二 中央における教育財政

国庫負担制度・国庫補助制度の整備

 昭和二十八年四月から義務教育費国庫負担法が復活施行され、義務教育職員の給与費の実支出額の二分の一と、教材費の一部の国庫負担制度が実施された。このうち給与費の国庫負担については、同法に基づく政令第一〇六号が制定された。

 この政令の内容は、地方財政平衡交付金法による基準財政収入額が基準財政需要額をこえる都府県、いわゆる富裕団体または基準財政収入額が普通交付金の額をこえる府県、いわゆる比較的富裕団体については、一定の基準により算定した額を国庫負担の最高限度とするというものであった。

図4 中央教育行政機構

図4 中央教育行政機構

 同年八月には、これまで予算補助で行なわれてきた学校施設関係の整備に法的根拠を与える法律が制定され、この年において、義務教育を実施する上での主要条件である給与、施設および教材に要する経費についての国庫負担制度が確立し、将来の義務教育水準の維持・向上に大きく寄与することとなった。なお、三十年には前述の政令第一〇六号の改正が行なわれ、国庫負担の限度はいわゆる富裕団体のみに限られた。

 この二十七、八年を境にして教育費にかかる国の補助政策は一段と積極化がみられる。

 すなわち、それまでじゅうぶん手のまわらなかった学校教育振興のための教材・教具等の設備、父兄負担軽減の措置、保健・体育、社会教育さらには私学の振興等各領域にわたって国の財政援助を中心とした教育振興の諸立法が制定施行されてきた。これらの諸法律はいずれも学校において整備すべき物的条件の基準や組織・運営の基準を示すとともに、その充実に要する経費について国庫補助を規定し、学校における整備目標を明らかにし、かつ地方団体間あるいは学校間の格差を是正し、教育水準の保持向上に資することとなった。ここにその主要なものを列記すると次のとおりである。

(一)「産業教育振興法」に基づく補助

 二十六年に制定された同法により、二十七年度から主として高等学校の産業教育施設・設備の整備を助成するために設けられた。

(二)「理科教育振興法」に基づく補助

 二十八年に制定された同法により、二十九年度から公立および私立の高等学校、小・中学校等の理科設備の整備を助成するために設けられた。

(三)「学校図書館法」に基づく補助

 二十八年に制定された同法により、二十九年度から公立の高等学校および小・中学校の学校図書館の整備を助成するために設けられたが、同法令に定める図書等の整備基準まで到達したことにより三十六年度限りで打ち切られた。

(四)「へき地教育振興法」に基づく補助

 二十九年に制定された同法により、すでに補助されていたへき地学校の教員住宅建築費補助等が制度化されたほか、学校用自家発電設備、スクールバス・ボート、へき地学校集会室等の施設・設備の整備を助成するために設けられた。

(五)「高等学校の定時制及び通信教育振興法」に基づく補助

 二十八年に制定された同法により、二十九年度から公立高等学校の定時制の課程の施設・設備の整備、通信教育の設備の整備とその運営費を助成するために設けられた。三十五年度からは、同法の改正により、教職員に定時制通信教育手当を支給することになり、この手当に要する経費についても補助金が交付されることとなった。

(六)「学校給食法」に基づく補助

 二十九年に制定された同法により、すでに二十五年度から補助されていた学校給食の施設・設備の整備費に対する国庫補助と、貧困家庭の児童・生徒に対する学校給食費に対する国庫補助とが制度化された。

(七)「盲学校、聾(ろう)学校及び養護学校への就学奨励に関する法律」に基づく補助

 二十九年に制定された同法により、特殊教育諸学校に就学する児童・生徒に対する就学奨励費の国庫補助制度が確立され、補助範囲も年々拡充されるに至った。

(八)「就学困難な児童及び生徒に係る就学奨励についての国の援助に関する法律」に基づく補助

 三十一年に制定された同法により、同年度からまず教科用図書について、就学困難な児童・生徒にこれを給与する市町村に対して国の補助が行なわれることとなったが、その後修学旅行費、学用品費、通学費、通学用品費、校外活動費に至るまで、その給与内容が拡充され、これに伴って国の補助が増額されてきた。

(九)「公立養護学校整備特別措置法」に基づく補助

 三十一年に制定された同法により、三十二年度から義務教育費国庫負担金に準じ、教職員給与費および教材費に係る国庫補助制度が設けられた。なお、この法律では、同時に学校施設の新設に要する建築費、危険校舎の改築費についても、国の補助金が交付されることが規定された。

(十)「義務教育諸学校施設費国庫負担法」に基づく補助

 三十三年、それまで継続されてきた義務教育諸学校の校舎および屋内運動場等に係る施設の建築費に対する各種の国庫補助制度が、同法に基づく国庫負担制度として統合整備された。これは主として中学校生徒の急増等に対処するため、新たに年次計画を策定する必要があったためで、これによって国の負担金、補助金も年々増額された。なお、この法律制定に先だって二十八年には「公立学校施設災害復旧費国庫負担法」が制定されたが、これは毎年発生する学校施設の災害復旧に対する国の補助金・負担金制度を法制化したものであった。

(十一)「夜間課程を置く高等学校における学校給食に関する法律」に基づく補助

 三十一年に制定された同法により、三十二年度から、夜間課程を置く高等学校の設置者に対し、夜間給食に必要な施設・設備の整備に必要な経費と、生徒に対する給食費に必要な経費について、国の補助が行なわれることとなった。

(十二)「学校保健法」に基づく補助

 三十三年に制定された同法により、同年度から、就学困難な児童・生徒の疾病の治療に要する経費および教員の定期健康診断費について国庫補助が行なわれることとなった。

(十三)「日本学校安全会法」に基づく補助

 三十四年に制定された同法により、同年度から学校教育の円滑な実施を図るため学校安全の普及・充実と児童・生徒の負傷、疾病等に対する必要な給付を行なうことが制度化され、安全会の事務費と就学困難な児童・生徒に対する安全会掛け金についての補助が行なわれることとなった。

(十四)「スポーツ振興法」に基づく補助

 三十六年に制定された同法により、同年度から学校の水泳プール、一般の体育館、運動場、地方公共団体の行なう各種のスポーツ振興事業費等について国庫補助が制度化されることとなった。

(十五)「日本私学振興財団法」に基づく補助等

 四十五年に制定された同法により、新たに日本私学振興財団が創設され、この財団において、私立大学等の経常費に対する国の補助金の交付を受け、これを財源として、学校法人に対し補助金を交付し、また私立学校の施設整備その他経営のための資金を貸し付ける等の業務を行なうこととして、私立学校の教育の充実および向上ならびにその経営の安定が図られることとなった。なお、この法律の制定を契機として同年度から国の補助金および貸付金の額は毎年度倍増に近い伸びを示している。

 以上の各種振興法に基づく年度別の国庫補助金の推移は表78のとおりであるが、その補助金額の推移状況から、各種教育の領域に対する国の重点施策の歴史がうかがい知れる。

表78 教育振興関係補助金の年度別推移

表78 教育振興関係補助金の年度別推移

表78 教育振興関係補助金の年度別推移(つづき)

表78 教育振興関係補助金の年度別推移(つづき)

教職員定数の標準化法の制定

 前述のように、学校教育費を中心に国庫負担制度、国庫補助制度が整備され、これに伴って地方公共団体が負担する経費の範囲、その負担額もしだいに明確になってきたほか、特に学校教育費において最も大きな位置を占める教職員給与費については、その基礎となる教職員定数の標準について、明確な立法措置がとられることとなった。すなわち、三十三年には「公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律」が制定され、あるべき学級編制の標準と確保されるべき教職員定数の標準が法定された。これによって三十四年からは、地方交付税の配分に際して算定される基準財政需要額の算定基礎となる測定単位に改訂が加えられ、新たにこの法律で算定される教職員定数が測定単位として採用され、この法律で示す標準に到達するに必要な地方負担分の財源が確実に保障されることとなった。三十八年にはこの法律の一部改正が行なわれ、三十九年度から実施されたが、これは同年度以降五か年間において約三〇〇万人の児童・生徒数の自然減に伴う教職員定数の減少わくを利用して、学校編制については五〇人を四五人に、また教職員定数についても各職種にわたって大幅な改善を五か年計画で実施するというものであった。この大幅な法改正に関連して、三十九年度から義務教育費国庫負担額の最高限度を定める政令第一〇六号の一部改正が行なわれ、従来の富裕団体以外の道府県についても、前述の標準法によって算定した教職員定数まで(給与単価は実数)を国庫負担の最高限度とすることとされた。なお、この標準法は四十四年にも一部改正が行なわれ、明治以来あった単級とか五または四個学年複式学級を廃止するとか、教員、養護教員、事務職員の定数改善および特殊教育諸学校の教職員定数の大幅な増加が図られ、その内容は第三次の五か年計画として実施されることとなった。

 また、これより先の三十七年度からは、高等学校生徒の急増の事態に対処して、生徒が急増しても一定水準の学級編制とか教職員定数の標準を確保することをねらいとした「公立高等学校の設置、適正配置及び教職員定数の標準等に関する法律」により、高等学校費についても、地方交付税制度において小・中学校費と同様に、新たに教職員定数に係る測定単位が新設された。なお、この法律については四十二年に学級編制および教職員定数の標準の大幅な改善を内容とする一部改正が行なわれ、同年度から第二次の五か年計画として実施されることとなった。

国の教育費の推移

 国の財政における教育費の占める比率について昭和二十八年度以降の推移をみると、この年度から義務教育職員給与費の二分の一国庫負担が復活実施されたことにより、前年度の四・五%の比率が、一躍一二%台となり、以後安定した傾向を示している。国の教育費のうち、地方教育費補助の占める比率では、三十六年度まではおおむね六五%程度であったが、三十七年度から五〇%台に下がってきている。これは国立学校経費が二七~八%台から三四~五%に増加していることによる。また地方教育費補助のうち、義務教育費に対する補助が、二十八年度当初は約九八%を占めていたのが、四十四年度には九六%台に下がってきているが、これは先に述べたように、義務教育職員の給与費の増額にもかかわらず、それ以外の各種教育の領域に対する国庫補助が拡充されてきていることを示すものとみるべきであろう。

表77 国の教育費

表77 国の教育費

公立学校施設の整備

 昭和二十三年制定の地方財政法では、公立学校施設整備について別に法律を定めて基準等を明確化することとされていたが、その実現がのびのびとなっていた。二十八年度に、老朽危険校舎改築費補助に手がつき、また西日本大災害の発生を契機に法制化の気運が急速に高まり、「公立学校施設費国庫負担法」「危険校舎改築促進臨時措置法」 「昭和二十八年発生災害復旧事業特別措置法」(略称)の施設関係の三法が制定された。さらに三十年には、戦後の出生児の大幅な増加による小学校児童の急激な増加をむかえて、「公立小学校不正常授業解消臨時措置法」が制定された。

 これらの法律は三十三年に整理・統合されて、「義務教育諸学校施設費国庫負担法」、「公立学校施設災害復旧費国庫負担法」、「公立高等学校危険建物改築促進臨時措置法」となり、さらに三十五年にはベビーブームの波が、中学校に押し寄せることに対処して、「公立の中学校の校舎の新築等に要する経費についての国の負担に関する臨時措置法」が公布され、中学校校舎の整備が促進された。

 これらの法的整備を根拠に三十四年度以降、三次にわたる五か年計画を策定し、計画的な整備を推進してきた結果、二十四年当時児童・生徒一人当たりの保有面積三・〇平方メートルが、四十六年には六・八平方メートルに拡大された。

 また、連年発生する災害による被害に対しては、従来激甚災害のつど特別立法の措置によって学校施設の災害復旧の負担率の引き上げが行なわれていたのが、三十七年略称激甚災害法の制定により自動的に行なうように改められた。

 二十三年度から発足した新制高等学校は、旧制中等学校を母体としていたので、戦災校を除いては比較的施設に余裕をもっていた。しかし、総合制や学区制の実施、高校進学率の上昇等に伴いしだいに施設に不足を生じ、特に職業関係の高等学校では実験・実習の施設・設備の不足・不備に対して、その整備補助の要望が高まってきた。二十六年の産業教育振興法はこれにこたえる画期的措置であった。

 また、三十年度から公立高等学校の老朽危険建物の改築を、三十二年度より公立定時制高等学校建物の整備についても国庫補助の道が開かれた。

 逐年の高校進学率の上昇に加えて三十八年からベビーブームの波が高等学校に押し寄せることに対処し、国は三十六年度から公立工業高等学校の新設に対して補助を行なうこととし、他の急増対策は地方債により実施することとなった。

過密過疎対策と小・中学校の施設整備

 昭和三十年代の後半以降、大都市周辺地域の人口急増現象と、人口流出地域の過疎化が顕著になってきて、人口急増地域の小・中学校の校舎建築と過疎地域の分校や小規模学校の統合整備が重点として実施されるようになった。

 アメリカ軍および自衛隊の航空機騒音に対しては、二十八年度から防衛施設庁予算で学校施設の防音対策が講ぜられてきたが、産業の高度化に伴う騒音、大気汚染等の公害が問題となり、四十三年度からは公害防止の学校施設工事に対する補助金が計上された。四十五年には、「過疎地域対策緊急措置法」成立により、過疎地域の学校統合に対する補助率が引き上げられ、また特別豪雪地帯の小・中学校の分校の建物に対し、豪雪特別措置法(略称)の改正により四十七年度から補助等の引き上げが行なわれることとなった。さらに四十六年度には、人口急増地域の学校用地の入手難に対処するため「急増市町村公立小・中学校特別整備補助金」(略称)として、小・中学校用地取得費に対してはじめて国庫補助金が計上されることとなった。これらの補助事業については、国の補助金のほか、地方債の起債が認められ、長期低利の政府資金の運用と相まって校地取得の円滑な実施が図られている。

表79 公立学校施設の整備状況(高等学校以下)

表79 公立学校施設の整備状況(高等学校以下)

学校建築の将来

 学校建築については、量の問題からしだいに質の問題へと移ってきている。従来の定型的な規格から、半面の自由性に変えることが企てられた。まず、昭和三十一年六月に、日本工業規格「木造学校建物」が告示され、教室の幅の自由度が広がり、三十七年二月告示日本工業規格「鉄骨造校舎の構造設計標準」においては、さらに教室の自由な幅と長さに対応できるものとなっている。

 二十七年、公立文教施設整備費においては鉄筋コンクリート造り、鉄骨造り、木造の構造比率は各一四・五%、○・五%、八五%(全費目の重みつき平均)であったが、毎年度約五%ずつ上位構造への引き上げが行なわれ、四十六年には、同比率は七九%、一八%、三%となっている。このように鉄筋コンクリート造りの実施比率は増大してきたが、四十三年五月の十勝沖震災では、鉄筋コンクリート造り校舎に特に大きな被害が生じたので、同構造についての再検討が行なわれ、耐震構造の研究がさらに進められつつある。

 学校建築は今後とも相当量の需要を控えているが、同時に新しい教育機器の利用、教育方法の発展が見込まれており、これにじゅうぶん即応しうる良質で柔軟性に富んだ学校施設が切実に要望される。このため、教育と施設の両面から多角的かつ総合的な研究開発を行ない、部品、部材の標準化、工業化により、短い工期で安く質の良い自由な学校が建設できるように、設計や施工のシステム化についての研究が進められようとしている。

国立学校施設の整備

 国立学校の施設整備は、学校、附属病院、研究所、学生厚生施設について不足整備、老朽危険建物の改築、統合整備計画の推進等を行なってきたが、昭和二十八年ごろからその整備もようやく軌道にのってきた。三十二年、科学技術振興方策の一環として科学技術者養成計画が遂行されることとなり、国立学校の理工系学生増募のための施設整備が緊要の課題となった。三十七年度には国立工業高等専門学校が発足し、現在までに計五二高専の新施設工事が行なわれた。三十九年度から「国立学校特別会計」が設定され、財源として一般歳入のほか財産処分収入や、借入金をも加えることができることになったため、予算額もさらに増大して大学生急増や大学病院の抜本的整備を含め国立学校施設の整備が急速に進められ、国庫債務負担行為の活用による大型工事も数多く実施されるようになった。

 首都圏整備の一環として計画された筑波研究学園都市の建設について、文部省としては四十五年の高エネルギー物理学研究所の建設着手と、筑波新大学の建設開始が大きな仕事となっている。

表80 公立学校施設の整備状況

表80 公立学校施設の整備状況

国立学校財政

 昭和二十四年度に発足した新しい大学制度は、高等教育機関に対する社会的要請の逐年の増大と、特に四十一年度においては、、戦後のべビーブームの余波を受けて、国立大学についても学生定員の増加率が戦後最高となる事態を生じ、急速にその規模を拡充する必要にせまられた。特に施設整備は公立学校におくれぎみで、この時期を迎え、急速な整備拡充が緊急の課題になり、加えて国立大学財政のあり方の改善が急務となった。

 国立学校の財政に関しては、三十八年中央教育審議会から、教育・研究の長期計画に即応する予算措置、予算執行上の弾力的運営、教育研究費等の拡充および寄付受け入れ、使用についての改善方策を内容とする答申が出された。このような事態と意見に基づき、特別会計制度によって、その整備・充実を図ることとし、国立学校特別会計法が制定され、三十九年度から実施されることに改められた。その内容は次のとおりである。

 (一)附属病院収入、その他の収入が、歳入予算額に比して増加したとき、その増加額は、附属病院等の経費に充てることができる、いわゆる弾力条項が認められ、それらの事業の円滑な運営を図ることとした。

 (二)決算上の剰余金の一部は、積立金として積み立て、これを施設整備費に充当することができることとした。

 (三)国立学校所属の不用財産を処分した代金は、この特別会計の収入とすることができること、また、国庫債務負担行為制度を活用することにより、施設整備を促進することとした。

 (四)附属病院の施設費および人口の過度集中地域からの国立学校の移転に要する用地の取得費(四十年度以降)については、長期借入金をもって支弁することができることとした。

 (五)国立学校において、奨学を目的とする寄付を受けた場合、文部大臣は、当該寄付金に相当する金額を国立学校の長に交付し、その経理を学校長に委任する委任経理制度を設けたほか、研究費、運営費等について、実情に即した弾力的使用ができることとした。

 以来、国立学校の予算は年々充実のみちをたどり、特に施設の統合・整備が促進されていった。

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