第3章 科学技術システム改革

第2節■科学の発展と絶えざるイノベーションの創出

4 地域イノベーション・システムの構築と活力ある地域づくり

 地域における科学技術の振興は、地域産業の活性化や地域住民の生活の質の向上に貢献するものであり、ひいては我が国全体の科学技術の高度化・多様化やイノベーション・システムの競争力強化に資するものである。
 地域における科学技術の振興については、第1期科学技術基本計画において、重要事項として位置付けられ、平成7年12月に内閣総理大臣決定された「地域における科学技術活動の活性化に関する基本指針」に基づき、地域における産学官等の連携・交流等を促進することとされている。このように地域における科学技術振興の重要性が高まる中、都道府県においても科学技術振興策を審議する審議会等を設置するとともに、独自の科学技術政策大綱や指針等を策定するなど科学技術振興への積極的な取組がなされている(第3-3-11表、第3-3-12表)

第3-3-11表 地方公共団体における科学技術審議会等の設置状況

第3-3-12表 地方公共団体における科学技術振興指針等の策定状況

 第2期科学技術基本計画では、地域のイニシアティブの下での知的クラスター形成を効果的・効率的に実現するため、国は、共同研究を含む研究開発活動の推進、人材の育成・確保、技術移転機能等の充実を図るものとしていた。「知的クラスター」とは、地域のイニシアティブの下で、地域において独自の研究開発テーマとポテンシャルを有する公的研究機関等を核とし、地域内外から企業等も参画して構成される技術革新システムであり、具体的には、人的ネットワークや共同研究体制が形成されることにより、核をなす公的研究機関等の有する独創的な技術シーズと企業の実用化ニーズが相互に刺激しつつ連鎖的に技術革新とこれに伴う新産業創出が起こるシステムである。
 第3期科学技術基本計画では、地域イノベーション・システムの構築と活力ある地域づくりのため、地域のイニシアティブの下で行われているクラスター形成活動への競争的な支援をするとともに、地域における科学技術施策の円滑な展開のため、関係府省間の縦割りを排し、府省間連携の強化を図ることとしている。
 ここでは、国が実施している地域における科学技術振興を支援する諸施策を中心に概観する。

(1)地域クラスターの形成

(知的クラスターの形成に向けた取組)
1世界レベルのクラスターの形成に向けた取組

 文部科学省では、平成14年度から「知的クラスター創成事業」を実施しており、平成18年度は、全国18地域において事業を実施した。具体的には、各地域の中核機関に設置した「知的クラスター本部」を司令塔として、専門性を重視した科学技術コーディネータ等を配置し、大学の共同研究センター等における企業ニーズを踏まえた新技術シーズを生み出す産学官共同研究、研究成果の特許化及び育成・開発の促進、研究成果の発表等を実施する事業である(第3-3-13図)。さらに、経済産業省の産業クラスター計画との連携強化、地域科学技術人材の育成支援等を行うとともに、平成16年度開始地域に対する中間評価を実施し、中間評価の結果を踏まえた事業計画の見直しや予算配分をしている。
 全国18地域のうち、11地域においては、平成18年度末で事業を終了するが、これまでの「知的クラスター創成事業」の成果を踏まえ、地域の自立化を促進しつつ、「選択と集中」の視点に立ち、世界レベルのクラスター形成を強力に推進する「知的クラスター創成事業(第2期)」を平成19年度から実施することとしている。

第3-3-13図 知的クラスター創成事業 実施地域

2地域の特色を生かした強みを持つクラスター形成に向けた取組

 文部科学省では、個性発揮を重視して都道府県等(政令指定都市を含む)の都市エリアに着目し、大学等の「知恵」を活用し新技術シーズを生み出し、新規事業等の創出、研究開発型の地域産業の育成等を目指す「都市エリア産学官連携促進事業」を平成14年度から実施している。産学官連携基盤の整備状況に応じて「一般型」と「発展型」の2つの類型で事業を実施しており、「一般型」の事業終了地域のうち、特に優れた成果を上げた地域について「発展型」(成果重視事業)として展開している。平成18年度までに延べ59地域で実施している。

(産業クラスターの形成に向けた取組)

 「産業クラスター」とは、大学等の公的研究機関と周辺企業との間の技術革新に加え、より広域的に大学等と企業の間や企業同士の連携を図ることにより、新たな事業活動が生み出される産業集積をいう。
 経済産業省では、「産業クラスター計画」として、各地域経済産業局自らが結節点となって、世界市場を目指す地域の企業や大学等から成る産学官の広域的な人的ネットワークを形成するとともに、経済産業省の地域関連施策を総合的・効果的に投入することにより、地域経済を支え、世界に通用する新事業が次々と展開される産業集積の形成を目指している。具体的には、地方自治体の協力も得て、当面、全国17のプロジェクトで、約9,100社の世界市場を目指す中堅・中小企業、約290の大学を含む産学官の広域的な人的ネットワークを形成し、産学官の間で流通する情報の質・量を格段に高め、技術・経営情報・販路等の経営資源を補完するとともに、地域の特性を生かした技術開発の支援、新事業支援施設の整備等インキュベーション機能の強化を実施している。
 地域における実用化技術開発の支援や新事業支援施設の整備は、産業の活力を高め、新事業を生み出し、中長期的に生産と雇用を創出することにより、産業構造改革を進め経済を活性化する効果を有する。地域における実用化技術開発支援を中心に、産業クラスター計画に関連する施策が抜本的に強化されており、平成18年度約300億円の予算が確保されている。これまでに、プロジェクトごとに推進組織が立ち上がり、産学官のネットワーク形成とともに、実用化技術開発の取組が進んでいる(第3-3-14図)。また、推進組織のほか、特定の地域・分野における人的ネットワーク形成によって新事業創出を支援する機関(拠点組織)に対する助成を行うとともに、各種のクラスター活動を総合的にコーディネートするクラスター・マネージャーの配置等を行っている。

第3-3-14図 産業クラスター計画2期 17プロジェクト

(2)地域における科学技術施策の円滑な展開

(知的クラスター創成事業と産業クラスター計画をはじめとした関係府省の連携)

 文部科学省は、地域における大学、公的研究機関等を中心とした創造的な基礎的研究分野における産学官共同研究等を推進し、新技術シーズの創出を図ることとしており、経済産業省は、企業を中心とした実用化技術開発等の産学官連携事業等を推進し、新規事業分野の開拓、新規創業、新製品の創出を図ることとしている。
 両省は、地域経済の再生、我が国経済の活性化を目指し、協力して地域における産学官連携体制の整備の促進や、新技術シーズの提供、マーケットニーズの研究開発へのフィードバック等を行っている。具体的には、各地域において、両省の関係者の情報共有・意見交換の場である「地域クラスター推進協議会」や両省の事業の成果に関する合同成果発表会を実施しているほか、平成17年度に引き続き、両省の事業の成果を集約した全国規模の成果発表会「地域発先端テクノフェア」や、全国及び3地域においてクラスター政策の推進方策について討論する「全国知的・産業クラスターフォーラム」「地域クラスターセミナー」を共催で開催した。両省のみならず関係府省間においても、総合科学技術会議の「連携施策群」や「地域科学技術に係る関係府省連絡会議」「地域科学技術に係る地域ブロック協議会」を通じて、関係府省と密接な連携が図られている。

(様々な地域科学技術振興施策)

 地域における科学技術の振興を図るため、関係府省等で様々な施策等が講じられている(第3-3-15表)。以下、その主なものを紹介する。

第3-3-15表 地域科学技術の振興に関する主要な施策

1総務省

 戦略的情報通信研究開発推進制度のうち地域情報通信技術振興型研究開発において、地域に根ざした新規産業の創出、地場産業の振興や地域社会の活性化等に貢献する情報通信分野の研究開発を行う中小・中堅企業と大学等との共同研究を推進している。

2文部科学省

 科学技術振興機構の「地域イノベーション創出総合支援事業」において、全国に展開している研究成果活用プラザ(全国8か所)やJSTサテライト(全国8か所)を拠点として、自治体、経済産業局、科学技術振興機構の基礎研究や技術移転事業等との連携を図りつつ、シーズの発掘から実用化に向けた研究開発を切れ目なく行うことにより、地域におけるイノベーション創出を総合的に支援している。

3農林水産省

 現場に密着した農林水産分野の試験研究の迅速な推進を図るために実施している先端技術を活用した農林水産研究高度化事業において、平成18年度から、コーディネート機関による連携調整の下、地方大学をはじめとする産学官の研究機関等の関連機関がネットワークを形成し、研究成果の普及・実用化を加速化させる研究タイプを新たに創設し、地域の産学官連携による研究開発を推進している。また、地域における農林水産・食品分野に関する先端技術の振興を図り、農林水産業・食品産業の発展、地域経済の活性化に寄与するため、各地域では、地域バイオテクノロジー懇談会を開催している。本懇談会では、民間企業や大学等の参画を得ながら、講演会・セミナー・展示会等を通したシーズとニーズのマッチングを促進する活動や産学官の共同研究コーディネート活動の推進・強化による競争的資金の獲得等、多様な活動を積極的に進め、地域における産学官の連携や情報交換の促進等を図っている。

4経済産業省

 地域において新産業・新事業の創出を図るため、大学等の技術シーズや知見を活用した産学官の強固な共同研究体制(コンソーシアム)の下で、実用化に向けた高度な研究開発を実施している。また、地域の中堅・中小企業による新分野進出やベンチャー企業による新規創業のためのリスクの高い技術開発を支援する事業を実施している。また、産業技術総合研究所において、地域中小企業のニーズ等を把握している公設試験研究機関の研究者を招へい(平成18年度14名)するとともに、必要に応じて中小企業技術者と連携し、共同研究事業の中で地域中小企業が抱える技術課題の解決と産業技術総合研究所の技術の製品化を図った。

5国土交通省

 安全・安心な社会の実現、環境問題への対応、国際競争力の強化等に資する各種研究開発について産学官の連携促進と研究成果の一層の活用を図るため、地方における産学官の関係者と国土交通省及び関連の研究機関が一堂に会し、国土交通省の先進的な研究成果、知的財産等を紹介するとともに、直接対話を行う場として、第4回国土交通先端技術フォーラムを平成19年2月に京都で開催し、464名が出席した。また、競争的資金である「建設技術研究開発助成制度」の実用化研究開発公募において、地域のニーズ等に応じた実用化段階の技術研究開発のテーマについて、地域の産学官連携等による研究開発課題に対して補助金を交付している。

6環境省

 地域においてニーズが高く、地域環境の特性に応じた検討が必要な研究課題について、国立試験研究機関及び独立行政法人試験研究機関と公設試験研究機関との共同研究を行う地域密着型環境研究を実施している。また、地域における研究開発を重点的に推進することにより、先進的な環境技術の具体的な開発・普及や地域環境ビジネスの振興を図るため、地域の独自性・特性を生かした研究開発課題を実施している。地域における研究開発をより重点的に推進することにより、先進的な環境技術の具体的な開発・普及や地域環境ビジネスの振興を図るため、環境技術開発等推進費の実用化研究開発のすべての技術分野について、地域の独自性・特性を生かした研究開発課題枠を設定している。

(公設試験研究機関の研究開発・技術支援機関としての活動と機能の強化)

 各府省において公設試験研究機関を対象とした施策が行われている。概要は第3-3-16表のとおりである。

第3-3-16表 公設試験研究機関の研究開発・技術支援機関としての活動と機能の強化

(地域間の連携や各種交流)

 国と地方公共団体、地域間の連携や各種交流を図るため、次の施策等を講じている。

1財団法人全日本地域研究交流協会における研究交流事業等

 財団法人全日本地域研究交流協会は、地方公共団体の出えん金拠出により、研究交流をはじめ、地域の科学技術振興を支援することを目的として、平成4年6月に設立されている。先端的研究や基礎的研究に地域が取り組む際の各種研究支援事業や全国規模の研究交流事業が展開されている。

2産業技術連携推進会議

 鉱工業技術に関する公設試験研究機関相互及び国立試験研究機関との協力体制を強化し、機関相互の試験研究を効果的に推進し、もって産業技術の向上を図ることを目的として、昭和29年に設置されている。本会議の組織は9技術部会、8地域会議であり、公設試験研究機関間、国立試験研究機関、公設試験研究機関間の研究協力、研究調整、研究交流及び情報交流等を実施している。

(研究開発拠点の整備)

 現行の全国総合開発計画「21世紀の国土のグランドデザイン」において、産学官の機関のネットワーク化や研究開発投資の重点的な措置により、筑波研究学園都市及び関西文化学術研究都市の整備を推進するとともに、広域国際交流圏の形成の核ともなる国際的水準の新たな研究開発拠点の整備を図ることとされている。

1筑波研究学園都市

 筑波研究学園都市は、首都圏の均衡ある発展に資するとともに、高水準の試験研究・教育のための拠点を形成し、科学技術の振興と高等教育の充実を図るため、国の施策として建設されたものである。国の試験研究・教育機関等31機関が立地しているほか、多くの民間研究機関が進出している。現在、都市機能の一層の充実と、国内外の科学技術振興・新産業創出拠点形成のための諸施策を推進している。

2関西文化学術研究都市

 関西文化学術研究都市(京都府、大阪府、奈良県)は、創造的かつ国際的な文化・学術・研究にまたがった21世紀の新たな展開の拠点づくりを目指すものである。
 本都市は昭和62年6月に施行された「関西文化学術研究都市建設促進法」に基づき、着実に整備が進められており、平成18年度末現在、本都市の進出機関数は約250に達し、多様な研究活動等が展開されている。

前のページへ

次のページへ