四 社会体育の振興

 わが国の体育スポーツの振興を図るため、昭和三十六年六月、久しく待望されていた「スポーツ振興法」が制定された。この法律は、社会体育のみならず学校体育をも包括するものであるが、とりわけ社会体育に関係が深い法律であり、スポーツの振興に関する施策の基本を明らかにし、もって国民の心身の健全な発達と明るく豊かな国民生活の形成に寄与することを目的とし、国および地方公共団体の任務としてスポーツ振興の施策を実施しなければならないことを明確化した意義はきわめて大きい。この法律を根拠として体育施設の整備や指導者の充実等がいっそう推進されるようになった。

体育施設の整備

 体育施設の整備を図ることは、スポーツ振興のための国や地方公共団体の任務の中で最も重要なものである。公立の体育施設に対する国の補助は昭和三十四年度から開始された。同年の補助金は三、〇〇〇万円であったが、毎年増額され、四十六年には約七〇倍の二〇億九、〇〇〇万円に達した。補助対象も最初は国民プールと国民体育館だけにすぎなかったが、その後、学校プール、国民運動場、夜間定時制高等学校屋外運動場照明施設、学校体育施設開放のための諸施設、国民柔剣道場、野外活動施設、冬季競技施設、総合体育館、屋内プールと次々に補助対象が広げられた。

 一方、わが国の体育施設の整備状況をみると、四十四年七月現在で、その総数は一四万八、〇〇〇で、このうち七三%は学校の施設、一六%は事業所の施設であり、公共の社会体育施設は約一万か所(七%)にすぎない現状である。しかしながら、市町村の体育施設建設の気運もようやく高まってきており、また、四十六年六月「体育・スポーツの普及振興に関する基本方策について」保健体育審議会から中間報告され、そのなかに体育・スポーツ施設整備基準が示されたので、これらを参考として四十七年度から整備する方針で、同年予算に三四億九、七〇〇万円を計上し、日常生活圏域の施設を重点に整備することとしている。

 次に、第三回アジア競技大会開催を機会に、旧明治神宮外苑競技場跡に国が国立競技場を建設したが、これを効率的に運営するため、三十三年三月「国立競技場法」を制定し、これに基づいて同年四月特殊法人国立競技場を設立した。その後国立競技場はオリンピック東京大会を機会に七万二、〇〇〇人収容のスタンドに大増築し、また代々木に建設された屋内総合競技場(水泳場、バスケットボール場)を加えて総合的な体育・スポーツ施設となり、競技会に際して主催者に貸与するだけでなく、みずから各種のスポーツ教室等の事業を行ない、体育・スポーツの普及・振興に努めている。さらに、オリンピック東京大会の女子選手村跡を青少年の宿泊研修施設として適切に運営し、青少年の心身の健全な発達を図る目的で、四十年四月「オリンピック記念青少年総合センター法」を制定し、これに基づいて特殊法人オリンピック記念青少年総合センターを設立し、翌年から業務を開始した。四十五年度における同センター利用者は五三万五、〇〇〇人に達している。なお、戸田漕艇場もオリンピック東京大会に際して国の手で大改修が行なわれた。

 四十七年二月の札幌オリンピック冬季大会の際には、大倉山ジャンプ競技場、真駒内のスピードスケート場・屋内スケート場がそれぞれ世界に誇る競技場として建設された。

 これらのオリンピックに際して新設または増・改築された競技施設は、競技技術水準の向上のみならずスポーツ人口の拡大に役だてられている。

指導者の養成

 社会体育の振興に当たって指導者の果たす役割はきわめて大きい。そこで、文部省では、昭和三十二年、地方スポーツ振興の推進者として体育指導委員の設置を奨励した。体育指導委員はスポーツ振興法の制定によってその身分も確立し、その数は約三万人に達している。

 また、文部省は、現在、野外活動、グライダー、スキー等の指導者講習会、スポーツ教室研究協議会、全国職場スポーツ研究協議会、全国体育指導委員研究協議会、全国山岳遭難対策協議会、社会体育指定市町村研究大会、社会体育担当者研究協議会等を開催し、指導者の養成と資質の向上を図るとともに、都道府県の行なう体育指導委員の資質向上、野外活動、青少年スポーツ活動およびスポーツ教室の指導者ならびに体育施設の管理者の養成と資質向上のための事業費の一部を補助している。

 さらに、四十二年六月、富山県立山町に「登山研修所」を設置し、わが国の登山の健全な発達のため、高度の指導力をもつ登山指導者養成のための研修事業を実施している。

 なお、国民のひとりひとりが自己の体力・運動能力の現状を知り、それに基づいた適切な運動処方ができるようにするため、三十八年スポーツテスト、四十年小学校スポーツテスト、四十二年壮年体力テストを保健体育審議会の議を経て制定し、その普及・奨励に努めている。

国民体育大会の発展

 昭和二十九年の第九回大会で全国九地区を一巡した国民体育大会は、三十年二月制定された「国民体育大会開催基準要項」によって、第十回大会から新たな構想で全国を六地区に分け、地方持ち回りで開催されることになった。ところが、翌三十一年一月、国民体育大会の開催は地方財政を圧迫するとの理由で地方財政再建整備団体に指定されたいわゆる赤字県での開催を認めないこと、東京またはこれに準ずる府県で隔年開催することなどの方針が閣議決定され、一時地方持ち回り開催があやぶまれたが、開催県の熱意と開催希望県の財政再建への努カによって、閣議決定の開催方針が逐次緩和され地方持ち回りが継続された。

 また、三十六年公布の「スポーツ振興法」には国民体育大会の性格、これに対する国の援助等の規定が明示された。続いて、三十七年三月改訂の「国民体育大会開催基準要項」では、全国を三地区に分け、三十八年から西・東・中の順に開催するように改められた。なお、国民体育大会開催を契機に開催県では、健民運動、親切運動、花いっぱい運動などの各種の県民運動が展開され、県勢の発展と明るい社会の創造にも貢献している。

 以上のような曲折を経ながらも、国民体育大会は、新潟地震によって第一九回夏季大会が中止されたほかは、毎年地方持ち回りで開催され、年とともに隆盛の一途をたどり、四十七年で回数は二七を数え、実施種目三四、参加人員約二万五、〇〇〇人の総合的な国民的スポーツ祭典に発展した。

社会体育の団体と諸活動

 財団法人日本体育協会は、明治四十四年大日本体育協会として設立されたわが国唯一の総合的スポーツ団体で、国内競技はもとより国際競技の推進母体となっている。この協会の内部組織として昭和三十七年創設された日本スポーツ少年団は、四十六年末現在団員は六五万を数え、社会体育の基盤として発展が期待されている。また、四十一年度から競技力向上のためのトレーナー養成、四十五年度から社会体育振興のため国の助成によるスポーツ指導員の養成、スポーツ教室およびスポーツ相談の事業を実施している。

 財団法人日本レクリエーション協会は、二十二年わが国レクリエーション運動の推進母体として設立され、毎年全国レクリエーション大会の開催、指導者養成等の事業を実施している。

 財団法人日本ユースホステル協会は、青少年の健全な野外活動の振興を目ざして二十六年設立され、四十六年の会員数は約六〇万人の大組織となり、国内活動はもちろん国際交流も活発に行なっている。

 財団法人日本体育施設協会は、三十三年日本体育施設連盟として設立されたもので、体育施設の充実と効果的な運営の促進を目的として体育施設運営の調査研究、指導助言、施設の管理者・指導者の養成等の事業を行なっている。

 財団法人日本武道館は、三十七年に設立され、日本武道館を建設し、これを中心とした武道振興のための事業を実施している。

 財団法人スポーツ安全協会は、四十五年に設立され、スポーツ活動等における安全の確保とスポーツ傷害保険を活用した傷害補償の事業を実施している。

オリンピックと国際交流

 オリンピック東京大会、札幌オリンピック冬季大会をはじめ、スポーツの国際交流が活発に行なわれ、スポーツの普及振興とスポーツを通じての国際親善と国際理解に大きな寄与をしている。国においても、昭和三十六年七月「オリンピック東京大会の準備等のために必要な特別措置に関する法律」、四十二年七月「札幌オリンピック冬季大会の準備等のために必要な特別措置に関する法律」を制定し、大会の円滑な準備および運営ならびに競技技術の向上のための便宜供与その他の援助を行なった。

 次に国内で開催されたおもな国際競技会について述べてみよう。

 オリンピック東京大会は、三十九年十月、国立競技場を主会場として開催され、九四か国から五、五四七人の選手が参加した。この大会を契機にわが国の競技技術水準は飛躍的に向上し、スポーツの科学的研究も世界的水準に達した。整備された競技施設は、大会後広く国民に開放されスポーツ人口の拡大に役だてられている。また、四十一年この大会の輝かしい成果を記念しで、十月十日が国民の祝日「体育の日」に制定された。

 札幌オリンピック冬季大会は、四十七年二月札幌市を中心に開催され、三五か国から一、一二八人の選手が参加した。この大会で日本がはじめて七〇メートル級ジャンプ競技で金・銀・銅のメダルを独占したことは空前の快挙であった。

 また、三十三年には第三回アジア競技大会、四十二年にはユニバーシアード競技大会が国立競技場を中心に開催され、四十二年からは、毎年日韓高校スポーツ交歓競技大会が、日本と韓国で交互に開催されている。

 さらに、国外で開催された国際競技会への参加も、年々その数を増しており、競技力の向上とスポーツを通じて国際親善・国際理解に役だてられている。

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