資源エネルギー供給の逼迫(ひっぱく)化や地球温暖化、自然災害の頻発等、我が国を取り巻く状況が大きく変化する中、我が国が持続的に発展し、世界をリードしていくためには、長期的な国家戦略を持って取り組むべき重要技術を精選して推進していくことが必要である。
このため、政府では、第3期科学技術基本計画や分野別推進戦略の策定に際して、国家的目標と長期戦略を明確にして取り組むべきものとして、「宇宙輸送システム」「海洋地球観測探査システム」「高速増殖炉サイクル技術」「次世代スーパーコンピュータ」「X線自由電子レーザー」の五つの国家基幹技術を選定している。
これらの国家基幹技術は、国家の総合的な安全保障の向上や、世界最高水準の研究機能の実現を図るものであり、引き続き重点的に推進していく。
第3部第2章第2節8(1)参照。
地球環境変動の予測を行うため、全球観測網の整備及びそのデータの管理・提供が必要である。また、我が国周辺海域の詳細地形の調査や資源探査は、国家の総合的安全保障の観点から必要である。これらの課題を解決するため、国家基幹技術として海洋地球観測探査システムが選定された。
この海洋地球観測探査システムは、海洋及び宇宙からの観測・探査により得られるデータの統合・解析・提供を目指しており、「次世代海洋探査技術」、「衛星観測監視システム」、「データ統合・解析システム」の三つの技術が構成要素である。平成18年度に総合科学技術会議においてシステム全体の推進体制が評価され、今後は、地球環境観測分野、災害監視分野、資源探査分野における社会的貢献が期待されている(第3-2-14図)。
第3部第2章第2節5(1)参照。
スーパーコンピュータを用いたシミュレーション(注)は、理論、実験と並び、現代の科学技術の方法として確固たる地位を築きつつある。スーパーコンピュータは、大規模なシミュレーションを高速に行うことができるため、自動車の衝突損傷の解析、台風の進路や集中豪雨の発生予測等に利用されている。文部科学省では、今後とも我が国が科学技術・学術研究、産業、医・薬など広汎な分野で世界をリードし続けるため、平成18年度から「最先端・高性能汎用スーパーコンピュータの開発利用」プロジェクトを開始している。平成22年度の稼働(平成24年の完成)を目指し、開発主体(理化学研究所)を中心に産学官の密接な連携の下、同プロジェクトを一体的に推進している。
平成18年7月に「特定先端大型研究施設の共用の促進に関する法律」が施行され、文部科学省では、「特定高速電子計算機施設の共用の促進に関する基本的な方針」を取りまとめた。
![]() 次世代スーパーコンピュータのイメージ |
X線自由電子レーザー(XFEL)は、レーザーと放射光の特徴を併せ持つ光として、従来の手法では実現不可能な分析を可能にする技術である。一原子レベルの超微細構造、化学反応の超高速動態・変化を瞬時に計測・分析することを可能とする世界最高性能の研究基盤の実現を目指し、国家基幹技術と位置付けて開発整備を行っているものである。本計画は、平成18年度から理化学研究所と高輝度光科学研究センターとの共同プロジェクトにより、大型放射光施設SPring-8に併設して整備が進められており、結晶化が困難な膜タンパク質の解析、触媒反応のリアルタイム観察、新機能材料の創成など、生命科学やナノ領域の構造解析をはじめとする広範な科学技術分野において、新たなブレークスルーをもたらすとともに、革新的な利用研究を通じて新たな知の創出に貢献することが期待されている。
![]() X線自由電子レーザー装置の外観予想図 |
(左の縦長の建屋がX線自由電子レーザー装置。円形状の建屋は大型放射光施設 SPring-8)
資料提供:理化学研究所・高輝度光科学研究センター X線自由電子レーザー計画合同推進本部