就学前教育と小学校の連携に関する総合的調査研究

愛媛県

1 研究テーマ及び研究の観点

1  研究テーマ

~子どもがつながる、教職員がつながる、保護者がつながる、育ちがつながる、幼保小連携~

2  研究の観点

○幼稚園・保育所・小学校の連携を図った指導内容・指導方法

 9年間を見通した中で、接続期に焦点を当て、カリキュラムの構成や段差への対応について研究する。

○幼稚園・保育所・小学校の適切な異年齢交流

 幼児・児童それぞれの発達や保育・教育内容を踏まえて、豊かな心やかかわる力をはぐくむ交流の在り方を探る。

○幼稚園・保育所・小学校間の連携体制の構築

 計画的、継続的な教職員間の交流の在り方について研究し、相互理解を深める。

2 地域の概要

       (H19.5.1現在)

愛媛県 幼稚園数 保育所数
公立 私立
81 101 333

 本県においては、公立幼稚園のほとんどが、幼小の交流活動、合同研修、連絡協議会等何らかの形で小学校と連携している。また、県が毎年6箇所の幼稚園・小学校を指定して連携の在り方について探り、交流活動の工夫や教職員の相互理解において効果をあげつつある。しかし、交流活動の深まり、カリキュラムへの位置付け、相互理解の深化、私立幼稚園や保育所との連携などに課題も見られる。
 その中で西条市は、子ども一人一人の心身の調和のとれた発達を助長し、人間性の基礎を培う教育を推進するため、保・幼・小・中の関連を重視した教育の充実を図る取組を進めるとともに、平成16年度に開設された幼保連携施設を中心として、幼稚園と保育所の連携を図るための取組も進めている。

3 研究協力機関

 公立幼稚園 1園、保育所 1所、小学校 1校 

  • 西条市教育委員会
  • 西条市立東予南幼稚園
  • 西条市立東予南保育所
  • 西条市立吉井小学校

4 研究の内容及び方法

1 県における取組
 

内容 対象 方法等
実態調査 全公立幼稚園及び全小学校
  • 県内の連携状況を幼稚園、小学校それぞれの立場から調査を行う。
  • 子ども、教師、保護者間それぞれの交流対象や内容、カリキュラムへの位置付け、情報提供の様子等を調査する。
アンケート調査  研究発表会参加者
  • 公開保育・授業及び研究発表について、自校園の取組について、連携に取り組んでよかったことや課題、お互いの立場へ望むこと等を調査する。
幼稚園主任教諭
  • 連携をして思うこと、小一プロブレムについて、入学後小学校から提示される課題、小学校に理解してほしいこと等を調査する。
小中初任者研修
5・10年経験者研修
小中学校初任者
小中学校5・10年経験者
  • 交流保育・授業の参観、講話、研究協議等だけでなく、実際の保育参画を通して異校種理解を図る。
幼小関連訪問 各年県内6幼稚園・小学校
  • 地域の実情に即した幼小の連携の在り方を探り、教育内容や指導方法の相互理解を深める。
  • 保育や授業、集会等を近隣園校に公開し、連携上の諸問題について研究協議を行う。
リーフレット配布 県内国公私立保育所・幼稚園・小学校
  • 学びや育ちをつなぐ就学前教育と小学校の連携について、県内に広く啓発普及を図る。
幼小の人事交流 3市町3組
  • これまでの校種での経験を生かし、それぞれの園校で小一プロブレムに対応したり、新しい校種の理解に努めたりする。

 

2 市における取組
 

内容 対象 方法等
交流活動の推進 各小学校
  • 市の教員総会時に、中学校区を中心に市の教育基本方針を説明し、近隣の幼稚園・保育所の幼児との交流活動の推進について呼び掛ける。
子育て講座
教育相談 
就学前幼児の保護者
  • 就学時健康診断の機会を捉えて、保護者の入学に対する不安を払拭するために子育て講座を開く。
  • 幼児の育ちをなめらかにつなぐために、教育相談の結果を加味しながら、新入学児について情報を共有する場をもつ。
特別支援教育講演会 幼・保・小・中教職員
  • 特別支援教育における幼・保、小、中の連携の大切さについて、大学教授、准教授による講演を行う。
  • 幼・小・中教職員対象の会に保育士の参加を呼び掛ける。
教科外研修会「幼児教育部会」 幼児教育主任
  • 本事業の趣旨説明をし、幼保小連携についての啓発を行う。
  • 園長、小学校教頭が両方の立場から指導助言を行う。
  • 大学教授を講師として招聘し、幼児期からの体づくりの連携に役立つ実技研修を行い、幼稚園、保育所へも参加を呼び掛ける。
  • 中間発表会・研究発表会へ参加し、幼保小連携について学び合う。
リーフレット配布 地域の就学児の家庭
市内の保育士
県内の園長
  • 小学校入学に向けての不安を取り除くためのリーフレットを作成し、配布する。
  • 公立私立合同の保育部会で配布し、連携の取組を紹介する。
  • 県内に広く啓発するため、園長等の研修会で連携方法の参考資料として配布する。

 

3 研究協力機関における取組
 

内容 対象 方法等
「育てたい姿」の系統表 3歳児~6年生
  • 共通テーマのもと、育てたい子どもの姿を決め、3歳から小学校高学年までの実態を洗い出し、援助・支援計画を立てる。9年間の育ちについての見通しをもち、共通理解を図る。
接続期のカリキュラム構成 5歳児後半~入学後の1学期
  • 育てたい姿に向け、幼稚園・保育所と小学校の保育内容・学習内容を配列する。
  • 就学前については、幼稚園と保育所の連携を図り、活動や人間関係を拡充していく。
段差への対応 5歳児1月~1年生5月
  • 育ちへの長期の見通しをもちつつ、滑らかに学校間を接続できるように、日課、活動内容、指導方法等について、具体的な工夫・改善を試みる。
異年齢交流 5歳児と1年
5歳児と1・2年
5歳児と3・4年
5歳児と全校児童
  • 年間交流計画を立て、対象年齢によって活動内容を工夫する、ねらいを明確にもつなどの点に留意して実施する。
『なかよし遠足、青空給食、里帰りジャガイモ掘り、水遊び、基地作りをしよう、音の広場、本と友達になろう、学校探検、小学校は楽しいよ、自由遊び など』
合同推進委員会 園長、教頭、双方の主任、主に交流にかかわる担任
  • 月に1回程度会を開き、主に交流活動計画、保育や授業の教材研究、情報交換等を行う。
合同研修会 幼稚園・保育所・小学校の全保育士、教師
  • 年間4回、大学准教授の講演等により、幼児児童の発達段階についての理解を深めたり、保育・授業に関する教材研究等の共通理解を図ったりする。
相互の参観・参画 幼稚園・小学校教諭
保育所保育士
  • 1学期の間に保育所・幼稚園・小学校参観を実施する。
  • 保育士、幼稚園教諭が小学校の授業に参加する。小学校教員が夏休みに1日保育体験を行う。
  •  小学校教員が夏休みに1日保育体験を行う。
保護者アンケート 5歳児の保護者
  • 入学に当たって、どんな子どもに育ってほしいか、入学について心配していることなどの内容について、アンケートを実施する。
就学時健康診断時のアドバイス 就学前幼児の保護者
  • アンケート結果を受け、質問全てに小学校教員が丁寧に回答する。
  • 先輩保護者が入学当初の子どもの様子や生活について話をする。
便りの発行 幼稚園・保育所・小学校の保護者
  • 園便り、学年便り等で交流活動の様子や子どもたちの声を家庭に届ける。

  

5 研究成果及び今後の課題

1  研究協力市町等における成果と課題

 成果

○幼・保・小がともに育てたい子どもの姿を共有することで、9年間の見通しをもって指導内容・指導方法を工夫することができた。また、入学前後に双方で何が大切かという確認のもと、5歳児後半から1年生1学期までの保育内容・学習内容を配列した接続期のカリキュラムを構成したことで、小学校への円滑な接続を図ることができた。また、生活科や戸外での活動、表現活動を取り入れた学習を多くするなど、入学当初の時間割の工夫や積み木や折り紙を用意し、登校後や休み時間に自由に遊ぶことができるオープンスペースの設置により、幼児は、スムーズに小学校生活にとけ込むことができた。
○年間を通じて、20数回にわたって幼稚園・保育所、小学校を行き来し、直接体験となる異年齢交流を重ねたことは、幼児にとって、小学校の施設や先生、児童に対して親しみの気持ちが生まれ、実感を伴った安心感を得ることができた。小学校生活に対する期待感を高め、入学後の学校への適応や友達関係づくりに大きな効果があった。また、児童には、幼児を思いやった言動や尊重した言動が多く見られるようになるとともに、自分自身の成長を自覚して自信をもち、日々の生活に活気が見られるようになった。
○幼児と児童が共通の目的に向かって工夫・協力するような活動を取り入れるなど、ねらいを明確にし、お互いに恵みのある交流になるよう活動を工夫することにより、幼児は、小学生から活動の刺激を受け、日々の保育の充実・発展につながった。また、児童も目的意識や対象意識がはっきりし、学習に深まりがみられた。
○講演等で学習する機会に加え、保育士・教師が保育や授業を実際に見合ったり体験したりすることで、子どもの発達や指導内容・指導方法について、理論と実際が結びつき相互理解が進んだ。また、交流活動に関して、時間を調整して何度も顔を突き合わせて協議し、計画から考察までをしっかり行う過程で、独自性を大切にしながら連携するという意識が高まった。
○職員間の連携が保護者からの信頼につながった。また、保護者同士のつながりを支えたり、保護者に情報を発信したりすることにより、連携に対する理解が得られ、入学に対する不安の軽減につながった。

 課題

●数々の交流は、直接連携校へ入学しない幼児にとっても、小学校という環境を体験する場としてはある程度の効果があったと思われる。しかし、園区が広域自由化し、多様な小学校へ入学する状況が増加傾向にあることを考えると、就学時健康診断や入学説明会といった入学対象児が全て訪れる機会の場を捉えた交流活動のより一層の工夫、充実が望まれる。
●会を重ね本音で話し合ったことが、真の相互理解につながったことを実感している。これまで研究してきた中で生まれた信頼感や共通理解が、異動によって薄れないよう、教師間交流の研究体制づくりの努力と工夫を行うことが最も大切である。

2 愛媛県における成果と課題

 成果

○本事業と県単事業である幼小関連訪問の連携を図り、お互いの実践の場を見合ったり、指導主事が情報を提供したりするなど交流し合うことで、お互いの研究が深まった。また、それぞれの研究発表会を広く県内の保育所、幼稚園、小学校に公開することで、参加者に連携の必要性を伝えることができ、県内における幼保小の連携が進んでいる。
○小・中・県立高校の基礎研修において、異校種研修として幼児教育に触れる機会を提供したことにより、幼児教育や連携教育についての理解を広げることができた。
○本事業と県単事業の成果を一つのリーフレットにまとめて、県内の各保育所・幼稚園・小学校へ配布した。次年度もこの幼小関連訪問を継続し、その場でこのリーフレットを活用し、連携の大切さについて啓蒙に努めたい。

 課題

●私立幼稚園との連携、大規模園校の連携、遠距離園校の連携、保育所との連携など難しさを感じている地域に対して、実態に応じた無理のない連携方法を伝えるとともに、今後は、連携園として積極的に私学幼稚園や保育所も推奨していきたい。

 

参考:研究テーマのキーワード

幼・保・小連携、幼児と児童の交流、幼稚園と小学校の教員の相互理解、家庭との連携、人とかかわる力、研修、接続期のカリキュラム、保育・授業の参観・参画

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初等中等教育局幼児教育課

-- 登録:平成21年以前 --