戻る
資料2


第10回WIPO著作権及び著作隣接権に関する常設委員会
及び実演家保護のための非公式会合の結果概要について


1.はじめに

   放送新条約の審議は、WIPO著作権及び著作隣接権に関する常設委員会(SCCR)で行われており、1998年の第1回の会合以降、今回が第10回になる。SCCRでは、各国が条約形式での提案を行い、これに基づき審議を進めてきた。我が国は、第2回(1999年)に論点に関する文書を提出、第5回(2001年)に条約形式の提案を行い、第9回(2003年6月)にウェブキャスティングの取扱についての文書を提出するなど、積極的に貢献してきた。

   本会合は、2003年11月3日から5日の3日間、WIPO本部(ジュネーブ)にて開催された。放送新条約の具体的な内容として、条約保護の対象や付与する権利等について議論が行われるとともに、2005年に予定されている外交会議の開催に向けた、今後の検討の進め方についても議論が行われた。その結果、本会合で合意された内容は、「これまでの各国からの条約提案及び審議の結果を踏まえて、2004年4月1日までに議長が各国提案を束ねたテキスト(consolidated text)を作成する。次回会合は、このテキストに基づいて議論を行う。次回会合の検討結果を評価して、放送新条約の外交会議の勧告を2004年一般総会に行うかどうかを判断する」というものである。

   SCCRに引き続き11月6日から7日の2日間、実演家保護のための非公式会合が開催された。本会合は、2000年12月の外交会議において継続審議となった「実演家保護のための条約」の成立に向けて、非公式会合の場で意見交換するものである。今回は、実演家の権利移転の問題に関する各国法制度及び契約の実態等について、実演家、製作者、事務局から報告がなされ、これに基づいて各国間で意見交換がなされた。今後の取組みについては改めて事務局から各国へ相談することとなった。


2.放送事業者の保護のための新条約の検討

   (1)ウェブキャスティングの取扱について
   ロシア、豪州、セネガル、中国等から、「ウェブキャスティングについては、本条約から切り離して、別途検討すべき」との主張がなされた。これに対し、米国は、「米国の提案は、技術的な進展に伴って、新たな送信形態も視野に入れて検討を行い、権利者と利用者の権利処理を円滑に行うことを目的とするもの。ウェブキャスターの取扱については、国内で関係者の調整を行っているところ。なお、EUの提案1については、同一の行為を行うにも関わらず、放送事業者とウェブキャスターで取扱が異なることから、受け入れられない」との主張がなされた。また、議長がNGOに発言を求めたところ、多くのNGOから「ウェブキャスターを本条約で取り上げることは時期尚早であり、別途検討すべき」との主張がなされた。

   (2)付与すべき権利について
   前回、議長より、現時点で放送事業者に付与することが想定される権利案が提示された。議長案には、1固定権、2複製権、3譲渡権、4再放送権、5有線放送権、6インターネットによる再送信権、7固定物の異時の再送信権(放送、有線放送、インターネット送信)、8利用可能化権、9公衆伝達権、10技術的保護手段、11権利管理情報に関する義務、12暗号解除に関する措置が規定されている。この付与すべき権利の議長案に対して意見が求められた。これに対し、日本より、非固定物の利用可能化権の必要性について主張した。即ち、「利用可能化権はインターネット環境において不法行為の取り締まりに適しており、WPPTにおいても利用可能化権が付与されており、本条約でも位置付けるべき。送信放送形態にはストリーミング(固定を伴わない送信)もあり、これは非固定物の利用可能化権で保護すべき」と主張した。

   (3)今後の検討の進め方
   2日間に渡って、放送新条約の内容等について検討を行ってきたが、議論の中心は外交会議に向けた今後の議論の進め方になった。

   EUより、「本条約の検討は1997年のマニラ会合に始まり、多くの参加国や議長からの提案により、活発な議論が行われてきた。放送新条約の成立に向けた意欲が維持されるためにも、各国提案を束ねたテキスト(consolidated text)をまとめる段階にきている。作成されたテキストに基づき検討を行うとともに、今後の進め方についても合意したい。EUとしては更なる進展に寄与したい」との発言がなされた。その後、日本、ロシア、スイス、セネガル、米国、グルジアからも、「放送新条約の成立の必要性を認識し、これまでの議論の蓄積を考えれば、本会合の結果を受けて条約原案を策定し、併せて今後の外交会議に向けたタイムテーブルを作成すべき」との主張がなされた。

   これに対して、ブラジルより、「インターネット時代において、何故、放送事業者を保護しなければならないのかという本条約の合理性について説明が求められる。放送事業者を投資の保護の観点から保護することは見直すべきである。一方、放送事業者は情報伝達や教育において社会的な役割を担っており、社会的な観点から保護が求められる。今までの議論ではこの点があまり触れられていない。教育レベルや知識レベルは先進国と途上国で大きな差があり、本条約により両者の格差がさらに拡大しないようにして欲しい。放送事業者の保護のあり方や権利制限のあり方について更に検討を進める必要がある。また、権利者と社会的な利益の調和を図る必要がある」との発言があった。しかしながら、その後、バングラディッシュ、キルギスタン、メキシコ、ケニア、ガーナから、放送条約の重要性を認識し、早期成立を目指すべきとの意見が相次ぎ、条約の早期のとりまとめに向けて検討を進めることとなった。

   (4)結論
   一連の議論の後、今後の進め方に関する議長案が配布された。これに対し、インドから「本条約の対象についてはコンセンサスが出来るまで議論が必要。新条約の取り纏めには慎重に対応すべき」との発言があった。しかしながら、他の国からは特段異論がなく、最終的には、議長の説得によりインドも受け入れた。「放送新条約の今後の進め方」として、合意された内容は以下のとおり。
(a) 第11回SCCRを2004年6月7日から開催する。
(b) 各国からの提案とこれまでの議論を踏まえて、議長が事務局の協力の下、各国提案を束ねたテキスト(consolidated text)を用意する。本テキストは2004年4月1日までに各国に配布する。
(c) 次回SCCRでは、本テキストに基づいて議論を行う。次回会合の検討結果を評価して、2004年の総会への外交会議の勧告を決断する。


3.WIPOの将来課題に関する検討
   放送新条約の議論の他、以下に示すWIPOの将来課題について議論がされた。
   (1) 各国のWCT、WPPTの実施状況の調査
   事務局から、WCT、WPPTの実施状況に関して、スリー・ステップ・テストに基づく権利制限の運用の状況、技術的保護手段の措置等について報告がなされた。例として、米国では排他的権利の制限の基準として、「公正な使用(fair use)」が規定されているが、基準が不明確である等の指摘があった。

   (2) 著作権の関連産業への経済的影響の調査
   本調査のねらいは、今後の著作権の国際的枠組みに関して、著作権の関連産業への経済的影響も踏まえた上で検討することにある。今回、調査内容及び方策について事務局案が示されたが、今後、1)今回の報告内容を精査し、2)調査内容及び方策を改善し、3)信頼できるデータベースとして確立を目指す。各国が事務局案を精査し、意見を事務局に伝えることとなった。

   (3) 電子関連権利処理(デジタル・ライツ・マネジメント)の調査
   情報のデジタル化・ネットワーク化に伴い、電子関連権利の内容及びその管理のあり方が重要となる。本資料は、調査機関の協力の下、1)電子関連権利の内容及びその管理の概念、2)電子関連権利の管理における技術的な状況、3)電子関連権利の管理における法的な状況、4)今後の電子関連権利の管理に関する政策課題、WIPOの役割についてまとめたもの。事務局からの報告の後、EUから「電子関連権利処理については現在、EUにおいても技術的、制度的な面から検討を行っており、結果が出たところで報告したい。」との発言があった。また、本件と直接の関連はないが、米国から「先般、米国でブロードキャストフラッグについて連邦政府の規則が成立した。今後、機器メーカーは定められた標準の機器を製造することとなる。詳細の内容を調査した後、報告したい。」との発言があった。


4.実演家保護のための非公式会合
   (1) 会合の趣旨
   実演家の保護のための外交会議が2000年12月に開催され、第12条「実演家の権利の移転」条項のみが合意できずに継続審議となった。本条約は、情報のデジタル化・ネットワーク化に対応した一連の国際的な枠組みの構築の一部をなすものであり、実演家団体からもその実現を求める要望が強い。実演家保護のための外交会議の検討が来年の一般総会の議題となっており、関係国間で継続事項の検討が進展するよう、今回、非公式会合を開催するもの。

   2日間の日程のうち、1日目は、各国からの実演家、プロデューサーをゲストスピーカーとして呼び、実演家の権利のあり方について議論した。2日目は、各国の実演家の権利移転に関する法制度及び契約の現状について事務局からの報告に基づき議論した。

   (2)各国の実演家等を交えた議論
   各国の実演家、プロデューサーによる、実演家の権利の内容、実演家とプロデューサーの契約の内容、映画製作における実演家の収入の現状についての発表があった。実演家からは、自国の著作権関連法で実演家の著作隣接権が与えられていないために、映画の違法複製がなされても、実演家が補償を求めることができないこと、実演家の報酬は映画製作者との契約で規定されているが、請求が映画公開の段階に限られており、その後のビデオやDVDに二次利用された場合でも、報酬請求できない契約も存在すること、法制度の違いにより、実演家の保護の水準が国によって異なること等から、実演家保護のための条約の早期締結を求める発言があった。

   その後、各国から、実演家保護の必要性、条約締結を目指した検討の重要性について発言がなされた。その中で、EUからは「実演家保護の趣旨は、単なる金銭的な対価の確保だけでなく、文化的、社会的進展の要素でもある。EUは、言語、文化が多様であり、実演家保護に係る制度についても、文化的な背景によって様々である。しかしながら、実演家保護のためには、国際的な枠組みの構築が必要である。今回の発表を参考にしながら、制度作りに向けた意欲を失うことなく、検討を進めていきたい」との発言があった。また、米国からは「実演家保護のための国際的な枠組み作りのために、前向きに検討したい。本件は国内の調整を要することから、同時に検討を進めていきたい」との発言があった。

   (3)実演家の権利移転に関する各国の法制度及び契約の現状について
   事務局からの説明に引き続き、各国の実演家の権利付与の実態等について議論がなされた。
   まず、各国の著作権法令における実演家への権利付与の実態について、事務局から報告がなされた。報告書は、昨年5月に各国に配布し、97ヶ国の国内法令の実態をまとめたものであり、その概要は、97カ国中、実演家の複製権を付与している国が87ヶ国、譲渡権が58ヶ国、貸与権が65ヶ国、公衆伝達権が53ヶ国、利用可能化権が23カ国、人格権が76ヶ国である。実演家の権利の移転については、41ヶ国が権利の移転の規定がない、35ヶ国が実演家に権利移転の権利が与えられている、7カ国が強制的に権利が移転する、6ヶ国が実演家から製作者への権利譲渡がなされることが報告された。
   次に、実演家から製作者への権利の移転に関する各国の制度、実演家の契約と報酬請求制度に関する各国の状況について、事務局から報告がなされた。実演家の契約と報酬請求制度は、国によって様々であるが、米国では、実演家組合が設立されており、予め、製作者の組合と、報酬の下限水準、就業時間、健康保険等主な事項を盛り込んだ基本契約を合意しており、一部の実演家は更に個別に条件を交渉している。これらの研究は、他の国についても進めているとの報告が事務局からあった。
   最後に、今後の実演家保護のための検討の進め方については、改めて、事務局から各国に相談がなされることとなった。


1    EUは前回会合において「放送事業者がコンピュータネットワークを利用して行う同時かつ同内容の再送信行為は保護の対象とする」旨の修正提案を行った。



ページの先頭へ