第5節 国際文化交流を通じた日本文化の発信と国際協力への取組

4.国際社会の一員としての文化財国際交流・協力の推進

 我が国及び世界の文化遺産は人類共通の財産であり,その保護のためには国際的な交流・協力が不可欠です。我が国は,長年にわたり,国内外の文化財に関する優れた調査研究を行うとともに,保存修復のための高度な技術を開発し,経験を蓄積してきました。文化財保護の国際的な取組が進展する中で,我が国に対する期待はこれまで以上に高まっています。このため,文化庁では,次のような取組を行っています。

(1)文化遺産保護国際協力のための体制つくり

1海外の文化遺産の保護に係る国際的な協力の推進に関する法律の成立

 平成18年6月に,議員立法である「海外の文化遺産の保護に係る国際的な協力の推進に関する法律」が衆・参両院の全会一致で可決されました。この法律は,我が国の文化遺産国際協力について,国や教育研究機関の果たすべき責務,関係機関の連携の強化,基本方針の策定などが定められています。これにより,今後,文化芸術面における我が国の積極的な国際貢献の取組を国際的にアピールするとともに,国内の協力体制の構築や関係機関の連携の集約・統合化による効果的な文化遺産国際協力の実施が図られることとなります。

2文化遺産国際協力コンソーシアムの構築

 国内の政府機関,研究機関,NGOなどが一体となって効果的・効率的な文化財国際協力を推進するため,国内各研究機関等のネットワーク構築,情報の収集・提供,調査研究などを実施する文化遺産国際協力コンソーシアム(注)が,平成18年6月に発足しました。これは,「海外の文化遺産の保護に係る国際的な協力の推進に関する法律」に基づく施策の一つです。

  • (注)コンソーシアム
     各研究機関の調査研究や保存修復活動の成果などの情報を集積し,それらの情報交換の拠点となるとともに,各研究機関やそれらに所属する研究者の相互交流を進めることを目的とする各研究機関による緩やかな連携体組織。

(2)国際社会からの要請等に基づく国際支援

1文化遺産保護国際貢献事業

 文化庁は,平成16年度より,紛争終結国や自然災害を被った各国からの要請などに応じ,我が国専門家の派遣,及び相手国専門家の招へい等を行うなど,緊急に取り組むべき文化遺産国際協力を迅速に行うため「文化遺産保護国際貢献事業」を実施しています。

  • 平成16年度〜
    アフガニスタン国立公文書所蔵の文字文化財保存支援事業
  • 平成17年度〜
    インドネシア・アチェ州公文書館への支援事業
    ベトナム・タンロン遺跡への調査団派遣
  • 平成18年度
    インドネシア・ジャワ島中部地震被災地域への調査団派遣

2アフガニスタンへの文化遺産国際協力

 文化庁では,「アフガニスタン等文化財国際協力会議」(平成14年9月〜15年8月)の提言に基づき,アフガニスタンなどにおける文化財保存修復に関する国際的な協力を行っています。文化財研究所では「西アジア文化遺産保存修復協力事業」の一環として,バーミヤン遺跡の地下探査及びアフガニスタンの文化財専門家や修復家の招へい研修を行っています。

(3)二国間取極等による国際交流・協力

1海外展

 文化庁は,従来から諸外国において,国宝・重要文化財を含む展覧会を,海外の美術館等との共催により開催しています。平成18年度は,アジア文明博物館(シンガポール共和国)において,「隠された顔:日本の仮面」展を,ニューヨーク・ジャパン・ソサエティー・ギャラリー(米国)において,「悟りの世界:中世日本における禅宗の人物および説話画」展を開催します。また,国立博物館では,各館が所蔵している古美術品を中心として,諸外国の博物館・美術館において「海外交流展」を実施しています。

2在外日本古美術品の修復

 文化財研究所などでは,欧米諸国を中心とする諸外国の博物館・美術館が所蔵する日本古美術品の修復協力を進めています。平成18年度からは,国内での修復のほかに海外の美術館(18年度はケルン東洋美術館)の協力の下,海外に修復工房を設置し,日本古美術品の修復を行っています。

  • 平成17年度
    絵画7件,工芸品3件を修復
  • 平成18年度
    • (絵画)
      • オーストリア応用美術博物館所蔵 源平合戦図屏風6曲1双(新規)
      • カナダ・ロイヤル・オンタリオ美術館所蔵 洛中洛外図屏風6曲1双(新規)
      を含む6件
    • (工芸品)
      • スペイン国立装飾美術館所蔵 山水人物蒔絵箪笥1基(継続)
      • ポーランド・クラコウ国立美術館(日本美術技術センター)所蔵 花卉螺鈿ライティングビューロー1基(新規)
      を含む3件
    • (海外美術館での修復)
      • ドイツ・ケルン東洋美術館所蔵 花樹鳥獣螺鈿洋櫃1基(新規)
      を含む工芸品2件

3アジア諸国への文化財の保存修復協力

 文化庁では,アジア・太平洋地域の文化財建造物の保護に協力しています。
 平成17年度は,ベトナムの農村集落の共同調査を取りまとめ,その成果に基づき,ドンラム村が17年11月28日に,伝統的農村集落保存の第1号として,ベトナムの国指定文化財となりました。また,インドネシアの歴史的建造物の保存修復事業への技術協力を実施し,韓国とは,韓国大田市で「第2回日韓文化財建造物保存協力協議会」を開催しました。なお,韓国とは,15年に文化庁長官と韓国の文化財庁長との間で合意した「日韓の文化財全般の交流に関する討議の記録」を踏まえ,交流を行うこととしています。
 また,アジア諸国からは,相手国の文化財専門家・技術者を招へいして様々な研修を実施しています。

4イタリアとの交流・協力

 我が国は,文化財の保存修復,国際協力の分野で長年の経験を有するイタリアと,文化財交流を始めています。平成17年2月には,文化庁,イタリア大使館,朝日新聞社の共催で,日伊シンポジウム「人類の文化遺産 国際協力で守る」を東京で開催しました。今後も文化財専門家の意見交換のための会合を定期的に開催する予定です。

5イクロムとの連携協力

 我が国は,国際機関である文化財保存修復研究国際センター(イクロム:ICCROM)に加盟し,国際的な研究事業などに協力するほか,平成12年度からは同センターに文化庁の職員を派遣し,連携の強化を図っています。

6国際民俗芸能フェスティバル

 文化庁では,我が国の民俗芸能と関連の深い芸能を外国から招き,国内の民俗芸能とともに公開する「国際民俗芸能フェスティバル」を行っており,平成18年度は東京都で開催します(17年度は東京都及び沖縄県で開催)。

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