三 高等教育機関における産業教育

理工学系学生の増募

 昭和三十二年の新長期経済計画に関連して、同年度から理工学系学生八、〇〇〇人の増募計画が実施され、三十五年度までにその計画目標数をほぼ達成した。

 次いで、前述のように、三十五年の国民所得倍増計画において、倍増計画期間内(三十五年~四十五年)におよそ一七万人の科学技術者が不足することが見込まれるに及び、文部省では、三十六年度を初年度とする理工学系学生一万六、〇〇〇人の増募計画を立て、七年計画で達成することとした。しかし、急速な経済成長と社会の進展などの事情から、さらに早急に積極的な増員を図るべきであるという要請が強かったので、従来の計画に修正を加え、第一期増募計画として三十六年度から三十九年度までの四年間に二万人の増募を行なうこととした。この計画は、さらに一年短縮され、三年間で完遂された。

 一方、戦後の急激な出生増による高等学校卒業者の急激な増加のため、大学入学志願者は、四十一年度から飛躍的に増大し、四十三年度にピークになることが予測された。このため大学志願者急増対策が樹立、実施されたが、その一環として、特に理工学系を重点に学生の増募、学部・学科の新設・拡充・改組等が逐年実施され、四十年度から四十三年度までの間に、関係学科の新設五六、拡充・改組二一に及んだ。

 また、三十八年度から進められていた農学教育の体質改善の施策は、四十二年度までに、合計二七大学について二三学科の新設、二四学科の拡充・改組が実施された。

高等専門学校の拡充

 新時代の要請にこたえ、工業技術者養成のための高等教育機関として昭和三十七年度から発足した高等専門学校はその後も逐年、新設・学科増等が行なわれた。四十二年六月には、近年のわが国海運の著しい発展とその近代化に対応できるような高度の知識と技術を身につけた優秀な外航船舶職員を養成するために、商船高等専門学校が創設され、従来の国立商船高等学校五校が昇格した。次いで、四十六年四月には、最近における電波系技術の高度化に伴い、これに対処しうる優秀な技術者を確保、養成するため、電波通信学科を置く工業高等専門学校が設置され、従来の国立電波高等学校三校が昇格した。

 かくて高等専門学校は、三十七年度、制度発足当時は、国立一二校、公立二校、私立四校、計一八校で、入学定員総計二、五七〇人であったのが、四十六年度には、国立五二校、公立四校、私立七校、計六三校となり、入学定員総計は一万三三五人に増大し、卒業生の実力もきわめて優秀で、各企業等から好評をもって迎えられている。

 高等専門学校の内容については、学校教育法、同法施行令、同法施行規則および高等専門学校設置基準等に定められているが、中学校卒業後五年(商船高等専門学校は五年六か月)間に、一般教育を効果的に実施するとともに、充実した専門教育を行なうこととし、学年制をとっている。学科の種類は、機械工学科、電気工学科、工業化学科、土木工学科、建築学科、金属工学科等がおもなものであるが、公・私立の高等専門学校には航空機体工学科、印刷工学科等の特殊な学科も設置されている。また、商船高等専門学校には航海学科と機関学科、電波工業高等専門学校には電波通信学科が置かれている。

 教育課程については、工業高等専門学校についていえば、四十三年三月に、教育課程の標準が作成されている(従前の試案の改訂)が、これによれば、五年間の総授業時間数は六、五四五時間で、このうち一般科目は二、九七五時間、専門科目は三、五七〇時間であり、さらに特別教育活動が一〇五時間となっている。高等専門学校の教育課程は、五年間を通じて一貫した教育を行なうという特色を生かすことにより、一般教育については、高等学校および大学にみられるような一般科目の内容の重複をさけて効率的な履修を可能にする一方、技術者として必要な教養識見をもたせることに重点を置くこととしている。また、専門科目については、その内容を特に充実し、高度の知識技術を修得させるとともに、専門教育を通じても人格形成を目ざすことを目途としている。

 高等専門学校の教職員組織は、高等教育機関として、大学に準じ校長、教授、助教授、講師、助手および事務職員をもって構成されており、教員の資格は大学の教員と同様、高度の専門的知識を必要とするもので、教職員免許法の適用は受けず、資格基準により個々に認定されることとなっている。

 なお、このような高等専門学校の制度を、現行の工業および商船以外の他の分野に拡充することの必要性、ならびに、高等専門学校卒業生の進学を主体とした大学院の設置の必要性等については、文部省に設けられた高等専門学校制度調査会において、検討が続けられている。

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