一 教育審議会における改編方針

中等学校制度に関する改編方針

 昭和十八年度から「中等学校令」によって新しい中等学校制度を実施したが、この中等学校令は教育審議会における十四年九月十四日の中等教育に関する答申に基づいたものである。この答申の前文に示された次の要旨が、中等教育改編の基本方針を示している。

 中等学校教育ニ付テハ、本会ガ曩ニ答申ニ及ビタル国民学校ノ教育ヲ基礎トシ、更ニ之ヲ進展拡充シ、教学ノ本義ニ則リ皇国ノ道ヲ修メシメ、各其ノ分ヲ尽シテ皇運ヲ輔翼シ奉ルベキ中堅有為ノ国民錬成ヲ完ウセントス、之ガ為従来ノ中学校、実業学校及高等女学校ヲ合シテ中等学校ト為シ、其ノ目的ヲ明確ニスルト共ニ教科ノ統合ヲ図リ実践鍛錬ヲ重視シテ人物ノ錬成ニ帰一セシメ、国民精神ノ昂揚、学識ノ深化、識見ノ長養、体位ノ向上ニ力メ、以テ斯教育ヲシテ国民生活ノ分野ニ即応シテ中堅国民タルノ材幹ヲ養成スルニ遺憾ナカラシメンコトヲ期セリ

 答申は中等学校に関する要綱と高等学校に関する要綱から成り、中等学校に関する要綱においては、二七項の改善方策と、中学校、実業学校および女子中学校の教科が示されている。

 新たに中等学校という名称が用いられ、これを中学校、実業学校および女子中学校にわかつとしている。このことは中等教育の根幹をなしている中学校をはじめとして高等女学校および実業学校を一つの学校制度に統一しようとしたものであって、中等教育制度の改革方針としてきわめて重大な意義をもつものであった。中等学校は「国民学校ノ基礎ノ上ニ完成教育トシテ皇国ノ道ヲ修メシメ国家有為ノ人物ヲ錬成スルヲ以テ目的トスル」こととして、国民学校教育の基礎の上に続くべき中等学校を完成教育として中堅皇国民の錬成という理念のもとで運営し、同時に中等学校相互の間に緊密な連関を持たせようとした。中等学校第二学年以下において相互転校の道を開くこととしたのはそのためである。

 各中等学校の性格については特に改革することはなかったが、二、三の新しい編制のあり方を示した。中学校については「男子ニ須要ナル高等普通教育ヲ為シ」その修業年限は国民学校初等科卒業程度を入学資格とする場合は五か年とし、国民学校高等科卒業程度を入学資格とする場合は三か年とすることを認めることとし、ここに新たな中学校の編制を行なうこととした。夜間中学校の制度を設け、その修業年限を四か年とし、国民学校高等科卒業程度をもって入学資格とすること、中学校の予科はこれを廃止することとした。

 女子中学校は「女子ニ須要ナル高等普通教育ヲ為シ」その修業年限、入学資格および夜間女子中学校は中学校と同様の方針とするが、当分の間国民学校初等科卒業程度をもって入学資格とする修業年限四か年のものを認めること、高等小学校に付設された修業年限二か年の実科高等女学校はこれを女子中学校として当分認めることとしている。高等女学校高等科、専攻科および補習科を廃止し、女子中学校に新たに専攻科を設けることができることとし、実科高等女学校の名称はこれを廃止し女子中学校と称することとしている。

 実業学校は「実業ニ従事スル者ニ須要ナル教育ヲ為シ」、その修業年限は大体従来と大差なく、夜間実業学校の入学資格は国民学校高等科卒業程度とし昼間実業学校卒業者と同一の上級学校入学資格を与える場合は年限を一か年延長することとした。

 そのほか、中等学校教員の待遇改善、中学校および女子中学校教員の増員、実業学校教員定数の制定を提案し、中等学校の新設、拡張、整理等における計画性を求めた。

 以上が中等学校制度の再編方針であるが、中堅皇国民の錬成の理念のもとで従来の中学校、高等女学校および実業学校を中等学校として制度的に統一し新しい学校編制を整備し、普通教育と実業教育に緊密な関連をもたせた。しかし、新しい中等教育を担当するものとして従来の学校の性格を改革することにまで及ぶものではなかった。

中等教育内容に関する改編方針

 中等教育に関する答申で重点のおかれたものは、その内容および方法についての方策である。中等学校の教科内容を整理刷新して知的学科の教授はおおむね午前中に行なうこととし、各教科を統合してその知識の行的発展を図るため、1)団体的訓練施設を整備し実践鍛錬の教育を組織化すること、2)寮舎の設備を奨励し在学中一定期間入寮させ、修養訓練、団体的訓練をなすこと、3)道場、学校園、特別農場、廠(しょう)舎、家庭寮等の施設を学校、道府県単位に整備するほか、全国の適当な地区、外地、海洋等にも適当な鍛錬施設を考慮すること、をあげ、学校長は教員を指導して生徒の全生活を通じ教授・訓育の徹底を図り、各教科の統合連絡その他中等学校教育の目的達成に力(つと)むることとしている。これらはのちに修練として位置づけられるものである。

 教科の編成については、各学校別に示されているが、中等学校共通の教科は、国民科、理数科、体錬科、芸能科、外国語科、家政科(女子)、実業科(実業諸科)の六ないし七教科とされた。中学校においては、従来の第一種・第二種課程の編制はこれを廃止することが示された。女子中学校においては、実業科はこれを欠き随意科とすることができることとなった。中学校と女子中学校では基本科目と増課科目の制度を設けることとした。

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