スポーツ振興基本計画 2スポーツ振興施策の展開方策 2生涯スポーツ社会の実現に向けた、地域におけるスポーツ環境の整備充実方策 A

2 スポーツ振興施策の展開方策

2.生涯スポーツ社会の実現に向けた、地域におけるスポーツ環境の整備充実方策

政策目標: (1) 国民の誰もが、それぞれの体力や年齢、技術、興味・目的に応じて、いつでも、どこでも、いつまでもスポーツに親しむことができる生涯スポーツ社会を実現する。
  (2) その目標として、できるかぎり早期に、成人の週1回以上のスポーツ実│施率が2人に1人(50パーセント)となることを目指す。

A.政策目標達成のため必要不可欠である施策

 誰もがスポーツに親しむことのできる生涯スポーツ社会を21世紀の早期に実現するため、国民が日常的にスポーツを行う場として期待される総合型地域スポーツクラブの全国展開を最重点施策として計画的に推進し、できるかぎり早期に成人の週1回以上のスポーツ実施率を50パーセントとする。

総合型地域スポーツクラブの全国展開
 
1 到達目標
 
2010年(平成22年)までに、全国の各市区町村において少なくとも1つは総合型地域スポーツクラブを育成する。
2010年(平成22年)までに、各都道府県において少なくとも1つは広域スポーツセンターを育成する。

2 現状と課題
  (スポーツ環境の現状と課題)
 我が国では、学校と企業を中心にスポーツが発展してきた。このため、地域のスポーツクラブを中心にスポーツ活動が行われているヨーロッパ諸国等と異なり、学校を卒業するとスポーツに親しむ機会が減少する傾向にある。内閣府(旧総理府)が実施した「体力・スポーツに関する世論調査」に基づく算出によると、我が国の週1回以上のスポーツ実施率は平成9年の調査では約34.7パーセント、平成16年の調査では約38.5パーセントと、50パーセントを超えるヨーロッパの先進諸国に比べて低い状況にある。
 確かに、現在、公共スポーツ施設を拠点とした地域スポーツクラブや従業員の福利厚生を目的とした職場のスポーツクラブ、民間の商業スポーツクラブも存在するが、公共スポーツ施設を拠点とするスポーツクラブの約9割が単一種目型であることに代表されるように、これらのスポーツクラブは性別、年齢、種目が限定的であったりするため、誰もが、いつでも、どこでも、いつまでも各自の興味・目的に応じてスポーツに親しめるようになっているとは言い難い状況にある。
 こうした状況を改善し、国民の誰もが生涯にわたりスポーツに親しむことができる生涯スポーツ社会を実現するためには、多世代、多様な技術・技能レベルに属し、多様な興味・関心を有する者が参加できる地域スポーツクラブの育成が必要である。

(総合型地域スポーツクラブの必要性)
 「総合型地域スポーツクラブ」とは、地域住民が主体的に運営するスポーツクラブの形態である。我が国では、身近な生活圏である中学校区程度の地域において、学校体育施設や公共スポーツ施設を拠点としながら、地域の実情に応じて民間スポーツ施設も活用した、地域住民の誰もが、性別、年齢、障害の有無にかかわらず参加できる総合型地域スポーツクラブが定着することが適当と考えられる。特に学校体育施設は地域の最も身近なスポーツ施設であり、住民のスポーツ活動における期待は大きい。なお、総合型地域スポーツクラブを育成することは、完全学校週5日制時代における地域の子どものスポーツ活動の受け皿の整備にもつながり、さらには地域の連帯意識の高揚、世代間交流等の地域社会の活性化や再生にも寄与するものである。
 総合型地域スポーツクラブの特徴は、次のとおりである。

 複数の種目が用意されている。
 子どもから高齢者まで、初心者からトップレベルの競技者まで、地域の誰もが年齢、興味・関心、技術・技能レベル等に応じて、いつまでも活動できる。
 活動の拠点となるスポーツ施設及びクラブハウスがあり、定期的・継続的なスポーツ活動を行うことができる。
 質の高い指導者の下、個々のスポーツニーズに応じたスポーツ指導が行われる。
 以上について、地域住民が主体的に運営する。

(総合型地域スポーツクラブの育成の現状と課題)
 現在、全国の市区町村の約33パーセントにあたる783市区町村において2,155の総合型地域スポーツクラブが育成されている(平成17年7月)。これまで、国や地方公共団体、スポーツ団体、地域住民等の各主体の取組により、総合型地域スポーツクラブの育成が進んできているが、全国の市区町村において少なくとも1つは総合型地域スポーツクラブを育成するために、更なる取組が求められている。
 総合型地域スポーツクラブの育成を取り巻く課題は、次のとおりである。

 これまで我が国では、学校と企業を中心にスポーツ活動が行われてきたため、地域においてスポーツ施設や指導者等のスポーツ活動の基盤となる環境が十分整備されてきていない。こうした状況の中で、地域住民には、自らのスポーツ活動のための環境を地域で主体的に創り出すという意識が根付いておらず、総合型地域スポーツクラブの意義が未だ十分理解されていない現状にある。また、地域のスポーツ行政担当者や体育指導委員、スポーツ団体の間においても、総合型地域スポーツクラブの意義・必要性が十分認識されていない場合が少なくない。さらに、総合型地域スポーツクラブ創設へのニーズが高まっている地域でも、地域の関係者間の調整を行いながら創設を推進していく熱意と能力を有する人材を得るのが難しい。
 地域のスポーツサービスは無料又は廉価で行政から提供されるものという従来の意識は徐々に払拭されつつはあるものの、会費収入等によりクラブの安定的な財源を確保することが困難な事例も見られる。この傾向はクラブ創設初期ほど顕著と言える。
 事業体としての総合型地域スポーツクラブを円滑に運営するためには、経営能力を有する専門的な人材(クラブマネジャー)が必要である。しかし、こうした人材の育成に関するノウハウやカリキュラムはスポーツ団体や地方公共団体において蓄積されつつあるものの、必要なスタッフの確保は容易ではない現状にある。
 総合型地域スポーツクラブは、単にスポーツ活動の場であるだけでなく、地域住民の交流の場としても期待され、そのためには地域住民の交流の場(たまり場)となるクラブハウスは欠かせない。しかし、我が国の総合型地域スポーツクラブの活動の拠点として期待される学校体育施設や公共スポーツ施設にはクラブハウスがない場合が多く、地域住民から期待される役割を果たすために必要な機能を備えているとは言い難い状況にある。

(広域スポーツセンターの育成の現状と課題)
 個々の総合型地域スポーツクラブが、地域住民のニーズを踏まえて創設され、継続的かつ安定的に運営されるためには、前述のような多くの課題があり、個々の総合型地域スポーツクラブだけでは解決できない課題も少なくない。このため、総合型地域スポーツクラブの創設や運営、活動とともに、スポーツ活動全般について、効率的に支援することのできる広域スポーツセンターが必要である。
 広域スポーツセンターは次の機能を備え、各広域市町村圏単位に設けられることが必要である。

 総合型地域スポーツクラブの創設、育成に関する支援
 総合型地域スポーツクラブのクラブマネジャー・指導者の育成に関する支援
 広域市町村圏におけるスポーツ情報の整備・提供
 広域市町村圏におけるスポーツ交流大会の開催
 広域市町村圏におけるトップレベルの競技者の育成に関する支援
 地域のスポーツ活動に対するスポーツ科学・医学・情報面からの支援

   現在、41都道府県において、広域スポーツセンターが設置されているが(平成18年4月)、各都道府県において少なくとも1つは広域スポーツセンターを育成するために、更なる取組が求められる。

3 今後の具体的施策展開
   21世紀において生涯スポーツ社会の実現に取り組む中で、総合型地域スポーツクラブの全国展開は本計画の根幹となるものであり、将来的には、中学校区程度の地域での総合型地域スポーツクラブの定着及び広域市町村圏程度の地域での広域スポーツセンターの設置が最終的目標である。この目標に向け、全国の市区町村を挙げた総合型地域スポーツクラブの育成と都道府県を挙げた広域スポーツセンターの育成を行う。

(国)
 総合型地域スポーツクラブの全国展開を積極的に推進するため、総合型地域スポーツクラブ育成環境の整備、人材の育成及び生涯スポーツ社会の実現に向けた普及啓発の施策を講ずる。

 総合型地域スポーツクラブ育成環境の整備
 総合型地域スポーツクラブの全国展開及び広域スポーツセンターの育成を引き続き推進する。特に、総合型地域スポーツクラブが域内に存在しない市区町村と地域のスポーツ団体等の関係団体に対し、総合型地域スポーツクラブの意義、役割、育成手法等について助言を行うなど、積極的なはたらきかけを行う。その際、総合型地域スポーツクラブの育成について豊富な知識と経験を有する日体協等のスポーツ団体との連携強化を図る。
 また、全国広域スポーツセンター育成連絡協議会の開催等を通じ、各都道府県の広域スポーツセンターの連携強化を図る。
 さらに、既に創設された総合型地域スポーツクラブにおいては、スポーツ活動の場としてだけでなく地域の交流拠点として機能しているものもあり、その活動をより魅力的なものとするとともに、スポーツを取り巻く今日の社会的課題に対応した取組が期待されている。このため、子どものスポーツ環境の充実等に資する学校との連携や地域における競技力の向上、女性、高齢者、障害者等がスポーツに参加しやすい環境づくり、企業との連携等の取組を行う総合型地域スポーツクラブを、スポーツ団体等と連携し、広域スポーツセンターを通じて支援する。
 また、総合型地域スポーツクラブが地域のスポーツ振興やコミュニティ形成など地域で果たす公共的な役割を踏まえ、地域住民からの会費収入等による運営を基本としつつ、クラブの根幹的な要素や事業、具体的には、ロッカールーム、シャワー室、喫茶・談話室等を備えたクラブハウスの整備、スポーツ大会の開催等の事業、広域スポーツセンターの機能の整備、同センターにおけるクラブマネジャーの育成等のクラブ支援事業等に対する効果的な支援方策について、特に創設時の安定運営や施設の状況に配慮しながら検討を行い、具体化を図る。

 人材育成
 地域で関係者間の調整を行い総合型地域スポーツクラブを創設する能力人材を育成するため、先進事例に関するセミナー等の開催や情報提供等を進める。
 また、クラブマネジャーについては、総合型地域スポーツクラブの円滑な運営のために必要不可欠な存在であることを踏まえ、その育成を推進するとともに、資質の向上を図るため、研修会の開催や情報提供等を図り、あわせて総合型地域スポーツクラブの育成に尽力しているクラブマネジャーの取組がより適切に評価される仕組みの検討を行う。

 生涯スポーツ社会の実現に向けた普及啓発
 成人の2人に1人が毎週スポーツを行うような生涯スポーツ社会の実現に向けて、国民一人一人が自らの関心や体力に応じて、スポーツを生活文化として日常生活の中で行うことにつながるキャンペーンを実施する。
 また、生涯スポーツ社会の実現に向けた総合型地域スポーツクラブの意義や効果について、国民全般への普及啓発を行う。

(地方公共団体)
 総合型地域スポーツクラブの育成を図るため、地方公共団体においては、次の事項にも配慮しながら、国と連携する施策やその他の独自の施策を自主的・積極的に行うなど、多様な施策を地域において総合的に展開することが期待される。

 都道府県及び市区町村は、本基本計画を考慮しながら、自らのスポーツ振興計画を策定・改定する際、総合型地域スポーツクラブの育成を計画の中に位置付けること。
 都道府県は、総合型地域スポーツクラブに関する普及啓発を、地域住民に対して行うとともに、広域スポーツセンターの育成を推進し、あわせて総合型地域スポーツクラブの育成に取り組んでいる域内の市区町村の連絡協議会を設けることにより、総合型地域スポーツクラブの円滑な運営を支援すること。
 なお、広域スポーツセンターは、都道府県が新たに建設する場合のほか、既にある基幹的スポーツ施設を都道府県が指定し、必要に応じて整備することも考えられる。
 市区町村は、総合型地域スポーツクラブの育成を積極的に推進すること。特に、総合型地域スポーツクラブの創設の核となる熱意と能力のある人材を、地域住民の中から得て育成すること。なお、我が国の総合型地域スポーツクラブは、中学校区程度の地域ごとにあることが望ましいが、育成の初期段階においては、地域の実態に応じて多様な規模の総合型地域スポーツクラブが形成されることも考えられる。
 また、総合型地域スポーツクラブの活動拠点となる地域の公共スポーツ施設の充実を図るとともに、学校体育施設の開放、地域との共同利用を一層促進すること。その際、事務の効率化や地域住民へのサービス向上に配慮しつつ、公共スポーツ施設の指定管理者として総合型地域スポーツクラブを指定することや、地域の実情に応じて活動施設の1つとして民間スポーツ施設の活用も考えられる。
 さらに、クラブハウスの整備を推進すること。なお、クラブハウスは新たに建設するほか、学校の余裕教室や既存の公共スポーツ施設の積極的な活用が考えられる。
 都道府県及び市区町村は、総合型地域スポーツクラブに対し、その組織の継続性、透明性を高め、地域のスポーツ振興という公益活動に一層貢献するために、特定非営利活動法人(以下「NPO法人」という。)等の法人格を取得することについて助言を行うこと。

(スポーツ団体)
 各種のスポーツ事業を実施するスポーツ団体は、総合型地域スポーツクラブの全国展開のため、次のような取組に早急に着手することが期待される。

 スポーツ団体においては、国や広域スポーツセンターと連携し、クラブマネジャーの育成を推進すること。また、地域の体育協会やレクリエーション協会、体育指導委員協議会、障害者スポーツ協会等の各種スポーツ団体においては、スポーツ指導者の派遣や事業の運営等の面で連携・協力し、総合型地域スポーツクラブの育成を支援すること。特に日体協においては、国と連携して、総合型地域スポーツクラブが域内にない市区町村に対して、総合型地域スポーツクラブの意義、役割、育成手法等について助言するなどして、積極的に総合型地域スポーツクラブの育成を支援すること。その際、地域の体育協会の内部組織であるスポーツ少年団を創設母体の一つとすることも考えられる。また、日レク協等においては、総合型地域スポーツクラブが、誰もが気軽に親しめるニュースポーツ等の活動を実施する際に連携・協力すること。
 既存の地域スポーツクラブにおいては、地域の状況や住民の多様なスポーツニーズを踏まえ、有機的な連合や、将来的には総合型地域スポーツクラブへの転換を図ること。

(総合型地域スポーツクラブ)
 創設後の総合型地域スポーツクラブにおいては、円滑かつ継続的に事業を展開するため、次のような取組が望まれる。

 NPO法人等の法人格を取得すること。法人格を取得することで総合型地域スポーツクラブは、組織として権利義務の主体となることが可能となる。また、事業内容や会計の透明化により地域の行政関係者の信頼を得ることから、行政との連携の円滑化にも資すると考えられる。さらに、事業内容や会計の透明化は、会費を納める地域住民の一層の信頼を得られることにもつながり、クラブの継続性にも寄与すると考えられる。
 傷害保険への総合型地域スポーツクラブとしての加入や危機管理マニュアルの整備等、活動中に生じる可能性のある事故に備えること。
 学校やプロスポーツ組織等と連携して地域スポーツの環境づくりや競技力の向上に取り組むとともに、女性、高齢者、障害者等がスポーツに参加しやすい環境づくり等に取り組むこと。
 総合型地域スポーツクラブへの加入層を広げてスポーツ実施率を高めていくために、スポーツ活動にとどまらず、地域住民のニーズに応じて、健康教室の開催や、レクリエーション・文化・福祉活動等も加えたクラブに発展させていくこと。
 会員のニーズや地域の実情に応じて、カフェテリア、託児室、体力・スポーツ相談等のためのトレーナー室等をクラブハウスに設けたり、民間スポーツ施設も活動の場に活用したりするなど、多様なサービスを提供するよう努めること。

(地域住民)
 日常、生活文化としてスポーツに親しむため、自らのスポーツ環境を主体的に整備し、総合型地域スポーツクラブの育成に有償スタッフやスポーツボランティア等として取り組むことが期待される。特に、スポーツ指導に関する実績や能力を有する学校教員や会計等の組織運営について専門知識を有する地域住民においては、より積極的に総合型地域スポーツクラブの活動に参加することが期待される。また、スポーツに関する認定資格を持つ地域の医師においては、地域住民の健康相談やスポーツ傷害等の医療面で積極的に総合型地域スポーツクラブの活動に参加することが期待される。

(学校)
 学校は、地域のスポーツ環境の状況や学校の実態に応じて、運動部活動と総合型地域スポーツクラブの連携等地域社会と連携したスポーツ活動の展開に努めることが期待される。
 また、施設、人材等の面でスポーツに関する豊富な資源を有している大学等においては、学生等のスポーツ活動の充実はもとより、地域の一員として地域スポーツ振興に積極的に関わり、総合型地域スポーツクラブの育成に参画することが期待される。

(プロスポーツ組織、企業、民間スポーツ施設)
 プロスポーツ組織や企業においては、地域の一員として総合型地域スポーツクラブの育成に参画するなど、地域の実態に即した形での貢献を行うことが期待される。例えば、プロスポーツ組織は、トップチームの下部組織として、地域住民が参加するスポーツクラブを育成することやスポーツ指導者を派遣すること等が考えられる。
 また、民間スポーツ施設においては、総合型地域スポーツクラブに活動の場を提供したり、スポーツ指導者の派遣を行うなど地域のスポーツ活動により一層寄与することが望まれる。

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スポーツ・青少年局企画・体育課

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