就学前教育と小学校の連携に関する総合的調査研究

山口県

1.研究テーマ及び研究の観点

(1) 研究主題

    「育ちと学びをつなぐ幼保・小連携の在り方 ~かかわり合い、学び合い、育ち合いを豊かに~」

(2) 研究の観点

  1. 県が実施する「幼児教育長期研修」派遣教員を推進役とした、幼児・児童理解及び就学前教育と小学校の相互理解を目的とした合同研究の在り方
  2. 幼児・児童それぞれの発達や教育・保育内容を踏まえ、人とのかかわりを豊かにする適切な異年齢交流の在り方
  3. 幼稚園、保育所、小学校の連携を図った指導内容・指導方法の在り方
  4. 地域、保護者、関係機関の協力による円滑な移行を図るための連携体制の構築
  5. 「幼児教育長期研修」の成果普及と幼保・小一貫指導の推進を目的とした情報交換・ネットワークづくり
  6. 県内への幼保・小一貫指導の推進を図る情報発信

3.地域の概要

(1) 公立、私立の幼稚園数、保育所数

   山口県    公立幼稚園 60園 私立幼稚園143園 保育所315所

   山陽小野田市  公立幼稚園  1園 私立幼稚園  5園 保育所 17所

(2) 研究テーマに関するこれまでの取組や課題等

 山口県では、就学前教育と小学校の連携について、幼保・小一貫指導のための指導資料「つながる子どもの育ち」を県下全ての幼稚園、保育所、小学校に配布し、子どもの育ちや学びの連続性を踏まえた幼保・小一貫指導を推進している。小学校教員を幼稚園及び保育所に1年間派遣し、幼児期の育ちを踏まえた小学校低学年での指導の在り方について研修し、本県における幼保・小一貫指導の推進に資する人材を育成することを目的とする「幼児教育長期研修」を平成16年度から実施している。
 山陽小野田市の埴生地区には、小学校を中心に比較的近距離に幼稚園と保育所が設置されているため、それぞれの相互交流が積極的に行われている。平成17年度には「幼児教育長期研修」により、埴生小学校教員1名が埴生幼稚園に派遣され、その成果を本調査研究に生かすとともに、1校3園の子どもたちの交流を通して連携を深めている。

3.研究協力機関

   公立幼稚園 1園、保育所 2所、小学校 1校

4.研究の内容及び方法

(1) 県としての取組

1 山口県就学前教育と小学校の連携に関する活動検討委員会の開催

  • 研究協力地域(山陽小野田市)の取組や「幼児教育長期研修」派遣教員の実践の成果を踏まえ、成果と課題を協議した。
  • 「幼保・小一貫指導に関する実態調査」を実施し、就学前教育と小学校の連携の状況を把握するとともに、幼保・小一貫指導推進の成果と課題を検証した。

2 山口県就学前教育と小学校の連携に関する活動検討委員会ワーキング会議の開催

  • 県内7地域、計15名の「幼児教育長期研修」派遣教員がこれまで幼保・小一貫指導を推進してきた取組を発表・情報交換し、今後の実践や、各地域での成果普及に生かすことができるようにした。
  • 県内各地域における「幼児教育長期研修」派遣教員の連携を図るネットワークづくりを推進し、県下全域への研究成果の普及を図った。

3 県内への幼保・小一貫指導の推進を図る情報発信

  • 県内の各市町や小学校区・ブロックごとの幼保・小一貫指導の取組や「幼児教育長期研修」派遣教員による園内・校内研修サポートを案内する「就学前教育と小学校の連携の推進~幼保・小一貫指導をめざして~」リーフレットを作成・配布した。
  • 「幼児教育長期研修」派遣教員による幼稚園や保育所の遊びにおける学びの姿と小学校の学習へのつながりの報告、小学校の指導方法の工夫・改善、各地域の幼保・小の連携体制づくり等の実践事例を山口県義務教育課Web「つながる子どもの育ち」に追加掲載した。

(2) 研究協力地域及び研究協力機関としての取組

1 研究の視点

 調査研究実施要項に示されている研究の観点「指導内容・指導方法の在り方」「適切な異年齢交流の在り方」「連携体制の構築」に基づいて、下記の3点を研究の視点とした。

      ア 幼児・児童理解

    ・幼児・児童の発達課題と援助・支援例
    ・適切な指導内容・指導方法の在り方
    ・適正就学の在り方
    ・保護者の子育て意識の把握

      イ 教育活動

    ・発達課題を踏まえた授業づくり(「埴生版つながる子どもの育ち」を生かした授業)
    ・学級・学年・同年齢とのかかわり合い
    ・異校種・異年齢・異学年とのかかわり合い
    ・かかわり合い、学び合い、育ち合いを豊かにする合同保育・授業(適切な異年齢交流活動)

      ウ 職員間・保護者の連携

    ・合同研究会の実施
    ・相互保育・授業参観の実施
    ・保護者への啓発
    ・保護者の就学不安の把握

  2 1年次の実践

      ア 幼児・児童理解について

   (ア)幼児・児童の実態把握(保護者アンケート)
   (イ)「埴生版つながる子どもの育ち」の作成
   (ウ)「すくすくシート」の作成    

      イ 教育活動について

   (ア)異年齢交流活動の実施
   (イ)3園1校の生活時程の比
   (ウ)小学校1年生の初期における指導方法の工夫

      ウ 職員間・保護者の連携について

   (ア)教職員の相互理解を図るための連携体制の充実 
   (イ)保護者と地域の連携を図るための啓発活動の実施
   (ウ)教職員及び保護者理解のためのアンケートの実施

    2 2年次の実践

    1年次の取組をもとに、3つの研究の視点をそれぞれ効果的に連動させ、以下6つの視点から研究を推進した。

      ア 幼保・小における一貫性のある援助・支援・指導

          「埴生版つながる子どもの育ち」を実証しながら、今後活用しやすいものに仕上げる。

      イ 1日の生活時程の弾力的な活用や指導方法の工夫等

          接続期の子どもが、段差を乗り越えやすいような援助・支援・指導を行う。

      ウ 幼保・小における一貫性のある環境構成の構築

          幼保・小が互いの教育について情報交換を行い、理解を深める。

      エ 合同保育・授業及び園内での異年齢活動

          年長児と小学生が、合同保育・授業や園内・校内での異年齢交流をとおして、互恵性のある活動を行う。

      オ 保護者への啓発

          たよりや参観、研修会等をとおして啓発を行う。

      カ 合同研究をとおしての教職員研修及び交流

          合同研究会を実施し、本研究についての認識を深める。

(3) 教員免許の併有のための取組   

  免許法認定講習において、幼稚園、小学校教員免許取得に係る科目を開設した。

   平成18年度:幼稚園教員免許1科目、小学校教員免許7科目

   平成19年度:幼稚園教員免許1科目、小学校教員免許4科目                  

5.研究成果及び今後の課題

(1) 研究成果

  • 県内では、幼保・小の交流活動や合同研修等を通じて、約5~8割の幼稚園・保育所・小学校で教員や保育士の相互理解が深まっている。異年齢交流を通じた幼児の遊びと児童の学びの充実については、特に、近隣に位置する場合が多く交流活動が行いやすい公立幼稚園と小学校において成果が上がっている。
  • 「埴生版つながる子どもの育ち」を作成したことで、年少児の3歳から小学校6年生の12歳までの発達課題や、それぞれの年齢に応じた指導のポイント等が少しずつ把握できるようになった。
  • 今年度の1年生について、入学前に関係の幼稚園・保育所の協力を得ながら「すくすくシート」を活用した。園での生活の実態や配慮すべき点などを事前に把握することができたため、個に応じた適切な支援を進める上で大変効果的であった。
  • 接続期(1年生)の児童にとっての段差として、「時間」「場」「もの」という視点からの手立てが見えてきた。小学校入学直後は特に、1日の時程の中で、朝の活動時間や給食時間をゆったり落ち着いた生活になるように配慮した。また、1単位時間を弾力的に運用して生活することは、子どもの集中力や興味・関心をうまく持続させるために効果的であった。
  • 異年齢の交流活動は、幼保・小いずれも同一年齢(学年)での活動では得られない効果を得ることができた。年長者にとっては、年少者をいたわる姿やリーダーシップを発揮することができた。年少者にとっては、年長者へのあこがれや尊敬の思いが感じられるようになり、かかわり合いを通して様々な技術や知恵を習得することができた。
  • 幼稚園・保育所での保育と小学校での授業について情報交換を行うことで、幼稚園・保育所の環境構成の工夫を小学校においても積極的に生かすことができるようになった。
  • 幼保・小の教職員の交流によって、互いの教育体制のよさや違いを直に確認し合うことができたことで、改めて幼保における保育、小学校における教育の工夫・改善に生かすことができた。                                        

(2) 今後の課題

  • 埴生小校区は、3園1校による連携であったが、市内の複数の幼稚園や保育所からの入学児童がいる。連携の意義を広く近隣校区や市内へも広げ、幼保・小の連携をさらに充実したものにすることが大切である。
  • 幼保・小の交流を行う際には、題材(学習材)をよく吟味しなくてはならないことが分かった。抽象的で想像力を必要とするものよりも、年長児の生活経験に基づく具体的なものを提示しながらの活動の方が効果的であるように思われる。
  • 指導方法や教育課程・指導計画の工夫・改善は、今後の取組が必要であり、「幼児教育長期研修」の実践事例や調査研究の成果を広く普及させることが必要である。
  • 幼児児童の交流や教員・保育士の相互理解は深まってきているが、保護者の期待や不安に応える子育て支援や家庭との連携等については、今後の課題である。

    

参考:研究テーマのキーワード

幼・保・小連携、幼児と児童の交流、幼稚園と小学校の教員の相互理解、家庭との連携 、 地域との連携、特別支援教育、道徳性の芽生え、人とかかわる力、基本的な生活習慣、 幼児教育長期研修、つながる子どもの育ち、異年齢交流 

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-- 登録:平成21年以前 --