二 師範学校の教育内容

尋常師範学校の学科課程

 明治十九年五月二十六日師範学校令に基づいて尋常師範学校の学科及其程度を制定した。この規定によると尋常師範学校の学科は倫理、教育、国語、漢文、英語、数学、簿記、地理歴史、博物、物理化学、農業手工、家事、習字図画、音楽、体操であり、特に男子体操(兵式体操を含む。)には毎週六時間配当した。また教育科の中に「各学科ノ教授法及実地授業」が含まれていた。森文相は師範教育において学力とともに人物を特に重視したが、二十年八月六日訓令によって、学力と人物について査定し、卒業時には尋常優等の証明を与えることとした。その趣旨は、生徒募集規則に基づく試験生(仮入学)制度や寄宿舎における訓育にもあらわされている。二十二年十月二十五日尋常師範学校の学科及其程度を改定し、尋常師範学校の女生徒に課すべき学科及其程度を別に定めた。この規定によって女生徒の修業年限を男子の四年に対して三年とし、漢文、英語を省き、博物・物理化学を理科に一括するなど結果として学力の程度を引き下げることとなった。

 二十五年七月十一日尋常師範学校の学科及其程度および尋常師範学校の女生徒に課すべき学科及其程度を一括改定して、新たに尋常師範学校の学科及其程度を制定した。この規定によって改定されたおもな点は次のとおりである。

 「尋常師範学校教育ノ要旨ヲ挙ケタルコト学科目ノ教授上注意スヘキ要点ヲ示シタルコト学科目ノ程度ヲ各学年ニ配当シタルコト学科目ノ程度中ニ其教授法ヲ授クルコトヲ規定シタルコト「倫理」ヲ「修身」ト改メタルコト学科目中ヨリ簿記ヲ除キ之ヲ数学ニ属セシメタルコト新ニ商業ノ一科目ヲ加へ且外国語、農業、商業、手工ヲ生徒ノ所長ニ依り其中ニ就キ一科目ヲ課スルコトニ規定シタルコト簡易科予備科講習科ヲ設クルヲ得シメタルコト学級編成ノ規程ヲ設ケタルコト教授日数ヲ一定シタルコト等ナリ」

 第一に尋常師範学校の教育の要旨は、精神鍛練徳操磨、尊王愛国の志気、規律遵守秩序保維師表たるべき威儀、身体健康に留意するほか「授クル所ノ知識技能ヨリ教授ノ方法ニ至ルマテ他日小学校教員タル者ニ適切ナルヘク随テ小学校教則大網ヲ尋常師範学校ノ学科及其程度ニ附帯シタル一種ノ教則ト看做シ其趣旨ニ副ハンコトヲ務メサルヘカラス」とした。第二に各学科目の程度は「各地方同一ナランコトヲ要ス」として、各学科目の程度によって各学年に配当し、学年ごとの毎週授業時数を一定した。第三に「尋常師範学校ハ小学校教員ヲ養成スルヲ以テ唯一ノ目的トスル所ナレハ其教授ハ何レノ学科目ヲ問ハス啻ニ之ヲ生徒ニ授クルノミナラス生徒ヲシテ併セテ之ヲ児童ニ伝フル順序方法ヲ会得セシムヘキモノタルハ当然ナリ」として、各学科目の程度の中に必ず各科の教授法を教えることと定めた。この改善によって師範教育は教員養成の目的をいっそう明確化し、教員養成のための学科課程の性格もますます明らかなものとした。

師範学校規程と師範学校教授要目

 明治四十年四月十七日師範学校規程に基づいて、予備科および本科第一部第二部を設け、それぞれの学科課程を定めた。予備科は修身、国語および漢文、数学、習字、図画、音楽、体操(女生徒には裁縫を加える。)のような普通科目を置くこととした。本科第一部は男生徒に法制および経済を新たに加え、手工を男女生徒に必修とし、英語を男生徒には必設、女生徒には加設としていずれも随意科目とするなどの改革を行なった。本科第二部は高等普通教育を終わった者に対する「短期ノ師範教育」を施すものであるから、「既得ノ知識技能ニ基キテ之ヲ統合補習セシメ殊ニ小学校ニ於ケル教職ニ関シ必要ナル事項ヲ習得セシムル」学科課程とした。これによって教育科目および各科教授法をそのおもな教育内容としたのである。

 師範学校規程に基づいて、四十三年五月三十一日「師範学校教授要目」を制定し、各教科の内容を詳細に規定した。この教授要目には次の諸学科についてそれぞれ学年ごとの教授時数および教授内容があげられている。すなわち修身・教育・国語および漢文・英語・歴史・地理・数学・博物・物理および化学・法制および経済・習字・図画・手工・音楽・家事・裁縫・農業・商業の教授時数と教授内容である。

 各師範学校においてはこの要目に準拠し、地方の状況に適切な教授細目を定めてその効果を全うするようにした。四十三年十一月十八日文部省はこの要目に関する説明を行なったが、その中でもこの要目は「大綱ヲ掲クルニ止メテ細節ニ渉ルコトヲ避ケ以テ各地方ノ事情ニ応シ適宜活用スルノ余地ヲ存セリ」と述べた。

高等師範学校・女子高等師範学校の学科課程

 明治十九年十月十四日高等師範学校の学科及其程度を定め、高等師範学校は男子、女子それぞれの師範学科に分け、男子師範学科は理化学科・博物学科・文学科の学科に分けた。男子師範学科は教育学、倫理学、英語、音楽体操のほかは各学科によって独自な学科目を置いた。各学科目の内容・程度、学年ごとの毎週教授時間の配当も定めた。女子師範学校の学科目は倫理、教育、国語漢文、英語、数学簿記、地理歴史、博物、物理化学、家事、習字図画、音楽、体操で男子師範学科とはその内容・程度を異にしていた。

 二十七年四月の高等師範学校規程によって、高等師範学校の学科は文科、理科とし、文科には倫理、教育学、国語、漢文、英語、歴史、地理、哲学、経済学、体操と随意科目として独語、習字を置き、理科には漢文、歴史、地理、哲学、経済学の代わりに数学、物理、化学、地学、植物、動物、生理、農業、手工を置いた。二十七年十月の女子高等師範学校規程は、学科目として倫理、教育学、国語、漢文、歴史、地理、数学、理科、家事、習字、図画、音楽、体操をあげた。女子高等師範学校の課程構成はむしろ尋常師範学校の課程に類似したものである。

 高等師範学校は三十一年四月文科、理科を細分化し、文科には教育学部、国語漢文部、英語部、地理歴史部を、理科には理化数学部、博物学部を置き、六部構成とした。学科目は倫理、教育学、国語、英語、体操のほかは各部によってそれぞれ独自な科目を置いた。三十三年一月文科、理科の区分を廃止して予科一年、本科三年および研究科一年の構成とし、本科を四学系(語学系、地歴系、数物化学系、博物系)の構成とした。このとき学科目は従来に比していっそう細分化されることとなった。三十五年新設された広島高等師範学校も、東京高等師範学校とほぼ同一の組織で発足した。三十六年一月には高等師範学校規程中の改正によって、本科を国語漢文部、英語部、地理歴史部、数物化学部および博物学部の五部構成とした。大正四年二月ふたたび高等師範学校規程を改正し、学科を文科、理科、特科とし、特科として東京高等師範学校に体育科、広島高等師範学校に教育科を置いた。学科目としては、修身、教育学、心理学、論理学、国語、英語、体操などは共通科目であった。

 女子高等師範学校は三十年十月文科、理科を置くとともに専修科、撰科生の制度を置いた。倫理、教育学、国語、外国語、家事、体操は共通科目であった。三十二年二月には文科、理科のほかに技芸科を置くこととなった。四十一年奈良女子高等師範学校の新設に伴って、四十二年三月女子高等師範学校規程を改正し、東京女子高等師範学校には文科、理科、技芸科を置き、奈良女子高等師範学校は予科四か月本科三年八か月の制度とし本科に国語漢文部、地理歴史部、数物化学部、博物家事部を置いた。四十四年十一月文科、理科、技芸科の各科をさらに第一部、第二部とし、六種類の専攻を認めることとした。大正三年三月にはふたたび両女子高等師範学校の学科を文科、理科、家事科の三学科に整備し、修身、教育、外国語、家事、音楽のほかは学科によって独自な科目を置くこととした。

 このように高等師範学校および女子高等師範学校の組織編成と学科目構成をしばしば改正したが、学科目の内容・程度については二十七年以降は特に規定しないで学校の自由に委任した。

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