第6章 今後の普及啓発方策等

 これまでに示した具体的方策を円滑に実施し、教科用特定図書等普及促進法の趣旨を適切に踏まえた拡大教科書等の普及充実を図るための方策については、第一次報告においても示したところであるが、引き続き高等学校段階に関しても、以下の取組が文部科学省などにおいて行われることが必要である。

(高等学校等における特別支援教育に関する校内体制の整備の充実)

○ 拡大教科書等の普及充実を図るためには、高等学校等においても校内の特別支援教育コーディネーターと教科書事務担当者等が連携を密にして、拡大教科書に関する理解啓発を図るとともに、特別支援教育の校内体制の整備を図り、特別支援教育の更なる推進が必要である。

○ 校長をはじめとする全教職員が、障害のある生徒に対する共通理解を図るために、特別支援教育に関する研修会に積極的に参加したり、特別支援学校の教員を講師に招いて拡大教科書に関する校内研修会を開催したりすることなども重要である。

○ 障害に関する他の生徒の理解啓発を進め、弱視生徒が拡大教科書や視覚補助具などを教室で抵抗感なく使用できるような環境づくりを行うことも重要である。

○ 高等学校段階はもとより、それに至る就学前や小中学校段階から個別の教育支援計画(※24)を活用するなどして、特別支援学校や医療、保健、福祉等の関係機関との連携を深めていくことが重要である。

(高等学校等に在籍する弱視生徒の実態調査の実施)

○ 高等学校等に在籍する弱視生徒に対して、拡大教科書を提供したり、特別支援学校(視覚障害)や関係機関等と連携して必要な教育支援を実施したりしていくためには、拡大教科書に関する実証的な研究に併せて、高等学校や特別支援学校(視覚障害)高等部等の弱視生徒の実態について把握する必要があり、そのための調査を実施する必要がある。

(実践的モデル集の作成)

○ 高等学校段階においても、最終的な標準規格の策定に資するよう、実際に作成された拡大教科書の中から優良事例を集めた「実践的モデル集」を作成し、教科書発行者に周知することが必要である。
 このモデル集については、図、表、挿し絵、地図等の書き換え方法やページレイアウトの変更方法について、参考となるものを中心に記載することが考えられる。

(拡大教科書等の選定や活用に関する手引きの作成)

○ 拡大教科書を用いた指導を充実させるためには、弱視生徒個々の視機能を適切に評価した上で、拡大教科書を含めた種々の支援策を効果的に選択したり、必要に応じて併用したりすることが大切であることから、こうした点を含めて、教員向けに拡大教科書等の選定や活用に関する手引きを作成・配布することが必要である。

(教科書デジタルデータ利用の手引きの作成)

○ 学校やボランティア団体等がより効果的に教科書デジタルデータを活用できるようにするとともに、教科書発行者等が安心して教科書デジタルデータを提供することができるよう、教科書デジタルデータの活用方法や、著作権に関する留意事項を示した「教科書デジタルデータ利用の手引き」について作成・配布することが必要である。

(研修会の開催)

○ 教科書編集の実務担当者や高等学校や特別支援学校(視覚障害)教員、ボランティア団体等を対象とした研修会・説明会を開催し、「実践的モデル集」、各種拡大教科書や手引き等について周知を図ることが必要である。

(教科書センター等における拡大教科書の展示)

○ 学校関係者等へ拡大教科書の周知を図るため、拡大教科書のサンプルを教科書センター及び特別支援学校(視覚障害)へ展示することも有効な方策の一つであると考えられる。また、教員や弱視生徒、保護者が事前に確認できるように、各地域の教育センターや特別支援教育に係る教育相談機関に拡大教科書のサンプルを展示することも考えられる。

(契約慣行の見直し等)

○ 教科書発行者と図や写真等の原版所有者との間で、検定教科書の著作・編集以外に図や写真等の使用を行わないこととしている契約慣行について、契約当初の段階から、拡大教科書等を作成する場合にあってはそのデジタルデータの提供が認められるようにするなど、契約事項の見直しを行うことが必要である。

○ さらに、教科書の原版データの提供等が円滑に進むよう、権利者等に対しても、教科用特定図書等普及促進法の趣旨等について周知を図ることが必要である。

(拡大教科書給与の円滑な実施)

○ 拡大教科書の発行体制の拡充に伴って、個々の弱視生徒に対し、特別支援学校(視覚障害)のセンター的機能や医療、大学等の専門機関と連携し、その視機能を適切に評価するとともに、弱視生徒の希望等も勘案した上で、教科書発行者による拡大教科書を使用するか、それ以外の学校やボランティア団体等が製作する拡大教科書を使用するかを判断して選択することが求められることとなる。
 その選択をより適切に行うためには、拡大教科書の発行状況に関する情報が、教育委員会や学校に対して早期に周知されることが重要であり、当該情報を文部科学省が適切に集約して最大限有効に活用できるようにする必要がある。
 なお、当該情報は、学校やボランティア団体等がその作業方針を決定するに当たっても重要な判断材料となることから、学校やボランティア団体等に対しても当該情報の共有が図られることが重要である。

(拡大教科書目録の作成等)

○ 教科書採択においては、採択のための資料として、各設置者に対し、発行を予定している検定教科書の書目を記載した教科書目録が送付されている。
 今後、拡大教科書に関する情報の周知の観点から、教科書目録とあわせて、拡大教科書等の発行状況に関する目録を作成し、各設置者に対して送付するなどの対応も求められる。また、教科書事務担当者会議や各種会議等を通じて拡大教科書に関する情報の周知を図る必要がある。

(電子教科書の導入に向けた取組)

○ 将来の教科書等のデジタル化に備え、障害の有無や程度にかかわらず、すべての生徒が効果的に利用できる電子教科書等が開発されることとなるよう、継続的に調査研究を推進するとともに、中長期的に検討を進めていくことが必要である。

○ また、教科書デジタルデータの提供対象の拡大については、弱視生徒のみならず、発達障害等の生徒にあってもデータの活用は有効であると考えられることから、提供する方途について検討を行うことが望まれる。

(高等学校段階の拡大教科書等の普及推進のための財政支援)

○ この報告の内容を実現するため、高等学校における拡大教科書購入費の負担軽減や、各学校における拡大教科書の編集、印刷、製本などの作業支援、標準規格に適合する拡大教科書の発行量の確保のための環境整備を含め、拡大教科書等の普及推進に向け、今後、国と地方自治体との役割分担や小中学校段階と高等学校段階との各種制度の相違等を踏まえながら、速やかに予算措置を講ずるなど財政的な支援が求められる。

(特別支援学校(視覚障害)のセンター的機能が有効に発揮されるための体制整備)

○ 特別支援学校(視覚障害)がセンター的機能を有効に発揮するためには、高い専門性を有する教員の配置が必要であり、任命権者である都道府県教育委員会等においては、人事上の配慮が望まれる。また、各学校においては、校長のリーダーシップの下に、組織のあり方等を見直し、センター的機能のための校内組織体制の一層の充実を図る必要がある。

(提言内容の速やかな実現に向けて)

○ 高等学校段階の教科書を発行する教科書発行者については、小中学校段階に比して、その規模等が多様である。これらの教科書発行者の実情を把握した上で、本会議が提言した内容の速やかな実現に向け、計画的な取組を進めていく必要がある。


※24 「個別の教育支援計画」とは、障害のある幼児児童生徒の一人一人のニーズを正確に把握し、教育の視点から適切に対応していくという考え方の下、福祉、医療、労働等の関係機関との連携を図りつつ、乳幼児期から学校卒業後までの長期的な視点に立って、一貫して的確な教育的支援を行うために、障害のある幼児児童生徒一人一人について作成した計画。

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-- 登録:平成21年以前 --