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資料5


放送前信号の取扱いについて(過去の審議会等での論点)


1.   問題意識

       公衆に放送される前に送信される番組搬送信号(放送前信号)が傍受され、それが有線放送、インターネット等を通じて送信されるという問題が生じている。
   この送信内容が放送される内容と同一である場合、実質的に放送が無断で複製され、送信可能化される場合と同様の被害が生じることとなり、著作隣接権による放送の保護の実効性が失われる恐れがある。さらに、放送前信号の再送信が放送と同時又は放送に先立って行われる可能性があるため、放送事業者が多額の放映権料や中継費用を費やして放送を行うインセンティブが著しく損なわれる可能性がある。
   一方、放送前信号については、これが著作権法上の「放送」には該当しないこと等から、著作権法で保護を行うことについては慎重な意見も存在する。


2.   論点等

   (1)    保護の基本的考え方 
     放送前の送信について放送事業者の権利を及ぼすとした場合、
1 放送事業者に著作隣接権を認めている趣旨(公の伝達の役割、準創作行為等)との関係をどのように考えるか。
2 放送事業者の権利の対象は、放送行為と一連の行為と考えるか、それとも、送信される「信号」と考えるか。

(2)    権利の対象とする送信
1 放送前の送信には次のようなものがあると考えられるが、どのような送信について権利を及ぼす必要があるか。
 
中継車等からの送信であって、そのまま放送されるもの
中継車等からの送信であって、字幕の付与等の加工を経て放送されるもの
中継車等からの送信であって、放送局の判断で結局放送されなかったもの
他局又は他局の中継車等からの送信であって、そのまま放送されるもの
他局又は他局の中継車等からの送信であって、加工を経て放送されるもの
他局又は他局の中継車等からの送信であって、結局放送されなかったもの 
2 送信を受信した放送局が、一旦、複製しておき、時間をずらして放送に利用した場合はどうか。

(3)    権利者
     放送前の送信について権利を及ぼす場合、誰が権利者となるのか。
1 送信を受けて放送を行う受信側の放送事業者を権利者とした場合、ネットワークの実態を考えると、一つの送信について多数の放送事業者の権利が重畳して働くことにならないか。
2 送信側を権利者とした場合、自ら放送しなくても権利者となることにならないか。また、海外からの送信の場合はどうなるか。

(4)    保護期間の起算点
     現行法上、放送の保護期間の起算点は「放送を行ったとき」とされているが、放送前の送信についてはどのように考えるか。

(5)    著作隣接権との関係
     従来「放送行為」を対象として付与されていた放送事業者の著作隣接権の範囲をまだ放送されていないものまでに拡大することは、放送事業者の著作隣接権の本質を変更することにならないか。
      (参考) 実演家、レコード製作者及び放送機関の保護に関する国際条約  
             第3条(f)            「放送」とは、公衆によって受信されることを目的とする無線による音の送信又は影像及び音の送信をいう。
  著作権法
 
  第2条第8号    放送   公衆送信のうち、公衆によって同一の内容の送信が同時に受信されることを目的として行う無線通信の送信をいう。


   (6) 他の法制による保護
 
1 通信法制による保護
   我が国においては、通信を第三者が傍受し、利用することは電波法第59条又は電気通信事業法第4条により違法とされている。これらの法制により、現行でも放送前送信の保護は実質的に確保されているとも考えられる。(著作隣接権においては、その侵害行為の差止めを請求することができる点で通信法制よりも厚く保護することが可能。)

      (参考) 電波法  
             第59条             何人も法律に別段の定めがある場合を除くほか、特定の相手方に対して行われる無線通信(電気通信事業法第4条第1項又は第90条第2項の通信たるものを除く。第109条 において同じ。)を傍受してその存在若しくは内容を漏らし、又はこれを窃用してはならない。
  電気通信事業法
  第4条    電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密は、侵してはならない。
     電気通信事業に従事する者は、在職中電気通信事業者の取扱中に係る通信に関して知り得た他人の秘密を守らなければならない。その職を退いた後においても、同様とする。


3.   審議会での検討状況

文化審議会著作権分科会審議経過の概要(平成13年12月)」(抄)
第3章   放送小委員会における審議の経過
2   放送事業者等の権利の拡大について
1   検討課題について
  (4)放送前送信
       スポーツ競技などの生放送を行う際には、中継現場から放送局まで影像・音声の送信が行われており、また、全国ネットワーク等で放送を行う場合には、キー局からネットワーク局まで影像・音声の送信が行われているが、公衆を対象とする送信でないため、著作権・著作隣接権が及ばないこれらの送信行為は、一般に「放送前送信」などと呼ばれている。このような「放送前送信」において送信されるものについても、放送事業者の権利の対象としてほしいとの要望がある。
   この要望の理由としては、キー局・ネットワーク局間の送信は、放送と同一の内容であることが多いが、まだ「放送」されていないために放送事業者の権利が及んでおらず、これを傍受・録画等された場合に、放送事業者の権利の実効性が損なわれるおそれがあること、また、生中継を行うに当たっては、多額の放映権料や中継費用が必要であり、この投資が適正に保護されなければ、放送を行うインセンティブを著しく損なうおそれがあることがあげられている。
   この事項については、従来「放送行為」を対象として付与されていた放送事業者の著作隣接権の範囲をまだ放送されていないものにまで拡大することは、放送事業者の著作隣接権の本質そのものの重大な変更をもたらすため、慎重な検討が必要であるとの意見や、「放送前送信」の範囲をどのように画定するかさらに検討すべきとの意見が出されている。  

4.   諸外国提案の内容

米国 “effective and adequate legal protection”を付与。なお、“pre-broadcast signals”を送信する者も保護を受ける。(保護の方法については各国に委ねる。)
EU
ウルグアイ
“adequate legal protection”を付与。(保護の方法については、各国に委ねている。)
日本 国内において検討中。
スイス、アルゼンチン、IU、民放連 排他的許諾権による付与。




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