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「放送機関に関する新条約」についてのWIPOにおける検討状況について
(第8回WIPO著作権等常設委員会について)

1. 第8回著作権等常設委員会について
WIPO著作権等常設委員会については、著作権及び著作隣接権にかかる事項を検討するために1998年に設立されたものであり、概ね年2回の頻度で開催されている。現在、本委員会においては、放送機関の保護に関する新条約等の事項について近い将来の条約化を目指した作業が行われている最中である。第8回目の会合となる今回総会は、11月4日〜8日にかけてWIPO本部(ジュネーブ)において開催され、当庁からは、吉尾国際課長、中園国際課国際著作権専門官が出席した。

2. 今回常設委員会における主な論点(放送条約関連)
1) ウェブカスティングの取扱
ローマ条約の保護の対象であった(伝統的)放送に加え、ウェブカスティング(インターネット放送)を新たに保護の対象に加えるべきか否か。

日本 今回条約の保護の対象とはせず、交渉とは切り離して別途WIPOで検討を実施。
米国 保護の受益者とする(定義、付与する権利については更に検討)。
EC 保護の受益者とする(定義、付与する権利については更に検討)。
放送事業者 今回条約の保護の受益者とはせず、交渉とは切り離して別途WIPOで検討を実施。

(個別の論点)
保護の対象とするウェブカスティングについてはリアルタイムストリーミングに限定すべきか(インタラクティブ性を除外するか否か。)
個人の行うウェブカスティングまで対象を対象にすべきか。
レコード製作者等他の権利者への影響。(放送機関が享受している特権をウェブカスターにも付与すべきか。)

2) 放送前信号の取扱
スポーツ中継におけるスタジアムからテレビ局間の放送信号の送信等のポイントツーポイント送信について、新たに権利を付与するか否か。

日本 国際的な議論を踏まえて検討。
米国 適切な保護を付与(具体的な保護の方法については各国に一任)。
EC 適切な保護を付与(具体的な保護の方法については各国に一任)。
放送事業者 排他的許諾権による保護。

(個別の論点)
保護すべき「放送前信号」の範囲
排他的許諾権による保護か、それ以外の方法による保護(通信法制等による保護)も認めるか。

(参考)国内における議論(平成13年12月文化審議会著作権分科会審議経過の概要)
放送前信号において送信されるものについても放送事業者の権利の対象としてほしいとの要望がある。・・・従来「放送行為」を対象として付与されていた放送事業者の著作隣接権の範囲をまだ放送されていないものまで拡大することは、放送事業者の著作隣接権の本質そのものの重大な変更をもたらすため、慎重な検討が必要であるとの意見や、「放送前送信」の範囲をどのように画定するかさらに検討すべきとの意見が出されている。

3) 暗号解除行為の規制
スクランブル放送等の暗号を無許諾で解除することについて、新たに規定を設けるべきか否か。
日本 国際的な議論を踏まえて検討。
米国 「技術的保護手段に関する義務」において当該行為についての適切な救済策を規定する。(「暗号解除権」等の排他的許諾権は付与しない。)
EC 不要。
放送事業者 排他的許諾権(暗号解除権)の付与による保護。

(個別の論点)
排他的許諾権(暗号解除権)を付与し、技術的保護手段のもとで保護するのか、権利を付与することなく特例的に技術的保護手段のもとで保護するのか。
排他的許諾権(暗号解除権)を付与することについての著作者等他の権利者への影響。
(参考)国内における議論(平成13年12月文化審議会著作権分科会審議経過の概要)
“・・・・暗号化された放送について暗号を解除して「視聴」する行為を技術的保護手段の回避として規制の対象として欲しいとの要望がある。
・・・・・現行の条約や著作権法における技術的保護手段の回避に対する規制は、既に法定されている権利を守るために導入されたものであり、権利の対象でない放送の視聴行為に係る暗号等についても規制の対象とすることについては、著作物等一般の知覚行為等との関係も含め、慎重に検討する必要がある等の意見が出されている。”

3. 各国間で概ね合意が得られている事項
1) 有線放送事業者の取扱
保護の受益者として、「有線放送事業者」を新たに追加することについては概ねの合意が得られている。

2) 権利のインターネット対応
放送事業者の権利として、新たに利用可能化権、技術的手段に関する義務、権利管理情報に関する義務を規定することについては概ねの合意が得られている。

3) 放送の2次利用についての権利付与
ローマ条約では、付与されていない「放送」の固定物を活用した2次利用(再放送、公衆への伝達、利用可能化等)について新たに権利を付与すべきことについては概ねの合意が得られている。

4) 遡及効
ベルヌ条約18条を準用することにより、遡及的保護を行うことについては概ねの合意が得られている。


4. 今回会合の結論(放送新条約関係)
「放送機関の保護」は次回SCCRの主要な議題となること
「放送機関の保護」についての新たな提案、提案の修正がある場合は2003年2月末までに提出のこと。
次回SCCRは2003年6月23日から27日に開催されること

5. 今後の考えられるスケジュール
平成14年11月4日〜8日  第8回SCCR
      ↓
○ 国内における検討
    >ウェブカスティング、放送前信号、暗号解除等
      ↓
平成15年6月23日〜27日 第9回SCCR(我が国の国内検討状況の報告)
      ↓
○ 国内における検討継続
      ↓
平成15年9月 第38回WIPO一般総会(外交会議等今後の日程の確定)
      ↓
○ 国内における検討継続
      ↓
平成15年11月  第10回SCCR(我が国の基本的立場を説明)
      ↓
○ 我が国の交渉に臨む対処方針の確定
      ↓
平成16年最初の四半期  外交会議の準備会合
      ↓
平成16年 外交会議の開催(?)


    
:外交日程



放送機関に関する条約(略称:放送条約)


[経緯]

1997年4月  「放送事業者の権利に関する新条約」の必要性を検討するシンポジウム
マニラにおいてWIPO主催のシンポジウムが開催され、放送機関に関する新条約の議論が実質的に開始された。

1998年11月  第1回著作権等常設委員会
平成10年(1998年)11月に開催された第1回著作権等常設委員会(SCCR)において、放送事業者の権利について初めてWIPOの場での正式な検討が行われ、日本の民放連が条約案の提案を行うなど活発な議論が行われた。その結果、次回のSCCRでも議論として取り上げることが決定され、平成11年(1999年)3月末までに各国は条約案やその他の提案があればWIPO事務局に提出することとされた。

1999年5月  第2回著作権等常設委員会
日本の行った情報提供をはじめ、各国から示された提案をもとに、各国から保護の在り方に関する一般的見解、検討すべき論点について意見が出された。

1999年11月  第3回著作権等常設委員会
より実質的な議論を行うこととされ、その議論に向けた提案又は見解を同年8月16日までに行うこととされていたが、我が国としては提案を行わなかった。本会合では、本件について次回常設委員会でも引き続き議題とすることが決められた。

第4回著作権等常設委員会
本件に関する検討については、次回常設委員会において検討すること、2001年1月末までに各国から条文形式の提案を提出することが確認された。

2001年5月  第5回著作権等常設委員会
同年4月に日本よりWIPOに提出していた条文形式の条約案についての説明が行われ、本件について引き続き常設委員会の場で議論されることとなった。また、同年10月1日までに、各国から条文形式の提案をWIPOに行うことが確認された。

2001年11月  第6回著作権等常設委員会
EUからWIPOへ提出された条文形式の条約案についての説明が行われ、本件について引き続き常設委員会の場で議論されることとなった。

2002年5月  第7回著作権等常設委員会
事務局が作成したテクニカルバックグラウンドペーパーについての論議が行われ、その後、保護の客体の範囲(特にインターネット放送の取扱い)や、「放送前信号」の保護などについての議論が行われた。

[国内での検討状況]

2002年の著作権法一部改正により、放送事業者及び有線放送事業者に対して送信可能化権が付与された。


WIPO放送機関の権利に関する条約作成に向けた各国等の提案の比較表


放送前
信号等
の保護
固  定  さ  れ  て  い  な  い  放  送 固  定  さ  れ  た  放  送 技術的手段 権利
管理
情報
再放送権 公衆
への
伝達権
有線
放送権
固定する権利 利用可能化権 暗号解除権 複製権 譲渡権 商業的
貸与権
利用可能化権 公衆への伝達権
暗号解除装置等の規定
日本
(さらに検討)

(さらに検討)

(さらに検討)

(さらに検討)
×
(さらに検討)

(さらに検討)
×
(さらに検討)
スイス × × ×
アルゼンチン × × ×
EC × × × × ×
ウルグアイ × ×
ホンジュラス × × × ×
アメリカ × × × ×
世界の放送
事業者団体
(NHKを含む)
×
民放連 × ×
(参考)
  ローマ条約
× × × × × × × × × × ×
(参考)
TRIPS協定
× × × × × × × × × × ×
(参考)
日本著作権法
×
(1970年)

(1970年)

(1970年)

(1970年)

(2002年)
×
(1970年)
× × × ×
(1999年)
×
(1999年)


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