就学前教育と小学校の連携に関する総合的調査研究

奈良県

1.研究テーマ及び研究の観点

  研究テーマを「幼稚園から小学校への滑らかな接続を目指して~幼小における子ども観、指導観の違いを克服する接続期の実践」とし、めざす子ども像を共通理解した上で研究を進めていくことにした。幼稚園の生活や遊びの中で子どもたちが培った学びを明らかにし、小学校での学びにどうつなげていくのか、生活にどう生かすのかを検討して、接続期のよりよい教育の在り方について研究を進める。

2.地域の概要

 奈良市は、公立幼稚園39園、私立幼稚園13園、保育所43カ所が設置されている。小学校とは、各園・保育所とも行事での参加や招待、入学前の連絡会などを中心としてつながっているが、子どもの発達や学びの連続性を意識して互いの教育をつなぐ取組を進めるまでに至っていない。

3.研究協力機関

   公立幼稚園1園、 公立小学校2校

4.研究の内容及び方法

  • 保育・授業の相互参観、合同協議等によって、幼児・児童の発達を理解し、教員の意識改革に努める。
  • 幼稚園と小学校それぞれのねらいを踏まえた計画的な交流活動や合同授業を通して幼児と児童の異年齢交流を行い、コミュニケーション力や豊かな心情をはぐくむ。
  • 取組を重ねることにより、幼稚園教育の充実や小学校の指導の在り方などについて研究を深める。
  • 幼児の学びの姿をとらえた接続期のカリキュラム(案)を作成する。
  • 地域、保護者との連携を深め、就学前教育と小学校教育との連携について理解を深める。

  【研究組織】  

 奈良市幼小連携連絡協議会を中心に、奈良市の公立幼稚園・小学校の連携の実態から研究主題を設定し、研究の内容や方法を検討しながら、奈良市の幼小連携推進モデル校園である佐保幼稚園と佐保小学校・佐保川小学校において、作業部会を設け実践研究に取り組む。作業部会は、実践研究から得た具体的な成果や課題、評価を奈良市幼小連携連絡協議会に報告し、研究協議指導助言を受け、さらによりよい連携の在り方を模索する。

奈良市幼小連携連絡協議会の概要

 

5.研究成果及び今後の課題

 1 研究成果

  • 取組にあたり互いの教育内容を知ることが何よりも大切であると考え、幼稚園と小学校の教員が、相互参観をして子どもたちの実態把握をしたり、援助や指導の方法の違いを理解することは、自分の保育や授業の展開、子どもの見方を振り返るきっかけになった。
  • 研究協力3校園で、「めざす子どもの姿」を考え視点を明確にして実践をしたことによって、自分の思いを話す力、人の話を聞く力、友達と仲良くできる力など、「子どもに育てたい力」がはっきりとし、子どもの育ちを一貫して見ていくことができた。
  • 交流活動や合同活動は、「いきものランドであそぼう」のように、その内容によってどちらか一方が主になる活動と、「秋見つけに行こう」や「みんなでいった奈良公園を作ろう」のように双方全く対等な立場で活動するものとになることがわかった。幼児を招待して活動するものは児童が主体となる「交流活動」とした。児童は、幼児にわかりやすく説明するにはどうしたらよいかと工夫したり、幼児を前に頑張ろうとする意欲や態度が見られたりして、年長者としての意識がうかがわれた。幼児にとっては、小学校に招待されて楽しく活動できる経験は入学への期待となり、生活科などの学習を体験できるよい機会となった。また、合同遠足から共同作品を作る活動のように幼児と児童が対等の立場で活動したものは「合同活動」とし、幼稚園と小学校の教員が共同で活動案を作成し、準備し、共に指導して実施した。特に幼小それぞれが活動のねらいをもち、発達段階に即した指導、支援をしながら実践した「みんなで行った奈良公園を作ろう」では、素晴らしい作品を完成させることができた。児童は、みんなで力を合わせて作り上げた喜びや楽しさや友達の作品の素晴らしさを感じることができ、満足感や達成感を味わうことができた。幼児も楽しかった思いや一緒に完成できた喜び、また1年生への憧れをもつこととなった。
  • 保護者に対して行ったアンケート調査の結果をふまえ、これまでの入学説明会の内容や方法を見直し、保護者の気持ちを大切にして入学後の生活や学習、児童の様子を知らせながら具体的に説明したことは、保護者の小学校に対する意識改革や入学への不安軽減につながった。
  • 入学に伴う子どもたちの期待感や緊張感がよい形で小学校の生活や学習につながり、指導の流れが一貫したものになるためのカリキュラムを、連携活動や合同活動をもとに作成した。育てたい子どもの姿を共有するなかで、小学校においては、生活、国語、音楽などの教科の内容や学校行事との関連を見直して工夫することにし、幼稚園では、小学校との交流活動、合同活動を考えた保育内容を、子どもの学びの姿に関連させたものになっている。この作成により、教員自身一年間の取組の振り返りができると共に幼児の学びや発達をさらに確認できるものとなった。
  • 3校園合同の保護者交流会は、安心して入学させたいという保護者の思いに沿った話し合いの場となった。話しやすい雰囲気の中で保護者はそれぞれ不安をもっているということの共有と、安心して話ができる保護者が幼稚園にも小学校にもいることを実感できた。また、就学させた経験のある保護者からは、先を見通した意見を得ることができ、今後も開催の継続を望む声が多くあった。

 2 今後の課題

  • 子どもの発達や学びが連続したものであるということや、互恵性のある連携を進めるという視点で考えると、接続期のみの連携にとどまらず、年齢幅のある学年との交流や連携も進めていくことが必要である。幼稚園・小学校においては校内の連携体制作りをも進めることが大切である。
  • 限られた時間の中での交流・合同活動になるため、内容によっては中途半端に終わってしまう恐れがある。ねらいをはっきりもち、内容を精選し、事前の話し合いを十分に行うことが必要である。また、交流活動においてはまだまだ一方が受け身になってしまう傾向があるので、子どもの様子を見極めながら、教員相互の積極的な働きかけが必要である。
  • 2年間の研究が保育・教育の内容について考えることに終始してしまい、体験したことを幼児・児童が生活に生かせているかを見極めるところにまで至っていない。今後は、活動後の成果がどのような姿として現れているかを、園での遊びや家庭生活の中で検証するため、保護者からの聞き取りや園・小学校生活での振り返りをとおして追跡していきたい。
  • 複数の校園が共に活動する際にはグループ作りや移動などに於いて予想以上に時間がかかるため余裕をもった行動計画を立てる必要がある。
  • 多くの園から入学児を迎える小学校においては、時間的にも物理的にも無理があり、連携の難しさがある。
  • 就学前教育は保育所との連携においても進めなければならない。今回の研究協力校園の中に保育所を入れることができなかった理由には、地域の実態があった。各校園の立地条件や地域性を考えながら、連携体制や具体的な取組をさらに工夫していく必要がある。
  • 幼小連携の必要性をPTAだけでなく、地域住民にも広く啓発し、理解と協力を得ることも大切である。

 

参考:研究テーマのキーワード

幼小連携、幼児と児童の交流、幼稚園と小学校の教員の相互理解、カリキュラム、接続期

 

お問合せ先

初等中等教育局幼児教育課

-- 登録:平成21年以前 --