三 教育課程の改善と学習指導の発展

 教育課程の基準とされた学習指導要領は、占領下の昭和二十六年に一度改訂されたが、独立後は真にわが国の教育内容の基準としてふさわしいものとするために自主的に点検され、改善されるべきことが急務とされた。学習指導要領社三十三年と約十年後の四十三・四年と再度にわたり全面改訂が行なわれた。三十三年の全面改訂が行なわれる以前に社会科の改訂が先行した。新教育のいわば目玉商品であった社会科について実施以来多くの論議をよび起こした。まず、道徳教育が社会科の指導の一環として取り扱われてきたため、戦後の道徳教育のあり方が国民各層から論議された。そこで文部省は、二十六年に道徳教育振興方策および手引書要綱等を発表し、学校教育全体の周到な計画のもとに一貫した道徳教育を行なうこととした。次いで、道徳とともに地理、歴史の指導を含めて社会科のあり方が検討され、三十年には社会科の学習指導要領が改訂された。ここでは、民主主義の育成に重要な役割をになう社会科の基本目標は正しく育成するが、実施の経験にかんがみ指導計画や指導法の欠陥を是正し、道徳教育、地理、歴史の指導の充実を図るというものである。これらの動きを伴いながら文部省は独立後早々から学習指導要領改訂のための実態調査や研究討議を行ない、教育課程審議会の審議、答申を経て三十三年にその全面改訂を告示した。三十三年の措置によって教育課程は、従来の教科・教科外活動の二領域を、各教科、道徳、特別教育活動、学校行事等の四領域に明確化し、年間授業時数の最低を示し、かつ教育課程の基準として学習指導要領を文部大臣が公示することとなった。この改訂において特に考慮されたことは、道徳教育の徹底、地理、歴史教育の改善のほか、特に国語、算数に関する基礎学力の重視、科学技術教育の向上を図るため特に算数、理科の内容の充実を図ったことなどである。

 次いで、第二次全面改訂が小学校については四十三年、中学校については四十四年に行なわれたが、この間の十年は科学技術の革新、経済の成長、社会の成熟など各領域に急速な発展、変化がみられ、教育もまたかつてない規模拡大をとげた期間である。これらの事情を考慮し、国民の基礎教育をいっそう充実するために再度の改訂が行なわれた。その要点は、社会が複雑化し変化が激しいほど学校の教育課程は精選化、構造化を進め、基本的な知識や技能を習得させ、健康、体力の増進、判断力や創造性、情操や意志を養うため調和と統一のある教育課程の実現を図ろうとすることにある。さらに地域や学校の実態に即応するため年間授業時数の標準を示し、構成領域は各教科、道徳、特別活動の三領域に改め、教育課程研究のための特例を認めるなど新しい時代に柔軟に対処しようとしている。

 教育課程の充実した展開のため、すでに述べたようにこの間、学級編制、教職員定数の適正化、教材基準の設定等条件整備もあわせ進められた。特に、近年教育機器の開発とともに新しい教授・学習過程の研究開発が進められ、文部省もこの面で研究校を設けてその推進を図っている。

 なお、教育課程、学習指導の改善と教育条件の整備を図るための基礎資料をうる目的で、三十一年から文部省は小・中・高校の児童・生徒の学力の実態調査を始め、さらに、三十六年から四年間は、より豊富な資料をうるため中学校二、三年生の学力についてしっ皆調査を行ない、義務教育最終段階の学力について多くの資料を得、所期の目的に資するところが多かった。しかし、このしっ皆調査については、国による教育の統制や教員の評価に連なるとして一部において教員組合の組織的反対の事態も生じた。

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