4.地域間交流体験活動を推進、継続していくために

  ここでは、各学校において地域間交流体験活動を企画、推進、及び継続していくために必要と思われる留意点等について基本的な考え方を示すこととする。なお、平成16年度においても、各地域間交流推進校における活動の実践及び都道府県におけるプログラム開発状況を踏まえ、引き続き検討を重ね、報告を取りまとめることとしている。

(1)学校での取り組み

明確なねらいの設定

  各学校において地域間交流体験活動を推進していく際には、まず、地域間交流体験活動を通して、子どもたちのどのような力をはぐくむのか、そのねらいを明確にする必要がある。そのためには、学校が所在する地域の状況や、子どもたちの生活の状況などをしっかりと把握する。その上で、学校の教育目標に照らし、教育効果の高いものは、学校を取り巻く近隣の地域において実施が困難だと思われる場合でも、異なる地域で可能な場所や環境を模索するなど実現に向けての取り組みをしていくことが重要である。

地域間交流体験活動の教育課程への適切な位置づけ

  地域間交流体験活動を含め、体験活動は教科等の特質に応じ、教育活動全体を通じて取り組まれるものである。各学校における地域間交流体験活動の教育課程への位置づけについては、例えば学校行事における遠足(旅行)・集団宿泊的行事や勤労生産・奉仕的行事に位置づけたり、あるいは総合的な学習の時間に位置づけた上で、各教科とも関連付けて実施するなど、各学校のねらいを踏まえ、各活動を適切に教育課程に位置づけることが必要である。その際、各自治体等において推進している学校教育と社会教育の連携に基づく学社融合事業における取り組みの事例なども参考になろう。
  修学旅行についても、異なる地域において見聞を広めたり、体験的な要素をより強めたり、公衆道徳などについての望ましい体験を積むとともに、各教科等の学習指導との関連付けを見直したり、児童生徒の心身の発達段階等に十分な配慮をするなど、集団宿泊的行事として充実した活動となるよう検討することが望まれる。

子どもの主体的な取り組みを支援する適切な指導計画の作成

  子どもが主体的に地域間交流体験活動に関わることができるように、適切な指導計画を作成することが必要である。その際、普段体験することのできない活動をできるだけ味わわせたいがために、体験内容を詰め込みすぎて時間に余裕のない計画になってしまったり、児童生徒が主体性や創意工夫を発揮する機会を失ってしまったりすることのないよう留意することが必要である。また、事前に受け入れ地域を訪問する等の取り組みを通じて児童生徒が地域間交流体験活動における課題を自ら発見することができるようにする工夫や、体験活動の中で適切な課題を設定し、児童生徒がその解決に積極的に取り組むことができるようにしていくなどの工夫も重要である。地域間交流体験活動は、見知らぬ土地において児童生徒が様々な試行錯誤を重ねながら地域の人々と交流を重ねていくものであり、こうした活動を行う場や機会を十分に与えることができるよう、適切な配慮が必要である。
  なお、修学旅行を含めた宿泊を伴う活動の実施に当たっては、児童生徒の発達段階等を踏まえ、その周辺の環境について教育的に十分検討するとともに、宿泊施設の状況などを調査し、必要に応じて適切な措置をとるなどの配慮が必要である。(年間指導計画を見通した活動を継続的に実施している例として、事例10を参照)

事例10:福岡県春日市立日の出小学校の例

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  日の出小学校においては、同県の夜須町に出向いて、農業体験等を実施しており、事前・事後の指導や交流地域との連絡調整事項等を盛り込んだ1年間の活動計画を作成するなど、見通しをもって活動を運営している。
  また、保護者に児童の行動観察や取り組み内容の評価を依頼し、幅広い視点から活動を充実していこうとしている。
  こうした綿密な計画の中で、児童が農業体験等やそれらの体験を振り返ることによって、農業の難しさ、大切さ、喜びを深く実感させることができるなどの効果が見られている。

<学校データ>

  児童生徒数 ・・・ 342人
  実施学年 ・・・・ 5年生
  実施時期(福岡県夜須町に出向いての交流活動) ・・・・ 6月(2泊3日)
  教育課程への位置づけ ・・・ 特別活動、総合的な学習の時間

豊かな体験活動とするための教職員の役割

  地域間交流体験活動の実施に際しては、まず、管理職のリーダーシップの下に、教職員が地域間交流の意義を共通理解し、適切な役割分担を行い効率的に活動を遂行していく必要がある。また、活動の内容等に応じて、受け入れ地域を事前に教員が訪問し、地域の実情や活動プログラムをよく理解するなど、地域間交流体験活動を円滑に実施するための取り組みも求められよう。
  なお、体験活動の実施に際して、教職員の態度や行動は、児童生徒の活動への取り組みや、外部協力者の活動に対する評価に大きく影響する。教職員や外部講師を含め、指導者自身が教育的意義を踏まえつつ、余裕を持って楽しく取り組めるよう、適切に配慮することが求められる。

家庭との連携

  地域間交流体験活動は、子ども達が家庭における通常の生活空間を離れる活動であることから、各学校において地域間交流体験活動を実施するに当たっては、家庭との共通理解や協力が不可欠である。
  活動の実施の際には、各家庭に対して、事前に受け入れ地域における活動の目的、内容や費用負担等について十分に説明し、適切に説明責任を果たすことが重要である。また、活動終了後には、保護者会や学校だより等を通じて、活動の成果などについて情報提供するとともに、活動の行き先や内容等に応じては、保護者が教職員と連携の下、引率者や指導員等として協力を得ることなども考えられる。その際、PTAなど社会教育関係団体との連携を図ることも重要である。

事後の指導と適切な評価の実施

  各学校においては、地域間交流体験活動の成果を一時的なものとせず、取り組みを継続するとともに、その成果を日頃の教育活動に生かしていくため、適切な評価を行う必要がある。その際、以下のことに留意することが必要である。

  1. 児童生徒の学習状況の成果を明確な観点のもとに分析し、児童生徒や保護者、地域に伝えるとともに、適切に事後の指導や関連する活動などを行い、児童生徒自身が活動の成果や自己の成長を振り返ることができるよう留意する
  2. 学習状況の成果に関する情報を受け入れ地域にかえすことにより、その成果を共有化する一方、新たな課題を明確にしていくようにする
  3. 地域間交流体験活動を評価し、その情報を基にして、教員や学校としての指導の反省材料として、次の指導に生かす工夫をする

  また、各学校においては、地域間交流体験活動を通じて体験したことを児童生徒が自分の力でまとめて発表するなど、それぞれの創意工夫による知識や経験の定着につなげていくことが必要である。
  さらに、地域間交流体験活動の成果を継続的に授業等の教育活動に取り入れるためには、例えば情報通信ネットワークを活用していくことも有益である。地域間交流体験活動を実施している学校においては、インターネット等の活用も含め、活動の効果を一過性のものとせず、継続的に交流を深めていくことが期待される。また、既にインターネット等を活用した取り組みを実施している学校については、地域間交流体験活動を通じて、それらの取り組みの一層の充実が期待される。

成果の情報提供

  地域間交流体験活動は、学校教育活動に対して、受け入れ地域関係者など、様々な外部の視点による評価を収集することができる機会でもある。また、これらの情報提供が継続的になされることにより、関係者の活動の改善への努力や、活動継続へのインセンティブの向上につながるとともに、学校の日頃からの教育活動の充実にもつながるものと考えられる。
  こうしたことから、各学校においては、関係者間の共通理解を継続的なものとし、より深めていくため、地域間交流体験活動を通じた児童生徒や学校の変容や、活動を通じた効果などを具体的に示していくことが重要である。

(2)教育委員会等の関係機関の取り組み

情報の把握と提供、首長部局との連携

  教育委員会においては、各学校における地域間交流体験活動に資するよう、国や地方公共団体、関係団体が提供しているポータルサイト等を積極的に活用していくとともに、各地域の実情に応じたプログラムの開発が望まれる。また、地域間交流体験活動にかかわる行政分野が多岐にわたることに留意し、観光・商工・農政部局等における取り組みの中で、学校における地域間交流体験活動の推進に資するものについて把握し、各学校に情報提供するなどの取り組みが求められる。
  なお、このような地域間交流を通じた地域ぐるみの交流の推進は、地域産業の振興や伝統文化の継承へと発展する可能性を有していることにも注目する必要がある。各自治体において、地域や学校の実情に応じて、地域間交流を契機とした行政目標の実現が図られるよう、自治体同士の連携が図られることが望ましい(自治体同士の取り組みに広がった例として事例11を参照)。

事例11:横浜市立浦島小学校の例

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  浦島小学校においては、山形県三川町で農業体験を行うとともに、受け入れ地域の人々を交えて、収穫をテーマにした祭を行っており、受け入れ地域である三川町からは、町長をはじめとする多くの関係者が参加している。
  本活動においては、受け入れ地域の関係者が直接指導してくれることにより、衛生管理等の留意点に対しても適切な対応が図られ、活動が円滑に実施されている。また、地域間交流体験活動を通じた成果についての発表会を別途開催し、下級生や保護者、地域住民に情報発信している。
  このような取り組みを通じて、地域間交流体験活動に関する成果が学校全体で共有されたほか、地元で取れた野菜販売の活動が地域住民の間で評判になるなど、地域の参加による活動が広がっている。

<学校データ>

  児童生徒数 ・・・ 464人
  実施学年 ・・・・ 6年生
  実施時期(山形県三川町における交流活動) ・・・・6月(2泊3日)
  教育課程への位置づけ ・・・ 総合的な学習の時間、特別活動

コーディネーターとなる人材の確保・育成及び民間との連携

  地域間交流体験活動にかかわる体制づくりにあたっては、学校の実情や受け入れ地域における施設の整備、自然環境、伝統文化などについて知悉しているコーディネーターとしての役割を果たす人材の養成・確保が必要である。その際、受け入れ地域においても、学校教育に位置づけやすいプログラム開発や指導者の養成・確保などの取り組みを行っている例もあり、各学校のねらいに応じて、適切に活用していくことも考えられる。
  さらには、こうした活動において、PTAや自治会などの地域団体が果たす役割も重要であり、これらの地域団体に活動への理解と協力を求めていくことが重要である。また、地域ぐるみの取り組みを一層充実させるために、民間教育、NPO、ボランティア等との積極的な連携を図ったり、姉妹都市や友好都市交流等の、自治体間の交流を活用することも考えられる(受け入れ地域における地域間交流体験活動の環境整備に取り組んでいる例として、事例12を参照)。

事例12:長野県白馬村における取り組みの例

  白馬村においては、地域の教育資源のデータベースや提案型のプログラムを作成・提供している。情報提供に当たっては、表示マークの統一や実際の活動の様子の動画配信等、利用者が活用しやすいデータベースづくりに取り組んでいる。
  また、白馬村では独自に指導者の養成を行うとともに、地域外の人々を受け入れて体験活動を実施する「マイスタープログラム」を推進しており、活動後のふりかえり学習を重要視し、子ども達が得た体験を日常へフィードバックできるような活動を目指している。

※  マイスターとは、ドイツ語で「親方・職人・名人」などの意味を持つ言葉であり、「白馬マイスター」とは、「白馬の職人」という意味である。白馬村内には、さまざまな分野で卓越した技術や知識を身につけた人達がおり、それらのマイスターに、それぞれの得意分野で、白馬村観光推進本部の企画するプログラムやイベントに参加してもらうことによって、訪れた人々に、白馬村の魅力をより深く楽しんでもらうこととしている。

(3)その他の配慮事項

地域間交流体験活動の目的の共通理解

  学校、家庭、受け入れ地域、外部講師などの各主体が地域間交流の意義をどのようにとらえているのか、また、地域間交流を実施することによってどのようなメリットがあると考えているのかについては、それぞれの置かれた立場により、様々な観点が考えられる。
  こうしたことを踏まえ、地域間交流体験活動を推進する際には、学校や児童生徒が受け入れ先の地域住民から教えてもらうだけといった、一方的に恩恵を受けるような関係ではなく、学校、家庭、地域が共に支えあい学びあう双方向の関係へと転換していく視点が重要である。具体的には、学校側は児童生徒が学んだ成果を地域に発信し、地域の側は学校教育に参加するメリットを見いだして関わってもらうといった活動を通じて、地域と学校の双方が高め合う関係づくりを進めることが必要である。こうした取り組みにより、児童生徒が自身の体験を意味づけ、地域との関係づけをしていくことができるとともに、こうした取り組みの積み重ねが、各学校の開かれた学校づくりに向けた取り組みにもつながっていくと期待される。
  また、受け入れ地域の特色についても、関係者の共通理解を図ることが必要である。学校側が考える受け入れ地域の特色と、受け入れ地域において実際に生活している住民が考える地域の特色が必ずしも一致するとは限らない。地域間交流の意義について、関係者が共に考え、よりよい交流の在り方を追求していく姿勢が求められる。

異なる地域の相互理解

  実際の交流の場面においては、受け入れ地域の関係者に活動の企画立案等の全てをゆだねるのではなく、異なる地域を訪れた児童生徒や教員が、積極的に自らの地域を紹介するとともに、相互の地域を理解しようとする姿勢を示していくことも必要である。学校が所在する地域と受け入れ地域の双方の地域について、互いに深く理解することで、共通の認識が広がるとともに、交流の幅が広がることが期待される。例えば、地域間交流体験活動の終了後に、学校及びその近隣の地域において、活動の成果を発表する活動を行うなど、学校を取り巻く地域について、より深くとらえる機会を持つことも大切である(学校を取り巻く地域について受け入れ地域で発表している例として事例13、受け入れ地域における活動の成果を学校で発表する例として事例14を参照)。

事例13:岩手県東和町立東和中学校の例

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  東和中学校においては、受け入れ地域である神奈川県川崎市において、現地の中学校と交流するとともに、公共・文化施設等を訪問したり、岩手の地域に伝わる郷土芸能のPR活動等を実施する交流活動を実施している。
  これらの活動を通じて、大都市における多様な活動に自主的に取り組むことができ、異なる環境における問題発見・問題解決能力がはぐくまれたほか、PR活動等を通じて郷土のよさを再発見、再認識できるなどの効果が見られている。

<学校データ>

  児童生徒数 ・・・ 287人
  実施学年 ・・・・ 3年生
  実施時期(川崎市に出向いての交流活動) ・・・・ 4月(2泊3日)
  教育課程への位置づけ ・・・ 特別活動

事例14:奈良県當麻町立白鳳中学校の取り組みの例

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  白鳳中学校においては、学校の特色の一つである「よさこいソーラン」を通じた北海道当麻町との交流活動を実践しており、受け入れ地域の保存会の方々の演奏を鑑賞するとともに、それらを中学校にもち帰って練習し、地域の人々に披露している。あわせて、北海道の受け入れ地域の中学生や地域の人々と記念品の交換や、和太鼓の演奏なども実施している。
  これらの交流活動を通じて、互いの町の文化や芸術を知るとともに、自分たちの住む地域への理解を深め、町民の一人としての意識が高まるなどの効果が見られている。

<学校データ>

  児童生徒数 ・・・ 473人
  実施学年 ・・・ 3年生
  実施時期(北海道当麻町に出向いての交流活動) ・・・・ 5月(2泊3日)
  教育課程への位置づけ ・・・ 特別活動

安全面の配慮

  地域間交流体験活動を企画・実施する際には、受け入れ地域において緊急に連絡がとれる体制の確保や、必要に応じて児童生徒及び外部協力者等の傷害保険・賠償責任保険への加入等について検討するなど、安全面に十分配慮した上で活動を実施する必要がある。また、児童生徒が不慣れな、または未経験な活動を行う際には、実施上の留意点や危険性を児童生徒に知らせ、十分な事前指導を行うなど、児童生徒の発達段階や活動状況を踏まえた工夫が必要である。

お問合せ先

初等中等教育局児童生徒課

-- 登録:平成21年以前 --