3.地域間交流体験活動の成果

  これまでの地域間交流推進校における取り組みや、各都道府県におけるプログラム開発の状況等を分析した結果、学校教育における地域間交流体験活動の成果として、以下の点が挙げられる。

(1)児童生徒にみられる成果

  児童生徒が異なる文化や社会、価値観を理解・尊重し、普段出会う機会の少ない人々と共に協力して何かを成し遂げる場や機会を得るためには、学校生活を離れた様々な地域やそこに住む人々との交流を通じて人間関係を広げることが有効であり、地域間交流体験活動はその重要な契機となるものである。
  地域間交流体験活動を通じて得られた児童生徒の変容としては、第一に、児童生徒が様々な地域の人々と交流することにより、自分が住む地域と異なる地域について知るだけではなく、自分が住んでいる地域を見つめ直し、その良さを再発見することができたということが挙げられる。こうした活動の充実は、前述した次代を担う子どもたちへの地域の良さの伝承が図られるとともに、児童生徒が地域にかかわる多様な体験を通じて、自ら課題を発見し、これまで学習してきた知を総合化・実践化して課題を解決する力の育成にもつながるものである。
  また、地域間交流体験活動を通じて、普段交流のない地域の様々な大人、特に、やりがいを持って地域に根ざした仕事をしている大人たちが自らの経験を示したり語りかけたりすることを通じて、子どもたちが現在の自分自身を見直し、自分の生き方について反省するとともに、自らの将来について考えたり、望ましい職業観・勤労観を体得し、職業ひいては大人社会への認識を深めたりするきっかけとなったということである。
  このほか、地域の大人達が有する経験を多様な異世代交流を通じて次代に伝えるとともに、子ども達の学ぶ意欲、ふるさとを愛する心、地域の伝統文化を大切にする心などをはぐくむため、児童生徒と地域の多様なふれあいを確保するための場や機会を充実することが、一層効果的であることが分かった。

(2)学校における成果

  各学校における地域間交流体験活動の成果としては、学校が所在する地域や交流先の地域が有する歴史・文化・自然・人材等のネットワークが広がるとともに、学校が活用可能な教育資源の充実があげられる。このことは、学校が、多様な地域とネットワークを構築していくことにより、地域が一体となって次代を担う子どもを育てる気運の醸成にも資するものである。
  また、多くの学校において実施されている修学旅行等の学校行事についても、地域間交流を含めた学校と地域との結びつきの観点から見直すことにより、平素と異なる生活環境において、見聞を広め、自然や文化などに親しむとともに、集団生活の在り方や公衆道徳をはぐくむための望ましい体験を積むことができたとの報告があった。
  さらに、教員にとっても、地域間交流体験活動を通じて普段の教育活動では得がたい成果を実感することによって、日頃の教育活動の充実・改善や、地域との連携を推進する意識の向上につながるなどの成果も挙げられている。

(3)地域にとっての成果

  地域間交流体験活動の受け入れ地域では、他地域の児童生徒を受け入れて交流活動を行うことを通じて、自分たちの地域の価値を再評価する動きが高まるなどの成果が挙げられている。また、地域の人々が、異なる地域の児童生徒や教員にこれまで培ってきた知識や経験を伝える立場に立つ体験をすることによって、自らがかかわる地域産業や、地域に根ざした文化の重要性を再認識し、特色ある地域づくりへの意欲を高めていくことができたなどの報告もある。こうした取り組みは、政府が民間と一体となって推進している都市と農村漁村の共生・対流の推進にも資するものである。
  このほか、地域間交流体験活動を通じて様々な形で地域の有する教育力を活用していくことは、日頃からの学校と地域が連携した開かれた学校づくりにも資するものである(地域と密接に連携した学校の取り組みとして事例9を参照)。

事例9:和歌山県立伊都高等学校の例

  伊都高等学校は、高野山の門前町としての文化資源や紀ノ川などの自然、織物産業などの地場産業を有する高野口町に位置しており、こうした特性を踏まえ、教育事務所におけるインターンシップ、福祉職場体験実習、裁判所見学、地元の川の清掃活動などを実施している。また、生徒全員が外部講師から職業体験を聞ける機会を、学校開放事業として設けているほか、修学旅行などの地域間交流体験活動を行っている。
  これらの幅広い地域との交流活動を通じて、高校が地域の多様な人々の交流の核となるとともに、生徒の自主的な活動(生徒会活動、部活動、文化祭など)の活性化や、生徒の社会性や地域に対する理解が高まるなどの効果がみられている。

<学校データ>

児童生徒数 ・・・ 620人
  実施学年 ・・・・ 全校生徒
  実施時期 ・・・・ 年間を通じて実施
  教育課程への位置づけ・・・ 教育課程内外を通じて実施

(4)家庭にとっての成果

  家庭についても、子ども達が地域間交流体験活動を通じて、日常生活では得がたい経験を獲得し、その成果を家庭において共有すること等により、学校の教育活動に対する理解が深まるとともに、各家庭においても、例えば子どもが地域間交流体験活動の終了後に、受け入れ地域のことや体験活動を通じて得たことを積極的に話題にするなど、家庭におけるコミュニケーションが深まるなどの成果が挙げられている。
  また、当初は子どもが家庭を離れて遠隔地に出かけていくことに不安を抱いていた保護者が、実際に子どもを行かせた結果、子どもの成長を実感するとともに地域間交流の意義を理解し、子どもの卒業後も地域の学校が実施する地域間交流体験活動に積極的に協力しているなど、学校教育への家庭や地域の協力体制が充実したなどの成果もみられた。

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-- 登録:平成21年以前 --