第3節 各分野の研究開発の推進方策

11.安全・安心に資する科学技術の推進

(1)研究開発の推進方策

 国民の安全・安心な生活を脅かす事態には様々なものがあります。特に近年,国際的なテロの発生や,凶悪犯罪・巧妙な犯罪といった人的脅威や,地震・津波,台風・ハリケーンをはじめとした自然災害,人獣共通感染症などの新たな感染症などによって,国民の不安は高まりつつあります。
 平成17年6月に内閣府が行った「科学技術に関する特別世論調査」において,科学技術への支援に当たり重視すべき点として,「環境の保全」に次いで「安全な社会(防災・防犯・食の安全など)の実現」には高い支持があり,「安全の確保のために高い技術水準が必要である」という意見に対し,7割近い国民が肯定的に答えています。このように,社会・国民の不安に対処し,安全・安心な社会をつくるためには,これらに対応する科学技術を強化することが強く求められています。
 平成18年3月に閣議決定された第3期科学技術基本計画においては,科学技術が目指すべき六つの具体的な政策目標の一つとして,「安全が誇りとなる国−世界一安全な国・日本を実現」が掲げられています。また,18年6月には,総合科学技術会議において,「安全に資する科学技術推進戦略」が取りまとめられ,さらに,「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2006」においても,生活におけるリスクへの対処の観点から,安全に資する科学技術の総合的な推進が必要とされています。
 文部科学省においては,こうした状況を踏まえ,平成18年3月に,科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会のもとに安全・安心科学技術委員会を設置し,第3期基本計画期間中に取り組むべき課題を検討し,18年7月に「安全・安心科学技術に関する研究開発の推進方策について」を取りまとめました。
 同推進方策では,大学や研究機関における研究成果を,積極的に社会や国民の安全・安心に対する脅威に対処する公的機関や民間事業者などに導入することや,安全・安心に関するニーズに的確に対応した効果的・効率的な研究開発を推進するための機能の構築の必要性が指摘されています。

(2)安全・安心科学技術分野における取組

 前述の「安全に資する科学技術推進戦略」においては,社会・国民の安全・安心を脅かす事態として,大規模自然災害,重大事故,新興・再興感染症,食品安全問題,情報セキュリティ,テロリズム,各種犯罪の七つの脅威を挙げています。文部科学省においては,これらの脅威への対抗に資する科学技術の研究開発を推進するとともに,共通的な基盤技術の研究開発等など推進することとしています。
 また,安全・安心に資する科学技術に関する国際協力を積極的に推進します。平成18年5月には,日米両国政府間の枠組みとして,新たに「日米安全・安心科学技術協力イニシアティブ」が合意されました。18年10月には,関係の行政担当者や専門家が一堂に会した本イニシアティブの下での最初の会合が開催され,テロリズムや犯罪への対応,重要インフラの保護などのための科学技術に関して,共同研究を含めた戦略的な協力を進めていくことが合意されました。

「テラヘルツ波」(光と電波の中間領域の未開拓の電磁波)を使って,封筒に入っている化学物質を,封筒を開けずに検知する技術について,平成19年3月までには試作機を完成し,試験運転を行う予定です。この技術の応用により,犯罪テロ関連物質の氾濫やその使用による犯罪・テロ活動の防止が期待されます。

  • 左:ビニール袋に左から順にMDMA(麻薬),アスピリン(一般薬剤),メタンフェタミン(覚醒剤)を封入。
  • 中:テラヘルツ波を照射し分析すると,3種の薬物が明瞭に識別される。
  • 右:テラヘルツ照射試作機
(資料提供:理化学研究所)

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