(平成17年12月28日)
文部科学省初等中等教育局児童生徒課
教育基本法第1条「教育の目的」にあるように、教育が、子ども達の「人格の完成を目指し、平和的な国家及び社会の形成者として、真理と正義を愛し、個人の価値を尊び、勤労と責任を重んじ、自主的精神に充ちた心身ともに健康な国民の育成を期して行う」ものであるならば、学校において、子ども達の社会的自立を目指すため、規則の遵守や集団の秩序の維持を学ばせることは、全ての学校・学級において実践される必要があることです。
特に、その具体的な活動として「授業中に私語をしないこと、時間を守ること、TPOをわきまえた服装をすること、挨拶をはじめ相手を尊重すること、学びの場を清めること、いじめをしてはいけないこと、暴力行為を行ってはいけないこと」などの『当たり前にやるべきこと』は、全ての学校の全ての学級において実施される必要があるものです。
世に「割れ窓理論」というものがあります。これは、割れた窓を放置していると、「人の目が及ばない場所である」と受け取られ、小さな犯罪を誘い易く、その小さな犯罪が徐々にエスカレートして大きな犯罪に繋がるという理論です。共同体の暗黙の規則が、「管理されていない」又は「誰も気に留めていない」という合図とも言える行為によって緩められると、歯止めがきかなくなるそうです。
これは、人間の心理のメカニズムの一端を示したものですが、これを応用して、ニューヨーク交通局が駅の落書きを消す事に力を入れた結果、駅での犯罪が激減し、ニューヨーク市警察が軽犯罪の取締りを地道に続けた結果、同市の犯罪発生件数が急激に減少したそうです。
この人間の心理のメカニズムは、生徒を指導することにおいても応用できると思います。
実際、各学校では、こまめにゴミを拾い、清掃を徹底させ、挨拶の励行し、授業の質の改善し、良好な人間関係の構築を図る等、当たり前のような取り組みを、着実に行う事の効果を経験上知っております。特段新しい事は必要ないし、新たな予算も人員配置も必要ないし、明日からでも直ぐできること、そのような一見当たり前の事を地道にしていくことが、一番の生徒指導上の取組だと思います。
もちろん、教職員達は、誰一人として、上記の『当たり前にやるべきことを当たり前にやる』必要性を感じていない者はいないはずです。しかし、学校訪問をしてみると、大部分の学校で頑張って取組を進めている反面、全ての学校の全ての学級において徹底して実施されているとは限らない実態もあります。また、個々の教職員で見れば、大部分の教職員達が毎日、毎日、一生懸命頑張っていることと思いますが、その反面、頭の中では重々承知していても、行動として徹底できていない実状があります。
現在、文部科学省の「新・児童生徒の問題行動対策重点プログラム」を受けて、国立教育政策研究所・生徒指導研究センターが主催して、生徒指導体制の在り方について調査研究を進めておりますが、今回の調査研究においては、そのような頑張っている学校又は教職員達の努力を後押しし、教職員達が『当たり前にやるべきこと』を胸を張って堂々と実施できるようにすることを目指しております。
本県教育委員会では、教師一人一人が「認め、ほめ、励まし、伸ばす」という教育行動指標の下、児童生徒一人一人を大切にする熊本型教育の確立を目指し、「健全な心身の育成」と「学力の充実」等に努めてきている。
本年4月には、「くまもと教育の日」を制定するとともに、「くまもとの教職員像」を策定し、教育のより一層の充実を図っている。
生徒指導に関する特徴的な取組としては、就学前教育を生涯にわたる人間形成の基礎を培う重要なものであるととらえ、平成15年3月に就学前教育振興「肥後っ子かがやきプラン」を策定し、就学前教育の一層の充実・振興を図るとともに、就学前から義務教育への連携を重視しながら、一人一人の子どもに、生きる力の育成を図っているところである。
また、子どもたちの生活基盤として重要である家庭教育の充実を支援するための「愛としつけ―子どもを育むキャンペーン」を展開するとともに、家庭教育充実のための社会的気運の醸成に取り組んでいる。
教育の重要性について保護者をはじめとする県民の理解を一層深め、また、学校、家庭、地域社会が一体となって連携・協力し、互いの教育力を高めるとともに、教育関係者が責務の重大さを自覚し、新たな思いで教育に携わる契機とするため、11月1日を「くまもと教育の日」と定めた。
制定初年度の本年は、11月1日に制定記念式典を開催し、11月23日には、児童生徒、教育関係者を含めた県民を対象にノーベル物理学賞を受賞された小柴博士の特別講演会を開催した。これらの記念行事をはじめ、学校等による総計およそ1,500の行事の開催によって教育の重要性について県民の理解が深まったものと考えている。
様々な教育課題を有する学校教育において教育の更なる充実を図るためには、教職員の資質能力の向上、人材育成が重要である。
そのため、本県教育委員会では、平成17年4月、目指すべき教職員の人材育成の基本的な方向を示すものとして、「くまもとの教職員像」を策定した。
教職員像は、以下に示すように、大きく「教職員としての基本的資質」と「教職員としての専門性」の2つに分け、それぞれ3項目ずつの計6項目で構成し、一人一人の教職員が自らの行動をイメージできるように行動目標的に表現しており、日々の教育活動において意識されることを期待しているとともに、研修等で活用している。
1 「教職員としての基本的資質」
2 「教職員としての専門性」
これまで、初任者研修、教職経験者(6年目及び10年経験者)研修を実施してきたが、新たに本年度から、学校教育における中核教員として期待される時期である教職経験17年目の公立小・中学校等及び県立学校の教諭を対象として、夏季休業中の2日間、論文、面接等を取り入れた参加体験型の実践的な研修を実施した。
この研修においては、「くまもとの教職員像」を踏まえ、中核教員としての自覚を高め、自己の教師像や教育実践哲学を確固たるものにさせるとともに、喫緊の教育課題に適切に対応できる実践的指導力及び資質能力の向上を図った。
研修者は参加体験型の研修を通して、自分の教育実践の在り方を見つめ直し、使命感や中核教員としての自覚を高めるとともに、生徒指導の課題を含め、喫緊の教育課題に対応する指導力の向上を図ることができた。この後、研修者が各学校において積極的に教育課題へ取り組む姿勢が報告されており、資質能力の向上には有効であった。
この研修の概要は次の通りである。
本県における問題行動等の状況は、全般的に見て、ここ数年減少傾向を示しているものの、いじめと暴力行為における器物破損については一昨年あたりから微増傾向がみられる。また、不登校児童生徒数も年々減少傾向にあるとはいえ、依然として予断を許さない状況であることには変わりがなく、問題行動及び不登校への対応の充実を図っていくことは、本県における教育の重要な課題である。
そのため、学校教育では、他人を思いやる心や規範意識の確立など、豊かな心や社会性の育成を目指し、校長を中心とした指導・協力体制の充実を図るとともに、家庭・地域・関係機関等との連携を含めた取組の充実を図っている。
就学前から豊かな人間性の発達を促すことが重要であるため、本年度は特に、「人権を大切にする心」「職業観・勤労観」「ふるさと感」のはぐくみを3つの重要な視点として取り組んでいる。
「人権を大切にする心」については、豊かな人間性とかかわり、命の大切さ、自分を大切にする心、周りの人を大切にする心など、豊かな人権感覚・人権意識を、就学前からすべての教育・保育活動を通して育てていくようにしている。
「職業観・勤労観」についても、就学前からすべての教育・保育活動を通して望ましい職業観・勤労観をはぐくむことが重要であると考えている。
また、「ふるさと感」については、地域の伝統・文化に親しむ機会を多くつくり、子どもたちが、「熊本で教育を受けてよかった」と思える教育・保育活動づくりを目指している。このように就学前から義務教育にかけての子どもの育ちの連続性を踏まえた取組が生徒指導の充実にもつながるものと確信している。
これらの取組の充実を図るため、本年度は、幼稚園、保育所、小学校連携のモデル地域を昨年度までの3地域から8地域に拡充し、それぞれの地域の特色を生かした取組の充実を図るとともに、その周辺地域への普及を図っている。
児童生徒の豊かな心の育成や、規範意識の確立等への取組をより一層推進するため、校長を中心とした学校総体としての生徒指導推進体制の強化、及び生徒指導担当者の指導力向上をめざし、県内の小中学校長及び生徒指導担当教諭、それぞれを対象とした小中学校生徒指導研修会を実施している。
本県では、平成8年度に設置した「いじめ緊急熊本会議」の提言を受け、平成9年度から「いじめ・不登校対策事業」、平成12年度から「肥後っ子・心サポート事業」、そして平成15年度から「肥後っ子・とーたるさぽーと推進事業」を実施している。この事業は、いじめ・不登校問題への支援、予防・対策等を中心に、国庫補助事業と単県事業とを組み合わせて実施しているものである。具体的には、以下に示す5つの事業を柱として展開している。
この事業の成果としては、いじめの発生件数や不登校児童生徒数の着実な減少があげられる。今後、不登校児童生徒等へのより一層の支援・予防対策等が効率的に行えるよう、事業等の再構築を図りながら取組を充実させていく予定である。
「子どもたちに『豊かな生き方』をはぐくむ」ための12項目の指導事項及び具体例を示した教職員向けのリーフレットとともに、その指導事項に基づいた県内の教育実践を紹介した実践事例集を作成した。
リーフレットは全教職員に、また実践事例集は各学校へそれぞれ配付するとともに、実践事例集の活用による実践等について、生徒指導研修会等で発表する場を設定するなど、各学校における「子どもたちに『豊かな生き方』をはぐくむ」ための取組の充実を図っている。
12項目の指導項目及び実践事例の内容は以下の通りである。
<実践事例集における事例(一部抜粋>
子どもたちの豊かな心を育成するためには、基本的生活習慣や規範意識等、社会性を育むことが必要であることは言うまでもないが、子どもたちの心身の健全な成長とも深く関わりを持っている基本的な食習慣の育成もその基盤の一つとして必要である。
本県では、平成17年4月から、食に関する正しい知識と実践的な態度を培いながら、望ましい食習慣の形成を図るために、義務教育課内に食育教育班を設置し、教育活動全体での推進を図っている。
家庭は、基本的な生活習慣、人に対する思いやり、善悪の判断など、子どもたちが社会生活を営むための基本的なルールやマナーを身に付けるうえで極めて重要な役割を担っている。また、子どもに関する重大事件が相次いで発生するなど、子どもたちをめぐる問題は極めて深刻な状況にある。こうした中、家庭教育の重要性の啓発、家庭の役割と責任の明確化等について、家庭、地域社会、関係機関、県民との幅広いパートナーシップに基づく家庭教育に関するキャンペーンを展開している。
その取組の一つとして、平成16年度に家庭教育の基本的な指針として「くまもと家庭教育10か条」を策定した。この「くまもと家庭教育10か条」の10か条目は「わが家の1か条」とし、各家庭で作成して完成させるなど、主体的な取組の推進を図っている。
「くまもと家庭教育10か条」(一部抜粋)
イ インターネット上のさまざまな有害情報や携帯電話のトラブルから子どもたちを守るためには、学校と家庭とが連携して情報モラル等の教育を推進していく必要がある。そのために、保護者がインターネットや携帯電話の利用に関する危険性について認識し、家庭での教育の手がかりとするための資料を作成し、小・中・高・特殊教育諸学校へ配付した。
指導資料は次の5つで構成している。
本県では、平成15年6月27日に、県組織である「熊本県学校等警察連絡協議会」が設立された。さらに、非行等問題行動の個々に着目した具体的な情報を相互に交換し、児童生徒の健全育成を図るため、平成16年3月末までには、県下のすべての市町村教育委員会と管轄警察署との間で協定が結ばれ、平成16年4月1日から「熊本県学校・警察相互連絡制度」が運用されている。この制度の運用とともに、熊本県学校等警察連絡協議会から定期的に発行される学警連便りの学校や警察への送付等により、情報連携と行動連携の促進が図られ、問題行動等の予防や早期解決に役立っている。
今後も、学校教育のなお一層の充実はもとより、家庭、幼稚園・保育所、地域社会、行政等との幅広いパートナーシップをより強化しながら、子どもたちに「熊本で教育を受けてよかった。」と感じてもらえるように、「認め、ほめ、励まし、伸ばす」という教育行動指標の下、児童生徒一人一人を大切にする熊本型教育のより一層の確立を目指していきたいと考えている。
昨年のメールマガジン12月号において、「学校における体験活動の推進について」という記事がありますので、体験活動の意義についてはそちらをご参照いただければと思います。
体験活動の実施状況については、平成17年1月に平成16年度における体験活動の実施状況調査(抽出調査)を行いました。結果、小学校においては、年間39.3単位時間、中学校においては30単位時間、高等学校においては40.7時間実施されており、小学校、高等学校において、文部科学省が政策目標としている、年間7日間以上の体験活動を特別活動や総合的な学習の時間等に積極的に位置付けて実施していることが明らかになりました。文部科学省としては、この目標の達成に向けて、以下に説明しております「豊かな体験活動推進事業」の実施等により、体験活動の推進を図っているところです。なお、本年も平成17年度の体験活動の実施状況について年明けに調査を行う予定ですので、ご協力をお願いいたします。以下、平成18年度の「豊かな体験活動推進事業」の政府予算案等についてご説明いたします。
文部科学省においては、学校教育における様々な体験活動を充実させるため、各都道府県に「体験活動推進地域・推進校」を指定し、他校のモデルとなるような体験活動に取り組むとともに、それらの先駆的な取組を、ブロック交流会の開催などを通じて普及し、すべての小・中・高等学校等において豊かな体験活動を展開することを目的として、平成14年度より「豊かな体験活動推進事業」を実施しています。平成17年度においては、全国で622校の「体験活動推進地域・推進校」を指定し、ボランティアなど社会奉仕に関わる体験活動や、自然に関わる体験活動、職場・職業・就業に関わる体験活動など、多様な活動に取り組んでおります。
また、平成15年度より「地域間交流推進校」を指定し、都市部から農山漁村や自然が豊かな地域に出かけ、農林漁業体験や自然体験を行うなど、異なる環境における体験活動に取り組んでおり、平成17年度においては75校を指定しています。さらに、長期にわたる集団宿泊等の共同生活体験を行う、「長期宿泊体験推進校」を平成16年度より実施し、平成17年度88校指定しています。これらに加え、平成17年度より、命の大切さを学ばせるのに有効な体験活動に関する調査研究を各都道府県へ委託し、調査研究協力校として144校が指定されているところです。
これらの指定校の活動については、全国を6ブロックに分けたブロック交流会において活動の成果を発表するとともに、発表校の資料を事例集としてまとめ、都道府県、市町村教育委員会へ配付しています。ブロック交流会については、今年度も1月から2月にかけて各ブロックで実施しますので、詳細は各ブロックの担当都道府県にお問い合わせください。(北海道・東北ブロック:福島県、関東ブロック:栃木県、中部ブロック:岐阜県、近畿ブロック:兵庫県、中国・四国ブロック:愛媛県、九州・沖縄ブロック:熊本県)
平成18年度政府予算案においては、上記の事業のうち、「地域間交流推進校」及び「長期宿泊体験推進校」の校数を拡充しています。具体的には、「地域間交流推進校」については、94校から141校(1都道府県あたり3校)、「長期宿泊体験推進校」については、94校から282校(1都道府県あたり6校)へと拡充しているところです。これに伴い、平成18年度の新規指定校については、1.「体験活動推進地域・推進校」が564校(各都道府県12校)、2.「地域間交流推進校」が47校(各都道府県1校)、3.「長期宿泊体験推進校」が新規282校(各都道府県6校)を推薦いただくこととしています。なお、( )で示した各都道府県あたりの校数は標準の校数であるため、各都道府県がそれ以上の校数を推薦することも可能です。例えば、ある都市の学校全てを指定校として推薦するといったことも可能です(その場合、1校あたりの委託額は全体の額の範囲内で調整することがあります)ので、正式な推薦依頼は別途いたしますが、ぜひ今からご検討を始めておいていただければと思います。
また、契約の形態についても、来年度からはできるだけ柔軟な運用ができるよう改善する予定です。詳細については来月の第2回都道府県・指定都市生徒指導担当指導主事連絡会議等において説明させていただきます。
以上、平成18年度の政府予算案を中心にお知らせいたしましたが、今年度においても、経済財政運営と構造改革に関する基本方針2005をはじめ、食育基本法や犯罪被害者等基本計画など、様々な場面において体験活動の重要性が指摘されているところです。みなさまにおかれましても、体験活動の推進にぜひご協力いただければと思いますので、よろしくお願いいたします。
(全てを記載しているわけではありませんので、必ず正式文書で確認をお願いします。)
前回のメールマガジンにおきまして、キャリア・スタート・ウィーク・キャンペーンが開始されることについてお知らせいたしましたが、文部科学省ホームページにおきまして、キャンペーンの詳細について掲載いたしましたので、改めてお知らせいたします。詳細は、以下ホームページをご覧ください。
また、前回お知らせいたしました来年11月に設定するキャリア・スタート・ウィーク推進月間(仮称)の月間名及びキャリア・スタート・ウィークに関する標語については、下記の要領で、募集しております。詳細は、下記ホームページをご覧ください。ふるってご応募いただきますようよろしくお願い申し上げます。
なお、文部科学省では、中学校でキャリア教育の中核である職場体験を通した学習活動の一層の推進を図るため、学校はもとより、受入企業・事業所等や家庭・保護者の皆様へのご理解を深めるとともに、活用していただくため、「中学校職場体験ガイド」として取りまとめました。
現在、各中学校に送付するため、各都道府県・指定都市教育委員会にガイドを発送しているところですが、文部科学省ホームページにおいても公表しております。是非、ご活用いただきますようよろしくお願い申し上げます。
文部科学省では、来年も、引き続き、各種施策を通じ、キャリア教育を推進してまいりますので、キャリア教育へのご理解・ご尽力をお願い申し上げます。
今回は特になし。
初等中等教育局児童生徒課
-- 登録:平成21年以前 --