白書とともに振り返る科学技術・イノベーション政策の歩み~科学技術基本法30年とこれからの科学技術・イノベーション~

 本年は戦後80年という我が国にとって大きな節目であるとともに、科学技術・イノベーションの分野にとっても、「科学技術基本法」(平成7年法律第130号)の制定から30年という節目となります。

 私たちの暮らしにおける科学技術の変化に思いを馳(は)せれば、昭和の時代は、戦後の生活再建や経済復興を経て、技術導入・技術革新、またそれらに伴う高度経済成長と所得拡大を背景に、国民生活が豊かになりました。三種の神器である白黒テレビ、電気冷蔵庫、電気洗濯機が普及したのもこの頃です。平成の時代は、半導体・通信の発展やインターネットの商用化に伴い、携帯電話やパソコンが急速に普及し、世界がより身近になるとともに、共働き世帯の増加等を背景に時短家電である洗濯乾燥機、ロボット掃除機等が普及するなど、国民生活がより便利なものになりました。そして令和の時代は、人工知能(AI(※1))の利活用が急速に一般化したことにより、社会構造や生活様式に大きな変化が起こりつつあります。

 また、学問や産業分野においては、科学技術は、将来を切り拓(ひら)く源泉として、時代の要請や変化を踏まえて重要かつ多様な役割を果たしてきました。

 戦後からの半世紀、科学技術は、豊かな生活をもたらす原動力でした。特に終戦直後の復興期における食糧増産や保健・衛生といった生活再建、鋼鉄・石炭を中心とする基幹産業の経済復興・自立への貢献は顕著でした。その後、我が国は海外からの技術導入も積極的に行い、これに新たな知見や改良を加えた技術革新を行い、世界的にも優れた良質の製品を作り出せるようになったことで、高度経済成長を実現し、世界第2位の経済大国に至りました。

 このような軌跡によって先進国の一員となった我が国では、1990年代半ばには、欧米追従型の時代の終焉を迎え世界のフロントランナーの一員として自ら未開の科学技術分野に挑戦し、新たな未来を切り拓(ひら)いていかなければならないとの認識が、国内外の様々な動きを経て広がっていきました。そして、1995年には、科学技術創造立国を目指すため、科学技術基本法が制定されました。

 同法の制定を受け、政府は、長期的視点に立ち、施策を総合的かつ計画的に推進するため、5年ごとに科学技術基本計画(2021年からは「科学技術・イノベーション基本計画」。以下、両基本計画を合わせて「基本計画」という。)を策定しています。1996年策定の第1期基本計画(期間:1996~2000年度まで)では、研究開発投資の拡充や基礎研究の振興を進めました。第2期(2001~2005年度まで)、第3期(2006~2010年度まで)ではライフサイエンスや情報通信といった重点分野の推進、第4期(2011~2015年度まで)では科学技術・イノベーション政策の一体的展開、第5期(2016~2020年度まで)ではサイバー空間とフィジカル空間の融合(Society 5.0)を掲げ、諸施策の推進に取り組んできました。基本計画の期を重ねていくに伴い、人間や社会の在り方と科学技術・イノベーションとの関係が一層深くなり、2020年には、人文・社会科学を含む科学技術の振興とイノベーションの創出の振興を一体的に図っていくため、「科学技術基本法」が「科学技術・イノベーション基本法」に改正されました。現行の第6期基本計画(2021~2025年度まで)では、国民の安全・安心、一人ひとりの多様な幸せの実現を掲げ、諸施策を進めているところです。

 このように、社会情勢や国際競争の激化に合わせて科学技術の振興に取り組んできましたが、現在の我が国は、世界第4位の経済規模にとどまるとともに、研究力を測る指標の一つであるTop10%補正論文数(※2)の順位では、2000年代半ばまでの5位以内から、現在は13位へと低下しています。我々は、これまでの取組を真摯に振り返り、これから何を行うべきかを真剣に考えなければなりません。世界の状況を見ると、地球温暖化や水・食糧不足等の地球規模の課題はますます深刻になるとともに、地政学的環境の変化や社会構造の著しい変化、それらに伴う将来不安も高まっています。また、社会・経済活動と基礎的な科学技術の距離が近接してきており、「新しい知」が社会課題を解決したり、イノベーションを起こしたりする道筋とスピードが劇的に変化しています。これまで以上に科学技術が国力に直結してきており、科学技術・イノベーション政策の在り方が改めて問われています。

 このような認識の下、本年の特集では、今後の科学技術・イノベーション政策の在り方を展望するため、戦後から現在、特に科学技術基本法制定から30年の科学技術・イノベーション政策の進展や取組をこれまでの白書の記載とともに振り返ることとしました。第1章では、戦後から科学技術基本法制定前までの科学技術政策を四つの時代に分けてそれぞれの時代の特徴を記載し、第2章では、科学技術基本法制定から現在までを三つの時代に分けて、その特徴を第1章よりも詳細に記載しています(※3)。その上で、第3章では「我が国の科学技術・イノベーションの振興に向けて」と題して、科学技術基本法制定からの30年の総括をしています。付録では、これまでの白書の「テキストマイニング」から確認できたキーワードや政策の変遷を紹介しています。このほか、科学技術・イノベーションの変遷について視覚的に示すため、第1章、第2章をまとめた年表を次ページのとおり作成しています。


  • ※1 Artificial Intelligence
  • ※2 世界の論文中で被引用数の多い上位10%に入る論文の数で、国際的な研究影響力を示す指標
  • ※3 第1章及び第2章の各節では当時の時代感を正確に表すために、その当時の視点で重大であった出来事を記載するとともに、当時使用していた単語や言い回しを可能な範囲で使用することとした。

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科学技術・学術政策局研究開発戦略課

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