第3章 2取組課題実現のための利用イメージの枠組

2. 取組課題実現のための利用イメージの枠組
(1)  利用イメージ検討における主要機関
 新たな公共図書館像においては、利用者が誰でもいつでも気軽に利用できるだけでなく、利用者の抱えている課題が迅速かつ正確に解決されるための地域の情報拠点であるべきである。そのためには、公共図書館を通じて、館内にある既存の資料・情報だけでなく、館外にある資料・情報も一緒に利用できる環境を設ける必要がある。
 また、利用イメージ検討における利用者は、ある課題を抱えた利用者を想定しており、必ずしも個人とは限定していない。例えば、商店街の再活性化のために地域特産品の宣伝と販売について情報収集ニーズが発生するケースでは、利用者は商工会議所等の団体と考えられる。
 公共図書館が地域における情報拠点、ポータルサイトとなりえるために、従来の公共図書館同士の相互貸出だけでなく、公共図書館が取り組むべき課題に応じた外部機関・外部施設との連携・協働注釈19を積極的に推進していく必要がある。外部機関・外部施設の具体像として、他の社会教育施設、館種の異なる図書館、行政機関・公共施設、及び専門機関(地域文化伝承者等の個人も含む)があげられる。

注釈19  中央教育審議会生涯学習分科会「今後の生涯学習の振興方策について(平成16年3月29日)」では、「協働」を「お互いの特性を認識し、尊重し合いながら、対等な立場の下に、積極的に協力し合うこと」と定義している。

公民館、博物館等の他の社会教育施設
博物館が保有する地域の文化財、工芸品、自然環境等に関する作品や作品に関する目録情報と、公共図書館が保有する資料の連携した形で、学習材料として提供する。提供先は、学校教育の教員・生徒だけでなく、自分たちの地域を学習テーマとしている地域住民や他地域からの学習者が想定される。
全国に18,000館注釈20以上ある公民館の場合、公共図書館の機能を補完する形で、情報拠点となることが期待される。
医学図書館、大学図書館、専門図書館、学校図書館等、館種の異なる図書館
医学図書館、大学図書館、及び専門図書館は、それぞれの設置目的に応じた専門書・専門雑誌・学術論文等の専門資料・情報を取り扱っており、図書館によっては来館や資料貸出について利用制限が設定されている場合がある。公共図書館は、これらの異なる図書館を図書館類縁機関として利用案内・紹介を行っている注釈21
類縁機関の保有する専門資料・情報と公共図書館の保有する資料・情報を連携することによって、公共図書館利用者の課題解決を促進することが想定される。また、類縁機関内の専門スタッフ(相談員)が、公共図書館側からの問い合わせに対応したり、公共図書館における相談会・セミナーに協力参加したりすることが見込まれる。
学校図書館は、教員や児童・生徒に対する情報拠点として位置づけられるだけでなく、学校教育の中における学習成果を蓄積する拠点として期待される。
行政機関及び公立病院、保健所等の公共施設
公共図書館利用者の情報検索ニーズの中には、取り組んでいる課題についての情報収集だけでなく、具体的に行動することが課題解決となる場合がある。
例えば、個人で開発した商品の事業計画を検討している起業家であるならば、効率よく資金調達を行うために地元自治体の産業振興担当課が提供している融資制度への申し込み手続をどのように進めたらよいのか、まで調べたいニーズがあると考えられる。
また、公共図書館における資料・情報と組み合わせて、行政機関職員や公共施設内の専門家を招いた相談会・セミナーの開催が想定される。
例えば、要介護状態となった親を持つ一般市民から、介護に関する問い合わせがあると、無論、介護保険制度等に関する一般的情報や要介護となった親との付き合い方等に関する資料の提供も必要であるが、同時にその地域における介護保険制度の手続、介護サービス事業者との連絡方法等の実務面に関する資料・情報の提供も必要になると想定される。こうした実務面については、公共図書館による資料紹介や情報照会だけでなく、公共図書館という物理的場所を活用した専門家による相談会やセミナーの開催が望ましい。
商工会議所、NPO法人、地域文化伝承者等の専門機関・専門家
利用者の課題内容をよりきめ細かい資料・情報ニーズに対応して、行政機関等の公共機関に限らず、課題別の専門家を公共図書館に招いて当該利用者の相談相手となる場合も考えられる。
例えば、ビジネス支援サービスの一環として、大手企業のOBから構成される地域のものづくりNPO法人の参加メンバーが、ものづくりに関する講義を公共図書館内で開催し、地域の中小企業経営者に対してアドバイスを行うというケースが想定される。公共図書館にある資料だけでなく、経験者による生きた情報が加わるため、課題解決に具体性が増すと言える。

注釈20 社会教育調査(平成14年度)中間報告によると、公民館類似施設も含めた公民館は全国で18,819館あり、図書館の2,742館や博物館類似施設を含めた博物館の5,363館より多い。
注釈21 例えば、東京都立図書館では、ホームページにおいて、アンケートに協力し、ホームページ搭載を承認した456の機関を紹介している。(平成16年3月2日更新情報)

(2)  利用イメージにおける主要業務
 利用イメージ検討における主要業務は、利用者と公共図書館の間のやり取り及び公共図書館と外部機関・外部施設の間のやり取りにおける以下の4つが想定される。
1 利用者の公共図書館における資料・情報の検索、ないしは公共図書館への問い合わせ
利用者の利用手段は、物理的施設としての公共図書館に来館する方法と、来館せずに外部より活用する方法、の二つが考えられる。後者の非来館利用においては、公共図書館とのネットワークを活用することによって、自宅、学校、職場、及び他の公共施設等から、電話、携帯電話、電子メール、ウェブサイト等を通じて接続することとなる。
来館利用における利用者の取り得る行動は、1利用者が自ら開架室に配架されている資料を検索する、2OPAC端末注釈22等の検索端末を活用して開架室及び書庫の資料を検索する、3館内の資料相談窓口にいる司書に資料検索を支援してもらう、がある。
来館しない利用者の資料検索方法は、1利用者がホームページ上から直接資料を検索する(WebOPAC)、2公共図書館の司書に電話や電子メールにて問い合わせを行い資料の検索を依頼する、がある。
2 公共図書館から外部機関・外部施設への問い合わせ(資料・情報の検索依頼)
公共図書館は、利用者の資料検索依頼の資料・情報を自館で所蔵していない場合、他の公共図書館や館種の異なる図書館も含む外部機関・外部施設に当該資料の貸与を依頼する。(相互貸借制度)
あるいは、利用者の問い合わせニーズに対応するために、司書の専門的知見やそれまでの問い合わせ事例経験に基づき、問い合わせ内容の分野について専門性のある外部機関・外部施設の所蔵する資料の貸出や保有する情報の提供を依頼する。この場合、各機関・施設の所蔵資料や保有情報が目録の形として公共図書館内に組み込まれていたり、各機関・施設の目録情報データベースを公共図書館側から直接検索が可能であったり、ネットワーク連携が実現し、情報提供について事前了解を得ていることが望ましい。(専門性のある外部機関・外部施設においては、広域範囲の自治体から情報連携先として期待される可能性が高く、各問い合わせ事例に対応する場合の外部機関・外部施設職員への負荷は大きくなる恐れがある。)
3 外部機関・外部施設から公共図書館への問い合わせ回答(資料・情報の提供)
公共図書館側からの依頼に応じる形で、外部機関・外部施設は、所蔵する資料を貸し出したり、保有する情報を提供したりする。上記の業務2にて指摘したように、両者の間でネットワーク連携が実現することが望ましい。
4 公共図書館から利用者への資料・情報の提供
公共図書館は、収集した資料や情報を課題別に体系化し、利用者の立場に応じて資料・情報を提供する事になる。ここでの「利用者の立場」は、利用者の年齢(子ども、成人、高齢者等)や母語・母文化への配慮や公共図書館への来館が困難な地域の在住者への配慮等(「第2章 公共図書館のネットワークの現状4.(2)公共図書館が提供する主なメニュー」における「情報機会提供」に対応した業務)を示す。従って、公共図書館側が各問い合わせについて解決策そのものをアドバイスすることはしない。

注釈22 OPAC(Online Public Access Catalog:オンライン利用者用目録の)サービスを提供しているコンピューター端末機。

   なお、この他に、利用者から外部機関・外部施設への直接問い合わせや外部機関・外部施設から利用者への直接回答、というような業務も想定されるが、ここでは、公共図書館をハブとした業務に着目しているため、個別に触れていない。例として、相互貸借サービスに基づいた他の公共図書館からの資料の直接配付や外部機関における専門家との相談等が想定される。
  図3 公共図書館の利用イメージの基本枠組の図

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