1 総論編 1 非行防止教室等の必要性

(1)少年非行等の現状

 少年非行の現状については、平成15年に警察が検挙した刑法犯少年は14万4,404人(前年比1.9%増)と前年並みだが、全刑法犯検挙人員に占める少年の割合はおよそ4割にも達している。また、刑法犯少年の人口比(同年齢層人口1,000人当たりの検挙人員)は、ここ数年増加を続けて17.5(成人の7.6倍)となり、戦後最高水準に近づいている。さらに、その内容も、凶悪犯がここ数年高水準で推移しているほか、国民の身近な犯罪である路上強盗やひったくりなどいわゆる街頭犯罪における検挙人員の約7割を少年が占めるなど、憂慮すべき状況である。
 また、平成15年7月には、沖縄県で中学生が加害者となった殺人事件、長崎県で中学生による幼児誘拐殺人事件が立て続けに発生し、平成16年6月には長崎県佐世保市において小学校6年生児童が学校内において同級生を殺害する事件が発生するなど、少年が加害者となる社会を震撼させる事件が続発し、少年の非行防止問題が大きな社会問題として取り上げられている。
 また、その一方で、平成16年11月の奈良県少女誘拐殺人事件の発生をはじめ児童生徒を中心とする少年が被害者となった犯罪被害の認知件数も高水準で推移しており、特に凶悪犯や性犯罪、また、いわゆる出会い系サイトを利用した児童買春事犯などの少年の徳性を害する犯罪の被害に遭う少年の数が増加するなど、少年が被害者となる事件の多発も大きな社会問題となっている。

(2)非行防止教室等開催の必要性

 このように少年を取り巻く状況が厳しい中にあって、政府においては、学校教育における規範意識を培う指導や、警察における少年サポートセンターを中心とした非行防止対策の推進などを図っているところであるが、社会が一体となった一層の対策が求められる中、非行防止のための積極的な啓発活動を学校内外において展開する一層の取組が求められている。また、犯罪の被害者となることを防止するための取組の推進も求められている。こうした状況を踏まえ、「青少年育成施策大綱(平成15年12月青少年育成推進本部決定)」や「犯罪に強い社会の実現のための行動計画‐「世界一安全な国、日本」の復活を目指して‐(平成15年12月犯罪対策閣僚会議決定)において、非行防止教室開催の推進等が明記されたところである。

(3)非行防止教室等の意義と効果

 非行防止教室については、以上のような少年の問題行動の現状にかんがみ、少年の非行防止及び問題行動抑止を目的として、各学校、教育委員会、警察及び社会教育関係団体等の各関係者が連携しながら実施する教育・啓発活動として、その必要性が高まっている。また、昨今、少年が加害者となるだけでなく被害者となる重大事件も多数発生していることから、非行防止教室に加え、学校及び警察等の関係機関が連携した、犯罪被害防止の取り組みもあわせて実施する必要性が高まっている。実際、各学校現場においては、非行防止教室を実施する際に、安全で安心できる学校環境の下で児童生徒が秩序を守りながら集団の中で切磋琢磨できるような規範意識の育成等を行うための教育・啓発活動を行うとともに、あわせて自分の身を自分で守る事ができるようなスキル等を身につけさせるために警察等の関係機関が連携した犯罪被害防止の取り組みを実施している事例も多い。
 このことから、本事例集においては、学校と警察等の関係機関とが連携した非行防止教室の実施事例を紹介するとともに、その中で犯罪被害防止について取り扱っている事例も紹介することとし、図1のような教育・啓発活動として位置づけることとした。また、このような非行防止教室等の効果については、学校と警察等関係機関、保護者・地域との連携による実施により、図2のようなものが期待できると考えている。

図1

図1 非行防止教室等の位置付け

図2

図2 非行防止教室等において取り上げる課題に関連する取組(例)

1.児童生徒

 非行防止教室等は、学校内外における教育活動の一環として、児童生徒にとって、その規範意識を高め、犯罪について正しく理解し、社会情勢などについて学習することとなるとともに、集団の秩序を守りつつ、他者を思いやり、他者を傷つけず、他者からも攻撃を受けないよう、自分で自分の身を守る知識やスキルを身に付けることを学習するものである。また、非行防止教室等においては、外部講師や地域住民と連携・協力・交流を図る重要な機会となるものである。さらに、具体的な事例などを扱った指導を通じて社会規範を遵守することの重要性を認識するとともに、自己指導力や自己責任について学習するための重要な機会となるものである。

2.学校

 学校にとっては、関係機関や地域の団体等と連携することにより、指導の改善につながる。また、教員に対して、非行防止教室等を通じて最新の法令や少年非行の状況について情報提供を図ることも重要である。さらに、近隣校の生徒や卒業生OBを含んだ広域的な犯罪など、学校単独では対応が困難な非行の防止策として、関係機関や近隣校などと連携して非行防止教室等を開催することも有効であり、暴走族、広域化した少年犯罪グループ、金銭恐喝等の事例に対しては、地域や校種を越えた広域的な取り組みの一環として、非行防止教室等を実施することも考えられる。
 なお、学校において非行防止教室等を実施する際、外部講師を招いて行う取組のみならず、その事前や事後において、学級担任や地域人材が関連した非行防止に係る教育活動を行っており、これらについては広く非行防止・犯罪被害防止にかかわる教育としてとらえることができる。本事例集では、学校において警察等外部講師と連携して行う非行防止教室等及びその事前・事後における教育活動をプログラム事例として掲載している。

3.警察等関係機関

 警察等関係機関にとっても、非行防止教室等は、少年警察活動の一環として、少年の非行防止・犯罪被害防止を図る重要な施策であり、少年の規範意識向上のほか、保護者等への情報発信活動としての効果も期待できる。特に、昨今の深刻な少年非行情勢に鑑みれば、街頭における補導活動以前の段階で、少年に非行防止のための意識付けを行うことができる非行防止教室等の機会を活用することは極めて重要である。また、非行防止教室等に講師として派遣される警察職員等にとっても、実際の学校現場で児童生徒に接することは、実際の少年の状況を理解する上で役立つものと思われる。

4.保護者

 保護者にとっては、非行防止教室等の開催は、家庭教育の重要性や子どもに対するしつけの大切さを再認識してもらう機会である。また、非行防止教室等を通じて、学校の非行防止・犯罪被害防止に係る取組や児童生徒の現状、地域における子どもの健全育成に係る取組などについて理解してもらう機会でもある。

5.地域

 昨今の連れ去り事件や子どもに対する暴力行為等を踏まえ、朝夕の登下校時に地域の住民が通学路を見守るなど、非行防止教室等を契機として更なる取組を展開することが重要である。非行防止教室等を地域ぐるみで実施する体験活動などと関連付けるなどにより、できるだけ多くの地域住民と子どもたちが顔見知りになり、地域みんなで子どもたちを守る機運の醸成が期待される。
 また、これらの効果だけでなく、各主体が非行防止教室等を開催する事によって、児童生徒の問題行動や少年非行に対する問題意識の共有化が図られることが期待される。

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初等中等教育局児童生徒課

-- 登録:平成21年以前 --