一 臨時教育会議における改善方針

師範学校制度に関する答申

 第一次世界大戦後におけるわが国の情勢は学校制度の拡充を要求し、この趨勢に応ずるため教員養成制度の改革が求められていた。臨時教育会議においては「師範数育二関シ改善ヲ施スヘキモノナキ力若シ之アリトセハ其ノ要点及方法如何」との諮問に対し、大正七年七月二十四日師範教育のみならず広く教員養成制度の全般にわたって答申を行なった。そのうち、特に師範学校に関する項目は次のとおりである。

 一、師範教育二於テハ教育者タルノ人格ヲ陶冶シ其ノ信念ヲ鞏固ニシ殊二忠君愛国ノ志操ノ涵養ニ一層カヲ致スコト

 ニ、師範学校予備科ヲ設置シ修業年限二箇年ノ高等小学校ノ卒業者ヲ入学セシムルコト但シ之力設置ハ教育会等ノ施設二依ルヲ得シムルコト

 三、師範学校教員二対シ精神的並物質的優遇ノ途ヲ講シ其ノ物質的優遇二就テハ国庫ヨリモ相当ノ支出ヲ為スコト

 四、小学校二於ケル男女教員ノ間二相当ノ割合ヲ保タシムルノ方針ヲ以テ師範学校生徒ヲ養成スルコト

 五、師範学校生徒二対スル給費額ヲ相当増加スルコト

 六、師範学校用トシテ特二模範教科書ヲ編纂スルノ方途ヲ講スルコト

 七、師範学校ノ教諭ヲ増員シ附属小学校二於テ地方二適切ナル教育ノ研究ヲ完ウスへキコト

 八、附属小学校二於テハ地方二適切ナル経済的施設ヲ研究スル為各種ノ編制ノ学級ヲ設ケ又附近ノ小学校ヲ利用シテ農村商工業地等ノ教育二関スル特殊ノ研究ヲ遂クヘキコト

 九、師範学校訓導ト市町村立小学校教員トノ間二待遇ノ権衡ヲ保タシムルコト

 右の答申は財政上の関係もあってただちにこれを実行するには至らなかったが、その趣旨は後日文政審議会の検討を経てしだいに実現されることとなった。なお、臨時教育会議はすでに小学教育に関する答申をなしていたが、六年十二月六日小学教育に関する第二回答申において「師範学校ノ教育ハ其ノ第一部ヲ主トシテ第二部モ之ヲ存置スルコトトシ其ノ教員ヲ優遇シ又優良ナル生徒ヲ得ルノ途ヲ講シ且附属小学校ヲ改善シテ地方ノ実情二適切ナル施設ヲ攻究シ当該地方二於ケル模範機関タラシムルコト但シ其ノ具体的方案二関シテハ高等師範教育ト共二之ヲ攻究スヘシ」と述べている。これは師範学校の第一部を廃止し、第二部をもって本体としようとする主張に対して、教育者的精神の涵養などの見地から第一部を主とし、これを本体とする方針を示したものであった。

高等師範学校に関する答申

 大正七年七月二十四日の教員養成制度に関する答申には、高等師範学校の改革についても、次のような方針があげられている。

 一、高等師範学校ハ現在ノ如ク之ヲ特設シ其ノ職員ノ待遇ヲ高メ内容ノ改善二カヲ用フルト共二研究科及専攻科ハ之ヲ常設トシ且ツ普通教育二於ケル国民道徳ノ徹底方法其ノ他諸般ノ研究ヲ遂クルカ為教授ヲ増員シ設備ヲ完全ナラシムルコト

 ニ、師範学校、中学校、高等女学校ノ教員ノ需要ノ増加並二有資格教員補充ノ必要二鑑ミ高等師範学校ノ収容カノ増加其ノ他ノ適当ナル方法二依リ有資格教員供給ノ増加ヲ図ルコト

 三、高等師範学校生徒二対スル給費ヲ復活スルコト

 右の答申は、高等師範学校が「師範教育ヲ以テ特殊ノ任務トスル」と同時に、「特殊専門ノ学科」に関する精深な研究を可能ならしめようとする方策を示したものであった。昭和四年四月には東京・広島両高等師範学校に文理科大学を設置するに至ったが、この答申の趣旨に基づく高等師範学校の発展の一つのあらわれと見ることができる。

大学・専門学校における教員養成

 臨時教育会議における中等教育、高等教育の拡充方策に対応して、高等師範学校以外にも中等学校以上の教員を供給する方途が講ぜられなければならなかった。この点に関して、大正七年七月二十四日の答申は次のように述べている。

 一、文科大学二教育学科ヲ置キ其ノ施設ヲ完備スルコト

 二、教員養成二関シ帝国大学、高等師範学校ト相互連絡フ保チ成ルヘク其ノ設備ヲ利用シテ研究上ノ便宜ヲ図ルコト

 三、教員養成ヲ目的トスル官立学校ノ卒業者二対シテハ試験ヲ須ヒス師範学校、中学校、高等女学校教員タルノ免許状ヲ授与スルコト

 四、帝国大学又ハ官立専門学校ノ卒業者ニシテ専門学科ノ外教育二関スル一定ノ科目ヲ修了シタルモノハ前項二準セシムルコト

 五、現二無試験検定ヲ受クルノ資格アル学校及将来文部大臣二於テ之ト同様ノモノナリト認メタル学校二対シテハ其ノ申請二依リ文部省ヨリ試験委員ヲ派遣シテ試験ヲ行ヒ其ノ卒業者二師範学校、中学校、高等女学校教員タルノ免許状ヲ授与スルコト

 右の答申に基づいて、八年八月東京帝国大学文学部の教育学講座は、一講座から五講座に拡充され、中等学校以上の教員養成に寄与することが期待されることとなった。

 なお以上のほか、七年七月二十四日の答申には、試験検定の改善方策、試験検定合格者に対する試補制度なども提案されている。多くの事項においてはただちに規程等の改正には至らなかったが、これらは中等学校以上の教員養成に関するいくつかの具体的施策を提示するものであった。

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