三 中等学校の教員養成

高等師範学校および女子高等師範学校

 臨時教育会議の答申に基づいて中等教育の拡充が図られたにもかかわらず、高等師範学校および女子高等師範学校はこれに即応する組織や制度の改編を行なわず、制度上の著しい変化もみられなかった。中等学校教員の供給は臨時教員養成所や教員検定制度に大きく依存しなければならなかった。それでも四つの男女高等師範学校の在学生徒総数は、大正五年に一、六七六人、十年に二、一七六人、十五年に二、七一九人、昭和六年に二、七四九人のように一定数の生徒を増員したが、著しい増加はなく、なお中等学校教員の需要にこたえることはできなかった。

 大正十年四月二十六日「高等師範学校等卒業者服務規則」を制定し、高等師範学校、女子高等師範学校、臨時教員養成所、東京美術学校図画師範科および東京音楽学校甲種師範科卒業者の服務義務を一括規定した。十五年八月二十七日「高等師範学校及女子高等師範学校生徒募集規程」を制定し、従来の高等師範学校生徒募集規則、女子高等師範学校生徒募集規則を廃止した。

臨時教員養成所

 臨時教員養成所は、大正三年以降東京女子高等師範学校に設置された第六臨時教員養成所一校にすぎなかったが、臨時教育会議の答申に基づく中等教育の拡充に伴って、ふたたび臨時教員養成所を設置する機運となった。十一年四月十日臨時教員養成所規程を改正し次の四か所に臨時教員養成所を設置した。 第一(東京高等師範学校)国語漢文科、英語科、数学科、歴史地理科、体操科 第二(広島高等師範学校)英語科、物理化学科、博物科 第三(奈良女子高等師範学校)数学科、理科 第四(東京音楽学校)音楽科

 なお、第六臨時教員養成所にも、理科家事科、国語漢文科、理科などを増設した。さらに、十二年四月五日左の六か所に臨時教員養成所を設置するとともに、既設の養成所の学科をさらに増設した。 第五(大阪外国語学校)英語科 第七(京都帝国大学)国語漢文科 第八(九州帝国大学)数学科、物理化学科 第九(東北帝国大学)数学科、物理化学科 第十(第四高等学校)物理化学科 第十一 (浜松高等工業学校)数学科、物理化学科

 十三年以降も既設の養成所の学科増設を行ない、十五年四月一日新たに第十二(東京外国語学校)、第十三(第五高等学校)、第十四(小樽高等商業学校)を設置し、昭和二年三月に第十五(佐賀高等学校)、四年三月に第十六(北海道帝国大学)のそれぞれに臨時教員養成所を設置した。しかし、五年にはこれらを廃止する機運となり、八年にはふたたび第六臨時教員養成所だけとなった。この間、臨時教員養成所の生徒総数は、大正十年に四六八人、十五年に一、五四二人、昭和三年に一、九九六人を数え、多数の中等学校教員を供給していた。

大学・専門学校における教員養成

 臨時教育会議の答申には、帝国大学または官立専門学校の卒業者にして専門学科のほか教育に関する一定の科目を修了した者には中等学校の免許状を授与することとした。これは無試験検定の制度を廃止し国家試験を原則とした場合に、これらの者には卒業試験をもって国家試験と認め、教員養成を目的とする高等師範学校卒業者に対すると同じく教員免許状を授与しようとするものであった。しかし教員検定に関する規程の性格は大きく変わらなかったので、従来どおり大学・専門学校の多くの卒業者が無試験検定によって教員免許状を授与されたのである。大正十年三月教員検定に関する規程を改めて、無試験検定を受けることをうる者の中に高等学校高等科教員免許状所有者を加えたが、これより先に高等学校教員に関する規程が別に定められている。すなわち八年三月二十九日「高等学校教員規程」を定め、これによって高等学校高等科教員免許状は試験検定または無試験検定によって授与するものとし、無試験検定を受けうる者は、学位を有する者、大学を卒業した者、五年以上高等学校・専門学校またはこれに準ずる学校の教員であった者、高等師範学校専攻科、東京高等商業学校専攻科を卒業した者、外国において高等学校に準ずる学校を卒業した者などとした。このような制度によって、多数の大学・専門学校の卒業者が高等学校教員はもとより、中等学校の教員となったのである。

実業学校の教員養成

 大正九年十月三十日「実業補習学校教員養成所令」が公布され、道府県市において設置される実業補習学校教員養成所について規定した。同年十二月同令施行規則を定め、実業補習学校教員養成所の修業年限を一ないし二か年とし、その入学資格を実業学校卒業者、師範学校卒業者、中学校・高等女学校の卒業者、小学校正教員の免許状を有する者などとした。

 実業学校教員養成所は、九年に大阪高等工業学校、昭和四年に名古屋高等工業学校、横浜高等工業学校にもそれぞれ設置された。大正十一年一月二十四日「実業学校教員検定に関する規程」を定め、実業に関する学科目について無試験と試験検定を行なうものとした。この規程によって、十一年三月から実業学校教員の検定が行なわれることとなった。

お問合せ先

学制百年史編集委員会

-- 登録:平成21年以前 --