(参考)履修主義と修得主義、年齢主義と課程主義

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 履修主義と修得主義、年齢主義と課程主義の関係について、教育課程部会における審議のまとめにおける整理を以下のとおり抜粋して添付します。

 現行の日本の学校教育制度では、所定の教育課程を一定年限の間に履修することでもって足りるとする履修主義(例:年間の標準授業時数等を踏まえた教育課程の編成・実施)、履修した内容に照らして一定の学習の実現状況が期待される修得主義(例:目標準拠評価)、進学・卒業要件として一定年限の在学を要する年齢主義(例:同一年齢の進級・進学)、進学・卒業要件として一定の課程の修了を要求する課程主義(例:制度としての原級留置)の考え方がそれぞれ取り入れられている。

 修得主義や課程主義は、一定の期間における個々人の学習の状況や成果を問い、それぞれの学習状況に応じた学習内容を提供するという性格を有する。個人の学習状況に着目するため、個に応じた指導、能力別・異年齢編成に対する寛容さという特徴が指摘される一方で、個別での学習が強調された場合、多様な他者との協働を通した社会性の涵養など集団としての教育の在り方が問われる面は少なくなる。また、修得主義や課程主義の下における発展的な学習については、学習を深める方向ではなく学習を短い時間で進める方向に傾斜した場合、学びを深める機会が失われたり、学びのセーフティネットとなる他者との学び合いの機会が損なわれたりするおそれがある。

 また、修得主義における教育成果の把握が数値化可能な教育成果(主としてテストスコア)による一元的尺度のみによって行われると、高いテストスコアを目指して目標の一元化が進行しやすくなる側面がある。教育の目標や成果の多様性に留意し、序列化や過度な競争、教育格差の拡大につながらないよう、指標の取扱いや利用方法に注意を払う必要がある。

 修得主義で適切な教育を行うためには、より個に応じた対応が求められるため、通常より多くの教育資源が必要との指摘もあり、児童生徒の特性に応じて効果的に取り入れるなどの工夫を行うことも考えられる。

 一方で、履修主義や年齢主義は、対象とする集団に対して、ある一定の期間をかけて共通に教育を行う性格を有する。このため修得主義や課程主義のように学習の速度は問われず、ある一定の期間の中で、個々人の成長に必要な時間のかかり方を多様に許容し包含する側面がある。また、学年別の学級編制の在り方や集団での学びを重視する日本の学校教育については、社会性の涵養等の側面からその教育効果を評価する声がある一方で、過度の同調性や画一性をもたらすことについての指摘もある。

 我が国においては現在、制度上は原級留置が想定されているものの、運用としては基本的に年齢主義が採られている。進級や卒業の要件としての課程主義を徹底し、義務教育段階から原級留置を行うことは、児童生徒への負の影響が大きいことや保護者等の関係者の理解が得られないことから受け入れられにくいと考えられる。

 全ての児童生徒への基礎・基本の確実な定着への要請が強い義務教育段階においては、進級や卒業の要件としては年齢主義を基本に置きつつも、教育課程を履修したと判断するための基準については、履修主義と修得主義の考え方を適切に組み合わせ、それぞれの長所を取り入れる教育課程の在り方を目指すべきである。高等学校においては、これまでも履修の成果を確認して単位の修得を認定する制度が採られ、また原級留置の運用もなされており、修得主義・課程主義の要素がより多く取り入れられていることから、このような高等学校教育の特質を踏まえて教育課程の在り方を検討していく必要がある。

 「個別最適な学び」及び「協働的な学び」との関係では、
  • 個々人の学習の状況や成果を重視する修得主義の考え方を生かし、「指導の個別化」により個々の児童生徒の特性や学習進度等を丁寧に見取り、その状況に応じた指導方法の工夫や教材の提供等を行うことで、全ての児童生徒の資質・能力を確実に育成すること、
  • 修得主義の考え方と一定の期間の中で多様な成長を許容する履修主義の考え方を組み合わせ、「学習の個性化」により児童生徒の興味・関心等を生かした探究的な学習等を充実すること、
  • 一定の期間をかけて集団に対して教育を行う履修主義の考え方を生かし、「協働的な学び」により児童生徒の個性を生かしながら社会性を育む教育を充実すること
が期待される。

 その際、これまで以上に多様性を尊重し、ICT等も活用しつつカリキュラム・マネジメントを充実させ、発達の段階に応じて、全ての子供たちの可能性を引き出す「個別最適な学び」と「協働的な学び」を一体的に充実していくことが重要である。