2 実践編 1 学校 (2)指導上のポイント

  • 少年非行は身近な問題であることを自覚させるとともに、責任ある行動をとるような判断力を身に付けさせる。

A 児童生徒への接し方に関する基本的な方針及び個々の事例の取扱い

 非行防止教室等において特定の非行行為等について児童生徒の内省を促すことも考えられるが、その際、子どもの自尊心を傷つけたり、失敗から立ち直ろうとする気持ちを減じてしまうことのないよう、十分に留意する必要がある。非行の原因や背景についての理解や、そこからどう立ち直っていったか(どう立ち直っていくべきか)について共感的に理解させることが重要である。児童生徒の問題行動を否定的にのみとらえて指導することは、必ずしも期待する効果が得られないことが多い。特に特定の行動を起こす児童生徒に対する否定的な見解を明らかにすることは、教師と児童生徒の関係を不安定な関係にしてしまうだけでなく、その児童生徒と他の児童生徒との関係までも対立的なものにする危険性がある。なお、非行防止教室等において少年非行の具体的事例を扱う際には、個人情報の取扱いに留意する必要がある。

B 非行行為への誘惑や勧誘を「断る勇気」の育成

 問題行動を起こす児童生徒がグループ化している場合などにおいては、非行行為を行わなければいじめや暴力行為を受けたり、疎外されたりしてしまうのではないかとの不安に陥ったり、非行への勧誘、誘惑や脅迫などを受ける場合も考えられる。
 こうしたことに対しては、先ず、非行防止教室等において取り上げる様々な非行行為が相互に関連性が強いことを理解させることが重要である。特に、万引き等初発型非行についても、これらの初発型非行がより重大な犯罪と結び付いていることを効果的に指導することが必要であり、こうしたケースにおいて、毅然として「断る勇気」をはぐくむとともに、具体的にどのような行動をとればよいかについて、効果的に指導していくことが重要である。
 また、喫煙や飲酒等については、「それほど悪いことではない」、又は「自分には関係ない」との認識を持つ未成年者が少なくないが、これらの行為がエスカレートして重大な犯罪に繋がる危険性もあることから、これらの喫煙や飲酒等についても非行防止教室等の対象として扱い、非行防止教室等の実施においては、「しないほうがいい」ではなく「自分自身も含め、絶対にしてはならない」ことを理解できるように指導する必要がある。

C 非行防止教室等における指導形態の創意工夫

 非行防止教室等の実施の際には、一斉指導による講話、ティーム・ティーチング、シンポジウム形式、学級活動、児童・生徒会活動、グループ別学習、アンケート・調べ学習等の事前調査、キーワードに基づく自由な連想など、多様な指導の形について、それぞれの特質を理解した上で、どのような組み合わせにすることが効果的か検討することが重要である。
 また、一方的指導に陥らず、子どもの積極的・主体的な参画を促し、問題解決能力を育てるための工夫が重要であり、例えば、児童生徒による劇や宣言文の作成、ディベートの活用など、社会性をはぐくむ観点をもって指導に当たることが大切である。

対人関係能力の育成を図るための指導例

構成的グループエンカウンター(⇒事例5及び6参照)

 リーダーが用意した演習によって作業・ゲーム・討議をしながら、集団の教育力を利用してふれあいを深め、自己理解、自己主張、他者理解、受容性、感受性、信頼性の体験を積んでいくことにより、対人関係能力の育成を図る
(非行防止教室等への応用例)

  • なぜ悪いことをしてしまうのか、どうしたら悪いことをしないで済むようになるか自由に連想させ、学級内で発表させる

ロールプレイング(⇒事例11参照)

 児童生徒が様々な社会場面でとるべき行動を自発的、即興的に演じることで、自分自身を見つめ直し、他人の意見や立場を理解する態度を育成し、集団で生活していくための対人対処の能力を学習したり、豊かな人間関係づくりを進める
(非行防止教室等への応用例)

  • 児童生徒が商店主等万引きの被害を受ける側の役を演じて、万引き等の犯罪被害を受けた側の気持ちに立って考えるなど体験的な理解を図る

ソーシャルスキルトレーニング(⇒事例10参照)

 様々な社会的場面において、現在の状況を察知し、予測のもとに、他人に不快感を与えたり迷惑をかけたりせず、自分の感情をコントロールしながら適切な自己表現ができる能力を身に付ける
(非行防止教室等への応用例)

  • 友達より非行行為を行うよう勧誘したケースを想定し、適切に断るとともに、友達の非行行為もやめさせるコミュニケーションの在り方について考察する

ディベート(⇒事例14参照)

 一定のルールに基づいて論題を決定し、形式的に肯定側及び否定側を設定し、立論及び反対尋問、最終弁論などの過程を経て、優劣の評価を行うことにより、自らの信条と別に、物事を絶対化することなく相対化して発想することにより、相手の立場に立った思考や創造力、問題発見能力、意志決定能力などの育成を図る
(非行防止教室等への応用例)

  • 学校に携帯電話を持ち込むことの是非について、賛成派と反対派に分かれて議論を行う

D 道徳教育等との関連や法令等に関する指導

 非行防止教室等は、規範意識の育成にとどまらず、根本的には問題を抱える少年の立ち直りの過程や性に絡む問題など、生き方教育にかかわる観点が多い。道徳教育や人権教育と適切な連携を図るなど、他の教育活動との関連付けを図り、様々な諸活動が相まって、道徳観・倫理観の醸成を図っていくことが重要である。また、非行防止教室等を通じた規範意識の醸成に関連して、法令等に関する指導を行う際には、次の点に留意する必要がある。

  1. 自由や権利には「責任」と「義務」が伴うということについて一層理解を深めさせること
  2. 法は一方的な規制ではなく、社会生活をよりよくするために自ら主体的に作るものという意識をはぐくむこと
  3. 法が日常生活において身近なものであることを理解させ、日常生活においても法について考え主体的に生きる力を養うこと
  4. 題材を用いて考えさせるに当たって、結論より筋道を立てて考えることの重要性を強調するとともに、場合によっては正解が一つではないことを理解させること

E 非行防止教室等を通じた児童生徒の生活習慣の改善

 非行防止教室等において扱う内容の多くは、児童生徒の学校外における生活の在り方にかかわるものであることから、非行防止教室等における指導の中において、児童生徒の生活習慣の改善について触れることが重要である。特に、朝食や睡眠などの基本的な生活習慣が崩れれば心身の健康の維持が困難になること、金銭の使用に当たっては、保護者の了解や節度ある使用が求められること等について理解させることが重要であり、児童生徒一人一人について、望ましい生活習慣の定着を図ることが必要である。
 また、喫煙や飲酒等については、未成年者の場合少量でも悪影響を及ぼしたり、依存性が強いこと等について一層の周知を図り、未成年者の喫煙・飲酒等の防止を徹底することが必要である。

お問合せ先

初等中等教育局児童生徒課

-- 登録:平成21年以前 --