二 教育内容・方法の改善

小・中学校社会科の改訂

 社会科教育の充実・普及については、研究集会、指導書の刊行などを通じて大きな努力が払われたが、道徳教育が社会科の指導の一環として取り扱われてきたため、改めて戦後の道徳教育のあり方が国民各層から論議されるようになった。昭和二十五年、天野文相はこの問題を教育課程審議会に諮問し、その答申によって翌二十六年、道徳教育振興方策および「道徳のための手びき書要綱」等を発表した。その基本的態度は、道徳教育のための教科は特設せず、学校教育全体の周到な計画のもとに一貫した道徳教育を行なうこと、社会科は特に人間関係を中心として扱う教科として、道徳的心情の培養と習慣形成に努めるとともに、特に道徳的な理解力や判断力を育成することなどであった。

 さらに、二十七年、岡野文相は、道徳とともに、地理や歴史の指導を含めて社会科のあり方について、教育課程審議会に諮問した。しかし、民間の教育諸団体はこの改訂は総合的な性格をもつ社会科の解体を招き、また国家主義的な歴史教育の復活などをもくろむものであるとして、社会科問題協議会を結成し、盛んに改訂反対の運動を展開した。この諮問に対する教育課程審議会の答申は、翌二十八年八月に行なわれ、文部省は、ただちに、この答申の趣旨を尊重して、「社会科の改善についての方策」を発表した。この方策においては、わが国の民主主義の育成に対して重要な役割をになう社会科の基本的なねらいはこれを正しく育てていくが、これまでの指導計画や指導法の欠陥を是正し、道徳教育、地理、歴史教育の充実を図るという根本方針がとられた。次いで、右の方策に基づき、教材等調査研究会の協力を得て、九月から改訂に着手し、逐次中間発表を行ないながら、二年余の歳月を費やし、三十年十二月、社会科学習指導要領の改訂版が刊行された。

 さらに、三十三年の小学校教育課程の全面的改訂に当たり、社会科は、新たな道徳の時間の特設等の関係もあって、従来の生活指導的内容を整理したほか、第六学年の歴史学習の通史的性格を明確にするなど、小・中学校を-通じその一貫性が図られた。

小学校学習指導要領家庭科編の改訂

 小学校家庭科はその後の実施状況が当初のねらいに即していないとしてCIE(民間情報教育局)から指摘され、その存置に反対されたことから家庭科の存廃論が起こった。

 文部省では、このことについて教育課程審議会に諮った結果、知的発達、社会的発達、運動能力の発達、興味の発展、社会および家庭の要求の五つの観点から内容を改善して、第五・六学年に家庭科を存置することを決定した。そこで、文部省ではとりあえず「小学校における家庭生活指導の手びき」を刊行し、第一学年から第六学年までの家庭生活指導の詳細を示し、この中に家庭科の取り扱いについても示した。次いで小学校学習指導要領家庭科編は改訂され、昭和三十一年から実施される運びとなった。これによって家庭科教育は安定し、着実な進展をとげるようになった。

道徳教育の充実

 修身科の廃止以後、学校における道徳教育は、学校の全教育活動を通して行なうことを基本として実施されてきたのであるが、児童・生徒が道徳的諸価値についての内面的自覚をいっそう深めるようにすることの要望が高まったため、昭和三十一年に文部大臣から小・中学校の教育課程の改訂について諮問を受けていた教育課程審議会は、特に道徳教育問題を重視し、三十二年十一月、道徳教育の徹底を期するため「道徳」の時間を特設するという趣旨の中間的な結論を発表した。次いで翌三十三年三月、教育課程審議会から道徳を含めて教育課程全体の改善方策が答申された。先の中間的結論の発表以来検討を続けていた文部省は三月十八日、道徳の時間の実施方針の大綱を次官名をもって通達し、四月一日から道徳の時間を設置し、毎週一時間をこれに充てることとなった。三十三年九月から学校教育法施行規則の一部改正によって、道徳の時間は、教育課程の一領域として位置づけられた。また同日付けで小学校および中学校の学習指導要領道徳編が公示され、道徳の時間の目標、内容、指導計画の作成および指導上の留意事項が明らかにされた。さらに新しい指導要領においては、道徳教育は学校における教育活動全体を通じて行なうという従来の基本方針は変更せず、さらに一歩を進めてその目標と内容を明確にするとともに・道徳の時間において道徳教育を計画的に継続して行ない、児童・生徒が道徳性についての内面的自覚を深めるようにしたのである。道徳の時間における指導の特色としては、1)他の教育活動における道徳教育と密接な関連を保ちながら、これを補充し、深化し、統合するものであり、2)読み物、教師の説話、視聴覚教材等各種の教材を用い各種の方法によって指導することとし、いわゆる教科書は使わない建て前とし、3)学級担任の教師が担当することを原則とすることである。

 文部省は、この道徳の時間の設置後、道徳教育趣旨徹底講習会や指導者養成講習会の開催、指導書、指導事例集の編集・刊行、研究学校の設置、道徳教育テレビ放送の企画等の各種の方法で道徳の時間の指導効果を高めるための方策を継続して行なってきている。

昭和三十三年の小学校教育課程の改訂

 昭和二十二年に初めて作成された学習指導要領は二十六年に全面的に改訂されたが、当時はまだ占領下の時期であり、その内容決定についてはすべて総司令部の指導と承認を得なければならなかった。また当時は、新学制下の教育の内容、方法についての研究も日なお浅く、国内の実情をじゅうぶん踏まえて検討するところまで至っていなかった。二十七年、わが国の独立を契機として、義務教育のあり方を全面的に再検討し、さらに占領下に残されてきた問題も合わせて解決しなければならないという認識が高まってきた。

 そこで文部省は、小学校の教育課程の改訂について二十九年ごろから調査研究を開始し、教育課程の実施状況の全国的調査等を行なってきた。次いで三十一年三月、文部大臣は教育課程審議会に対し、「小・中学校教育課程の改善について」諮問を行ない、同審議会で約二年間にわたり審議し、三十三年三月に、その結論が答申された。文部省においては、この答申に基づき、同年十月に文部省告示をもって「小学校学習指導要領」を公示した。

 これより先、同年八月に、学校教育法施行規則の一部を改正し、同年九月一日から施行した。この改正省令においては、まず、小学校の教育課程は、各教科、道徳、特別教育活動および学校行事等の四つの領域をもって編成することを明確にした。また、各教科および道徳の各学年における年間授業時数の最低を省令の別表において示し、教育課程の一般的事項および四領域の目標、内容、留意事項等は、教育課程の基準として別に文部大臣が公示する「小学校学習指導要領」によることを規定した。

表47 小学校の最低授業時数(昭和33年9月施行)

表47 小学校の最低授業時数(昭和33年9月施行)

 従来の学習指導要領は学校教育法、同施行規則、文部省設置法の根拠に基づいて文部省で編集してきたのであるが、学習指導要領そのものの性格は必ずしも明らかではなかったが、この改正省令によって同年十月の「小学校学習指導要領」が、教育課程の基準として初めて文部省告示の形式をとって公示された。

 この改訂において特に考慮された点は、1)道徳教育を徹底すること。2)基礎学力を充実すること、特に国語、算数に関する基礎学力の向上を主眼とし、それらの内容を充実し、指導時数を増加した。3)科学技術教育の向上を図ること、特に算数、理科の内容の充実を図った。4)地理・歴史教育を改善充実すること。情操の陶冶(とうや)、身体の健康、安全の指導を充実すること。5)小・中学校の教育内容についての一貫性をもたせるようにすること。6)各教科の目標および内容を精選し、基本的な学習に重点を置くことであった。

昭和四十三年の小学校教育課程の改訂

 昭和三十年代における社会各方面の発展、変化は目ざましいものがあり、また、わが国の国際的地位の向上とともにその果たすべき役割もしだいに増加してきた。このような時代の進展に対処するとともに、将来のわが国を背負う国民の基礎教育をいっそう充実するため、小学校の教育課程の刷新、改善を図る必要が生じてきた。

 このため、文部省では、四十年六月、教育課程審議会に対し、「小学校・中学校の教育課程の改善について」諮問した。以来、同審議会においては二年有余にわたり、各教科等の専門調査員約二〇〇人の協力のもとに、各界から寄せられた意見をも参考として審議を重ね、その間、審議の「中間まとめ」を公表し、広く世論の動向もみきわめた上、四十二年十月に文部大臣に答申した。文部省においては、この答申に基づき、学校教育法施行規則の一部改正と小学校学習指導要領の全部改正を行なうこととし、四十三年七月十一日付けで公布・公示した。

 この改訂は、三十三年の教育課程の改善の趣旨を基礎とし、時代の進展に応ずるとともに、実施の経験をも考慮してその改善・充実を図ったもので、改訂の基本方針としては次の四つをあげることができる。1)小学校の教育は、人間形成における基礎的な能力の伸長を図り、国民育成の基礎を養うものであることを基本理念とする。2)望ましい人間形成のうえから調和と統一のある教育課程の実現を図る。すなわち、基本的な知識や技能を習得させるとともに、健康や体力の増進を図り、正しい判断力や創造性、豊かな情操や強い意志の素地を養い、さらには、国家および社会についての正しい理解と愛情を育てる。3)指導内容は、義務教育九年間を見通し、小学校段階として、有効適切な基本的事項を精選する。この場合、特に、時代の進展に応ずるとともに、児童の心身の発達段階に即するようにする。4)地域や学校の実態に即して適切な授業時数を定めることができるようにするため、授業時数については、年間の標準時数を示す。

 このような方針に基づく改訂の要点は、1)教育課程の構成領域を従来の国領域から、各教科、道徳および特別活動の三領域によって編成するものとし、2)授業時数については、各学校が地域や学校の実態に即して、三領域の授業時数を適切に定めうるようにするため、各教科と道徳について、学校教育法施行規則の別表で授業時数を標準として示し、さらに、3)教育課程の研究のための特例を設け、小学校の教育課程に関し、その改善に資する研究を行なうため特に必要があり、かつ児童の教育上適切な配慮がなされていると文部大臣が認めた学校においては、文部大臣の認める範囲で教育課程の構成領域や授業時数を変更したり、学習指導要領によらない授業を行なうことができることとしたことなどである。なお、第三の特例を認める学校、範囲、手続き等の文部大臣の定めは未制定である。

 この改訂後の新しい小学校の教育課程は、必要な移行措置、教科書の編集、検定、採択等を経て四十六年四月から全面的に実施された。

小学校児童指導要録の改訂

 昭和二十四年に文部省が示した「児童指導要録」の様式、記載事項等については、その後の実施の結果、実情にそぐわない問題点がいくつか指摘されるようになった。そのため、三十年九月、「小学校、中学校および高等学校の指導要録の改訂について」の通達がなされ、この通達によって各教育委員会および学校では新しい様式による小学校児童指導要録を定め、三十一年度から全学年同時に実施されることとなった。

 この通達によると、小学校児童指導要録の改訂の要旨として、児童の学籍ならびに指導の過程および結果の要約を記録し、指導および外部に対する証明等のために役だつ簡明な原簿としたこと、ならびに小・中・高校の指導要録の間にできるだけ一貫性をもたせたことの二点が示されている。

 その後、三十三年および四十三年の小学校教育課程の改訂に伴い、それぞれ所要の改訂を加えるとともに、実施の経験に照らして様式、記載事項、記載方法等に修正を加えたが、指導要録のもっている従来の性格、すなわち指導のための原簿と対外証明等のための原簿という二つの性格は変更されることなく今日に至っている。

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