教科書の改善について(報告)【概要】

<参考>平成29年5月23日教科用図書検定調査審議会

1 次期学習指導要領の実施に向けた教科用図書検定基準等の改善

○ 教科書について,次期学習指導要領の趣旨を踏まえたものとなるよう検定基準の見直しを行うことが重要である。

1.教科共通の条件

(1)資質・能力の育成に向けた「主体的・対話的で深い学び」の視点に立った改善

○ 今回の改訂で位置付けられる,資質・能力の育成に向けた「主体的・対話的で深い学び」の視点が,授業改善の取組の活性化など今後の各教科の授業の在り方に大きな影響を与え,教科書もこうした点に配慮したものとなることが望ましいことから,教科書発行者に著作・編集に当たっての創意工夫を促すため,教科書においても,資質・能力の育成に向けた「主体的・対話的で深い学び」の視点に立った適切な配慮がなされることを求めることを検定基準上において規定することが適当である。

(2)「発展的な学習内容」の規定の見直し

○ 現行の検定基準において,教科の特質に応じて,取扱いが異なる点もあるため,多様な教科書記述に統一して対応できるよう,教科書を使用する児童生徒の立場から見て「発展的な学習内容」とそれ以外の内容が実質的・客観的に区別できれば良いことを検定基準上において明確化することが適当である。

○ また,「発展的な学習内容」であることが明示されていても,その内容をどの校種や学年で学ぶかなど学習指導要領における位置付けについては明示されていない教科書もあるため,児童生徒の系統的な学習に資するよう,教科書上において可能な範囲で明示することについて検定基準上において明確化することが適当である。

(3)「引用資料」に関する規定の見直し

○ 教科書の中には,検定申請段階で数年以上前の古い統計資料を引用しているものもあるため,教科書において用いる統計資料は,適切に更新がなされ児童生徒が学習を行う上で支障を生ずるおそれのないものであることや,出典が原則として明示されていることについて,検定基準上において明確化することが適当である。

2.教科固有の条件

(1)外国語科における規定の見直し

○ 現行の義務教育諸学校教科用図書検定基準において外国語科の「固有の条件」は中学校のみを対象としているが,次期学習指導要領においては,小学校高学年における外国語が新たに教科として位置付けられるため,小学校高学年も含めて対象とすることを当該検定基準上明確化する。

○ 中央教育審議会答申において,学習指導要領における領域別の目標などを踏まえた教材とする必要があるとされたことを踏まえ,教科書の内容と領域別の目標との関係の明示など検定基準の必要な見直しを図ることが適当である。

○ 中央教育審議会答申において,言語活動の改善・充実に資する題材とする視点が必要とされたことを踏まえ,現行の検定基準における言語活動に関する規定について,言語活動の改善・充実の観点から必要な見直しを図ることが適当である。

○ 外国語ワーキンググループにおける審議の取りまとめ(報告)において,語彙や文法などは個別の知識・技能が実際のコミュニケーションにおいて活用されることとされたことを踏まえ,語彙が実際のコミュニケーションにおいて活用できるよう適切な配慮を求めることを検定基準において規定することが適当である。

(2)社会科,地理歴史科及び公民科における規定の見直し

○ 「主体的・対話的で深い学び」の視点も踏まえ,社会科,地理歴史科及び公民科において,児童生徒がより一層多面的・多角的に社会的事象を考察することができるよう適切な配慮を求めることを検定基準において規定することが適当である。

(3)理科における規定の見直し

○ 現行の高等学校教科用図書検定基準では,どのような場合に実験及び観察が学習内容と一体のものとして扱われるかについては必ずしも明らかでないため,実験及び観察について一体として扱われるべき学習内容は「本文の主たる記述」であることを当該検定基準上明確化する。

(4)小学校におけるプログラミング教育に関連する規定の新設

○ 小学校の理科や算数の次期学習指導要領におけるプログラミング教育の位置付けを踏まえつつ,それらの内容が教科書で取りあげられるよう義務教育諸学校教科用図書検定基準において規定する必要がある。

(5)その他高等学校の教科固有の条件の見直し等

○ 高等学校学習指導要領の改訂状況を踏まえつつ,高等学校教科用図書検定基準の「各教科固有の条件」の見直しについて,必要に応じ更に検討することとする。

3.学習指導要領改訂を反映した教科書づくり

○ 教科書発行者は,学習指導要領の趣旨・内容を正確に反映した教科書を著作・編集するために,例えば,教科書に掲載されている主要な内容が学習指導要領の示す内容・項目とどのように対応しているかを教科書などにおいて明示し,教員が授業を行う上で参考にできるようにすることや,学習指導要領の記述の意味や解釈の詳細について説明するために作成されている学習指導要領解説をより踏まえて教科書記述に適切に反映していくことが求められる。
 また,児童生徒の個別のニーズに対応するとともに,資質・能力の育成に向けた「主体的・対話的で深い学び」の視点に立ち,児童生徒がより学びやすい教科書となるよう体様等について一層改善することなども重要である。

2 デジタル教科書の導入の検討に関連した教科用図書検定基準等の改善

1.デジタル教科書の導入と教科書検定制度の関係

○ 昨年12月に取りまとめられた「デジタル教科書」の位置付けに関する検討会議最終まとめにおいては,デジタル教科書について,

  1. 紙の教科書とデジタル教科書の学習内容(コンテンツ)は同一であることが必要,
  2. デジタル教科書については,改めて検定を経る必要はないとすることが適当,
  3. 動画や音声等は,学習効果が期待されるものの,検定を行うことが困難,かつ,必ずしも適当ではないことから,基本的には検定を経ることを要しない教材として位置付けることが適当,

 と整理されており,本審議会においても,このような方向性が妥当と考える。

2.URL・QRコード等の取扱い

○ 現行の検定基準においては,URL・QRコード等の教科書上の取扱いについて定められておらず,事案ごとの対応となっているが,今後,掲載の増加が見込まれるとともに,基本的に各教科における取扱いを統一することが必要であるため,「教科共通の条件」においてURL・QRコード等の取扱いについて明確化することが適当である。

3.外国語におけるURL・QRコード等の取扱い

○ 外国語教育における音声の重要性への対応を図る観点から,外国語の教科書の内容(本文のスクリプト)を音声化したものを発行者のサイトに掲載した場合については,URL・QRコード等の積極的な記載を許容することを検定基準に規定することが適当である。

3 検定手続を改善するための教科用図書検定規則等の改善

1.誤記誤植など欠陥を減少させるための訂正申請の在り方

(訂正申請事項の区分の明確化)

○ 教科用図書検定規則の第14条では,訂正に係る承認事項について,訂正を行わなければならない「誤記」等(第1項)と,訂正をすることができる「学習を進める上に支障となる記載」等(第2項)が規定されており,これらのうち一定のものは届出により訂正することができることとされている(第3項)。しかしながら,実際には「誤記」等の訂正申請は,発行者によって訂正理由がまちまちであるとともに,教科によっては幅広に解釈して訂正を承認する運用もなされてきたため,訂正申請の理由や手続きが適切なものとなるよう,改めて訂正申請の要件を整理することが適当である。

(審議会への積極的付議)

○ 現在でも訂正申請の承認に際し,本審議会は必要に応じて専門的な事項等について調査審議することができるが,審議会に付議されるケースは極めて限定されているため,今後は,訂正申請においても実質的な記載内容に重要な変更を加えると判断される案件については,積極的に審議会に付議することが適当である。

(届出制度の一層の活用)

○ 内容の同一性を失わない軽微な訂正について、実際には訂正承認の申請がなされる場合も多いため,教科書発行者に訂正届出制度の一層の活用を促すことが適当である。
(誤記,誤植等の数値の公表)

○ 記述の正確性の向上を図るため,訂正申請において訂正がなされた客観的に明白な誤記等の数についても,申請者名を記載した上で,文部科学省ホームページにおいて公表することが適当である。

2.検定申請者の在り方

○ 近時,教科書発行者が教員等に検定中の申請図書を閲覧させただけではなく,教員等に意見聴取の対価として金品を支払うなど,教科書発行者による教科書採択の公正性・透明性に疑念を生じさせる不公正な行為が相次いで発覚し,社会的に大きな問題となった。

○ このため,教科書に関する公正性・透明性を一層確保する方策として,不公正な行為を行った発行者に対しては,新たに,検定の申請・審査に関するペナルティを課す仕組みをつくることが適当であり,下記のように,一定の要件に該当する発行者からの申請については,申請図書の内容の審査に入ることなく不合格とすることが考えられる。

  1. 適用される要件:
    教科書の検定,採択,発行に関し,不公正な行為をした場合(検定期間中の申請図書を開示し,採択関係者から対価を伴う意見聴取や、採択関係者に対する不当な利益供与など)
  2. 適用範囲:
    不公正事案に関係する種目に属する教科書に限定
  3. 適用内容:
    当該事案が生じた又は明らかになった学校段階における次回の検定において,申請図書の内容審査に入ることなく不合格を決定

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初等中等教育局教科書課