第1章 4.2.(11)国語の配当時数を増加させる(時間数増加に対応した教科書のあり方を考える)

 本専門家会議による国語科教科書の改善・充実についての提言は、まず教科書の分量の見直し(増加)を前提としているが、議論の過程では「たしかに私も教科書の分量を増やしていく必要があると考えるが、教員によっては、『現在の教科書でさえそれを扱うだけで手一杯なのに、これ以上分量を増やされても困る』という意見を持つ者がいるのも事実である。」という意見も出された。この指摘は国語教科書の改善・充実が、その内容や分量のみの問題に留まることなく、実際の教育現場における国語の指導改善をも示唆するものであると思われる。
 「現在の教科書の内容のみで精一杯だ」と感じる教員がいるのだとすれば、おそらくそうした教員は、教科書にある文章や言葉を丁寧に読んで解釈することを重視しつつ、授業を進めているものと思われる。そうした態度自体はなんら責められるものではない。ただし、文章というものは、丁寧に読み込もうと思えば思うだけ、いくらでも時間をかけることができるものである。たとえば、わずか数行の文章に十時間かけて指導を行うことも、おそらく可能であろう。しかし、そのような指導に対する批判は、すでにこれまで数多く提出されてきた。その批判を一言でまとめるなら、「詳細な読解に偏った国語科の指導が子どもたちの学習意欲を減退させてきた」ということになろうが、そのような批判を乗り越えるかたちで現在の国語科指導は行われようとしているのである。
 君津市のある小学校では、全校児童を対象とした「ブックフェスティバル」(新規購入図書や推奨本などを紹介する読書集会)の企画・運営を6年生児童にすべてまかせ、それを実現・成功させることを通して、読書に対する関心・意欲を高めることを目的とした実践を行った。この実践において、子どもたちは様々な言語活動を行っている。

  • 新規購入図書を決定するための本についての情報を集める。
  • それぞれが集めた情報に基づいて話し合いを行い、購入図書を決定する。
  • 購入した本を読み、全校児童に推薦するための紹介原稿を作成する。
  • 紹介の練習を行い、ブックフェスティバルで紹介する。

 こうした活動の中に、「話す・聞く」、「書く」、「読む」といった活動がすべて含まれていることは言うまでもない。
 ここに示した実践事例は、総合学習的な性格も強いものであり、授業時間数もかなりかけられたものとなっているが、ここでふまえておくべきは、この単元が、子どもたちの言語活動を中心に展開されているということである。先般出された中央教育審議会の答申の中にも「言語活動の充実」がこれからの指導のポイントとして挙げられているが、子どもたちの活動を豊かなものにするためにも、そのための時間は保障されるべきであろう。中央教育審議会の答申に示されている国語科における授業時間の増加に対しても、子どもたちの言語活動を中心に据えながら対応していくべきであろう。
 ただし、子どもたちの言語活動を中心に指導を行う際、留意すべきは「活動させっぱなしにしないこと」である。活動中心の授業は、子どもたちに何か活動をさせるだけで、そこに指導の視点がないと批判されることがしばしばある。子どもたちにとっては、「何を学んだのか」といった学習の実感が得られにくく、教師にとっては指導の手だてが講じにくいといった意見が聞かれることもある。そのような問題点を解消するためには、国語科教科書に改善を加えていく必要があるように思われる。そのための具体的な方策としては、教科書の単元ごとに付されている「学習の手引き」に対する改善を挙げることができよう。
 学習者の言語活動を中心に授業を組織しそれを円滑に進めていくためには、まず子どもたちに活動手順を把握させることが重要になってくる。長きにわたり国語教育の発展に尽力してきた実践家である大村はま氏は、子どもたちの行う話し合い活動の中で「手引き」を積極的に活用している。こうした手だては子どもたちに、自分たちが行っている活動に対する見通しを与えることになる。また、フィンランドの国語教科書などを見てみると、単元の最初に「学習の手引き」に相当するものが提示されている場合が多い。まず学習課題を明確に示し、それを行うための素材として教材を提示するのである(注1)。
 言語活動の手引きのようなものを教科書の中により多く取り入れたり、構成を工夫することによって、子どもたちに自身の活動に対する自覚を促すことも可能となるであろう。
 日本における国語科教科書編集の歴史をふり返ってみると、古くはそれが「読本」と称されていたことからも明らかなように、かつて教科書は「読み物」として認知されていたものと思われる。現代においては「読本」が国語科の指導の中心的な内容ではなくなったわけであるが、その時代の名残は存在しているのかもしれない。
 授業時間数の増加が見込まれる今だからこそ、「読むこと」をも含めたすべての言語活動に開かれた国語科教科書が求められることになるであろう。

(森田 真吾)

  • (注1)北川達夫 訳・編 『フィンランド国語教科書―フィンランド・メソッド 5つの基本が学べる』 2005年 経済界

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