第6節 子どもの健康と安全

2.心と体の健康問題への対応

(1)心の健康問題への対応

1教科における指導

 学校では,心身の調和の取れた発達を図るため,心の発達や心身の相関関係,自己形成などの内容について,従来から体育・保健体育科で指導しています。
 しかし,近年,不登校やいじめ,暴力,薬物乱用などの問題の深刻化,不安感やストレスの高じている状態などが見られることなど,児童生徒の今日的な課題に対応して,心の健康に関する指導を充実する必要性が指摘されています。そこで,平成10年の学習指導要領改訂により,児童生徒の発達段階を踏まえ,不安や悩み・ストレスへの対処など,心の健康に関する指導内容を充実させました。

2健康相談活動の充実

 近年,学習面,友人関係,家庭などについて様々な悩みを抱えるとともに,これらを背景として,心因性の腹痛,不快感などといった種々の症状を訴える児童生徒が増加しています。また,災害や重大な事件・事故の後においては,児童生徒などの心のケアについて,学級担任や養護教諭,学校医,スクールカウンセラーなどが協力しながら適切に対応を行う必要があります。
 養護教諭は,健康診断をはじめ,けがや体調不良などの心身の健康問題への対応を通して,子どもの発する様々なサインに気付くことができる立場にあり,その役割は,ますます重要となっています。また,児童虐待防止に向けた対応や発達障害に対する適切な支援なども求められています。このため,文部科学省では,養護教諭を対象とした各種研修会などを開催し,資質の向上に努めています。
 また,自然災害や事件・事故が発生した際,子どもの心の問題について,教職員が専門家などの協力を得て,適切に対応できるよう,心のケアの手引を作成するとともに,保護者に早期の対応と予防に心がけてもらうことを目的にリーフレットを作成しています(参照:https://www.mext.go.jp/a_menu/ikusei/kokoro/index.htm(※青少年の健全育成へリンク))。
 さらに,平成16年度からは,学校の要請により各診療科の専門医を学校に派遣するなど,地域保健等と連携し,児童生徒の心身の健康相談や健康教育を行う事業を実施しています。

▲PTSD等に対する心のケアリーフレット(保護者用)

(2)薬物乱用防止教育等の充実

 青少年の薬物乱用の問題については,中・高校生の覚せい剤事犯検挙人員が平成17年に増加に転じるとともに,近年においては,MDMA(注)等合成麻薬事犯検挙人員が高水準で推移(16年67人から17年66人)しています(図表2-8-16)。
 また,インターネット等で「合法ドラッグ」等と称して販売されている「違法ドラッグ(いわゆる脱法ドラッグ)」についても,青少年の乱用が懸念されています。
 文部科学省においては,これまで「薬物乱用防止新五か年戦略」(平成15年7月薬物乱用対策推進本部決定)を踏まえ,すべての中学校と高等学校において,年1回は薬物乱用防止教室を開催し,地域社会が一体となってこの問題に取り組むよう,都道府県教育委員会などに指導を行うこととしています。また,薬物乱用防止のためのシンポジウムや地域フォーラムの開催,競技場などの大型ディスプレイを活用した広報啓発活動の推進,ホームページの開設(参照:http://www.hokenkai.or.jp/3/3-1/3-1.html(※薬物乱用防止教育ホームページへリンク)),啓発教材の作成・配付などを行い,薬物乱用防止教育の充実に努めています。

  • (注)MDMA
     化学薬品から合成された麻薬で,幻覚作用があるだけでなく,強い精神的依存性もある薬物。

図表●2-8-16 中・高校生覚せい剤事犯検挙者数及び未成年者の比率

(3)学校における性教育について

 学校における性教育は,学習指導要領にのっとり,児童生徒の発達段階に応じて性に関する科学的知識を理解させるとともに,これに基づいた行動がとれるようにすることをねらいとしており,体育科,保健体育,特別活動,道徳などを中心に学校教育活動全体を通じて,指導することとしています。
 また,性教育を進めるに当たっては,1「学習指導要領にのっとり,児童生徒の発達段階に沿った時期と内容で実施すること」,2「保護者や地域の理解を得ながら進めること」,3「個々の教員がそれぞれの判断で進めるのではなく,学校全体で共通理解を図って実施すること」,などに留意する必要があります。
 文部科学省では,学校において性に関する適切な指導が行われるよう,教職員などを対象とした指導者講習会の実施や事例集の作成など,性教育の充実を図るための各種施策を推進しています。

(4)アレルギー・感染症対策等の充実

 近年,アトピー性皮膚炎など,児童生徒のアレルギー疾患の問題が指摘されており,学校における対応が重要となってきています。
 文部科学省では,これまで,財団法人日本学校保健会等関係団体と協力して,教職員などの学校関係者が,ぜん息やアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患について正しい知識を持って児童生徒に対応することができるよう,指導の要点,必要な配慮事項をまとめた教職員向けのパンフレットを作成・配付しました。
 このほか,平成16年度から,今後の学校におけるアレルギー対策のための支援方策を検討するため,専門家などから成る調査研究会を設置して児童生徒の各種アレルギー疾患の実態などについて調査研究を行っています。
 また,学校における結核の集団感染,食中毒,インフルエンザ,風しん,咽頭結膜熱(プール熱)などの流行などが見られます。
 さらに,若い世代の性感染症が懸念されるとともに,東南アジアを中心として高病原性鳥インフルエンザの人への感染例が報告されており,ヒトからヒトに感染する「新型インフルエンザ」の発生の危険性が高まっています。そこで,政府一体となって万全の備えと対策を講じるため,平成17年11月15日に「鳥インフルエンザ等対策に関する関係閣僚会議」が開催され,「新型インフルエンザ対策行動計画」が報告されました。
 文部科学省においても,新型インフルエンザ対策を推進するため,「文部科学省新型インフルエンザ対策本部」を設置し,関係府省と連携しながら,国内外の情報収集,学校,在外教育施設への周知,指導,調査研究の推進など,その流行状況に応じた機動的な取組を迅速に進めています(参照:https://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/17/11/05112500.htm(※トピックスへリンク))。
 なお,人のインフルエンザ(H5N1:病原体がインフルエンザウイルスA属インフルエンザAウイルスであってその血清亜型がH5N1であるもの)については,入院などの措置を講じることを可能とするため,「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」で規定する指定感染症として政令で指定(平成18年6月2日政令第208号)されたことを踏まえ,学校においても出席停止などの措置を適切に講じることができるようにするため,学校保健法施行規則を改正しました(18年6月9日文部科学省令第27号)。

(5)学校環境衛生問題への対応

 近年,新築・改築後の住宅やビルにおいて,住宅の高気密化や化学物質を放散する建材・内装材の使用などにより,化学物質を原因として,室内空気が汚染され,居住者などに種々の健康障害を引き起こすことが問題となっています(いわゆる「シックハウス症候群」)。
 文部科学省では,学校における室内空気中化学物質に関する実態調査の結果なども踏まえ,平成14年2月に学校環境を衛生的に維持するためのガイドライン(指針)である「学校環境衛生の基準」の改訂を行いました。その中で,ホルムアルデヒドなどの4物質(16年2月にスチレンなどの2物質を追加)の室内濃度について検査事項を盛り込み,一定の濃度を超えた場合には換気など適切な事後措置を講ずるよう指導しています。

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