第4節 科学技術分野における国際的展開

2.主体的な国際協力活動の展開及び国際社会への貢献

 科学技術は,人類が共有し得る知的財産を生み出すとともに,地球環境問題やエネルギー・資源問題などの地球規模の諸問題の解決,産業経済の発展に資するものです。科学技術の発展に資する国際的な活動を積極的に展開することは,我が国の国際社会における役割を果たすとともに,我が国の科学技術活動の一層の発展に資するものです。我が国は,世界43か国との間で科学技術協力協定などの国際約束に基づき,二国間における幅広い科学技術協力を実施するとともに,多国間の協力を推進しています。

(1)多国間協力の推進

1主要国首脳会議(G8サミット)に基づく国際協力

 2006年(平成18年)7月に開催されたサンクトペテルブルク・サミットでは,エネルギー安全保障,感染症,教育などが議題となりました。エネルギー安全保障については,原子力エネルギーの発展,GIF(第4世代原子力システムに関する国際フォーラム),INPRO(革新的原子炉及び燃料サイクルに関する国際プロジェクト),などについて議論されました。感染症については,鳥及び新型インフルエンザ対策や発展途上国と先進諸国との間での国際科学技術協力の重要性などが認識され,また教育についてはイノベーション社会の構築などについて議論されました。

2国際連合における協力

 国際連合においては,地球環境問題などへの取組として,科学技術分野においても地球観測や防災に関する共同研究などが行われています。特に我が国は,国連教育科学文化機関(ユネスコ)の科学分野の事業活動に参加協力しています。
 ユネスコでは,国際水文学計画(IHP)を通じて世界の水問題に取り組んでおり,我が国は2006年(平成18年)3月にユネスコと提携による「水災害・リスクマネジメント国際センター」を設置し,水災害とそのリスク管理に関する研究,研修,情報ネットワーク活動を推進しています。また,政府間海洋学委員会(IOC)では,地球規模の気候変動に関する海洋観測,津波警戒システム構築などの事業を実施しています。その他,生命倫理をはじめとする重点的な取組も行っています。

3経済協力開発機構(OECD)における協力

 OECDは,科学技術活動に関して,科学技術政策委員会(CSTP),原子力機関(NEA),国際エネルギー機関(IEA)などを通じて,意見交換,情報・人材の交流,統計資料などの作成,共同研究の実施などを行っています。CSTP傘下のグローバルサイエンスフォーラム(GSF)では,2006年(平成18年)12月「安全な社会のための科学技術に関するOECDワークショップ」が文部科学省などの共催により東京で開催されました。また,2006年(平成18年)2月には我が国主導で「科学的公正の向上と研究不正行為の防止」活動が開始され,2007年(平成19年)2月に東京でワークショップが開催予定です。
 また,2004年(平成16年)のCSTP閣僚会合において,頭脳流出などの人材問題に各国の関心が高かったことを受け,科学技術人材に関する専門家会合(SFRI)が設置され,2007年(平成19年)3月には我が国主導で,研究者の国際流動性の向上などを議論するワークショップが開催予定です。

4アジア太平洋経済協力(APEC(エイペック))における協力

 APEC(エイペック)では,開かれた地域協力を掲げ,貿易・投資の自由化・円滑化,経済・技術協力の推進方策の検討などを行っています。特に科学技術分野では,2004年(平成16年)3月の第4回科学技術担当大臣会合以降,産業科学技術作業部会(ISTWG)の下,科学技術人材養成,国際科学技術ネットワーク形成,研究技術革新と産業との連携,技術協力や戦略的計画立案に関するプロジェクトを進めてきました。2006年(平成18年)3月には,タイのAPEC(エイペック)技術予測センターと文部科学省科学技術政策研究所との共同で,新興・再興感染症の技術予測に関するプロジェクトを提案しました。

5東南アジア諸国連合(ASEAN(アセアン))における協力

 東南アジア10か国が参加するASEAN(アセアン)と日本との間では,2003年(平成15年)12月のASEAN(アセアン)特別首脳会合で採択された東京宣言及び行動計画において,科学技術分野での人材育成,日本学術振興会の支援による研究者交流などの研究協力促進が明記され,協力が行われています。また,ASEAN(アセアン)科学技術委員会(COST)は,日本・中国・韓国(プラス3)を加え,2006年(平成18年)8月に,高級実務者級による第1回ASEAN COSTプラス3会合をマレーシアで開催し,文部科学省から「アジア科学技術戦略協力推進プログラム」のほか,感染症や防災(衛星による災害監視観測システム含む)に関するプログラムを提案しました。なお,第1回ASEAN COSTプラス3会合に引き続き,ASEAN(アセアン),日本,中国,韓国,インド,オーストラリア,ニュージーランドによる非公式科学技術大臣会合が開催されました。

6ヒューマン・フロンティア・サイエンス・プログラム(HFSP)における協力

 HFSPは,1987年(昭和62年)6月のベネチア・サミットにおいて我が国が提唱した国際的な研究助成プログラムで,生体の機能の解明のための基礎的な国際共同研究の推進などを目的としています。2006年(平成18年)から新たにニュージーランドが加わり,日本・米国・フランス・ドイツ・EU・英国・スイス・カナダ・イタリア・オーストラリア・韓国の計12極で運営されています。具体的な活動としては,国際共同研究チームへの研究費助成(研究グラント)や若手研究者を対象とした研究奨励金助成(フェローシップ)などがあります。このプログラムの研究グラント受賞後,これまでに12名の研究者がノーベル賞を受賞しているなど,その活動の内容は内外から高く評価されており,我が国は,このプログラムを積極的に支援しています(図表2-10-12)。

図表●2-10-12 HFSPの研究事例

7国際科学技術センター(ISTC)における協力

 ISTCは,旧ソ連邦諸国の大量破壊兵器などに関係した科学者に平和的研究活動に従事する機会を与え,旧ソ連邦諸国内及び国際的な技術問題の解決に寄与することなどを目的として,1994年(平成6年)3月に,日本,米国,EC,ロシアの4極により設立されました。2006年(平成18年)4月現在,13極が加盟しており,これまで延べ約6万人以上の研究者が本センターの活動を通じて研究を行っています。

(2)二国間協力の推進

 諸外国との間では,二国間の科学技術協力協定(注1)などに基づき,ライフサイエンス(生命科学),情報通信,地球科学,ナノテクノロジー(超微細技術),原子力,宇宙開発,エネルギー開発,環境保全など世界共通の問題を解決するため,様々な協力が活発に展開されています。最近の主な動きは以下のとおりです(図表2-10-13)。

  • (注1)科学技術協力協定
     我が国と外国との間で,平和目的のための科学技術分野の協力関係を促進するために締結される国際約束。協力活動の形態や合同委員会などの政府間協議の枠組みのほか,協力により生じる知的所有権の扱いなどを定めており,この協定の下で,研究開発の情報交換,研究者交流,共同研究などの様々な協力活動が実施されている。合同委員会は,これまでの協力活動の報告や,今後の協力活動について協議するために,数年ごとに開催されている。

図表●2-10-13 二国間協力の最近の主な動き

(3)国際協力プロジェクトへの取組及び国際社会への貢献

1ITER(イーター)計画

 ITER(イーター)計画は,核融合実験炉の建設・運転を通して,人類究極のエネルギーである核融合エネルギーの科学的・技術的な実現可能性の実証を目指した国際協力プロジェクトであり,現在,日本,EU,ロシア,米国,中国,韓国,インドの七つの国と地域により進められています。
 エネルギー資源の乏しい我が国にとって,将来のエネルギーの安定確保は重要な課題であることから,我が国はITER(イーター)計画に積極的に参加しています。特に,ITER(イーター)を建設・運転する国際機関の長に日本人が選任され,また,ITER(イーター)の建設に当たり,欧州に次ぐ割合の機器を製作するなど我が国はITER(イーター)計画の推進に大きな役割を担っています。また,日欧協力による幅広いアプローチを通じて,世界の核融合研究の発展に大きく貢献します。

2国際宇宙ステーション(International Space Station:ISS)計画

 ISS計画は,日本,米国,欧州,カナダ,ロシアの5極が共同で,地球周回軌道上に有人の宇宙ステーションを建設する国際協力プロジェクトです。我が国が独自に開発してきた実験棟「きぼう」は,米国のスペースシャトルにより3回に分けて打ち上げられることになっており,我が国は,今後予定される日本人宇宙飛行士のISSでの長期滞在や「きぼう」の運用・利用などにより,有人宇宙技術の獲得などを目指しています。また,アジア地域への国際交流の一環として,「きぼう」を活用した共同研究促進などの様々な取組を進めています。

3「センチネル・アジア」プロジェクト

 近年アジア地域で多発している大規模自然災害への対策として,衛星による災害状況の把握は,地上状況に左右されない画像取得が可能であることなどから極めて有効です。2005年(平成17年)10月に我が国が主催した第12回アジア太平洋地域宇宙機関会議(APRSAF-12)においては,アジア地域における災害管理のための衛星利用ネットワークの必要性が議論され,「アジア防災・危機管理システム」の構築が決定されました。2006年(平成18年)10月から同システムの第一段階として「センチネル・アジア」プロジェクトが開始され,18か国44機関7国際組織の協力の下,災害関連の衛星画像データをインターネットで無料提供するネットワークが運用されています。

4統合国際深海掘削計画(IODP)

 IODPは,日本の地球深部探査船「ちきゅう」と米国の掘削船を主力掘削船とし,複数の掘削船を共同運用することにより地球深部を探査する日米主導の国際共同プロジェクトです。温暖化などの環境変動メカニズムや地震などの地殻変動メカニズムの解明などに貢献するほか,地殻内生命の探索と生命の起源と進化の解明などが期待されています。2003年(平成15年)4月22日に,文部科学大臣と米国国立科学財団長官がIODPのための協力に関する覚書に署名を行い,同年10月よりIODPを開始しました。その後,2004年(平成16年)3月16日に欧州,同年4月26日に中国,2006年(平成18年)6月20日に韓国が参加し,現在は21か国による共同プロジェクトとなっています。

5大型ハドロン(注2)衝突型加速器(LHC)計画

 LHC計画は,欧州合同原子核研究機関(CERN)において周長27キロメートルにも及ぶ巨大な円形加速器を建設し,双方向から光速近くまで加速した陽子同士を衝突させた際に生じる広範なエネルギー領域において,質量の起源とされる「ヒッグス粒子」など未知の粒子を発見し,物質の内部構造を探索する国際プロジェクトです。CERN加盟国と日本,米国などによる国際協力の下で,2007年(平成19年)の実験開始を目指して建設が進められています(図表2-10-14)。

  • (注2)ハドロン
     ハドロン物質を構成している最小の単位である粒子の一種,クォークによって構成される複合粒子(陽子や中性子など)の総称。

図表●2-10-14 LHC実験施設全体図

6人道的観点からの対人地雷探知・除去技術に関する研究開発の推進

 アフガニスタンをはじめ,世界の数多くの国において埋設された地雷は,復興・開発上の大きな障害の一つとなっています。我が国では,外務省などの関係府省庁において,この問題に関する取組が行われています。
 文部科学省では,科学技術振興機構において,産学官の幅広い研究開発能力を結集し,より安全かつ効率的な対人地雷の探知技術と探知車両の開発を進めています。
 本事業で開発した試作機については,2006年(平成18年)10月から2007年(平成19年)1月まで外務省のカンボジア研究支援無償により,現地で性能評価試験が実施されました。

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