就学前教育と小学校の連携に関する総合的調査研究

岐阜県

 1.研究テーマ及び研究の観点

  【岐阜県】

◇研究テーマ 「つなぐ・つながる教育で、子どもたちの心と学びをつなげる」

◇研究の観点

  1. 教員、保育士相互の教育内容等の理解推進及び連携の在り方
  2. 「共に育ち合う」幼児・児童の交流活動の在り方
  3. 接続時期のカリキュラムの連携・策定の在り方
  4. 就学前教育施設と小学校、家庭との連携等

◇研究の目的

 幼児期の発達の特性に即した必要な体験や遊びにより、様々な心情や態度を育てつつ、教科の学習や多くの集団で協同的に学ぶ小学校教育に心地よい緊張感と意欲をもって適応できるよう、就学前教育と小学校教育の連携における調査研究を進める。

 【大垣市】

◇研究テーマ 「心と学びの連続性を求めて-様々な交流活動を通して-」

◇研究の観点

  1. 幼児教育のねらいに沿ったつけたい力を明確にした実践的研究
  2. 発達の特性を生かした幼児・児童が共に学び合える交流活動の工夫
  3. 保育所・幼稚園の保育者と小学校教諭が共に指導性を発揮する指導の在り方

 【高山市】

◇研究テーマ 「保育所や幼稚園の生活から小学校生活への移行の円滑化をめざして」

◇研究の観点

  1. 幼稚園、保育所、小学校間の連携体制の構築
  2. 教員、保育士相互の理解
  3. 児童と園児の交流の推進

2.地域の概要

 【岐阜県】

 本県の幼児施設数は、公立87園、私立102園、認可保育所が公私計446所である。幼稚園においては、私立幼稚園に入園する幼児が圧倒的に多く、また、平成16年をピークに幼稚園就園率は減少し、平成18・19年度は半数をきっており、本県においても保育所入所児童が増加している。こうした現状の中で、幼児教育施設が共に保育の質的向上を図るために切磋琢磨している。教育課程研究協議会では、近年保育所からの参加希望者も増え、実践資料の質的な高まりが見られる。また、本県では、公立・私立の幼稚園が一緒になって研究推進する組織も設置されており、長年にわたって、研究テーマをもって研究推進にあたっている。
 県内の幼保小連携の実態は、就学指導、生徒指導が最も多く、相互授業参観、交流活動が続いて多い。しかし、連携の実態をよく見ると、保育者と教師が相互に教育内容の違いを十分理解しているとは言い難い。そうした意味で本県では、就学前教育と小学校の連携を充実していく必要がある。

 【大垣市】

・幼稚園、保育所、小学校の設置状況       (平成19年4月1日現在)  

  幼稚園 保育所 小学校
国立 公立 私立 国立 公立 私立
施設数 0 17 2 公立15
私立16
0 22 0
幼児・児童数 0 886 341 4,248 0 9,618 0

   ※公立幼稚園の中に幼保園(赤坂・綾里)を含む。

 【高山市】

・平成17年2月に高山市と9町村が合併。東京都と同じ面積を占める。

           (平成19年4月1日現在( )内は平成18年4月1日現在)

  幼稚園 保育所 小学校
国立 公立 私立 国立 公立 私立
施設数 0 0 3 公立13(14)
私立11
0 21(24) 0
幼児・児童数 0 0 432 2,784 0 5,790 0

・旧町村部(以下支所地域という)では、1小学校1保育所という設置状況が殆どであるが、旧市内(以下高山地域という)では、1つの小学校に10以上の保育所、幼稚園から園児が入学する。

3.研究協力機関

 【岐阜県】岐阜県幼保小連携連絡会
        大学関係者、教育委員会関係者、小学校長会長、幼稚園長会長で構成

 【大垣市】公立幼稚園 1園、保育所 2所、小学校 1校、大垣市保幼小連絡会

 【高山市】私立幼稚園 3園、保育所 24所、小学校 21校

       高山市福祉保健部子育て支援課・健康推進課

       高山保育研究協議会・高山幼稚園連合会

4.研究の内容及び方法

 【岐阜県】

 研究の観点に即して、各研究指定地域の実情に応じて実践研究を進め、岐阜県幼保小連携連絡会において実践交流を実施し、県内にモデル的な事例等を協議、普及する。以下は、各指定地域の研究内容である。

 【大垣市】

(1)保育士・幼稚園教師・小学校教諭の相互交流

  保育および授業の相互参観を通して、指導内容・指導方法と幼児・児童の発達についての理解を深める。

  1. 保育研修:夏休みに幼稚園教諭、小学校教諭が保育所に出向いて保育研修を行う。実際に保育に携わる。
  2. 合同授業:保育士、幼稚園、小学校教諭がTTによる授業を行う。
  3. 合同研修:保育所研究会、幼稚園教育研究会に保育士、小学校教諭も参加し、実際の授業公開、幼児の姿を通して研究を深める。また、保育所保育指針・幼稚園教育要領に関する研修会を開き、互いに内容の理解を深める。
  4. 人事交流:幼稚園教諭と小学校教諭との人事交流を行う。就学前幼児の発達や指導を踏まえた幼稚園・小学校低学年の指導の在り方を明らかにする。
  5. 生徒指導交流:1年生の生徒指導交流会に保育士・幼稚園教諭が参加し、幼児・児童の発達の段階や継続的な指導について話し合う。

(2)意図的、継続的な交流活動の在り方

  1 豊かな人間関係を培い、人とかかわる力を身に付ける交流活動の在り方を探る。
  2 小学校に入学後、共通の歩み出しができるように、保育所と幼稚園において「共有体験」を設定する。
   ・「聞き方・話し方」の系統表を作成し、活動後に協議し、意図的に指導していく。
   ・小学校の授業や施設を参観することにより、小学校を身近に感じ、入学への期待感を高めるようにする。
  3 子どもの発達段階に合わせて年間計画を練り直す。

 【高山市】

(1)連携推進体制の確立

  • 幼保小連携推進研究会の設置と開催。(高山市内全市の就学前教育施設と小学校の代表者及び教育委員会、福祉部関係者による会)
  • 特に幼児・児童の交流活動をどう進めるかについて話し合い、方向性を見いだす。

(2)保育者・小学校教師の相互の共通理解

  • 幼稚園教諭、保育所保育士を対象に、市内全小学校1年生の授業公開を実施、参観後は懇談会を行い、卒園した児童の小学校での生活の交流や指導の連続性を図れるよう、意見交流を行う。
  • 幼稚園教諭、保育所保育士が一小学校の教育公開を参観し、小学校の教育内容について研修を行う。
  • 「就学までに身につけたい力」を幼保小合同で作成した。発達や各施設での教育内容等を相互に理解しながら話し合いを進める。また、保護者に負担感のないよう、希望をもって入学できる方向での話し合いを進める。
  • 幼児教育に造詣が深い講師を招いての講演会に小学校教師も参加する。

(3)幼児・児童の交流活動の工夫と方法

  • 特に旧高山市内は、私立幼稚園と保育所の各園から幼児が小学校へ入学してくるため、幼児・児童にとって効果的な交流活動の在り方を工夫する。

(4)幼稚園、保育所から小学校への引継ぎの充実(就学指導の充実)

  • 「新就学児情報連絡票」(高山市で作成したもの)を活用した引継ぎを密に行う。幼稚園、保育所の特に配慮が必要な幼児に対して個票を作成し、指導の連続性を図る。

(5)就学前と小学校入学時までに身に付ける生活習慣等の保護者への啓発

  • 市内の年長児全保護者に対して、全小学校が1年生の授業を公開する。
  • 年長児保護者に「就学までに身につけたい力」を配布し、子育ての一つの指針にするとともに、就学前の施設には4月に配布し、1年後の姿を明らかにする。

5 研究成果及び今後の課題

(1)研究成果

  • 授業、保育参観を実施したり、保育参加をしたりしたことにより、保育者と小学校教諭が互いの教育理念や教育内容、教育方法の違いを理解することができた。そのことにより、「異なる教育」を前提として、どのように就学前教育と小学校教育とを効果的につないでいくかが教師、保育者の課題となり、有意義な連携が整備された。
  • 幼児・児童の教育活動を参観し、懇談会を充実させたことにより、発達の過程も明確になった。「心と学びの連続性を図るための付けたい力」や「就学前までに身に付けたい力」等の発達と指導の系統性を協議していく中で、同じ視点で指導を進めることができたとともに、互いの認識のギャップが明確になり、それぞれの役割をさらに認識することができた。
  • 保育士と小学校教諭が協同して交流活動の指導案を作成したことにより、互いのねらいや指導内容を達成する交流活動の内容、幼児・児童が共に自己発揮して活動するための環境構成や指導・援助の在り方が明確になった。また、この取組を通して、職員相互が気楽に話し合える関係が構築できた。
  • 全学年で交流活動を実施してきたことにより、幼児にとって、小学校での生活について理解することができた。一方、児童にとっても、幼児と接してきたことにより校内における下級生への接し方に変化が見られるようになった。また、生活科における交流活動では、幼児の活動や表現から学ぶこともあり、その後の活動がより豊かになった。
  • 幼児の保護者は、交流活動を好意的にみており、安心感、信頼感につながっている。また、1年生の授業参観を年長児の保護者に公開したことにより、学校生活に対する安心感が生まれた。

(2)今後の課題

  • 就学前教育と小学校教育との連携による効果をさらに具体的にし、県内に普及する。また、幼稚園、保育所の相互交流ができる仕組みづくりを促進する。
  • 幼児・児童交流活動が、1年間の活動の中で一つのつながりとなるよう構築する。交流活動前の活動、当日の交流活動、自園や自校に帰っての発展的な活動となり、互いに育ちがある指導計画を工夫改善する。
  • 就学前の5歳児後半から小学校入学当初の接続カリキュラムの構築を図る。

 

参考:研究テーマのキーワード

幼・保・小連携、幼児と児童の交流、幼稚園と小学校の教員の相互理解、保育所との連携、家庭との連携、障がいのある幼児、特別支援教育、人とかかわる力、基本的な生活習慣、自ら学ぶ、聞く・話す、就学前までに身に付けさせたい力

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初等中等教育局幼児教育課

-- 登録:平成21年以前 --