○ 高等学校段階においては、以下に示す理由から、ボランティア団体や民間事業者に加え、拡大教科書の製作を希望する高等学校や特別支援学校(視覚障害)高等部等(以下、この章において「学校」とする。)に対しても、著作権等に関する必要な調整を行った上で、教科書デジタルデータの提供を行うべきである。
○ 拡大教科書の製作を希望する学校に対して、著作権等に関する必要な調整を行った上で、高等学校段階の教科書デジタルデータを提供する。提供を受けた各学校は、当該データを活用し、一人一人の生徒の見え方等に応じた拡大教科書を製作する。
○ なお、高等学校については、特別支援学校(視覚障害)のセンター的機能(※13)を活用し、拡大教科書製作のための助言を得たり、在籍する生徒への拡大教科書の提供を受けたりするなどの対応も考えられる。
○ また、この方途を取る場合においては、都道府県教育委員会等が管理下の高等学校に対して、特別支援学校(視覚障害)のセンター的機能について、周知することが必要である。
○ 1.の各学校へのデータ提供のほか、小中学校段階と同様に、希望するボランティア団体等に対しても教科書デジタルデータの提供を行い、一人一人の弱視生徒の見え方等に応じた拡大教科書の普及充実を図る。
○ なお、高等学校段階における教科書は、内容がより専門的となるため、レイアウト変更を伴う拡大教科書の製作に際しては、教科の専門性に基づく判断を必要とする部分が多くなると予想されることから、特別支援学校(視覚障害)高等部の教員等が高等学校の教員と密接に連携を取りながらボランティア団体等をサポートする体制が必要である。
○ 今後、各学校において、必要に応じて教科書デジタルデータを直接活用した授業を展開し、弱視生徒のニーズに応じた拡大率を画面上に確保して学習を進めることも考えられる。
○ また、教科書デジタルデータの活用は、弱視生徒の必要な拡大率を確保したり、全体の中に位置付けつつ見えにくい部分を適切な大きさに拡大して見たりする上で非常に有効である。さらに、授業中だけでなく、提供された教科書デジタルデータを生徒が放課後に活用したり、自宅等外部に持ち出して活用したりすることができるようになれば、弱視生徒にとって極めて有効であると考えられる。
○ 上記の点を実現するためには、現状では、著作権法やセキュリティーの確保、活用環境の整備等に関する問題への対応を要する部分があると考えられ、実施を可能にするための条件等について研究を行っていく必要がある。
※13 特別支援学校では、幼稚園、小学校、中学校、高等学校等の要請に応じて、そこに在籍する障害のある子どもたちやその教員等に対し、必要な助言・援助を行う地域の特別支援教育のセンターとしての役割を果たすよう努めることとされている。特に、小中学校の通常の学級に在籍する視覚障害のある児童生徒に対する教育相談等が行われている。
○ 教科書発行者からデータ管理機関へのデータ提供を迅速かつ効率的に行うためには、当該データ提供に際しての教科書発行者の作業が比較的容易なものであることが必要となる。
○ データ管理機関からのデータ提供においては、学校やボランティア団体等が正確に拡大教科書を製作することができるようにすること、及びその製作に係る作業負担をできるだけ軽減することの二点が重要である。これらを実現するためには、可能な限り正確で使い勝手のよいデータ形式によるデータの提供が求められる。このため、教科書発行者から提供されたデータを、データ管理機関が、適宜変換して学校やボランティア団体等へ提供していく必要がある。
○ また、これらの教科書デジタルデータの提供が円滑に進むためには、教科書発行者や図・写真等の権利者等が安心してデジタルデータを提供できるよう、本来の用途以外への当該デジタルデータの流用や第三者への流出を厳に防止して、教科書発行者等の懸念に対応する必要がある。データ管理機関においては、このための関連の措置を万全に講じることが求められる。
○教科書発行者がデータ管理機関に提供する教科書デジタルデータは、第一次報告に示した小中学校段階と同様にPDF(※14)形式とする。PDF形式のデータについては、以下のようなメリットが挙げられる。
(ア)DTP(※15)からの変換が比較的容易である
(イ)学校やボランティア団体等が、教科書の紙面と同じレイアウトを見ながら作業できる
(ウ)PDF形式のデータを読み込むソフトは、無料で入手できる
(エ)PDF形式データの多くは、テキスト形式のデータを抽出することができる(※16)
(オ)文章のデータとともに、図や写真等の画像データも提供することができる
○ また、PDF形式によるデータの中には、図や写真等の画像データが個別に取り出せないものがあることから、教科書発行者がPDF形式のデータをデータ管理機関に提供する際には、必要に応じ、JPEG(※17)形式による画像データも併せて提供することが求められる。
○ さらに、高等学校段階においては、既に普通教科の7割以上の教師用指導書に教科書の内容がデジタルデータとして添付されている(※18)。これらのデジタルデータを活用して学校やボランティア団体等が拡大教科書の製作等を行うことが有効であることから、添付されているテキスト形式のデータやパソコン用ワープロソフトに対応したデータなども併せて提供することが求められる。
○なお、アナログで編集されている教科書も一部存在するが、この場合には、教科書の紙面をスキャナーなどにより読み込み、デジタルデータ化を行った上で、データ管理機関に提供する必要がある。
※14 PDF:Portable DocumentFormat(ファイルフォーマットの一種で、特定のオペレーションシステムや機種に依存せずに文書や図画の表示が可能)
※15DTP:DeskTop Publishing
※16 教科書発行者は、データ管理機関にPDF形式のデータを提供する際には、それがテキスト形式のデータ抽出など適切な活用ができるものとなっているかを、責任をもってチェックした上で提供することが必要である。また、教科書発行者が確認をする際には、いわゆるコピー&ペーストによって変換できず、文字が正しく表現されなくなる可能性のある外字フォント等の箇所を示しておくことも考えられる。
※17JPEG:Joint Photographic Experts Group
※18 高等学校用普通教科用教科書710点のうち、教師用指導書にデジタルデータを添付している教科書は524点、約73%。
○ 教科書発行者がデータ管理機関に提供する教科書デジタルデータの種類は、高等学校段階で発行されている教科書のすべての種目を対象に、学校やボランティア団体等が拡大教科書の製作を希望する教科書のデジタルデータとする。
○ 教科書発行者がデータ管理機関に提供する教科書デジタルデータの範囲は、原則として、教科書本文、図・写真、脚注、表紙など、教科書に掲載されているものすべてを対象とする。
○ データ提供の方法は、当面は、義務教育段階において採用されているものと同様に、以下の通りとする。
○データ管理機関の役割は、第一次報告に示した小中学校段階における役割と同様とする。
○ データ管理機関からの教科書デジタルデータの提供対象は、高等学校段階においては、第一次報告に示した者のほか、新たに、拡大教科書の製作を希望する各学校(高等学校、特別支援学校(視覚障害)高等部等)を加えることとする。なお、各学校は校長を代表とする組織として、第一次報告と同様、後述する「認定ユーザー」としての登録の手続を終えていることを前提とする。
○ また、高等学校段階においても、データの活用状況や、他の用途への流用や第三者への流出を防止する措置の機能状況等を踏まえつつ、データの提供対象の拡大を検討していくことが適当である。特に、各学校に在籍する弱視生徒への提供の検討の必要性が指摘されている。これは、拡大教科書の普及充実等に関する非常に重要な課題として、今後、実証的な調査研究による検討を進めていくことが望まれる。
○ データ管理機関から学校やボランティア団体等へのデータ提供は、原則としてPDF形式(図や写真等については必要に応じてJPEG形式)により行われることとなる(※19)が、PDF形式のデータについては、そこからテキスト形式のデータをスムーズに抽出することが困難であったり、抽出した文字データが不正確で校正作業が煩雑になったりするという課題がある。
よって、文章のデータについては、教師用指導書に添付されたテキスト形式のデータ等との併用を促進するとともに、教科書発行者から提供されたPDF形式のデータから、データ管理機関が一括して、作業上最も望ましいテキスト形式のデータを抽出した上で学校やボランティア団体等に提供するような支援策を講じることが必要である(※20)。
○ 学校やボランティア団体等のパソコン使用環境等に鑑み、CD‐ROM等の媒体により提供することが適当である。
また、提供に当たっては、少ないデータ容量とするために図や写真等の解像度に留意することが必要である。
○ 著作権法上、拡大教科書作成等の目的外で教科書デジタルデータを流出させる行為は権利侵害にあたることとなるが、他目的への流用や第三者への流出を実体面でも防止する仕組みとしては、まず当面の措置として、以下のような仕組みが必要である。
○ また、万一、提供したデータが第三者に流出した場合等に備えて、デジタルデータに提供元、教科書名、提供先、提供時期等の個別識別情報を追加することや、違反が発覚した場合には教科書発行者及び権利者等への情報提供を行うこと、違反者に対してはそれ以降のデジタルデータ提供を行わないペナルティを課すことなども考えられる。
なお、このデータ管理体制の構築については、その万全を期すため、以上に挙げた以外の方策についても順次追加的に実施することにより、システム自体の改善が不断に行われていく必要がある。
○ 学校やボランティア団体等への教科書デジタルデータの提供に係る具体的な手続については、関係書類の様式を簡素化するなど、学校やボランティア団体等における事務負担の軽減が図られるよう配慮することが必要である。
○ 学校やボランティア団体等への教科書デジタルデータの提供時期としては、小中学校段階については、第一次報告において、「原則として、使用の前年度の10月頃が望ましい」とされているが、一般に高等学校段階の教科書については、10月以降も頻繁に一定量の訂正が行われ、義務教育段階に比べて製造時期が遅くなることから、提供を受けた側が円滑に拡大教科書等を作成することができるよう、これらを踏まえた適切な時期に提供が行われることが必要である。
なお、提供が行われた後に訂正申請等による記述内容の変更については、必要な情報を学校やボランティア団体等へ提供することが求められる。
○ なお、高等学校段階の新2、3年生については、デジタルデータを必要とする具体的な教科書の把握が秋頃までに可能であり、比較的早い段階でのデータ提供ができると考えられるが、新1年生については、これらの把握の時期が遅れることが予想されるので、拡大教科書の需要の把握と同様に、その確認体制等の整備とともに、弱視生徒の学習に支障を来さないよう努めることが求められる。
※19 ボランティア団体等に、データ変換等を行っていない検定教科書の元データをそのまま提供することとした場合、ボランティア団体等は商業印刷向けの高価なDTPソフトを購入する必要があるとともに、その使用方法を習得する必要があり、また教科書発行者にとっても、教科書発行者の編集ノウハウ等が流出するなどのおそれがある。
なお、個別の拡大教科書を発行しようとする者がDTPによるデータを必要とする場合は、必要に応じ、教科書発行者と個別に契約を交わした上でデータ提供を受けることが望ましい。
※20 今後、学校やボランティア団体等に対して提供された教科書デジタルデータの活用状況等を踏まえつつ、ボランティア団体等が作成した拡大教科書のデータをデータ管理機関において一元的に管理し共有を図ることなどについても検討することが望まれる。
※21 認定ユーザーの登録に関しては、例えばボランティア団体等の代表者が署名した使用制限承諾書に、当該団体において教科書デジタルデータを利用する者の名簿を添付した上で、データ管理機関に提出する仕組みにすることなどが考えられる。
※22 著作権法第33条の2においては、拡大教科書等を発行しようとする者は、あらかじめ当該教科用図書を発行する者にその旨を通知することとされている。
初等中等教育局教科書課
-- 登録:平成21年以前 --