第2章第1節 3家庭・地域との連携及び校種間の連携

   人権教育の効果を高めるためには、家庭・学校・地域が共に児童生徒を育てていくという視点に立ち、学校は「開かれた学校づくり」を進め、家庭・地域との連携を推進することが求められる。
 その際、学校からの明確なメッセージ、及び地域の多様な人々の参加とそれを可能とする日常的かつ多様な参加方法に留意し、家庭・地域の力を発揮できるようにする工夫が必要である。
 なお、連携に当たっては、家庭や地域の人々が人権尊重の理念について十分に認識していることが大切である。そのため、例えば、「児童生徒による取組が身近な大人の人権啓発にも資するような工夫を行う」、「学校の取組を保護者等に積極的に公表する」、又は「児童生徒と保護者が一緒になって活動に取り組む」などの工夫も効果的である。
 さらに、人権教育を効果的に推進するため、各学校段階ごとの取組だけでなく、保・幼・小・中・高等学校などの一層の連携に努めることが求められる。例えば、「児童生徒の発達段階に配慮したカリキュラムを共同で研究する」、「校種を越えて授業研究を行う」などの取組を通じて、系統的・継続的な人権教育の実践に努めることが望まれる。

(1) 連携の必要性
 人権教育は、人権尊重の考え方やその根拠となる憲法をはじめとした国内法等を学び、一人一人を尊重する社会の発展に寄与することが求められる。また、人権教育で身に付けたいのは、人権侵害を受けた人の心身の痛みを受けとめ、適切に改善、解決しようとする強い意志であり、改善と解決のための具体的な方法と行動を選択し実行しようとする資質や能力である。そのためには、家庭や地域社会と適切かつ積極的に連携し、人権尊重の感覚豊かな地域社会を形成する営みと歩調を合わせながら取り組むことが適切である。

 
【参考】 「家庭や地域社会との連携を考える際の留意点」
 今日の社会は、多様な立場や思想、生活様式を共存させ、人権と自由とを十分に保障することが期待される社会であるため、家庭や地域社会と連携を考える際にも、1各学校における人権教育推進計画の目標とするところを踏まえ、これとの整合性を損なわないように注意すること〔人権教育推進計画の適合性〕、2「命の尊さ」を大切に考える姿勢を堅持すること〔人命尊重の視点の重視〕、3政治的に中立の姿勢をとるものであること〔政治的中立性の確保〕が求められる。

(2) 家庭や地域との連携
 児童生徒の生活は、学校における生活と共に家庭や地域社会において営まれている。たとえ学校で人権の重要性について学習することができたとしても、児童生徒が生活の基盤をおく家庭や地域において、学校における学習の成果を肯定的に受けとめる環境が十分に整っていなければ、人権教育の成果が、知的理解を超えて人権感覚へと結びつくことは、容易ではない。人権感覚の育成には、学校での人権学習を肯定的に受容するような家庭や地域の基盤作りが大切であり、保護者等のエンパワメントを促進することが求められる。
 また、そのためには、保護者と教職員が連携して進めるPTAにおける人権教育の推進が必要である。
 学校における人権教育を家庭で肯定的に理解してもらい、家庭や地域社会の協力や支援、連携を得るためには、以下のような意識的な取組が必要である。

 
【参考】 「家庭や地域社会の協力等を得るための意識的な取組」
1: 人権教育の指導計画、学習の過程、学習終了後等の段階で、児童生徒だけでなく、家庭に対して人権教育や人権意識に関しての意識や意向を調査し、常に家庭や地域社会の意向を踏まえ、反映させながら取り組むこと

2: 学校や行政機関による適切な連携のための協議を踏まえ、授業等において、保護者や地域の人材を活用したり、保護者参加型の授業を工夫すること。

3: 授業参観等の機会をとらえて人権に関する主題を取り上げたり、学年、学級懇談会等を人権教育に関わる内容で開催すること。

4: 人権教育の取組の様子や成果を、学校便り等を通して普段から保護者や地域社会の住民に伝え、学校の取組への理解を広めると共に、そのことを通して、人権を尊重しようとする意識を家庭や地域社会にも浸透させ、地域社会における人権感覚豊かな人間関係の形成を推進すること。

5: 家庭訪問などによって、児童生徒の家庭や地域での生活実態と生活実感を把握しておくこと(なお、その際はプライバシー等に配慮することが必要である)。

6: 地域の教育力と学校教育のネットワークを組んで「人権フェスタ」等の取組を行うなど、それぞれの立場で一人一人の子どもを見つめ育成する取組を推進すること。
などが不可欠である。

(3) 関係諸機関との連携・協力
 学校の内外を通じての多様な学習活動では、学校外の諸施設、機関等の協力を得ることが必要である。
 人権教育・啓発に関する基本計画では、既に整備されている「人権教育・啓発に関する中央省庁連絡協議会」(平成12年9月25日,関係府省庁の事務次官等申合せにより設置)及び地方における「人権啓発活動ネットワーク協議会」等の活用に加えて、新たな連携の構築として、1「幼稚園,小・中・高等学校などの学校教育機関及び公民館などの社会教育機関と,法務局・地方法務局,人権擁護委員などの人権擁護機関との間における連携の構築」や、2「教育・啓発の中立性」に配慮しつつ、「各人権課題ごとに,関係する様々な機関」との「一層緊密な連携」をすることや、3「公益法人や民間のボランティア団体,企業等」との「連携の可能性やその範囲について検討していくべきである。」ことなどが提言されている。

 
ア: 外部講師の招聘
 児童相談所、法務局・地方法務局、警察、法曹関係者等、実際に人権侵害の個々の事例への対応に携わる公的機関の専門家、また、様々な人権課題の解決に努力する人を、授業や教員研修、講演会等に招いて講話を聞く取り組みや、障害者施設や高齢者施設などを直接訪問して交流したりボランティア体験をするなど、多様な体験的活動を取り入れた学習活動は、人権感覚の育成に効果を挙げている。
 人権を守り人権尊重の社会を支える活動をする専門家の存在を知り、直接その人と出会うことは、児童生徒にとって人権感覚を培うことの契機となる。また、そのように人権尊重の姿勢を持って誠実に職責を果たす人々の存在を知り、そのような人々と直接に触れ合うことは、将来設計やキャリア形成の側面からも、積極的な役割を果たすものと思われる。

 
【事例紹介】 「高齢者施設等での交流体験」
 高齢者施設や身障者施設等への訪問・交流・ボランティア体験などを通じて、児童生徒が直接に体験し、人を助ける仕事を実際に担い、人の役に立つ体験をすることで、相手の立場を理解し、思いやり、温かく受けとめようとする気持ちを体感的に受容し、ひいては、このような姿勢や行為に対する肯定的評価と意欲とを喚起し、すぐれた人権感覚を育む契機となる。
 施設を訪問する前後に、関係機関の協力を得て、車椅子体験などの体験的な学習をしたり、また、点字学習、手話の学習を行ったりして、訪問や交流による学習成果を挙げた事例もある。
 様々な人々との交流などの体験活動は、児童生徒に、相手の立場を考えて行動する気持ちを育て、人から感謝をされることによる自己肯定感を得ることから、これらが、人権尊重社会の形成に寄与しようとする実践的態度の育成につながりうる。

イ: 大学や関係機関との連携・協力
 大学や行政等と連携し、スキル学習に関する指導講師を依頼し、教員研修会を実施したり、生徒の人権意識についての調査や分析を大学の協力を得ている事例がある。このような取組は人権教育にとどまらず、教員の資質向上に大きな効果を挙げるものである。
 また、参加体験型学習に取り組む際には、それぞれの内容、方法に精通する専門家の協力を得て、校内研修等においての研修の機会を設定することが望ましい。
 このため、例えば、教育系の大学・学部の関係する大学教員等、非営利法人など市民団体との連携も期待される。適切な連携協議の場にこのような機関からの参加を得て、普段からの連携・協力体制を整えておくことが期待される。また、大学教員等においても、積極的にこのような連携や協力の要請に応える体制を整えておくことが求められる。

 以上のように、人権教育における家庭や地域社会、関係諸機関等との交流や連携の推進は、学校における人権尊重の理論と方法で地域社会を啓発することのみを目的として行うものではない。
 人権教育の課題は、本来、学校、家庭、地域社会に具体的に見られ、しかも普遍性を持つ。それだけに、社会的な理解と支援のもとで学習が行われることによって、人権を尊重するために働く地域の人と直接に触れる機会を得て、その人々の期待を実感することができる。そして、そのような実感を通して児童生徒が自ら有用な存在であることを自覚し、人権感覚を育成させてゆくことへの自発的な意欲を一層促すことが期待できるのである。

 
【参考例】 「関係機関との連携の例」
推進の活動名 形態・内容
1 福祉体験 県の社会福祉協議会やボランティア団体、地域の福祉施設の協力を得て講演会・模擬福祉体験等を行う。
2 ボランティア活動 夏季・冬季休業期間等を利用して、福祉施設でのふれあい弁当作りの手伝い、幼稚園でのお泊り保育の手伝い、駅周辺クリーンアップ作戦などの活動を行う。
3 生き方に触れる会 ふるさと先生講演会、命の大切さ、人の権利などをテーマに地域の有識者や助産師、大学教員などから話を聞く。
保護者や地域にも呼びかけ、講演を聞いた感想の発表会を開く。
4 地域とつながる学校 地域の人々に参加していただく学校公開、一日校長、専門家授業(和楽器、陶芸など)を行う。教職員が地域行事に参加する(夏祭り、地域運動会など)。

(4) 保、幼、小、中、高等学校等の間の協力と連携
 児童生徒は、保育所、幼稚園から、小学校、中学校、高等学校へと学習の場を移しながら成長する。したがって、そのような学習者の成長過程全体を対象とした人権教育を想定し、年齢段階、学年段階での、発達段階に適した学習活動を計画することが必要であり、そのためには、各学校種間における学習計画に関する調整や相互協力、相互研修を目的とした連携が必要となる。例えば、保育所、幼稚園、小学校、中学校、高等学校間での定期的な連携協議会の開催や、合同の相互授業参観、教員研修等を行うことが望ましい。
 また、例えば、「児童生徒の発達段階に配慮したカリキュラムを研究する」、「校種を越えて授業研究を行う」などの取組を通じて、系統的・継続的な人権教育の実践に努めたり、校内研究会や授業研究など教員間の交流を進める体制を整えておくことが望ましい。
 義務教育である小学校、中学校における交流と連携が重要であることは言うまでもないが、人権感覚の育成が日常生活の具体的行動・行為に求められることを考えれば、児童虐待等、子育てに関わる問題など、保育所や幼稚園における段階の人権教育も重要な役割を持っており、保育所、幼稚園又は養護学校等との連携が必要である。

 
【参考例】 「保、幼、小、中、高等学校間の連携の例」
校種間 具体的な活動例
保育所や幼稚園と小学校の連携 2年生の町探検の学習で、保育所や幼稚園を訪問して一緒に遊ぶ。また、小学校の「手作りおもちゃで遊ぶ集会」に園児を招待して遊びを教える。小学校の先生が鉛筆の持ち方や勉強の仕方などについての出前授業を実施する。
小学校と中学校の連携 近接通学の児童生徒が「通学合宿」を行う。異年齢の子どもたちが寝食を共にしながら、2泊3日の合宿を実施する。市内の高校生や社会人もサポーターとして参加する。中学入学の不安をなくし、中学への期待感を持たせるため、中学校の先生が小学校で出前授業を実施する。
幼稚園と中学校の連携 中学校の技術・家庭科での保育実習の授業で、園児が関わりを持つ。幼児との出会い、中学生との出会いの体験、遊びの体験を実践する。
小学校と高等学校の連携 小学生と高校生が一緒になって、地域の清掃活動を行い、互いに協力し合った感想等を発表し合う交流会を行う。

 人権教育の目的を踏まえた交流の推進が図られることによって、児童生徒の互いを思いやる感受性や社会性を伸ばし、人権尊重の精神を育てることは意義深いことである。その際、相互交流の実施に当たり、訪問と交流を計画する学校の教員が訪問・交流先となる他校種の教職員から、児童生徒の交流や体験的活動の在り方等について事前に助言や指導を得ておくことは、よりきめ細かな学習を実施するための支援となる。

(5) 連携を推進する行政による支援体制の整備
 学校と家庭、地域社会、諸施設、関係諸機関と協力、連携し、校種間の連携を進め、専門的知識の習得や体験的学習、いわゆる参加体験型学習を実施し、児童生徒の人権教育を、効果的かつ適切に推進するためには、自治体や教育委員会が、「人権教育及び啓発の推進に関する法律」の趣旨に基づき、学校と教員を支援するための体制を整備することが不可欠である。
 子どもの成長過程をみると、とりわけ中学校区の範囲とするところにおいて、既に児童生徒と保護者間のつながりと連携が存在し、実際に、PTAや町内会、自治会等は、中学校区をもとに形成されていることが少なくない。比較的人口規模の大きな地域においても、複数の中学校区の間で連携調整のための協議会が機能し、年間行事の連携が行われ、生徒指導や身近な問題も、中学校区の問題として取り組まれる場合が少なくない。このように、学校と家庭、地域との連携、学校間の連携は、中学校区を基本的な単位として取り組まれることも、一つの方法として考慮することが適当である。
 さらに、各中学校区を広く管轄する市町村教育委員会は、このような中学校区を単位とする連携を支援する体制を、都道府県教育委員会においては、指導者の育成や研修などを総合的に推進する体制が整備されていくことが望まれる。

 
【事例紹介】 「中学校区を単位とする連携の例」
 中学校区校種間や学校、家庭、地域社会が連携して人権教育を推進する体制を管轄地域全体に整備し、連携の実施方法、各学校における人権教育推進の核となる人材の育成を図る指導者養成研修、授業実践サポート講座の開催などについて、ホームページ上で広く提供し、人権学習プログラムや学習教材の作成、優れた学校の取り組みなど閲覧保存できるようにしている自治体、教育委員会がある。
 また、中学校区に教育コミュニティづくりを目的とし、地域の教育力を再興し、地域の健全な教育力の支援を得て、子どもの育成を支援することを目的として、小・中学校、高等学校、大学、幼稚園、保育所、PTA、自治会、青少年育成団体、子育てグループ、NPOなど多様な機関や団体による「地域教育協議会」を設置し、「児童生徒の荒れ」「子育て」「障害者への配慮」など人権意識の向上など、様々な活動を地域社会と連携して取り組む自治体もみられる。


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