我が国の対処方針におけるもう一つの重要な点、「既存の国際的な枠組みとの整合性の確保」については、上述した「包括性と柔軟性」の概念と表裏一体といってもよい。既存の多様なアプローチを尊重するべきであり、長きにわたって積み上げられてきた知的財産の理念、考え方を歪めることは、あってはならない。知的財産権、とりわけ財産的権利は、本来なら公衆の所有物である文化や技術について、その創造者に対して一定期間の独占権を認めることにより、さらなる創造・発明のインセンティブを与えるという人工的な装置であるといえる。しかし、既にパブリックのものとして認められるTCEsに対して権利を与えるということは、創造者にインセンティブを与えると言う知的財産の理念そのものを覆すこととなってしまう。IGCの議論は、こうした既存の国際的なルールを混乱させるような結論に誘導されるべきではなく、あくまで既存の枠組みと補完しあうような制度設計が求められる。

3. 政策目的及び原則
   作業文書に示された事務局案は、このまま「取極文書」ドラフトとも言えるほど、具体的な形として、事務局が「あるべきTCEs保護の姿」を示したものとなっている。作業文書において事務局より示された政策目的、基本原則を説明する。

 
(1)  政策目的
   TCEs保護の政策目的として示された事項については、別添2を参照願いたい。

(2)  基本原則(Core Principles
   政策目的を達成するための一般的指針、実体的原則として示された事項について、その概要は以下のとおりである。

【一般的指針(General Guiding Principles)】
 
1  関係コミュニティーの切望、期待への対応(Principle of responsiveness to aspirations and expectations of relevant communities)
 
先住民や伝統的・文化的なコミュニティーの切望や期待を繁栄した保護を構築する。
上記は、文化的及び経済的な発展や侮辱的、軽蔑的、攻撃的使用の禁止等を含む。

2  バランスと均整(Principle of balance and proportionality)
 
TCEsの保護については、TCEsを保護、維持している者と、TCEsを利用するものとの間で均等な利益配分がなされなければならない。

3  他の国際的、地域的枠組みや手続への尊重及び協調(Principle of respect for and cooperation with other international and regional instruments and processes)
 
既存の知的財産に係る国際的取極に、著しく影響を与える事態を避ける必要がある。

4  柔軟性と包括性(Principle of flexibility and comprehensiveness)
 
TCEs保護の目的は、財産権、非財産権、知的財産権、非知的財産権、知的財産の概念を拡大した特別な権利(sui generis)、知的財産とは独立した特別な権利等の組み合わせにより達成されることを認める(別添3)。
知的財産タイプの排他的許諾権の付与のみが保護の方法ではなく、不正競争防止法、報酬金の配分、通商法、契約、登録、慣習法、文化遺産保護に係る法制度やプログラム等といった非財産権的アプローチも可能である。
また、現在の二次的なTCEsなら著作権法及び意匠法で、実演ならWPPTにおいて、伝統的なシンボル等は商標法で、地理的名前なら地理的表示に係る制度で保護することが可能であり、既存のIPの枠組みにおいて既に保護され得るTCEsは多く存在する。

5  文化的表現の特徴と伝統的形態の認識(Principle of recognition of the specific characteristics and traditional forms of cultural expression)
 
TCEsの伝統的側面に対応する形で保護すべきである。
TCEsによっては、単独のコミュニティーにのみ存在するものでなく、複数地域の文化交流の結果、生み出されるものでもあることを認識する。

6  伝統的文化表現の習慣的使用と伝承の尊重(Principle of respect for customary use and transmission of TCEs/EoF)
 
TCEsの乱用を禁止する保護と、TCEsの普及・発展の促進とのバランスを図る必要がある。

7  保護の有効性及びアクセシビリティ(Principle of effectiveness and accessibility of protection)

  【実体的原則(Specific Substantive Principles)】
 
1  対象の範囲(Principle on scope of subject matter
 
1982年のWIPO-UNESCOモデル規定の定義を出発点として使用。(書きぶりが多少異なる以外は、ほぼ同じ規定となっている。)
TCEsとは、コミュニティーやコミュニティーの伝統芸能を具現している個人により発展・維持が図られている伝統的文化遺産として理解できる。
具体的には、御伽噺等の言語的表現、フォークソング等の音楽的表現、フォークダンス等の動作的表現、その他絵画や工芸品といった有体物による表現があげられる。
定義の具体的文言については、各国・各地域が定める。

2  保護の要件(Principle on criteria for protection
 
創造的な知的活動の産物であること、及びコミュニティーの文化的特性を具現していることを要件とする。
1982年のモデル規定にも規定されているように、人類の創造的な知的活動により生じるものである必要がある。
本物(authenticity)である必要はない。本物を要件とすると、コミュニティーの認証といった本物と認める要件や、認証にいたるまでの手続等を新たに規定する必要性が生じ、複雑化してしまう。
例えコミュニティーの外部の人間がTCEsを創造したとしても、そのコミュニティーの遺産の特徴(characteristic)を具現していれば、保護を認めるべきである。
新規(original)性は要件としない。originalから派生した二次的TCEsを排除する必要がないからである。
固定に限る必要は無い。TCEsの多くは口承等の固定されない形で伝承されてきているからである。

3  受益者(Principle on beneficiaries
 
保護の受益者は、TCEsを有する、あるいは維持してきた先住民や伝統的、文化的コミュニティーであるべき。

4  権利管理(Principle on management of rights
 
責任ある機関(既存の機関でも良い)が、TCEsの普及(awareness-raising)や教育活動、助言、指導、監督、紛争解決等の機能を担う。
TCEsの利用にあたって必要な許諾については、直接コミュニティーから得てもよいし、機関から得てもよい。
機関から許諾を得る際には、コミュニティーへの相談を経るべきであり、使用による利益については、公平に分配するべきである。また機関の収集した経済的及びそれ以外の利益は、直接に先住民や伝統的、文化的コミュニティーに支払われる。
紛争解決については、でき得る限り慣習法や慣行に則って行われる。
複数のコミュニティーによりTCEsが共有されている場合の権利執行に関する問題に対しても、機関による権利管理は有効な解決方法である。

5  保護の範囲(Principle on scope of protection
 
TCEsの複製、翻案、公衆伝達、その他の利用形態、歪曲、部分削除、改変、精神的に重要な価値の表現に係る第三者による権利取得等を禁止するための十分な措置を講ずる。
TCEsに係る秘密情報を、無許諾に開示する行為を禁止するための、十分な措置を講ずる。
TCEsの実演について、WPPTにおいて求められる人格権、財産権の保護に係る十分な措置を講ずる。
精神的に傷つけられる歪曲や改変等については、民事的、刑事的救済に係る措置を規定することも可能である。

6  例外と制限(Principle on exceptions and limitations
 
コミュニティーのメンバーによる伝統的、慣習的利用を阻害するものであってはならない。
スリー・ステップ・テストといった、著作権や関連する権利の制限規定と同種の制限が適用されるべきである。

7  保護期間(Principle on term of protection
 
TCEsが維持され、利用されつづける限りにおいて、また先住民や伝統的、文化的コミュニティーの特性を具現している限りは、保護が及びつづける。

8  形式(Principle on formalities
 
保護にあたっては、いかなる形式も必要としない。
精神的に重要な意義を有するTCEs等、限られたTCEsについては、消極的保護等に資するため、当局への通知が必要となるかもしれない。

9  処罰、救済及びエンフォースメント(Principle on sanctions, remedies and enforcement
 
TCEs保護への違反に対し、適切なエンフォースメント、紛争解決メカニズム、制裁措置、救済措置等が適用される得るべきである。

10  遡及(Principle on application in time
 
TCEs保護の新たな措置が導入される以前からのTCEsの使用については、合理的な期間が経過した後は、TCEs保護措置の公平な適用を受ける。
既に長期間に渡って行われている、善良な意図に基づくTCEsの使用については、コミュニティーとの利益の分配が行われるなら、使用の継続が認められるべきである。

11  知的財産保護との関係(Principle on relationship with intellectual property protection
 
TCEsの特別な保護は、知的財産に関する他の法律において既に可能となっているTCEsの保護や、その二次的著作物の保護に代わるものでなく、補完するものである。

12  国際的及び地域的保護(Principle on regional and international protection
 
外国の権利者の有するTCEsについても、各国の制度において保護されるべきである。
また、当該文書の位置付けとしては、以下の5つの扱いが考えられる。
 
- 拘束力のある枠組み(a binding international instrument or instruments
- 拘束力の無い宣言(a non-binding statement or recommendation
- ガイドラインやモデル規定(guidelines or model provisions
- 現存する法的枠組みの解説(authoritative or persuasive interpretations
- 国際的な政治宣言(an international political declaration

4. 日本の発言及び各国のスタンス
   議論の開始にあたって、議長より、本セッションにおいては各論点の内容面での議論を優先させるべきであり、会合の成果を拘束力のある(binding)枠組みとするかガイドラインとして扱うかといった「国際的側面」については結論を求めない旨、発言がなされた。しかし、「我が国のスタンス」として上述した「柔軟性と包括性」を担保するためには、各国法令に拘束力を有する枠組みは不適切であり、IGCの成果の取扱いを、多様なアプローチを支援するべきガイドラインやモデル規定とするべきことが求められるため、その旨を主張した。多くの先進国も同様に「柔軟性と包括性」の原則に言及し、各国・各地域の文化や慣習に即した制度設計を求めたが、議論の成果についてガイドラインやモデル規定とするべきであるとまで踏み込んだ国は、日本以外では米国のみであった。こうした「国際的側面」に関する議論にも見られるように、IGCにおける議論は、先進国対途上国といった簡単な構図で展開されているのではない。オーストラリアにおけるアボリジニ、ニュージーランドにおけるマオリ族など、多くの先住民を有する先進国は、途上国の主張にシンパシーを示している。

 
(1)  我が国の発言内容
   今次会合において我が国は、「柔軟性と包括性」の理念の重要性を主張するともに、作業文書に示された政策目的・基本原則のうち、「柔軟性と包括性」の理念に相容れないと思われる事項については、個別具体的に反対意見を述べた。概要については以下のとおりである。

 
1  柔軟性と包括性について
   TCEsの保護は、一つの枠組みのみで達成されるもの(single one-size-fits-all)ではなく、各国・各地域の法制度等の多様性を認識した上で、保護の手法についても多様なアプローチを認めるべきであるとする作業文書に示された意見を強く支持する。TCEsの保護に関する議論は、既存の知的財産の枠組みでは保護できない創作の形式について焦点をあてるべきであり、不正競争防止法、通商法、契約、慣習法、文化遺産保護等の枠組み、人材育成プログラムといった様々なアプローチの組み合わせによる保護を可能とする柔軟性・包括性を確保する必要があるとする作業文書に示された意見を支持する。
 こうして、一般的指針において示された「柔軟性と包括性」の原則を尊重するためには、IGCにおける議論の成果を、拘束力のある(binding)枠組みとして構築するよりも、ガイドラインやモデル規定として位置付けるべきである。

2  権利管理団体の機能について
   「権利管理」の実体的原則に示された考え方は、この「柔軟性と包括性」の基本原則に反するものであると認識している。「権利管理」の実体的原則は、TCEsの利用にあたって許諾が必要(Authorizations required to exploit TCEs/EoF)との前提で記述されており、具体的な保護の手法は各国・各地域の判断に委ねられるという「柔軟性と包括性」の基本原則とは相容れない。「権利管理」機関の役割として、TCEsの普及(awareness-raising)や教育活動等を行うことを記述した部分は賛同できるが、許諾行為による保護の形態を前提とした「権利管理」機関の役割に関する記述については、受け入れることが困難である。さらに、当該「権利管理」原則は必要以上に詳細であり、各国の柔軟な対応を拘束する恐れがある。具体的には、機関の収集する利益の提供は、先住民や伝統的、文化的コミュニティーに対して間接的に配分される方法を否定してしまっている点などがあげられる。さらに、「使用にあたっての公平な利益の配分(equitable sharing of benefits from their use)」についても、その配分方法については、各国・各地域の政策的な判断に委ねるべきものであると認識している。

3  保護の範囲について
   また、「柔軟性と包括性」の原則において、保護の手法に係る各国・各地域の判断を許容することと、「保護の範囲」原則において、具体的な禁止事項を規定することは矛盾する。作業文書において記述されているように、それぞれのTCEsごと、利用の形態ごとに保護のレベルと方法に幅を持たせる(varying and multiple levels and forms of protection)べきであって、具体的な範囲の記述において「禁止」措置を規定することを求めるべきではない。

4  保護期間について
   保護期間については、TCEsの保護の方法や利用形態によって異なる考え方が存在するため、一律に規定することは賛成できない。たとえば、先住民や伝統的・文化的コミュニティーにとって重要な意義を有するTCEsの改変等の行為については、精神的価値を保護するという観点から、TCEsが維持されつづける限り保護されるということは選択肢となりえる。しかし、TCEsの二次的著作物や実演等については、著作権や著作隣接権を付与して保護するという観点から、有限の保護期間が設定されるべきである。つまり、「保護期間」という概念の必要性の有無、あるいは「保護期間」の長短は、TCEsの種類や利用形態よって個別に考慮されるものであり、一律に適用されるべきではない。

5  その他
  「処罰、救済及びエンフォースメント」原則についても同様に、保護形態ごとに考慮される必要がある。

(2)  各国の発言内容
   今次会合における、いくつかの国々の主張を紹介すると、以下のとおりである。まず、EU諸国を代表してオランダは、作業文書において、各国・各地域の多様なアプローチを尊重する柔軟性を確保する必要があるとした点について支持するとともに、TCEs保護の議論にあたっては、多くのTCEsが既にパブリックドメインに帰している点を考慮すべきであり、合法的にTCEsを使用しようとする行為を妨げるべきではないと発言した。アフリカ諸国を代表してエジプトは、IGCの成果として法的拘束力のある枠組みの構築を強く主張し、また作業文書中においてTCEsの不正使用についてもっと言及すべきとした。その他多くの途上国も同様に、議論の焦点はTCEsの悪用・乱用の防止にあり、法的拘束力のある枠組み構築を求めた。多くの先住民を有するニュージーランドは、作業文書に記述された原則の大部分は適当であるとし、特に知的財産以外の枠組みによるTCEsの保護も有り得るとの観点から、「柔軟性と包括性」の原則は重要である旨、また先住民の期待に添った成果を成し遂げる必要があるとの見解を示した。同じく先住民を多く有するノルウェーは、TCEsの保護においては各国の多様な状況を考慮し、「柔軟性」を確保することが重要であることを指摘し、さらに、既存の知的財産の理念を侵食するような制度は設けるべきではないと主張した。一方米国は、保護期間、利益配分、保護の対象等の個別論点については、日本同様に数多くの点で懸念を有していると発言した。また、2004年9月に開館した先住民の文化に関する博物館等に言及しつつ、様々な措置の組み合わせによる国内のTCEsの保護制度について、最近の動向を紹介した。作業文書に示されているアプローチは概ね支持できるとし、特に「柔軟性と包括性」の原則について、その重要性を主張した。最後に、IGCの成果としては、各国が国内レベルで制度構築を行う際の参考となるガイドラインとするべきであり、既存の保護の枠組みと衝突するような制度設計は避けるべきであると主張した。

(3)  結論
   本議事の結論として、加盟国は、それぞれの作業文書に対する各国のコメントや提案をテイクノートするとともに、2005年2月下旬までに提出される更なるコメントや提案を受け、事務局はそれらを反映したTCEs保護に係る政策目的や原則の新たな文書を作成することとなった。上述した通り、今次会合において、拘束力のある枠組みの構築を行うか、あるいはガイドライン、モデル規定とするかといった、枠組みの議論については結論を求めることをしなかった。しかし、IGCの成果の国際的な取扱い、いわゆる「国際的側面」に関する事項は、2年間の予算会期における検討事項としてWIPO一般総会よりIGCに付託された事項である。今期最後のIGCとなる次回会合においては、こうした枠組みの議論を避けて通ることはできず、議論が紛糾することが予想される。


(別添3)WIPO/GRTKF/IC/7/4ANNEX2



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