第6節 子どもの健康と安全

3.登下校時を含めた学校における子どもの安全確保

 学校は,子どもたちの健やかな成長と自己実現を目指して学習活動を行うところであり,その基盤として安全で安心な環境が確保されている必要があります。
 しかしながら,小学校において,不審者が侵入して教職員に危害を加える事件や下校中の児童が殺害されるという事件が発生するなど,近年,学校や通学路における事件が大きな問題となっています。
 このような事件の発生を防止し,子どもを犯罪の被害から守るためには,学校や地域の実情等に応じた学校の安全管理体制の整備,施設設備の整備,教職員の一層の危機管理意識の向上とあわせて,子どもの安全を地域全体で見守る体制の整備と実践的な安全教育の充実が必要となっています。
 子どもの安全対策を推進するために,「犯罪から子供を守るための関係省庁連絡会議」において「犯罪から子どもを守るための対策」(平成17年12月)や「子どもを非行や犯罪被害から守るための対策に関する関係省庁プロジェクトチーム」において「子ども安全・安心加速化プラン」(18年6月)を取りまとめ,政府全体として子どもの安全確保に取り組んでいます。
 「犯罪から子どもを守るための対策」の中では,特に緊急な対応を要する課題として,通学路の安全点検の実施,実践的な防犯教室の開催,学校安全ボランティア(スクールガード)への参加の呼びかけなどの「緊急対策6項目」が掲げられたほか,登下校時の安全確保に関する先進的な実践事例の提供,子どもの安全に関する情報の効果的な共有システムの構築,地域の路線バスを登下校時にスクールバスとして活用するための環境整備なども掲げられました。
 また,「子ども安全・安心加速化プラン」においても,「犯罪から子どもを守るための対策」に加えて,子どもの防犯ブザーの実効性の確保など,様々な施策が盛り込まれています。

(1)学校における子どもの安全確保の充実

 学校では,事件・事故の要因となる学校環境や児童生徒などが学校生活において行動する際の危険を早期に発見し,それらの危険を速やかに除去するなど,児童生徒等の安全確保のための体制を確立しておく必要があります。
 文部科学省では,大阪教育大学附属池田小学校の事件を重く受け止め,「幼児児童生徒の安全確保及び学校の安全管理に関する緊急対策例」を,平成13年7月に各都道府県教育委員会などに通知しました。あわせて,安全対策として実施する監視カメラや非常通報装置の設置などに関する経費についての地方交付税措置など必要な財政措置が講じられています。
 また,都道府県教育委員会などからの意見も参考に,平成13年8月に「幼児児童生徒の安全確保及び学校の安全管理についての点検項目(例)の改訂について」を各都道府県教育委員会などに通知したほか,14年度からは,安全で安心できる学校の確立を目指し,学校安全の充実に総合的に取り組む「子ども安心プロジェクト」を実施しています。
 さらに,教育委員会や学校において,不審者侵入などの事態が起きた場合の具体的な対応方法の参考となるよう,共通する留意事項をまとめた「学校への不審者侵入時の危機管理マニュアル」を作成(14年12月)するとともに,学校における犯罪防止のための特色ある取組を紹介した「学校の安全管理に関する取組事例集」を作成(15年6月)したほか,各学校の安全対策のポイントと学校と警察の一層の連携の推進という具体的な提言をまとめた「学校安全緊急アピール」(16年1月)や「学校安全のための方策の再点検等について」(17年3月)を取りまとめ,各都道府県教育委員会等に通知しました。
 一方,ハード面の安全対策については,学校施設における防犯対策の方針や計画・設計上の留意点を「学校施設の防犯対策について」として取りまとめました(平成14年11月)。これを踏まえて,「学校施設整備指針」における防犯対策関係規定の充実を図るとともに(15年8月),その規定の解説となる手引書を配付しました(16年9月)。さらに学校施設における特色ある防犯対策の取組を紹介した事例集を作成(18年2月)するとともに,学校施設の防犯対策に関する点検,改善の取組を促進することを目的とし,「学校施設の防犯対策に係る点検・改善マニュアル作成の取組に関する調査研究報告書」を取りまとめました(18年6月)。

(2)通学路における子どもの安全確保の充実

 学校のみならず,登下校時における子どもの安全を確保することが求められている中,地域社会全体で子どもの安全を見守る体制の整備が求められています。
 そのため,文部科学省では,各学校での児童生徒等の登下校方策を検討する際の参考となるよう,都道府県教育委員会等の協力を得て,登下校時の安全確保に関する特色ある取組を集めた「登下校時の安全確保に関する取組事例集」(平成18年1月)を作成・配付しました。また,地域の路線バスを登下校時にスクールバスとして活用する方策について関係省庁による検討を行い,関係者間の合意形成に基づく迅速な対応を図るなど路線バス等の活用のための基本的な考え方と具体的な方策を取りまとめ,登下校時における安全確保の方策の一つとして検討を促す通知を警察庁,総務省,国土交通省と同時に,各都道府県教育委員会などのほか,各都道府県警,各都道府県総務部,各地方運輸局などに対して発出しています。
 また,文部科学省では,「子ども安心プロジェクト」の一環として,平成17年度から,学校安全ボランティアを活用し,地域ぐるみで登下校時を含めた学校における子どもの安全を見守る体制を整備するため,

  • (ア)学校で子どもたちの見守り活動を行う学校安全ボランティア(スクールガード)の養成・研修
  • (イ)防犯の専門家や警察官OBなどを地域学校安全指導員(スクールガード・リーダー)として委嘱し,各学校の警備のポイントや改善すべき点等を指導
  • (ウ)モデル地域における実践的な取組を推進する

という三つの内容を柱とする「地域ぐるみの学校安全体制整備推進事業」を実施しており,18年度からは,委嘱するスクールガード・リーダーの数を倍増し,全国のすべての小学校にスクールガード・リーダーを配置できるよう充実を図っています。
 さらに,子どもの安全に関し,ITを活用し,関係者間で情報を効果的に共有できるような取組をモデル地域において推進する「子どもの安全に関する方法の効果的な共有システムに関する調査研究」を実施しています。

▲登下校路での子どもの見守り活動

▲ボランティアによる朝のあいさつ運動

(3)実践的な安全教育の充実

 児童生徒等が,自他の生命を尊重し,日常生活全般における安全のために必要な事柄を実践的に理解し,生涯を通じて安全な生活を送ることができるような態度や能力を養う安全教育を生活安全・交通安全・災害安全のそれぞれの分野において行うことが重要です。特に,子どもの安全を確保するためには,子ども自身に危険を予測し,危険を回避する能力を養成するよう実践的な安全教育を推進する必要があります。
 そのため,各学校においては,体育・保健体育,道徳,特別活動などを中心に学校教育活動全体を通して,安全教育を行っています。
 文部科学省では,学校における安全教育の教師用の参考資料として「生きる力をはぐくむ学校での安全教育」(平成13年11月)を作成しました。このほかにも,学校における防災教育が効果的に行われるよう,防災教育の意義とねらいや,指導内容,指導の進め方などについて明らかにした教師用の参考資料「『生きる力』をはぐくむ防災教育の展開」(10年3月)や,交通安全に関する危険予測教材(14年3月)など,教師用の参考資料や安全教育に関する各種の教材を作成しています。また,各都道府県において安全教育について指導的な役割を果たしている教職員及び都道府県教育委員会等の指導主事を対象に,学校安全に関する各種の研修会を開催しています。
 さらに,子どもが自ら参加することにより,自ら実感を持って危険箇所を認識することができる「通学安全マップ」の作成や警察官や防犯の専門家の協力を得て,実践的な対処方法を身に付けさせる防犯教室を推進しています。そのため,防犯教室の講師に対する講習会の開催を支援しているほか,実践的な防犯教材として,大声をあげ逃げることや知らない車には乗らないことといった万一の事態が起こった場合の具体的な対処方法などについて,小学校1〜2年生向けに分かりやすく教える「大切ないのちとあんぜん」(平成18年2月)を作成し,対象の全児童に配付しています。それとともに,都道府県教育委員会等の協力を得て,防犯訓練等に関する特色ある取組を「学校における防犯教室等実践事例集」(18年3月)として作成するなどにより,各学校で実践的な防犯教室が実施できるよう支援しています。

▲通学安全マップづくり

▲大声を出す練習

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