二 教育課程の改造

小学校学習指導要領の編集

 「学校教育法」第二十条には「小学校の教科に関する事項は、第十七条及び第十八条の規定に従い、監督庁が、これを定める。」とされ、また同法第百六条において、この監督庁は当分の間文部大臣とすることが規定された。これらの規定に基づく「学校教育法施行規則」においては、小学校の教科の基準を定めるとともに、「小学校の教科課程、教科内容及びその取扱については、学習指導要領の基準による。」こととされたのである。

 かくて昭和二十二年春、前記の諸法令とほぼ時を同じくして、文部省の編集した学習指導要領一般編および各教科編が配布され、これが新しい教育課程の基準として重要な役割を果たすことになった

表31 小学校の教科と時間配当の基準

表31 小学校の教科と時間配当の基準

 小学校の教科の基準は、国語、社会、算数、理科、音楽、図画工作、家庭、体育および自由研究と定められ、その時間配当の基準は学習指導要領によって上の表のように示された。教科の種類をみると、従来の修身(公民)、日本歴史、地理の三科目がなくなって、新しく社会、家庭、自由研究が教科として加えられた。

 社会科の誕生は、この新教育課程の最も大きな特色を示すもので、その目標とするところは、児童が自分たちの社会に正しく適応できるように、またその中で望ましい人間関係を実現していけるように、さらに自分たちの属する共同社会を進歩・向上させ、社会的態度や社会的能力を養うことにあった。

 家庭科は、従来の女子だけに課した裁縫や家事と違い、男子・女子ともにこれを課し、望ましい家族関係の理解と家族の一員としての責任の自覚のもとに家庭生活に必要な技術を修めて生活の向上を図る能度や能力を与えようとするものであった。

 自由研究は、児童の自発的活動を促すために、児童が各自の興味と能力に応じて強化の活動ではじゅうぶんに行なうことのできない自主的な活動を教師の指導のもとに行なうための時間として設けられた。

 なお、教科の名称が変わらなかった教科についても、その内容や取り扱いはそれぞれ新しい教育目標に照らして大きな改善が加えられた。各教科の時間配当は、一年間に用いられる総時間数を示しているが、この時間数は、一年間最小限度三五週の指導を要するものとした場合の標準時間数の意味をもっている。このような時間配当は、従前の国民学校令による各教科の時間配当を週当たりの時間数で示し、年間の総時間数は示されていなかったのと比較すると、授業時数の運用にかなりの弾力性が認められることとなった。

教育課程審議会と学習指導要領の改訂

 昭和二十二年に、文部省では、新学制発足にそなえ早々の間にまとめた学習指導要領を刊行した直後から、児童の能力調査、環境調査、実験学校の運営などを実施するとともに、学者および教師を含む指導要領編集委員会を組織して、本格的に教育課程の研究に当たることになった。さらに、文部大臣の諮問に応じて、教育課程に関する重要事項を調査審議するために、二十四年、「文部省設置法」に基づいて教育課程審議会が設置され、翌年三月、教育課程審議会に対して小学校家庭科の存否、毛筆習字の取り扱い・自由研究の存否、総時間数の改正などについて諮問がなされ、その答申は、同年六月に文部大臣に提出された。

 この答申に基づいて文部省では直ちに改訂の作業に着手し、二十六年に学習指導要領の全面的な改訂を行なうこととし、学習指導要領一般編および各教科編の改訂版を編集刊行した。

 改訂のおもな点は、次のとおりである。

 (一)家庭科については、これを存置することとしたが、他の教科と重複していた指導目標や内容を整理し、教科としては第五・第六学年に課し、家庭生活の指導については第一学年から全教科で行なうこととした。

 (二)毛筆習字については、習字という教科を設けないで、各学校で必要と認めた場合は、第四学年以上において国語学習の一部として課することができるようにした。

 (三)自由研究は、発展的に解消し、教科学習では達成されない目標に対する諸活動を包括して、教科以外の活動の時間を設けた。教科以外の活動としては、児童の自律的な学校生活の実践に役だつ活動(全校の児童会、学級会、校内放送、学校図書館、子ども銀行など)、また、種々のクラブ活動のような児童各自の興味や能力に応じて個性を伸ばすのに役だつ活動などがそのおもなものとして示された。

 (四)小学校の教科と時間配当については、表32に示すように、教科が四つの大きな経験領域によって編成されることになり、このそれぞれの四つの領域に対して、ほぼ適切と考えられる時間を全体の時間に対する比率をもって示すとともに、一年間の総時数を、基準として、第一学年および第二学年で八七〇時間、第三学年および第四学年で九七〇時間、第五学年および第六学年では一、〇五〇時間とすることを定めた。

表32 小学校の教科とその時間配当(教科総時数に対する比率)

表32 小学校の教科とその時間配当(教科総時数に対する比率)

 このように、教科についての時間配当は、従来の各教科ごとに総時間数で示していたのに対し、四つの経験領域ごとに時間数の占める比率で示すこととなったが、その理由は、地域社会や子どもの必要を考えて教育課程を作るという原則から、各教科に全国一律の一定した時間を定めることを改め、各学校がそれぞれの事情に応じてよくつりあいの取れた時間配当表をつくるためのめやすとして、いわば一つの参考資料として示したのである。

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