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資料2

第38回WIPO一般総会について


1. 今次総会の概要

   WIPO総会は、WIPO設立条約第6条に基づいて、予算、組織、人事等のWIPOの管理・運営事項、及び重要政策事項について議論するために毎年開催される。第38回目の会合となる本年度一般総会は、本年9月22日〜10月1日にかけてWIPO本部(ジュネーブ)において開催された。

   文化庁からは、森口審議官、岩松国際著作権専門官が出席、特許庁からは、今井長官、小野特許技監他が出席、外務省からは、夏目国際機関第1課課長補佐が出席、寿府代表部からは、側島公使他が出席した。

   本総会では、開会、議題の採択、議長団の選出の後、各国からの実績報告がなされた。途上国からは、能力開発への支援の必要性、遺伝資源、伝統的知識及びフォークロアに関する政府間会合(IGC)における議論継続の重要性が述べられた。

   WIPOにおいても途上国問題が顕著になってきており、途上国は、知的財産として、遺伝資源等の保護を強く求めるようになってきている。当該課題への今後の取り組みのあり方が本総会の議題となっており、アフリカグループを中心とした途上国は、将来の条約締結を目指した検討を主張し、最終的には、将来の国際的な枠組の構築の可能性も排除せずに検討を進めることとなった。

   また、視聴覚的実演の保護についての条約(AV条約)の今後の取り組みについても討議がなされた。その結果、本年11月の非公式会合で実質的な議論を深め、本条約の外交会議の事項については、来年の総会の議題とすることとなった。

   その他、WIPOの2004〜2005年の2ヵ年予算の採択、国際特許手数料の決定、WIPO委員会の議長等の選出が行われた。

2.   今次総会の具体的な結果

(1) 各国代表による一般演説について
   9月22、23日をかけて、各国代表による一般演説が行われた。先進国は、関係者間の申し合わせにより、審議促進の観点から各国の演説の内容は発言せず、文書により提出、配布した。我が国の一般演説の内容は、「知的財産立国」の実現を目指して、本年7月に策定された「知的財産の創造、保護及び活用に関する推進計画」の内容に沿って、わが国の知的財産に対する取り組みが述べられている。その内、著作権に係る部分は以下のとおり。
1.    デジタル化・ネットワーク化に対応した、国際的に調和のとれた著作権制度の構築
(各論)
・    WCT、WPPTの適切な実施
・    放送機関の保護についての条約の早期締結(SCCRでの着実な検討)
・    視聴覚的実演の保護についての条約の早期締結(外交会議の開催)

2.    海賊版に対する法執行の推進
(各論)
・   「コンテンツ海外流通促進機構」を活用した海賊版対策の推進
・   APACEを活用したアジア太平洋地域への著作権法整備の支援

(2) 視聴覚的実演の保護について
   2000年12月に開催された「視聴覚的実演に関する外交会議」においては、「実演家の権利移転」の条項について、米国とEUの間で合意に達することができなかった。
   他の著作隣接権者とのバランスの観点からも、本条約を成立させることが重要であり、関係者の条約締結に対する意欲を失わないためにも、議論を継続する必要がある。本総会では、事務局より、今後のAV条約への取り組みとして、11月に非公式会合を開き、来年の総会でAV条約の外交会議を審議事項とする案が提示された。
   これに対して、イタリア(EU代表)、コスタリカ、ルーマニア、南アフリカ、メキシコ、日本、米国、パキスタン、フィリピン、ロシア、モロッコ、パナマから発言があった。その後で、NGO代表として国際実演家協会、国際俳優連合から発言があった。各国とも、本条約の重要性を認識し、事務局の提案を支持した。我が国からは、前回の外交会議から既に3年が経過し、その間、関係者の尽力にも関わらず議論の進展はほとんど見られないとしつつ、ローマ条約以降の著作隣接権者間のバランスを考慮すると、AV条約の合意が形成され、早期に採択されることが極めて重要であると表明。関係者間のモーメンタムを維持するためにも11月の非公式会議での進展を期待するとともに、事務局の提案を全面的に支持し、関係者の合意形成のために如何なる努力もする所存であるとした。なお、途上国からの発言で留意すべきものとして、南アフリカからは、本条約の重要性を認識し、検討が進められることを支持しつつも、並行して遺伝資源等の保護のあり方も重要であり、同時期の成立に向けて検討を進めるべきとの発言があった。以上の発言を受けて、事務局提案のとおり、11月に非公式会合を開催し、来年の総会で本条約の外交会議について議論することとなった。

(3)  知的財産、遺伝資源、伝統的知識及びフォークロアに関する政府間会合(IGC)における今後の検討について
   発展途上国を中心とした国々から強い要望に応じて、知的財産、遺伝資源、伝統的知識及びフォークロアに関する政府間会合(IGC)が過去5回、開催されてきた。前回(本年7月)の会合では、今後の検討の進め方について議論がなされ、途上国は「条約等、法的拘束力のある取決めを目指して関係国で検討する」旨合意することを主張。先進国は、「本件は知的財産の観点から専門的かつ実質的な議論を行うべきであり、既存の知的財産制度の保護水準を引き下げることに繋がる拙速なルールメイキング(条約作成等)を行う旨合意するべきではない」と主張し、最終的には合意に至らなかった。このため、改めて、一般総会で議論することとなった。
   本総会では、一般演説から、途上国が遺伝資源等の保護の重要性を強調する発言が相次いだ。また、2日目には、アフリカグループから今後の取り組みとして、法的拘束力のある国際的取決めを結ぶべく検討を行うべきとの提案がなされた。各国の意向を受けた形で、各グループ代表による非公式の検討が進められ、最終的には、今後の取り組みのあり方として、引き続き、調査・研究を進め、将来の国際的な枠組(international instrument)の構築の可能性も排除しない旨合意した。

(4) その他
1議長団の選出
   総会議長にケセジャン仏当地代表大使、副議長にケニアと中国が選出された。その他、各同盟総会の議長団が選出された。

2国際特許手数料の見直し
   WIPOの収入の85%(2003年)を占める国際特許登録料の見直しが行われた。当初事務局の提案である1450フランに対して、国際特許申請料の支払上位を占める米国と日本が反対し、最終的には1400フランで決定した。

3国際特許収支に対する独立会計制度の確立
   日本から、国際特許収支に対する独立会計制度の導入について検討を行う提案をした。これは特許条約によれば、国際特許(PCT)は独立した会計を持つことができるとされており、説明責任と透明性の観点から提案をしたものである。これに対し、米国からも支持する旨の発言があり、最終的には、事務局が国際特許収支の独立会計化について研究を行い、報告することとなった。

42004、2005年期の予算計画の承認
   事務局の予算案の説明に対し、米国からは、更なる予算の効率化が求められ、将来のIT化、新庁舎建設に対しては厳密に審査すべきと主張。一方、途上国からは、知的財産システムの構築のための支援の重要性が指摘された。以上のやり取りの後、2ヵ年計画は承認された。



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