三 成人教育の発展

講座の開設

 成人を対象とする社会教育としては、従来から戸主会、婦人会等の育成を通して行なわれてきたが、第一次世界大戦後、文部省は、講座制による本格的な成人教育の奨励に着手した。それは主として、普選の実施に向かって、公民教育の必要が社会教育の分野において大いに認識されたためであった。講座の開設に当たって文部省は、大学・高等専門学校等の教員や施設等を利用し、学校拡張の方式をとって成人教育の組織的発展に努めた。

 文部省は大正八年に、直轄学校一五校に命じて社会教育公開講演・講習会を開催した。十二年以降さらにこれを長期的・組織的なものに充実して、成人教育講座として発展させた。十五年に文部省予算として成人教育施設費が計上されたため、全国四七道府県においてその講座を開催した。中堅労働者を対象とする教育は、文部省の指導のもとに、労務者補導学級・労務者講座の名称によって行なわれた。

 昭和七年以降文部省は、道府県、大都市のそれぞれの機関や直轄学校に委嘱して、公民教育講座を開設した。また、十年以降、各地の実情に合わせて、農村講座、漁村講座、商業実務者講座等を開催させ、教養の向上や文化の発展に努めるところがあった。

婦人教育の振興

 成人教育の一環として行なわれてきた婦人を対象とする社会教育については、昭和五年以降文部省は特に努めるところがあった。これは、同年十二月二十三日の「家庭教育振興二関スル」文部省訓令が、学校教育・社会教育の基礎となる家庭教育の振興を特に求めたことと関連していた。

 文部省主催の婦人講座、家庭教育講座を開設し、直轄学校や地方に委嘱して母の講座も開設した。また、これを契機に婦人団体の組織化が進み、婦人教育は青年教育とともに社会教育上の重要な施策の対象となった。

 このような社会教育の発展に対して、文部省はいっそうその効果をあげるために、七年四月八日に地方長官に対して社会教育振興に関する通牒(ちょう)を発した。そして社会教育振興のためには、全市町村にそれぞれその推進の中心となる特殊機関の設置が急務であるとして、社会教育委員を市町村に置くことを勧めた。同年五月二十七日にはさらに社会教育委員設置の趣旨徹底の通牒を発してその必要を明らかにし、またその人数を町村一〇人内外、市二〇人ないし三〇人と定めた。また、このような振興策のほかに、文部省は年々社会教育の指導者のための各種の講習会を開催したのである。

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