五 新制高等学校入学者の選抜

 高等学校は、その門戸開放の立場から、入学者の選択については、入学志願者数が入学定員を超過した場合には、入学試験を行なうことができるという立場がとられていた。文部省は、新制高等学校の発足に先だち、昭和二十三年二月の通達により、入学者選抜の具体的方法を示した。その内容は、高等学校側における入学試験を廃止し、出身学校からの報告書のみに基づく選抜とするものであった。なお、新制中学校からの報告書には、知能検査の結果、都道府県ごとに入学志願者全体に対して行なう一せい学力検査(アチーブメント・テスト)の結果、教科学習成績、性格・態度の記録、職業的適性の記録、身体の記録を含むこと。また、選抜に当たっては、学力検査の結果と、教科学習成績とを同等の割合で扱い、これに性格・態度の記録や職業的適性の記録を合わせ審査することとし、身体の記録については、修学不可能と認められるものを除くほか、等差をつける資料としないことなどが示されていた。

 この報告書のみによる選抜方法は、学区制の基盤の上に、志願者の特定の学校への集中を避け、なるべく志願者の多数を入学させ、高等学校の学校差をなくし、受験準備の弊害をなくすこと等を目ざすものであった。この選抜方法は、わが国としては画期的な変革であったにもかかわらず、実施上さした支障や混乱もなかった。その理由は、戦後の経済的窮迫により、入学志願者が少なく、かつ、新旧両制度の切り替え期であったため、入学者選抜も補欠募集的であったことが考えられる。

 しかし、二十五年度は、新制中学校で三か年間学んだものが、高等学校に受験することとなり、志願者数も、この年度からしだいに増加してきた。これに伴って、志願者が特定校へ集中する傾向が顕著になり、高等学校側も自主的に選抜方法を定め実施しようとする要求が強まった。文部省では、このような実情にかんがみ、二十六年九月「都道府県の一せい学力検査を実施することが困難か、または実情に即しない場合は、各高等学校が学力検査を行なってよいが、都道府県ごとに同一問題で一せいに実施すべき」ことを通達で明らかにした。

 この通達後の実情についてまとめた、文部省の「昭和二十七年度公立高等学校入学者選抜実施状況および学区制に関する調査報告書」によると、1)通達の基本線は、一応守られていた。しかし、学力検査については、大部分の府県が、中学校における学力の成就状況をみるという本旨よりも、高校志願者を対象として、入学試験的色彩があった、2)学区制については、三三府県中、一校一学区の小学区制をとるものが一七、中学区制および小・中学区制を併用するものが一六であり、拡大の方向に修正を考慮中の県がかなりあったことなどのことが明らかにされている。

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