三 高等学校の拡充と多様化

高等学校学習指導要領の改訂

 高等学校の教育課程は昭和二十六年、三十一年、三十五年および四十五年の四度にわたって改訂されてきている。三十一年の改訂は、高等学校教育により計画性をもたせる観点から、従前の広範な選択教科制を廃し、教育課程の類型を設けるとともに、必修教科、科目をふやしてできるだけ教養のかたよりを少なくすることをそのおもな趣旨とするものであった。また、三十五年の改訂は、小学校・中学校・高等学校にわたって教育課程の一貫性をもたせるとともに、三十一年改訂の趣旨をさらに徹底させ、社会の進展や要請に即応させることをねらいとし、その主要な点は、生徒の能力・適性・進路等に応じた教育を適切に行なうようにし、教養のかたよりを少なくし、道徳教育の充実強化、基礎学力の向上および科学技術教育の充実を図ったことである。そして、三十五年十月に、学校教育法施行規則を一部改正するとともに、文部省告示として「高等学校学習指導要領」を公示したことは小・中学校の場合と同様である。この学習指導要領による教育課程は、三十八年度の第一学年から学年進行で実施された。

 しかしながら、その後の進学率の上昇により、高等学校がこの年齢にある青少年の大部分を教育する学校となった。これに伴い生徒の能力・適性・進路等が著しく多様化したこと、および近年における科学技術の革新と、経済・社会・文化の急激な進展がみられることなど学校の内外の事情は著しく変化した。このような実情をふまえ、将来をも見通して、高等学校の教育内容を改善する必要性が生じてきた。

 そこで、四十三年四月に、教育課程審議会に対して、高等学校教育課程の改善について諮問を行ない、四十四年九月に答申が行なわれた。文部省は、この答申を受け、高等学校学習指導要領等の改訂の作業に着手し、四十五年十月に、文部省告示をもって「高等学校学習指導要領」を公示した。

表51 高等学校の必修科目・単位数の改訂前後比較

表51 高等学校の必修科目・単位数の改訂前後比較

 この改訂について教育課程審議会の答申における改善の基本方針は、1)人間としての調和ある発達を目ざすこと、2)国家・社会の有為な形成者として必要な資質の育成を目ざすこと、3)教育課程の弾力的な編成が行なわれるようにすること、4)教育内容の質的改善と基本的事項の精選集約を図ることであった。この答申の趣旨に基づき行なわれた高等学校学習指導要領の改訂の要点は次のとおりである。(一)必修教科、科目の種類およびその単位数を削減した。特に、男女の特性を考慮して、「家庭一般」四単位をすべての女子に必修とし、また、全日制普通科男子の「体育」の必修単位数を一一単位とした。また、芸術の必修単位数を改訂前より一単位増加して三単位~二単位とした。(二)新しい科目として、「数学一般」、「基礎理科」、「初級英語」、「英語会話」などを設けた。(三)職業教育に関する教科・科目については、産業技術の進歩、職業分野の発展などに対応して、その種類・内容を改善し、また看護に関する教科・科目を新設した。さらに、専門教育としての理数に関する教科・科目も新設した。

 (四)専門教育を主とする学科において専門科目の履修による必修科目の代替の措置を講じた。

 (五)「各教科以外の教育活動」を改善・充実し、特に、クラブ活動をすべての生徒に、原則として週当たり一単位時間履修させることとし、生徒の趣味や特技を育てるとともに友情を深めることができるようにした。(六)定時制・通信制教育については、生徒の勤労や生活の状況などに即応し、負担過重を避け、教育効果を高める措置を講じた。

 この新しい学習指導要領による教育課程は、四十八年度の第一学年から学年進行で実施することとなっている。

定時制・通信制教育の発展

 勤労青少年教育の重要性にかんがみ、昭和二十八年「高等学校の定時制教育及び通信教育振興法」が制定された。この法律に基づいてこれらの教育に必要な設備や通信教育運営費等について国が補助を行なうこととなった。

 さらに、三十一年には夜間課程を置く高等学校の給食施設・設備の整備や生徒の夜食費について、法律による国庫補助のみちが開かれた。また、これらの教育に当たる教員の職務の複雑・困難性にかんがみ、三十五年前述の振興法の一部を改正し、本務教員に対して定時制通信教育手当を支給することとし、これに国が補助を行なうこととした。三十三年四月の中央教育審議会答申「勤労青少年教育の振興方策について」の中で、生徒の修学の効率化を図るため、各種の勤労青少年の教育訓練機関相互の関連について提案があったが、この趣旨に基づいて、三十六年学校教育法の一部改正を行ない、定時制または通信制の課程に在学する生徒が文部大臣の指定する技能教育施設において一定の基準に適合する技能教育を受けているときは、これを当該高等学校における教科の一部の履修とみなして所定の単位を与えることができる、いわゆる技能連携制度が発足した。この制度により、学校と職場との緊密な連絡により定時制・通信制教育のいっそうの発展が進められた。四十六年現在、文部大臣の指定を受けた技能教育施設は三五六施設で、これら施設の定員は六万五、〇〇〇人となっている。ところで、全日制への進学率の上昇などに伴い、定時制の生徒数は二十八年の五三万人を頂点に年々減少傾向にあり、四十六年度は三四万人で、全高等学校生徒数に占める割合は八・二%となっている。

 高等学校の通信教育は当初その実施科目が限られていたが、以後逐次科目数が拡大され、三十年には通信教育のみで高等学校を卒業できることとなった。また、通信教育においては、放送利用の効果が大きい点にかんがみラジオについては三十二年から、テレビについては三十八年から、それぞれ一定の条件のもとにこれを視聴した場合は面接指導時間数の一部を免除することができるようになった。さらに、通信教育は、三十六年の学校教育法の一部改正により、「通信制の課程」として全日制や定時制と並んで独立の課程となった。これと同時に、全国やブロックを対象とする広域の通信教育も認められ、これにより放送を組織的に利用し全国的規模で通信教育を行なう高等学校も設置されるようになった。

 今後の定時制および通信制教育の振興については、勤労青少年の勤労と生活の実態に即して、学習の便をいっそう図るとともに、特に該当年齢層のうち四○万人と推定される未就学者にとって魅力があり、近づきやすいものとするため、その教育内容、教育形態等を改善していく必要がある。このため、国は、夜間定時制において昼間登校日を設けたり、生徒の勤務時間を考慮した二部制、三部制授業の実施、さらに定時制と通信制との併修など、生徒の実態に即した多様な教育形態の実施を容易にするため、四十二年以来特別補助を行なって定時制と通信制の両課程のみを置く独立校(定通教育モデル校)の設置促進を図っており、これまでに全国で一三校の新設をみている。

高校生の急増

 昭和四十六年度の高等学校数は、四、七九二校、その生徒数は約四一七万人であり、二十五年度に比し、生徒数は約二・二倍になっている。また表52のように中学校から高等学校への進学率の推移をみれば、二十五年度の四二・五%から四十六年度には八五・〇%と著しく上昇している。特に、四十四年度以降女子の進学率が男子のそれを上回っている。また、四十六年度の志願者に対する入学率は、全体で約九八%で、二十五年度に比べ、約一五%高くなっており、志願者のほとんど全員が入学できたものと考えられる。このような現象は、高等学校の整備拡充、国民経済の伸長とそれに伴う就業構造の変化、生活水準の向上等が相互に作用した結果と考えられる。この要因と傾向は今後とも続くことが予想されるので、高等学校への進学率はさらに伸びるものと考えられる。

表52 高等学校進学率の推移

表52 高等学校進学率の推移

 進学率の急激な上昇は、高等学校が教育の機会均等の原則を実現する上に大きな役割を果たしたことを示し、今や高等学校は十五歳から十八歳までの大部分の青少年のための教育機関となっている。

 ところで、高等学校への進学率の上昇に伴い、生徒の能力・適性・希望も多様化してきているが、それに対処しうるよう高等学校教育を改善・拡充することが従来以上に重要な課題となってきている。このためには中学校と高等学校の関連、高等学校教育の多様化とその多様なコースの適切な選択に対する指導の徹底、個人の特性に応じた教育方法の改善、勤労青少年の勤労や生活の状況に即応し、教育効果を高める修学条件の改善などをさらに進める必要がある。さらに、高等学校と大学との関連については、大学入学者選抜制度の問題が最も切実であるが、この問題の解決のためには大学と高等学校の間の相互理解と連絡の緊密化が何よりも望まれるところである。

高等学校における情報処理教育

 高等学校における情報処理教育の目標は、一般的には、情報処理に関する基礎的な理解を深め、適切な情報処理を行なうための基礎的な能力と基本的な態度を養うことにあると考えられる。

 このため、普通教育に関しては、昭和四十八年度実施の新学習指導要領において、社会の教科の目標の一つとして、さまざまな情報に対処し、科学的、合理的に研究して公正に判断する態度と能力を養うことを示し、また、数学の教科の中の「数学一般」、「数学2A」等の中に新たに電子計算機に関する内容を取り入れることとした。

 次に職業教育に関しては、情報処理教育推進の中心となる学科として、情報処理科(商業)および情報技術科(工業)の設置を進めることとし、このため、新学習指導要領においては、これらの学科における教育に必要な科目として、「電子計算機一般」、「プログラミング」、「システム工学」等を新設した。四十六年度現在、全国で情報処理科三九学科、情報技術科一六学科が設置されている。

 さらに、各高等学校の生徒の共同利用に供するとともに、情報処理教育担当教員の研修を行なうための施設として、各都道府県(指定都市を含む。)に情報処理教育センターの設置を進めることとし、四十六年度現在一三か所の設置をみた。このほか、国および地方公共団体においては、「情報処理教育担当職員養成講座」をはじめ各種の長期・短期の講習会を毎年度開催し、情報処理教育担当者の資質の向上を図っている。

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