2 実践編 3 警察関係

 非行防止教室等においては、少年補導職員や少年警察部門の警察官が、外部講師として、実際の少年非行情勢に直結・即応した具体的な非行事例・犯罪被害事例等を題材として直接児童生徒に語りかけることにより、児童生徒にそうした行為の持つ社会的意味を強く意識付け、規範意識の向上を図ることが期待される。また、外部講師として参加する警察側にとっても、非行防止教室等は、少年警察活動の一環として少年の非行防止を図る上での重要な施策の一つである。

(1)実施計画上のポイント

 少年補導職員や少年警察部門の警察官が外部講師として非行防止教室等に参加する際、各手続の段階毎の留意点等は以下の通りである。

A 学校側からの外部講師依頼の受諾

 学校・教育委員会が、非行防止教室等の開催を決定する際には、それぞれの学校・地域の状況に応じた開催趣旨を有している。外部講師を引き受ける警察側においても、予め学校側の状況・開催趣旨を把握し、それぞれの非行防止教室等の実施の趣旨に沿った形での参加ができるよう準備しなければならない。
 このため、外部講師としての依頼を受ける際には、1.開催趣旨・背景事情、2.対象学年・人数、3.児童生徒の予備知識の有無、等について確認し、適切な派遣者を決定することが必要である。学校側においても、これらの事項を依頼時に十分に説明することが、後々の行き違いを防ぐ上でも重要である。

B 学校側担当者との打合せ

 警察側派遣者と学校側担当者との事前の打合せについては、必要に応じ対面の形で行うことが有効である。特に、初めて訪れる学校で非行防止教室を実施する場合には、会場、使用機材の状況等を確認しておくため、学校を訪れての打合せを行うことが望ましい。また、学校を実際に訪れ、児童生徒の普段の様子等を知っておくことは、講話の内容を充実させる上でも重要である。
 事前の打合せにおいては、実施会場の様子、使用可能な機材といった物理的な事項のほか、当日の流れ(教員による補助・共同実施(ティームティーチング)の有無)、指導に当たっての留意事項(特に取り上げてほしい話題、避けるべき話題等)について確認をし、併せて学校側への要望事項(事前指導の実施等)があれば伝えておくことが必要である。

C 講話内容の作成

 非行防止教室等における講話内容については、児童生徒の規範意識向上に向け、児童生徒の発達段階に応じて、

  • 非行の誘いを断る力を身につける
  • 日常生活での危険を予測し、回避する力を身につける
  • 非行が少年自身や周囲に及ぼす影響を理解する
  • 犯罪に当たる行為、罪を犯した場合の刑罰・処分について理解する

 ことを基本とすべきである。
 また、個々の事例選定・講話作成に当たっては、更に以下のような事項に留意が必要であろう。

  1. 抽象的な表現ではなく具体的事例を用いて、児童生徒の理解が深まるような内容とする。ただし、犯罪の手口を教えるような情報は避ける。
  2. 非行を犯した場合には法的な制裁を受けるということだけでなく、事案に巻き込まれ被害に遭う、後ろめたい気持ちを引きずる、不正な行動パターンを学習してしまうため大事なときに大きな失敗をする等といった内容についても伝える。
  3. 児童生徒がおかれている地域や家庭環境を非難したり、傷つけるような内容は避ける。また、すでに問題行動を起こしている児童生徒の劣等感を助長させ、立直りの途が閉ざされていると思わせるような内容は避ける。
  4. 被害防止に関して事例を取り上げる際には、犯罪者が結果的に法的制裁を受けたことも伝える等配意する。
  5. なぜ、非行に走るのか根本的な原因(挫折体験、友人関係等)にも焦点を当てて、それらの問題解決のための方法等を示す。
  6. ある程度実績が蓄積されている場合には、具体的な講話例を集めたマニュアルを作成し、実施担当者に提供することも有効である。

(2)指導上のポイント

A 明確さ、わかりやすさ

  1. 題材として、児童生徒が身近に感じる事例を取り上げるほか、分かりやすい統計資料を利用し、説得力を持たせる。
  2. パワーポイントやビデオ、実物投影機を利用するなど、視覚に訴える教材を利用するなど工夫をする。
  3. 一方的な講話ではなく、児童生徒が参加できたり、発言できる機会を設ける(○×(まるばつ)クイズ、ロールプレイング等を導入し関心を持たせる)。なお、児童生徒の発表した内容が間違っていた場合、正しい回答を示しつつ、積極的に考え発表できたことはきちんと評価するなど配意する。
  4. 関係者間でしか通用しないような専門用語については、予め平易な言葉での言い換えを考えておく(この点については、事前の打ち合わせの際に、学校側担当者に助言を得ることも有効である。)。
  5. 保護者が参加している場合には、警察としての情報発信の機会でもあることに配意し、児童生徒を非行から守るための呼びかけを行うなど、当事者意識を持ってもらうよう留意する。

B 話し方について

  1. はっきりとした発音で、ゆっくりと話すこと。マイクの距離と自分の声の感じを聞きながら、位置を調整するとよい。
  2. 声の強弱を変える(強調したいことを強く)、間の取り方に気を付ける(大切なことを話す前は一呼吸おく)など、メリハリをつけ、単調にならないようにする。
  3. 児童生徒の反応を確かめながら話す(質問したら考える時間を与える等)。

C その他

  1. 具体的事例の説明に当たっては、個人のプライバシーの保護に注意すること。
  2. 警察組織の一員であることを自覚し、特定の個人・団体を誹謗中傷するとの誤解を与えるなどしないよう、発言・行動に留意する。また、学校の教育活動であることに配慮し、警察の立場のみからの発言とならないよう留意する。
  3. 説明に当たっては、犯罪組成物等の実物、写真、模造品を示して行うことが効果的な場合も多いが、その呈示物の取扱いには十分注意し、児童生徒の心情に与える影響等にも配慮する。
  4. 全ての学校において非行防止教室等を開催するため、現役警察職員のみでは講師が確保できない場合には、必要に応じ警察OB・少年警察ボランティア等の人材を活用することも検討する。その際には、適切な人選となるよう十分に配意する。
  5. ロールプレイングなど児童生徒の参加を得る場合には、場が混乱しないよう適宜教職員の協力を求める。
  6. このほか、「1 学校」「(2)効果的な指導のポイント」における記載事項(P18~20)も参考とする。

(3)各テーマに応じた指導内容の例

A 恐喝、暴力行為、集団リンチ、暴走行為等の集団型非行(⇒事例1,6及び10参照)

ア 実態と法の規定の理解

  • 地域の非行集団や暴走族などにより、傷害や恐喝等の粗暴犯、ひったくりや路上強盗等の街頭犯罪が目立っており、凶悪化傾向が特徴的である。
  • 集団によっては、地域非行集団や暴走族が暴力団と結びついて、上納金を強要されていた事案もある。
  • 暴力に至る動機は、「ガンをつけた(相手と目があった)」「バカにされたように見えた」「言葉遣いや態度などが生意気だ」「グループから抜けようとした」等が目立っている。
  • 集団に入ることで、罪悪感がマヒするとともに、共犯者がいることで仲間の目を意識し、行動がエスカレートしてしまう。
  • 学校内におけるけんか(生徒間暴力)、対教師暴力についても、犯罪に当たることを明確に伝える。
  • 被害者の手記等を題材として、被害者の事件後の苦悩やトラウマ等を知る。
  • 傷害罪は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に当たる犯罪。
     恐喝罪は、10年以下の懲役に当たる犯罪。
     強盗罪は、5年以上の懲役に当たる犯罪。
     ひったくりは窃盗罪で、10年以下の懲役に当たる犯罪だが、場合によっては強盗罪に当たることもあり、被害者が怪我をすれば、傷害罪や強盗致傷(無期又は6年以上の懲役)に問われる。

イ 非行集団の特異性

  • 非行集団の背後には、暴力団が関与し、違法行為を強要されたり、上納金を要求される例も少なくない。そして、非行集団の仲間や暴力団は、アメとムチを使い分けながらメンバーの脱退を阻止している。時には、カネの要求やリンチなどの暴力等により恐怖心を煽っており、抜けようとしてもなかなか抜けられなくなる。
  • 一方で、自立心が乏しく「遊ぶ仲間がいればいい」「カッコよければいい」との気持ちから、自ら集団に居続ける場合がある。
  • 集団から誘いを受けたとき又は集団から抜け出ようとするときには、保護者、教師など周囲の大人及び警察等関係機関に相談をする。

ウ 関係法令

 刑法(204条、208条、222条、223条、236条、240条、249条)

B 万引き等の初発型非行(⇒事例2,3,4及び5参照)

ア 実態と法の規定の理解

  • 平成15年中に全国で初発型非行(万引き、オートバイ盗、自転車盗、占有離脱物横領)により検挙された少年は、104,180人で刑法犯少年全体の72.1%である。
  • 盗みの動機として当初は、「欲しくて我慢できない」「ストレスのはけ口」「友人からの誘いを断り切れずに」などであるが、盗みが常習的になると、「盗むときのハラハラする緊張感を求めて」「カネを払って買うのがバカらしくなる」など罪悪感と規範意識が低下する。
  • 万引き、自転車盗、バイク盗は、刑法の「窃盗罪」で、10年以下の懲役に当たる犯罪であって、「カネを払って返せばいい」では済まない。
  • 例えば、バイクを盗み、無免許運転で歩行者を死亡させた場合、窃盗罪、道路交通法違反、業務上過失致死に問われることとなり、加えて被害者遺族への損害賠償責任が生じ、刑事責任と民事責任を負うこととなる。また、事後、運転免許試験に合格した場合でも、免許の拒否という行政上のペナルティも受けることもある。
  • 第三者が盗んだあと放置するなどした物を自分の物にすることも、刑法の占有離脱物横領という罪になり、懲役1年以下又は罰金10万円以下の犯罪である。
  • 盗みが発見され警察に補導された場合の少年の処遇の流れを説明する。

イ 盗みへの対応

  • 友人が持っているから自分も欲しいではなく、なぜ必要かを考えさせる。
  • (物が)欲しくても、その欲求を自分で我慢する訓練をする。
  • 「欲しいから盗む」「盗られたから、取り返す」は、自己中心的思考であり、周囲に迷惑をかける。

ウ 関係法令

 刑法(235条、254条)

C 喫煙・飲酒、薬物乱用(⇒事例7,8及び9参照)

1.喫煙・飲酒

ア 正しい知識の修得
  • 未成年者の喫煙・飲酒は法律で禁止されているばかりでなく、心身の健康に影響が大きい薬物である(※ たばこ、アルコールは、依存性があることを明確に伝える。)。
  • 喫煙・飲酒の特徴的問題は、依存性(一回限りと思っても、止められなくなる)と耐性(たばこの本数の増加や飲酒の回数・量の増加)である。
  • 喫煙・飲酒により平成15年中全国で約58万人が補導されている。
イ 誘いを断る意志とスキルの育成
  • 喫煙・飲酒のきっかけは、多くの場合、好奇心や友人からの誘いである。
  • 小学生の頃から、友人や先輩から喫煙・飲酒を誘われた時の断り方を繰り返し訓練し、強い意志と断り方を身につける(ロールプレイングが有効)。
ウ 関係法令

 未成年者喫煙禁止法、未成年者飲酒禁止法

2.薬物乱用(覚せい剤・麻薬(MDMA、コカイン等)・大麻・トルエン)

ア 正しい知識の習得
  • 覚せい剤・麻薬(MDMA、コカイン等)・大麻・トルエン、シンナー等の乱用薬物別の薬理作用を知らせる(別表参照)。
  • 薬物に対する間違った認識(例:覚せい剤はダイエットに効果がある、勉強がはかどる、大麻は身体に影響のないソフトドラッグ、一回位ならすぐ止められる)があるが、薬物は全て心身をむしばみ、家族、社会に害悪をもたらす。
  • 違法薬物の持つ問題として、強い依存性(止めたくても止められない)、耐性(効き目の弱い薬物から強い薬物へ、少量から多量へ)がある。
  • 違法薬物を取り締るための法律があることを教え、乱用だけでなく所持も違法であることを知らせる。
イ 現状の理解
  • 薬物売買の背後には暴力団等の犯罪組織が関与してその資金源となっている例が多く、地域差はあるものの以前と比べて、少年と薬物との距離が近づいている(最初はタダで少年に薬物を配り、客にしていた例もある。)。
  • インターネットを媒介として、違法薬物から脱法ドラッグにいたるまで、様々な薬物が売買されている(脱法ドラッグ:「法律に抵触しない」といわれるものであるが、麻薬に似た成分を含有するものもあり、健康被害のおそれがあり、使ってはならないもの。)。
  • 薬物(大麻、覚せい剤、MDMA、シンナー、トルエン等)を入手するために恐喝等の犯罪に走ることがある。
  • 乱用のきっかけは、薬物に対する間違った認識、日常生活からの逃避、興味や好奇心、友人からの誘いなどである。
ウ 誘いを断る意志とスキルの育成
  • 違法な薬物を乱用することのデメリットを考える。
  • 違法な薬物を誘われたときの断り方を訓練し、万が一、誘われた時の対応を事前に学習して身につける(ロールプレイングが有効)。
エ 関係法令

 覚せい剤取締法、麻薬及び向精神薬取締法、大麻取締法、毒物及び劇物取締法

【各薬物の薬理作用】
表 各薬物の薬理作用

D 児童生徒の犯罪被害防止(⇒事例11,14,15,17及び18参照)

ア 被害実態

  • 平成15年中に全国で少年が被害者となった認知件数は、385,762件で、前年より5%減少しているものの、凶悪犯・性犯罪の被害は増加している。
  • 地域における犯罪等の被害実態を情報提供するとともに、受講対象の学齢について、どのような犯罪が、何時、どこで発生しているか、被害に遭わないための具体策と併せて指導する。
  • 児童生徒が日常の行動範囲を確認し、危険個所のチェックを行い、「地域安全マップ」を作成することも効果的である。その際には、危険個所へは近づかないことや、具体的な防犯対策について併せて指導する。
  • 犯罪の被害を受けたことに伴い、直接的被害に加えて精神的打撃をも受け、トラウマ(心の傷)が発生し、PTSD(心的外傷後ストレス障害)等の問題を抱える場合も見られるなど、日常生活に様々な影響を及ぼす。
  • 被害者の手記等を題材として、被害者の事件後の苦悩等を知らせる。

イ 被害防止に関するスキルの育成

  • 治安が悪化している現状においては、犯罪の被害を100%防ぐことは難しいとの認識を持つとともに、自分自身による危機管理の意識を持たせる。
  • 学齢に応じた被害場面(連れ去り、ちかん、性犯罪、ひったくり、乗り物盗、恐喝等)を想定し被害に遭った時のノウハウを学習し身に付ける(ロールプレイングによる指導が効果的)。
  • 例えば、対象が小学生であれば、「外では一人で遊ばず、暗くなる前に家に帰る」「知らない人についていかない」「出かけるときは行き先、帰宅時間を保護者に告げる」などを繰り返し教える。また、危険なことがあった時は、110番通報できるように指導する。
  • 地域によって有効な防犯グッズを紹介するとともに、例えば、防犯ブザーであれば、実際に鳴らす訓練をする。

E 携帯電話等が関係した性の逸脱行動(⇒事例14及び15参照)

ア 実態と法の規定の理解

  • 性非行に絡んだ少年を取り巻く有害環境としては、テレホンクラブ、出会い系サイトが挙げられる。特に近年、情報化社会の進展により、少年による携帯電話等を通じて、出会い系サイトを媒介とした売春事案(いわゆる援助交際)が目立っている。
  • どんな理由があろうと自らの身体を売る援助交際はしてはならない。
  • いわゆる児童買春児童ポルノ禁止法(平成11年11月施行、平成16年7月改正法施行)において、18歳未満の児童にお金を払ったり物品をあげて児童を買春する行為は5年以下の懲役または、300万円以下の罰金に当たる犯罪とされている。
  • テレクラ、出会い系サイトなどの有害環境を利用する男性側の多くは、性行為が目的で利用している。
  • 性非行で補導された少女は、その理由として「おカネが欲しい」「ブランド物が欲しい」など自分の欲求を満たすためのものが目立っている。
  • 性の開放化が進む現代社会では、一部の雑誌やマスコミ等で性に関する様々な記事が、興味本位で取り上げられている場合がある。
  • いわゆる出会い系サイト規制法(平成15年9月施行)では、インターネット異性紹介事業(いわゆる「出会い系サイト」)利用による不正誘引行為(例:大人が児童に「性交渉」を持ちかけること、児童自身が「援助交際」をもちかけること)は、100万円以下の罰金に当たる犯罪とされている。

イ 被害に遭わないために

  • 不審なサイトやメールにアクセスしたり返信しない。
  • インターネット上では「なりすまし」をすることが可能であるため、年齢、職業等を偽っている危険性があり、強制わいせつなど性犯罪の被害に遭う可能性がある。
  • 安易にメールを通じて友達(いわゆるメル友)になると、脅迫されたりストーカーの被害に遭う可能性がある。
  • 「自分を大切にすること」の意味を伝え、自己肯定感を育てる。
  • 保護者に対しては、携帯電話の接続制限(フィルタリング)機能を紹介することも有効である。

ウ 関係法令

 児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律、インターネット異性紹介事業を利用して児童を誘引する行為の規制等に関する法律

お問合せ先

初等中等教育局児童生徒課

-- 登録:平成21年以前 --