第1章 2.アンケートから読み取れる教科書の改善・充実に関する方向性

 ここでは、2007年2月に実施した、現職教員及び保護者へのアンケートの結果に基づいて、教科書の改善・充実の方向を検討する。なお、アンケート項目及び回答結果一覧については「5.国語資料編(アンケート結果)」を参照。

1.現職教員へのアンケート結果から

 現職教員に対しては、Q1~Q25のアンケート項目による調査を行った。ここでは、それらのうちのいくつかの問いに対する回答を、以下の観点から分析する。

  • (1)国語科指導に対する教員の好感度と教科書に対する満足度
  • (2)学習活動に対する教科書の工夫や配慮についての意識
  • (3)副教材・補助教材の使用について
  • (4)三領域一事項の分量のバランスについて
  • (5)地域・学習者の実態に合わせた記述への配慮について

(1)国語科指導に対する教員の好感度と教科書に対する満足度

 アンケート項目Q6、Q21とその回答の結果は、図表1-2の通りである。

図表1-2 国語科指導に対する教員の好感度と教科書に対する満足度

アンケート項目 肯定的 どちらともいえない 否定的
Q6.国語の指導は好きか 80.7 11.2 7.7
Q21.国語の教科書に満足しているか 48.9 16.7 30.7

(nイコール456、数値はパーセント)

 たとえば、「Q6.国語の指導は好きか」については、「好き」、「まあ好き」とした回答の合計を「肯定的」としてまとめ、「あまり好きではない」、「好きではない」と回答した合計を「否定的」としてまとめている。回答していただいた教員のほぼ8割は国語の指導に対して好感を持っているが、それに対して教科書に対する満足度は5割を下回っている。アンケートを実施した教員の勤続年数は21年以上(40歳代)の方が最も多く、アンケート回答時の担当学年にほとんど偏りが見られない。
 この結果から、多くの教員は国語の指導は好きであるが、その一方で教科書に対してはあまり満足していないということが分かる。

(2)学習活動に対する教科書の工夫や配慮についての意識

 アンケート項目Q10とそれに対する回答の結果は、図表1-3(資料編図表1-9)の通りである。

図表1-3 教科書の内容の工夫や配慮の度合いについて

 約7割の教員は国語の教科書の中で「学習活動の方法・手順」に対する工夫・配慮がなされていると感じているが、「単元の学習内容が定着したかどうかの確認」に対して工夫・配慮がなされていると感じている教員は約2割である。
 この結果から、教科書には学習活動の方法・手順は示されているが、その学習活動を通して身についた学習内容の定着を確認することが難しいと感じている教員が多く存在することが分かる。

(3)副教材・補助教材の使用について

 アンケート項目Q14、Q14-1とそれに対する回答の結果は図表1-4(資料編図表1-13,1-13-1)の通りである。

図表1-4 教科書準拠の副教材や補助教材の使用有無、副教材や補助教材の使用理由

図表1-4 教科書準拠の副教材や補助教材の使用有無、副教材や補助教材の使用理由

 教科書以外の教材の使用について、副教材と補助教材を分けて調査していないため、教員がどちらを想定しつつ回答したのか明確にはなっていないが、アンケートQ14からは、教科書に準拠した副教材・補助教材を使用していると答えた教員とそうでない教員とはほぼ同数であることが分かる。また、国語の教科書に準拠した副教材や補助教材を使用している教員にその理由を求めたのがQ14-1ということになるが、最も多かった理由が「教科書の練習問題の分量が少ないから」(59.6パーセント)であり、それに次いで「教科書の練習問題が多様性に欠けるから」(27.6パーセント)となっている。
 副教材・補助教材を使用して行う指導は、教科書のみを使用して行う指導では扱うことのできない内容によって、教科書の内容を補完する形で行われるものと考えられるが、今回の調査結果においては、教科書における練習問題の不足を補うものとして副教材・補助教材が指導の中に位置づけられていることが明らかになったといってよい。

(4)三領域一事項の分量のバランスについて

 アンケート項目Q18とそれに対する回答の結果は図表1-5(資料編図表1-17)の通りである。

図表1-5 教科書における三領域一事項の分量について

 「話すこと・聞くこと」「書くこと」「読むこと」の三領域のバランスについては、文章量・教材数ともに「話すこと・聞くこと」よりも「読むこと」の領域について少ないと感じる教員が多いという結果であった。読書指導の重要性が高まっているといわれる今日において、教育現場もそれに対応しつつ読書への視野を広げるための教科書を求めているということになるのかもしれない。

(5)地域・学習者の実態に合わせた記述への配慮について

 アンケート項目Q19は、現行の教科書の記述・説明についての意見を自由記述で求めるものであったが、寄せられた意見のうち多く見られたものの一つが、地域・学習者の実態に合わせた記述への配慮についてであった。

  • 取り扱っている題材について、地域性への配慮をしてほしいといった点や児童がバス等に載った経験が少ないといった実態から学習活動が円滑に行えなかったとの指摘があった。(1年生 同様意見3名)
  • 扱われている教材が児童の生活実態から離れているといった指摘があった。(2年生 同様意見3名)
  • ニュースを作るといった活動において録画機材や編集能力などの点で現実に難しい活動場面が設定されているといった指摘があった。(5年生 同様意見3名)

(6)分析のまとめ

 以上の分析により明らかになったことをまとめると次のようになる。

  • 1 現職教員は、国語の指導についてはおおむね好意的であるが、それに比較して教科書に対する満足度はそれほど高くない。
  • 2 現職教員の満足度の低いもの・教科書に対する要望などに注目した結果、導き出される国語科教科書の改善・充実に関する方向性は以下の3点である。
    • 学習内容が定着したかどうか確認を行うことのできる教科書
    • 三領域一事項のバランスの取れた教科書。特に読むこと(読書指導)を意識した内容の充実
    • 地域性や児童の学年段階・実態により即した教科書

2.保護者へのアンケートから

 保護者に対しては、Q1~Q6からなるアンケート項目による調査を行った。ここでは、それらのうちいくつかの問いに対する回答について分析する。

(1)国語科教科書に対する満足度

 Q4では、保護者の国語科教科書に対する満足度を調査している。その結果を教員の国語教科書に対する満足度と比較したものが図表1-6である。

図表1-6 国語教科書に対する満足度

アンケート項目   肯定的 どちらともいえない 否定的
国語の教科書に満足しているか 保護者・Q4 63.6 20.9 15.0
教員・Q21 48.9 16.7 30.7

(nイコール206〔保護者〕、456〔教員〕、数値はパーセント)

 図表1-6では、「満足している」「まあ満足している」とした回答の合計を「肯定的」としてまとめ、「やや不満である」「不満である」とした回答の合計を「否定的」としてまとめて示している。
 保護者の肯定的な回答は63.6パーセントであり、教員の肯定的な回答の割合を大きく上回っている。自由記述における感想(Q5)には、「バランスよくまとまっている印象」「写真、さし絵も豊富であり分かりやすい・みやすい」「写真やイラストが多く、子どもには親しみやすい」といった構成やレイアウトに関する肯定的な意見も多数見られたが、「どのように指導するのか」といった観点ではなく、「読み物としての親しみやすさ」といった観点から評価された結果であると思われる。

(2)国語教科書の適切さに対する意識

 Q3では、保護者が国語教科書が適切であると感じているかどうかをいくつかの観点を中心に調査したものである。その結果を示したものが図表1-7(資料編図表2-3)である。

図表1-7 国語科教科書の適切さに対する保護者の意識

 「児童の興味・関心を引く教科書の内容」になっているかについては、「適している」「まあ適している」と回答した保護者の割合がおよそ7割となっている。それに対して、「自宅で自習するための学習課題」が適切かについては、「適している」「まあ適している」と回答した保護者の割合は2割程度となっている。
 この結果から、保護者の意識としては、国語科教科書は親しみやすいが、自宅で学習内容を定着させるにはあまり適切でないと判断していると考えられる。

(3)国語教科書の分量に対する意識

 アンケート項目Q5は、現行の教科書についての感想・意見を自由記述で求めるものであったが、寄せられた意見のうち多く見られたものの一つが、教科書の分量に関するものであった。

  • 分量的にやや物足りなさを感じる(1年生)
  • 子どもはもう少し難しい文章や長い文章でも読み、理解できるのではないか(2年生)
  • 教科書の分量が少ない。本が薄い。(4年生)
  • 読書嫌いの子には入っていきやすいが、国語や読書が好きな子には物足りない(5年生)

(4)分析のまとめ

 以上の分析により明らかになったことをまとめると次のようになる。

  • 1 保護者の現行の国語科教科書に対する満足度は高く親しみやすいものとして評価している。
  • 2 ただし、調査結果から明らかになった保護者が教科書について適切でないと感じている部分や要望から、以下の改善・充実の方向性が導き出されるものと思われる。
    • 自己学習(家庭学習)を円滑に行うことのできる教科書
    • 質・量ともに充実した教科書

(森田 真吾)

-- 登録:平成21年以前 --