第4節 国民の科学技術に対する理解増進活動の推進

1.科学技術に関する理解と意識の醸成

 我が国の国民の多くは科学技術が社会に貢献していると感じてはいますが,近年,若年層を中心として科学技術への関心は低下しています。生活面での安全性や安心感,心の豊かさなどの面において科学技術に大きな期待が寄せられていますが,他方で科学技術の急速な進歩に対して不安を感じている人も少なくありません。今後,ますます発展する科学技術が円滑に社会に受け入れられていくためには,絶え間なく科学技術水準の向上を図り知的・文化的価値を創出するとともに,科学技術の成果を社会・国民に還元する努力を強化することが重要です。また同時に,その成果を分かりやすく発信するなど,国民が科学技術を評価し判断できるよう説明責任を強化し,国民との対話を進めていくことによって,その理解と支持を得ることも重要であり,そのための施策にも積極的に取り組んでいます。

(1)国民と科学者・技術者との対話活動(アウトリーチ活動)の推進

 科学技術に関する国民の信頼や支持を獲得するためには,研究者などが,分かりやすく親しみやすい形で人々に科学技術を伝え,対話を深めて人々の要望や不安をくみ取って,自らの科学技術活動に反映させていく活動(アウトリーチ活動)を進めていく必要があります。このため,科学技術振興機構では,研究者などのアウトリーチ活動のモデルを開発し,その普及を図ることなどを目的として,平成17年度から「研究者情報発信活動推進モデル事業」を行っています。

(2)科学技術コミュニケーション人材の養成

 近年,国民は科学技術に関する情報が十分に伝わってこない,また,伝わってきた場合にも理解しづらいと考えています。これらの状況に対応するためには,科学技術を分かりやすく国民に伝え,あるいは社会の問題意識を研究者・技術者の側にフィードバックするなど,研究者・技術者と一般国民の間のコミュニケーションを促進する役割を担う人材(科学技術コミュニケーター)の養成・活躍を推進していくことが必要であり,大学・大学院に科学技術コミュニケーターの養成コースを設けることに対する支援等の取組を進めています。

(3)科学技術に関する基礎的素養(科学技術リテラシー)の向上のための取組

 成人段階で求められる科学技術に関する知識や能力を明らかにすることは,国民の科学技術に対する関心の向上,科学技術に関する国民意識の醸成,理数教育の向上に資すると考えられます。このため,科学者・技術者などが広く参画して,科学技術リテラシー像(一般的な大人が身に付けておくべき科学技術に関する知識・技術・物の見方などの基礎的素養を分かりやすく文章化したもの)を策定する取組を進めています。

(4)科学館活動の充実強化

1日本科学未来館の整備・運営

 科学技術振興機構が整備・運営する東京・お台場の「日本科学未来館」は,難解と考えられがちな最先端の科学技術を,参加体験型の展示物や映像,実験などを用いて,青少年をはじめとする国民一般に分かりやすく紹介する情報発信の拠点であり,我が国の科学館ネットワークの中核として機能するものです。日本科学未来館では,最新の科学技術を分かりやすく紹介するための展示の開発を行うとともに,講演やイベントの企画などを通じて,研究者と国民,研究者同士の交流が図られています。また,平成18年度から開始した「科学コミュニケーター研修プログラム」,全国の科学館職員などに対する研修などを通じ,各地域において科学技術の理解増進活動に取り組む人材の育成を行っています。さらに,得られた成果を全国の科学館などに展開し,全国的な科学技術の理解増進活動の活性化を図っています(参照:http://www.miraikan.jst.go.jp(※日本科学未来館 Miraikanホームページへリンク))。

▲日本科学未来館

2全国各地域の科学館活動の支援

 全国各地域の科学館は,地域における科学技術理解増進活動の中核として機能するものです。科学技術振興機構においては,各地域における科学技術理解増進活動をより一層充実したものとするために,地域の学校と科学館とが連携することによる新たな展示物の共同開発や巡回,科学館から学校への実験・工作出前教室の実施など,児童生徒が科学技術・理科を体験し,学習する機会の充実に向けた取組などを支援しています。

(5)地域における科学技術に親しみ,学習する機会の充実

 ロボット技術は,最先端のIT(情報技術)とものづくり技術との融合によるものであり,また,ロボット競技は適度なゲーム性を有することから,青少年をはじめ国民が科学技術を楽しみ,体験し,学習することに適しています。科学技術振興機構では,学校などにおけるロボット競技や実験などにより青少年がものづくりや科学技術を体験し,学習できるメニューの開発を支援するとともに,その普及を図っています。
 また,地域において科学技術に親しみ,学習する機会の充実を図るためには,全国各地において実験教室の指導などに携わるボランティアなどの人材を養成・確保し,その活動を推進する必要があります。科学技術振興機構では,平成15年度から,地域において科学技術理解増進活動に携わるボランティアなどの人材を募集し,その活動の支援を行っています。

▲ロボット教室の様子
(写真提供:科学技術振興機構)

(6)全国各地への科学技術情報の発信

 テレビ放送やインターネットなどのマルチメディア(注1)を活用し,科学技術に関するコンテンツ(情報)を提供する手法は,青少年をはじめとする国民一般が手軽に科学技術を体験できるため,科学技術の理解増進を図るには有効な手段です。このため,科学技術振興機構では,科学技術に関するトピックや興味深い科学実験など,青少年をはじめとする国民一般に科学技術を分かりやすく紹介する番組を制作しています。制作した番組は,国立青少年教育振興機構(平成17年までは,国立オリンピック記念青少年総合センター)により「サイエンスチャンネル」として,CS放送(注2),ケーブルテレビなどを通じ全国に配信されており,番組の普及を図るため,インターネットでも提供しています(参照:http://sc-smn.jst.go.jp(※サイエンス チャンネルホームページへリンク))。
 また,青少年が科学技術を分かりやすく体験できる「JSTバーチャル科学館」を,インターネットを通じて広く提供しています(参照:http://jvsc.jst.go.jp(※JSTバーチャル科学館ホームページへリンク))。

  • (注1)マルチメディア
     デジタル化された映像・音声・文字データなどを組み合わせた複合メディアのこと。
  • (注2)CS放送
     通信衛星(CS:Communications Satellite)を用いたテレビ放送で,日本では「スカイパーフェクTV!」が,多くの専門チャンネルを提供している。

(7)科学技術週間

 平成18年4月17日〜23日に,試験研究機関,地方公共団体など関連機関の協力を得て第47回「科学技術週間」(注3)を実施しました。同週間中は,全国各地の関連機関において,施設の一般公開や実験工作教室,講演会の開催などの各種行事が実施されました。18年度は,「丸の内イベント」として,東京・丸ビルにおいてプラネタリウム「メガスター2」の上映を行うとともに,研究者と一般の方とがお茶を飲みながら科学技術について気軽に話し合う「サイエンスカフェ」などを全国的に開催しました。

  • (注3)科学技術週間
     科学技術週間は昭和35年(1960年)の閣議了解に基づき設けられたもので,期間は毎年4月18日を含む1週間。

(8)子ども科学技術白書

 児童生徒を対象に,科学技術に対する興味を持つきっかけを与えることを目的として,平成11年度以降,毎年「子ども科学技術白書」を作成しています。18年3月には,「子ども科学技術白書7(未来をひらく夢への挑戦「地震災害を究明せよ」)を発行し,全国の各小学校,都道府県教育委員会,都道府県立図書館,科学館などに配付しました。

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